勝利を盗む者。 作:レスに咽び泣くリボー推し
後、みんなリボーを推していけ。
※今作主人公の名前と同名の史実馬とは一切の関係がありません。ご理解ください。
自分は、自分が死んだと理解した時、恐らくは比較的冷静だったのではないだろうか。
と言うよりもだ。
生まれてすぐに聞いた言葉が聞き馴染みのない外国語であったこと、そもそも身体が人間のそれで無くなっていたことなどなど。
自らを冷静に、または思考放棄に陥らせるに十分すぎる要素が並べ立てられていれば、誰でも一周まわって落ち着くと思う。
少なくとも、混乱して自暴自棄になったり、喚き散らしたりはしないはずだ。
何とか、全てを受け入れ始めた生後半月。
そろそろ、自分の置かれた状況について整理しようと思う。
まず自分は、どうやらヨーロッパの片田舎に生まれたらしい。
ここがヨーロッパだと判断したのは、遠目に見える家々が西洋というイメージにピッタリな牧歌的な建築であったからだ。
後、時々訪れる人々が皆白色系人種だったからというのもある。
ただ恐らくは携帯などは普及していない。車も旧い。
アルファロメオスパイダーが我が物顔で走っているのを見た時は、然しもの自分も感動せざるを得なかった。
むしろ転生したことよりも衝撃と感動を受けたかもしれない。冗談だが。
次に整理するべきは今の自分のことか。これが最大の問題である。
性別は男、いや今の場合は雄というべきだろう。そもそも、種族からして人ではない。
焦げ茶色、綺麗な鹿毛の毛並みに同色の尾と鬣。両前脚と左後ろ脚に長半白のマーキング、額に曲星。
───
あの四足歩行の走るのが速い生き物である。
なんとびっくり、自分は転生した挙句、どういうわけか馬になっていた。
□
「『にしても、流石の良血馬だよなあ……』」
男は鹿毛の馬体を撫でながら、その青い目を細めた。
均整の取れた黄金比のような馬体は、正に未来のグッドルッキングホースという他ない。
内心親バカ気味に男は誇った。
ここは、フランスの片田舎に作られた牧場。
大手生産牧場の分場として作られたこの牧場には、今、三頭の幼駒が養育されている。
新規で開設されたばかりでまだ幼駒の数こそ少ないものの、三頭ともヨーロッパの競馬においてはかなりの良血馬な辺り、大手の凄さというものが窺い知れる。
他の二頭は未だに買い手など付いていないが、一頭、男の目の前に悠然と立つその馬だけは産まれる前から買い手が付いていた。
男は、日本に住む生涯における唯一無二の友人の顔を思い浮かべて笑みを零す。
巡り巡って大手牧場分場の牧場長を務めるに至った男は、それまで手助けをしてくれた当時の同僚でもあるその友人に頭が上がらない。
紆余曲折あって牧場運営側との話し合いの末、血統を鑑みれば破格という他ない値段でその友人に購入されたのがこの馬なのだ。
一歳、来年の今頃には日本の牧場で過ごしているだろうこの馬だが、その時までは我が子のように育てようと心に決めて、男は牧舎の清掃を再開するのであった。
□
「『よし、たんと食え』」
『どうも』
いつも牧舎で世話をしてくれている白人男性(名前は多分マティアスかマチアス)から人参を口で受け取ると、比較的綺麗な寝藁の上に置いてむしゃむしゃと食べる。
馬の身で食べる人参はかなり美味い。林檎はもっと美味いが。
牧草の味にも慣れたものだ。果物がこんなに美味しく感じられるのは馬になった最大の恩恵かもしれない。
あれから半年ほど経ったが、どうやら自分はフランス産らしい。
道理で言葉なんて欠片もわからないわけである。
ちなみに、自分は競馬についてはそれほど詳しくない。
だが、前世というべき世界線において流行りに流行っていた馬を擬人化した話題作『ウマ娘プリティーダービー』の存在を知り、追いかけていく内にドップリと競馬の奥深さにハマって、いざ競馬場へ行かんとする手前での転生であった。
なので、どれも齧る程度ではあったが、某ネットの百科事典を使ったり、某動画投稿サイトで名馬について知ったり、なんなら公式サイトで競馬そのものについて学んだりしたので、ちょっとだけだが競馬のことは分かる。本当にほんの少しだけだが。
