勝利を盗む者。   作:レスに咽び泣くリボー推し

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 というわけで二日〜一週間程お休みを頂きます。次の更新時間は深夜一時です。

 それにしても、レースの描写が難し過ぎる。

 ・エドモン
 天才。架空騎手。
 作戦は、とにかく悪目立ちして勝つ。なるべく次のレースで人気を上げたくない。


第十一話 新馬戦の話。

【今日の京都競馬場、新馬戦ですが人気は二強、なんと言ってもリアルシャダイ産駒のヴァレルロールと、サクラユタカオー産駒のミスターアドミラルによる一騎打ちですね】

 

【個人的には、フランスのエドモン騎手を鞍上とする、今は亡きサガス産駒のアルセーヌにも注目したいところですが……】

 

【特にエドモン騎手はヨーロッパで絶好調の騎手ですから。ここは、フランスの若き天才の力を見せて欲しいです】

 

 実況を聞くと、本当に自分には人気が無いんだなと分かる。しかも、一番人気のオッズは二倍、二番人気のオッズは三倍だ。つまり、三番人気以降はほとんど期待されていないということ。

 なけなしの四番人気すらも、自分ではなくエドモンさんのお陰のように思えてしまう。

 

 いや、実際にそうなのかもしれない。

 

 すごいうろ覚えだが、サガス産駒で活躍した一頭、名前は覚えてないがアメリカのBCターフかクラシックに優勝したその馬の活躍は晩年だったはず。

 だから、現状ではサガスの血が走るかどうかは不明瞭。いや、若干ながら走らなそうという偏見も育っているかもしれない。

 その点、リアルシャダイ産駒は去年のシャダイカグラがあり、サクラユタカオー産駒は初年度産駒のはずだが競走馬時代の強さを買われての二番人気だろう。

 三番人気の馬は知らない。多方、ミルジョージ産駒とかではなかろうか。自分よりも人気上だし。

 自分の人気の無さは、今世の父であるサガスが去年ぽっくり死んでしまっているのも拍車を掛けているのだろう。

 普通、丸外なら多少は人気出ると思うんだけども。

 

 ……まあ、良いか。

 

 前評判なんて走りで覆してやれば良いだけのこと。誰が相手でも最後の最後に差し切る、そういう作戦だ。

 ……できるかなぁ……。

 

【六番、ギャクテンヒーロー、ゲートイン。各馬、スムーズにゲートイン完了、イカヅチノキシも少し荒れていましたがゲートの中では大人しいですね】

 

 ギャクテンヒーロー(逆転英雄)イカヅチノキシ(雷の騎士)……いや、何も言うまい。

 自分的にはタンバガイセンオーよりも好きだし。

 

 六番目の馬がゲートインして、各馬が準備を完了した形となった。

 ゲートが開くのを見逃すまいと、集中力を高めると、一気に視界がクリアになるような感覚。

 余計なことは全て片端から消え失せていく。

 

 

 そして今日、ここに立ったら絶対にするって決めていたことを、今ここで。

 

 

 篠田さんは本気で自分に一着を取らせる為に、自分を名馬にするためにトレーニングメニューを練ってくれた。鈴音さんは、ハードなトレーニングを熟す自分に負担をかけないように細かなところまで気を配って世話をしてくれた。

 

 先輩方との併走で散々鍛えた。生憎と先輩方とは意思疎通出来なかったけど、自分の新馬戦を応援はしてくれていた、と思う。

 

 今日の距離は2000メートル。自分にとっては絶好の距離だ。自分の血が、この距離でだけは誰にも負けるなと鼓舞してくれているようにさえ思える。

 

 エドモンさんも騎手依頼だって沢山あっただろうに、自分の追い切りの為に断って早めに現地入りしてくれたのだ。こんな転生馬なんかのために。

 

 ドゥスとカルムの二人が今頑張っているのだと思うと、自然と活力が漲って、立ち塞がるであろう未来の名馬の影に怯えながら、まだまだ上を目指せた。それは、今も。

 

 

