ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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戻り風

 瑠璃色の蝶が、少し前をひらひらと舞っている。

 ありったけの力を与えて、我愛羅を探すよう命じた。

 命は失っても、魂はまだ“ここ”にあると信じていた。

 そして、自分がそれを送るのだと……。

 

 足は思うように進まなかった。

 イタチがくれた解毒薬が効いたおかげで、ほとんど毒は抜けている。

 だが、力を使い過ぎていた。

 彼の元で休んだというのに、四肢に力が入らなかった。

 それでも、立ち止まることはなかった。

 今見てきたものも、これから見るものも、この足を止めはしなかった。

 明日の約束……それがあるから。

 

 イタチは言った。

 

 『ずっと……お前が愛おしかった……』

 

 と。

 ()()()と、そう言ったのだ。

 それがいつからかなんて、考えなくてもわかる。

 やはり、あの温もりは幻ではなかった。

 どんなに遠く離れて行っても、嘘ではなかった。

 その真実が明らかになっても、感動はしなかった。

 わかっていた気がするのだ。

 自惚れでなく……、彼に愛されていると、わかっていた気がする。

 そうでなければ、朱いさらしは自分からとうに捨てていた。

 サスケにだって……打ち明けられたかもしれない……。

 

 いや、もうサスケのことを考えるのはやめよう。

 もう、道を決めたのだ。

 明日からは、約束の道を行くと。

 イタチはもう一度ちゃんと全てを見て決めろなんて言っていたけれど、別れ際、彼が髪に触れた瞬間に決まっていた。

 懐かしい手つき。

 最初からそれにすがっていればよかったのだとさえ思う。

 

 

 どのくらい歩いたか……。

 河を渡り、森を抜け、荒地を過ぎた。

 乾いた地に、草原が現れる。

 蝶はそこで、フッと消えた。

 そこに彼らがいた。

 

「烈風だ……!」

「烈風様……?」

「生きていたのか……!」

 

 大勢の砂の忍たちが、ナナの姿を見てざわめきたった。

 

「あ、あのお姿は……」

「まだ子供……?」

 

 面を外しているとか、顔を見られたとか、もうどうでもよかった。

 ナナはただ静かに進んだ。

 見なくてはならないものを見るために。

 冷たくなった我愛羅を見るために。

 

『砂漠の我愛羅のことも……このままにしておけないだろう?』

 

 イタチの声が蘇る。

 そう、このままにはしておけない。

 彼が『一尾』でなく『砂漠の我愛羅』と言った意味もわかっている。

 ちゃんと、我愛羅の魂を送らねばならない。

 それが、和泉の人間としての自分がする、最後の事。

 その決意を胸に、ナナは進んだ。

 その耳に。

 

「ナナ?!」

 

 彼女を『烈風』でなく、そう呼ぶ声が聞こえた。

 “覚悟”はしていたから、砂の忍たちの中に“彼ら”の姿を見ても驚かなかった。

 

「ナナ、な、なんでここに?!」

「ほ、本当にナナなの?!」

 

 大きな声はひどく懐かしかった。

 

「ナナ、大丈夫か?!」

「怪我してるのか?!」

「お前、どうしてここに……!」

 

 彼らは砂の忍たちをかき分けて、こちらに走り寄って来た。

 皆、驚いた顔をしている。

 カカシとガイでさえも。

 カンクロウが約束を守ってくれたのだとわかった。

 

「みんな……」

 

 だが、応える気は無かった。

 再会を喜ぶつもりさえ。

 ただ、やるべきことを済ませたかった。

 大切な人を護れなかったことを懺悔して、どうか安らかにと送って、終わらせたかった。

 

「ひさしぶり……」

 

 だから、ありきたりな言葉を返す。

 

「無事でよかった……」

 

 イタチと戦い、『暁』と戦い、無事だったことには心から安堵した。

 

「お前も無事でよかったってばよ!」

「馬鹿! 無事じゃないわよ、しゃーんなろー!」

「どこをどう見ても怪我をしています!」

 

 再会を喜んでくれていることも、心配してくれていることも、素直に嬉しかった。

 が、ただ、それだけ。

 ひと言も言わずにこちらを見ているカカシの視線も、全てを見透かされそうな白い眼も、晴天の空みたいな蒼い目も、居心地が悪いだけ。

 彼らに、三年間どうしていたのかも、我愛羅を護れなかったことも、今まで“どこ”にいたのかも、話すのは億劫だった。

 そして、別れを告げることもきっとできないと思った。

 だから。

 

「ナナ、早く手当を!」

「私に診せて!」

 

 差し伸べられた手から目を逸らした。

 このまま静かに我愛羅を送って、そっと立ち去ろう……。

 この再会が幻であるかのように、そっと。

 そう思って、再び足を踏み出した。

 だが。

 

「ナナ……」

 

 また、砂の忍たちの輪の中からこの名を呼ぶ声がした。

 

「…………!!」

 

 ナナは目を見開いた。

 

「……我愛羅……?」

 

 これから『送りの儀式』をするはずだった我愛羅が立っていたから。

 

「ナナ……、よかった……」

 

 カンクロウとテマリに支えられてはいたが、彼は自分の足で立っていた。

 

「なん……で……」

 

 気づくべきだった。

 ナルトもリーも、我愛羅が死んだというのに、その姿を見たはずなのに、悲愴感がなかった。

 我愛羅を置き去りにしてこちらに駆けて来た。

 その時に、輪の中心で何かが起こったのだと気づくべきだった。

 

「へへっ、コイツってば派手にやられちまってよ! でも生き返った……んだってばよ! 砂のチヨ……」

 

 隣でナルトが言った。

 が、ナナはその言葉が終わる前に、

 

「我愛羅っ……!」

 

 温かさを取り戻した我愛羅の体にしがみついた。

 

 

 

 

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