ちなみに、一番の推しはトウカイテイオーかサニーブライアンで悩んだ。未だに決まっていない。
それはさておき。
あれから本当に色々考えた。
自分が馬に転生した意味とか、自分って何だ?と哲学的な方面にまで思考が至り、結局何もわからなかった。
本当に、どうすれば良いのか目の前も真っ暗になるような経験は後にも先にも無いだろう。というか、これきりにして欲しい。
正直言って参ったという他ない。
だが、一つだけ、自分は我が馬生の光明を見出した。
自分はある可能性に至ったのである。
ウマ娘にある程度触れたことのある人間からすれば自明の理であるが、ウマ娘に登場するキャラクター達は大なり小なり活躍した名馬達が元ネタとなっている。
当然だ。強い馬には、大抵の場合、物語として形作られるに足るだけのエピソードがあるものだから。
つまりだ。
例えそれが自分という存在でなくとも、これから先、自分がこの世界線における名馬と呼ばれるに至る活躍を魅せ、後世に名を遺すことが出来たとすれば。
───自分という馬は擬人化してウマ娘プリティーダービーにお呼ばれするのではなかろうか?
いや、分かっているとも。
それがどれだけ難しいかは、聞き齧っただけの競馬知識でもしっかり把握している。
でも、考えてみても欲しい。
自分が名を残し、その名を冠した美少女が原作、と言って良いのか分からないが、あのキャラクター達の彩る世界に出演するのである。
時にはイチャコラし、時には切磋琢磨して、時には互いに譲れないモノを懸けて競い合う。
そんな、パーフェクト美少女スポ根世界に、努力して遺した自分の名を冠せし美少女がぶち込まれるなんて、あまりにも冒涜的で、あまりにも愉快痛快。
極論、あのトウカイテイオーと同じ空気が吸える。それだけでやる価値がある。
これほど、夢のある話は然う然うないと思うのだが、如何だろうか?
いや、みなまで言わなくて結構。分かるとも。
ならば、やるしかないのではないか?
自分はそう思った。
とはいえ、それは言うに易く、行うに難い。
まず立ち塞がるのは、自分の血統だ。こればかりは天運に任せるしかない。
走る家系でも走らない馬だって沢山いるのだ。
自分はそこらの石ではなく、磨けば光る玉であると願う。
そして、次に自分の進むべき道だ。
目安としては、宝塚記念や有馬記念にお呼ばれするくらいの馬が自分の中では名馬に近しいという基準になっている。
フランスやヨーロッパの競馬にはあまり詳しくないが、そういう人気投票で参加権の得られるレースもあるはずだ。
その為には、せめてGⅡ一着、欲張ればGⅠ三着か二着の好走を繰り返したい。
とは言うものの、結局のところはこれも自分の血統が全てを左右するので、血統的に無理そうであったらハルウララ路線もやむ無しである。
まあ、いろいろと人生設計擬きを語ったのだが、活躍する為にもまずは今を健やかに成長しなくてはならないわけで。
しばらくは馬体を完成させる為によく食って、よく動き、よく寝ようと思う。
というか、それしかすることが無い。
人参を食べ終えた自分は、グルグルと馬房の中を回る。
どうやらこれが、自分という馬が外に出たい時の合図だと思われているようなので、意思疎通が難しい現状においてはそれなりに重宝している。
別に旋回癖があるというわけではない。
ちゃんとやるタイミングは固定しないと癖馬だと思われてしまうので、そこら辺は徹底している。
……ちゃんとそこら辺は認識してもらえているはず。
『ひひーん(暇だ、外に出してくれ)』
「『流石はあの凱旋門馬サガスの子供だ。これだけ元気なら、アイツも喜ぶに違いない』」
……え?
アドバイスとかあれば是非。
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よろしくお願いします。
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198?産
父サガス
父の父リュティエ
父の母セネカ
父の母の父シャパラル
母□□□□□□□(架空馬)
母の父□□□
母の母□□□(架空馬)
母の母の父□□□
主な勝ち鞍