 思えば、もう三年近く。

 馬として転生し、名馬になることを志した自分は、やっと此処(スタートライン)に立った。

 それまでのことを柄にもなく思い返せば、自分はやっぱり凄い恵まれてる。恵まれ過ぎてて、転生チートの存在を疑うくらいだ。

 

 でも、何にせよ自分はここに立ったのだ。もう後戻りはできない。

 

 ……回想お終い。

 自分の馬生における一番大切な時期の始まりを告げるファンファーレ。新馬戦のゲートに入った時、これだけはしなきゃいけないと、兼ねてからずっと思っていたのだ。

 

 これだけお膳立てされて勝てなかったら、きっと失望させちゃうよなぁ。

 

 こんなに大勢いる中じゃ見つからないであろう、きっと応援しに来てくれているであろうその人の影を探して、

 

 

『……!』

 

 

 見つけた。

 馬になって何倍も視力が良くなった自分の眼は、ゴール前の方で何やら声を張り上げる人物を、白恵さんを確と認めた。

 

 完璧だ。

 この会場の十分の九くらいは自分を見ていない中で、まず最初に勝利を、我が馬生の一勝目を届けたい人がそこ(特等席)にいる。

 誰よりも自分に期待してくれて、自分が見えないところで走り回ってくれていたその人が、自分の走りを見る為だけにそこにいるのだ。

 

 

【京都競馬場第四レース、芝2000メートル新馬戦、今、スタートしました】

 

 

 白恵さんの為、このレースを鮮やかに盗んでやろう。

 

 

 □

 

 

【弾かれるように勢い良く飛び出した二番ヴァレルロール、第一コーナーを曲がってもそのまま先頭。その後ろ一馬身程の位置に三番フルメタルクレバー、続くように六番ギャクテンヒーロー、四番イカヅチノキシ。二馬身程離れた位置には五番ミスターアドミラル、おっとアルセーヌ、これは少し出遅れたか。先頭から九馬身程の位置です】

 

【今回が日本中央競馬初挑戦となるエドモン騎手ですが、これからの挽回もまだまだ有り得ます。レース運びに期待したいところですね】

 

 作戦通りだと、ミスターアドミラル鞍上の騎手はほくそ笑んだ。

 

 一番人気こそ譲りはしたが、今日は浅からぬ因縁のあるヴァレルロール鞍上を負かすのだと息巻いてきたのだ。

 ヴァレルロール鞍上以外で唯一警戒していたフランスの若き天才も、慣れぬ日本のコースに苦戦しているのか遥か後方。

 

 それに対して、ミスターアドミラルの調子は万全。このままヴァレルロールが先頭を譲ろうとしなければ、万に一つも負けはない。

 

【第二コーナーを曲がって向こう正面、先頭から殿までおよそ十一馬身。先頭は変わらずヴァレルロール、リードは一馬身、続くイカヅチノキシ。フルメタルクレバーとギャクテンヒーローはそこから二馬身後ろ。ミスターアドミラルは悠々と先頭集団を眺める位置、前半から大きく離されたアルセーヌは未だに最後方】

 

【ヴァレルロールは掛かり気味、これにはイカヅチノキシも釣られる展開、フルメタルクレバーとギャクテンヒーローに関してはどちらも鞍上はレース運びに定評があります、これはどんでん返しももしかするとありますよ。ミスターアドミラルは脚も溜められていて極めて冷静ですね、鞍上との折り合いも完璧です。そこからさらに二馬身程の位置にアルセーヌ。最初の出遅れが響いているかもしれません。早い段階で仕掛けなければ届かず沈む可能性もあります、鞍上の腕の見せどころか】

 

 このまま三コーナーを曲がった辺りで急速に仕掛けていく。

 聞いた話によればヴァレルロールは前に立たれるのを嫌がる馬だ。四コーナーから先頭に立つように調整、最後まで抜かせずにゴールへ一直線。

 

 絶対に勝てるという自信以上の確信があった。

 

【第三コーナーカーブの上り坂、ここでミスターアドミラル仕掛けた! ヴァレルロール目掛けて一頭、二頭と抜き去って行く! アルセーヌはまだ動き出さない】

 

