これは葦毛のウマ娘と黒鹿毛のウマ娘姉妹のお話。
歳は1歳違いで、平均より大きな身体の姉と平凡な妹。
姉妹は仲がとても良く、妹はいつも姉の背中を追い掛けていた。
「ふぁ……朝……学校に行く準備はしてあるから、髪を整えないと……」
あくびをし、洗面台へと向かうしっかり者の姉。
すると、
「あ! おはよう、お姉ちゃん!」
ガバッ
「うわぁっ!?」
起きてきた妹から飛びつかれた。
姉は壁に背中を打つが、妹はそんなことも気にせずに大好きな姉の胸元に顔を擦り寄せる。
尻尾もふわりふわりと揺れ、機嫌の良さを物語ってた。
「ブライアン……危ないから急に抱きつくのはやめなさいっていつも言っているでしょ?」
「ぁ……ごめん、お姉ちゃん」
姉の注意を素直に受け止め、謝ってから身体離す妹。
「はぁ、相変わらず朝から元気なんだから」
「えへへ……♪」
「……? ブライアン、おでこ出して」
「? はい」
姉が妹の額に自身の額をくっつけると、
「っ!? お姉ちゃん、冷たいぞ! ビョーキか!?」
妹は姉の冷たさに不安が込み上げ、絶叫して姉の肩を揺らす。
「病気なのはブライアンだよ……」
――――――
その日、妹は学校を休んだ。元気そうではあったが、大事をとっての休みだった。
姉と離れる際はとても悲しさそうにしていたが、母親に布団まで連れて行かれると、夕方までぐっすりと眠った。
「ただいまー」
玄関から姉の声がすると、妹の耳はピンと立ち、まぶたが開く。
ドドドドドド
「お姉ちゃん、おかえりー!」
ガバッ
「うわぁっ!?」
朝と同じく姉は妹からのボディプレスで背中をドアに打ちつける。
ドアノブに当たらなかったのが幸いだった。
「ブライアン……風邪でしょう?」
◇
姉は妹に注意して布団に戻し、熱を測る。
するとほぼ平熱で熱は下がっていた。
「これなら明日は一緒に学校行けるね」
「うん! あ、お姉ちゃん、お腹減った!」
「本能のまま……今、お母さんに伝えてくる」
その後は母親が作ったお粥を姉が持っていき、妹は風邪なのをいいことに姉に甘えてそれを食べさせてもらい、夜になるとまたぐっすりと眠るのだった。
――――――
次の日の夜。
妹は大きな大きなショックを受けた。
その日の夜はとても豪勢で、姉妹の大好物である人参ハンバーグと、滅多に食べない人参ケーキがあった。
妹はどうしてと母親に尋ねる。
すると母親は言った。
「昨日はお姉ちゃんの誕生日だったけど、あなたが風邪引いてたから今日それをお祝いするのよ」
そう、妹は大好きな大好きな姉の誕生日を今の今まで忘れ、大切な大切な姉の誕生日に自分のわがままばかり言ってしまったのだ。
姉はそんなこと全く気にしていない。大切な妹が風邪なのに、自分の誕生日なんて祝えるはずがないからだ。
だから姉は、
「私はお姉ちゃんだもん。ブライアンが元気で、今ちゃんと祝ってくれればそれで嬉しいよ」
と言って泣きじゃくる妹を優しく抱きしめた。
――――――
そんなことがあった次の日。
今日は学校もお休みで、姉はいつもよりゆっくりと布団で眠っていた。
昨日は一日遅れの誕生日会があり、妹がずっと一緒にいると聞かなかったので一緒の布団で眠っていた。
「っ」
すると姉より珍しく妹の方が先に目を覚ます。
妹は顔面蒼白。
どうやら大好きな姉がお使いに行ったまま帰って来ない夢を見てしまったのだそう。
「おねぇちゃん……ぐすっ……おねぇちゃぁんっ」
隣で眠る姉の腕にしがみつき、すすり泣く妹。
その声で姉はゆっくりとまぶたを開けた。
「ぶらいあん……? どうしたの、おといれ?」
寝惚けつつも妹を気遣う姉。
しかし妹はお姉ちゃんお姉ちゃんと泣くばかりだった。
風邪で姉と学校へ行けず、姉の誕生日を忘れ、あの悪夢の最悪コンボ。
故に、
「ブライアン、どうして私から離れないの?」
「離れたくないから」
妹は姉が何をするにもピッタリと体をくっつけたまま離れなかった。
流石にトイレにまではついてこなかったが、ドアの前にへばりつき、妹がトイレの場合は姉にその場から離れないようドアを開け放って見張っていたくらいに。
そんな妹をなんとかしてほしいと姉は父親や母親に頼んだ。
しかし二人して、
『今日くらいいいじゃないか』
と言って、寧ろ姉妹仲が微笑ましくて、父親に至っては滅多に出さないハンディカメラまで持ち出してその様子を撮影していた。
「ブライアン、明日には離れてね?」
「やだ! 今はお姉ちゃん強化期間だもん!」
「…………はぁ?」
「あたし、お姉ちゃんが大好き! でもあたしはお姉ちゃんのお誕生日忘れちゃった……だから神様が罰であんな怖い夢を見せたんだよ!」
「気にしなくていいって……」
「やぁだっ!」
「ん〜……そう思ってくれるのはお姉ちゃんも嬉しいけど、もう少し離れた方が過ごしやすいでしょ?」
「むぅ……」
「お姉ちゃんのことが好きなら、分かってほしいなぁ」
別に一緒に過ごすのは構わない。しかし今の距離感では読書するのも宿題するのも何かと困る。
姉はなんとかして妹に離れるよう告げるが、
「お姉ちゃんが何を言ってるかわかんない! 好きだからずっと一緒にいたいんでしょ!?」
寧ろべったり度が増してしまった。
これには両親も悶絶するほど笑いを堪える。
しかし次の瞬間、両親は今まで向けられたこともない冷たい視線を長女から向けられたことで我に返った。
我に返り、そこからはちゃんと妹に姉のことを思うならやめなさいとやめさせ、お姉ちゃん強化期間は終わりを迎えた。
――――――
「ということが、昔あったな」
「…………知らん。姉貴の捏造じゃないか?」
夏合宿で合宿所にやってきたビワハヤヒデとナリタブライアン。
合宿所の寝室は大部屋の雑魚寝なので、二人の他にも多くのウマ娘たちがいる。
なのでただ寝るのもあれだからと、トウカイテイオーが小さい頃の思い出を話そうと提案し、それに賛同したシンボリルドルフとエアグルーヴが話し終えてのナリタブライアンだった。
しかしナリタブライアンは「忘れた」の一点張りだったので、姉のビワハヤヒデが「そういえばこんなこともあったな」と話し始めた次第。
「お前がそう思うのならそれでいい。しかし、実家に帰れば証拠映像はあるぞ。父さんはそういうことは紛失しないからな。私の大切な思い出でもある」
「……知らん」
そう言ってナリタブライアンは布団を被る。
しかしそこからはみ出た尻尾がブオンブオンと振り乱していたので、それは一目瞭然だった。
故に皆一同、日頃は硬派のナリタブライアンも小さな頃は子どもらしい可愛さがあったのだと、ほっこりしたという。
ナリタブライアンの調子が上がった
ナリタブライアンの根性が40上がった
ビワハヤヒデとの絆が最大値を超えた
みんなのやる気が上がった
読んで頂き本当にありがとうございました!