【ミスターアドミラル、序盤中盤と良い位置で温存していただけあって、元気いっぱいという感じです。イカヅチノキシも仕掛け始めましたが、場所が悪く、タイミングも少し早い印象、これは最後まで持つかも分かりません】

 

 そして、第四コーナー。

 

 十分な足をためられず、更に坂で余計なスタミナを消耗したイカヅチノキシの仕掛けは不発に終わり、垂れたそれを難なく避けて二番手。

 

 そのままヴァレルロールを抜かして、ミスターアドミラルは先頭に立った。

 

 これは、勝った(・・・)

 ここから抜かされるビジョンが浮かばない。

 

 その時既に、ミスターアドミラル鞍上の頭の中からは、アルセーヌのことなどすっぽ抜けていた。

 

【ここでミスターアドミラル先頭! ミスターアドミラル、残り200メートルで先頭です! ヴァレルロール、必死に追うがその差は開く!】

 

 流石にこれ以上の加速は望めないが、今はこのまま減速さえしなければそれで十分。

 後ろをチラリと振り返れば、ヴァレルロールと、もう一頭。

 恐らくイカヅチノキシが踏ん張っているのだろう。男はそう判断した。

 

【凄い馬だ、あの坂から始動してまだ脚が衰える気配も見えません! 残り200メートル、このまま決め……て……? あれは……】

 

 興奮と緊張とで、ほとんど聞こえていなかった実況の声。

 だが、その困惑の声音だけは嫌に耳に響いた。

 

 

【───ア、アルセーヌですッ! アルセーヌ、直線に入ってからの凄まじい末脚でごぼう抜きを魅せる!! 残り100メートル並びかけてくる!】

 

 

 アルセーヌ?

 あのフランスの天才が乗っている馬が何処に?

 慣れない馬場に翻弄されていたはずだ。あのタイミングを逃した追い込み馬が、ヴァレルロールを躱して自分に並ぶなんて有り得ない。

 

 二歳馬の時からヴァレルロールとその鞍上をライバル視していた男は、他の誰よりもヴァレルロールを信用していた。クラシック戦線ではライバルになると思っていたから、新馬戦でぶつかると分かった時から対策も練ってきた。

 

 ましてや、ぽっと出の外国産馬に並ばれるなんて、そんなわけがないのだ。

 動かせば嫌な音を立てる錆び付いた玩具のように、男は緩慢な動きで隣を見た。

 

 

【アルセーヌ、躱した! あの位置から怒涛の追い上げ! ミスターアドミラルを躱す!】

 

 

 そこには、光を受けて黄金に輝くかのような馬体の馬がいた。

 否、その馬は自分達を抜いて颯爽と前に躍り出た。

 

 鞍上の白人は正に『してやったり』という笑みを口元に浮かべている。

 唖然とするも、それを慮る者はどこにもいない。

 

 

【アルセーヌ、アルセーヌが一着でゴールイン! 二着はミスターアドミラル!】

 

 

 一馬身、されどその一馬身には、絶対の差があった。

 ミスターアドミラルと自分は、これ以上ないほどに完璧なレースをしたはずだった。

 あの時まで、一着は自分達の物だった。

 

 だが、手にしていたはずの一着の栄光は、いつの間にか二着という無価値な物に掏り替えられてしまっていたのだ。

 

 

【まさか、まさかの展開! まるで夢を見ているかのようです! 我々は今、フランス生まれの怪盗の鮮やかな手腕によってレースを盗まれてしまいました!!】

 

 

 後に語り継がれることになる名実況が、京都競馬場に響く。

 

 ミスターアドミラル鞍上の男は、沸き立つ観客席を眺めながら、暫く茫然自失とする他なかった。




 アドバイスとかあれば是非。
 感想はモチベーションに。評価はパワーに繋がります。
 よろしくお願いします。

 アルセーヌ
 1988産
 父サガス
 父の父リュティエ
 父の母セネカ
 父の母の父シャパラル
 母クラスアリュー(架空馬)
 母の父トロイ
 母の母エクラ(架空馬)
 母の母の父リボー

 主な勝ち鞍
 ・新馬戦 1990
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