勝利を盗む者。   作:レスに咽び泣くリボー推し

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 連投ですので、前話の存在も把握しておいてください。読む読まないは裁量で。
 ちなみに、グランシャリオとアルカナクイーン以外の架空馬は本編では活躍しません。ライバルを過剰に強くし過ぎた感もありますが、まあ、それくらいしないと架空馬の存在による釣り合いが取れないので。
 それと、特に面白みのないレースや物語上そこまで重要ではないレースはスキップします。話数をいたずらに増やしたくないので。スキップするレース自体はそんなに多くはならないと思いますが。

 また、感想に関してですが、もらっている以上は全部に返信したいので、時間はかかりますがそれぞれしっかり返信したいと思います。返信遅くてもありがたく読ませていただいているので、ご安心ください。嬉しい悲鳴。

 ・白恵
 アルセーヌの馬主。エドモンからアルセーヌのことを聞き、アルセーヌを更に奮い立たせるためにグランシャリオとアルカナクイーンの近況をアルセーヌに伝えた。効果覿面。

 ・エドモン
 天才。架空騎手。今は、天才の名を捨ててでもアルセーヌを勝たせることだけを考えている。

 ・篠田
 調教師。元騎手。熱血系誠実漢。めっちゃ良い人。

 ・鈴音
 篠田の娘。手伝いをしている。アルセーヌの世話係。


第十二話 同郷の話。

 

「アルセーヌさん!」

 

『うぉっと』

 

 篠田厩舎に帰ってきて早々、感極まった様子の白恵さんが飛び付いてくる。

 馬なので女性一人くらいが飛び付いてきても、どうということは無い。無いのだが、その豊かな双丘が当たっているのでちょっとばかり気まずい。馬だけども。

 

「『まずは一勝、盗んできましたよ』」

 

『あー、それは自分が言いたかった……!』

 

「『……ありがとうございます、エドモンさん。本当に……』」

 

 まあ、実際エドモンさんがフランスの天才という自分の名誉を捨ててまで、『慣れない芝に苦戦する調子に乗った他国の天才』を演じてくれたお陰であそこまで油断させることが出来たのだ。

 自分という馬の人気の無さも拍車を掛けただろうが、それはそれである。

 

 多分、普通に戦ってもスペック上は勝てたかもしれないが、それだと順当に人気を上げてしまう。

 自分達は、なるべく確実に朝日杯三歳ステークスを盗む為に、できる限りの事をして相手の油断を誘う方向性にシフトしたのだ。

 だから、普通に勝って地道に人気を上げていくのは望まない。

 

 という解釈をしているのだが、実際のところエドモンさんがそういう目的であるかは分からない。結局馬なのでそこら辺は憶測と希望的観測で判断するしかないのが辛いところ。

 

 とはいえ、朝日杯三歳ステークスを盗むとか言ってはいるが、そんな小細工をしたところで相手はあのリンドシェーバー。もしかしたら普通に負ける可能性だってある。

 なんと言ったって、あのマルゼンスキーの記録を塗り替えた朝日杯のレコードホルダーである。しかも、自分と同じ外国産馬だ。弱いはずもない。

 リンドシェーバーの活躍期間の短さは、足下が弱かっただけだと個人的には思っている。

 

「『それで、次はいちょうステークスでしたか?』」

 

「『はい。中二週となりますが……』」

 

「『大丈夫ですよ。アルセーヌは全く疲れていないみたいですし』」

 

 最後以外はほとんど抜いて走っていたので、確かに疲れは全くない。

 中二週、三週間後であっても全然走れるだろう。なんなら、後二回くらい連闘しても余裕そうな気がするまである。

 

 それにしても、いちょうステークスか……。

 たしか、後のGⅢレース、サウジアラビアロイヤルカップだったかな。この時代だとオープン戦のはず。

 新馬戦、オープン戦、GⅡかGⅢレースと経て朝日杯三歳ステークスに進む形となるのだろうか。せっかくの外国産馬が出られる数少ないGⅠレースだし、自分を朝日杯に出さないということは無いだろう。

 

 何はともあれ、この時代の日本競馬のサラブレッド達は油断できない馬ばかりなので、休める時には常にしっかり休んでおこうと思う。

 

「アルセーヌ号! よくやった! お前は出来るやつだって信じていたぞ!」

 

「お疲れ様、アルセーヌ! 初勝利おめでとう!」

 

 白恵さんと別れて馬房まで戻ってくると、篠田さんと鈴音さんが捲したてるように称賛と喜びを伝えてくる。

 しかし、これだけ勝利を喜んでくれる人がいると、自分も走った甲斐が有るというものだ。

 

 次のいちょうステークスでも、自分にできることを精一杯やってやろう。

 

 そんな思いを胸に、自分の競走生活初日は終わりを迎えた。

 

 

 □

 

 

「アルセーヌさん、おはようございます」

 

『あ、白恵さん。おはようございます』

 

 いちょうステークスを一週間後に控えたある日の朝、自分の馬房に白恵さんが訪れた。

 スーツ姿なのでこれから仕事があるのだろう。

 ぺこりとお辞儀をすると、わしゃわしゃと首元を撫でてくるのでそれに委ねる。

 

 しかし、いったい何の用事だろうか。

 忙しい白恵さんが時間を割いてまで自分の所に来る用事とは……。

 

「ドゥスさんとカルムさん、覚えてますか?」

 

『? あの二人が何か?』

 

 そう言えば、あの二人も今年からデビューなのだ。

 この一年、自己鍛錬に精を出していたので二人の競走成績については全く把握していない。まあ、把握する為の術自体がそもそも無いのだが。

 

「アルセーヌさんは賢いですし、多分覚えてくれていますよね」

 

『それはまあ、弟と妹のようなものですし』

 

「ドゥスさんがグランシャリオ、カルムさんがアルカナクイーンという馬名になったのですが、お二方とも順調に勝ち進んでいるみたいです」

 

 ドゥスはグランシャリオなんて仰々しい名前になったのか。二ツ星なのに北斗七星とはこれ如何に……。

 

 カルムについては、まあ、アルカナクイーン(神秘的な女王)と言ってみればそんな風に取れなくもない。外面はそうでも、実際はただの電波牝馬だが。

 

 しかし、そうか。二人とも頑張っているのか。

 これは、自分も一層頑張らなくてはな。

 順調ということは、二人ともGⅢレースのひとつくらいは勝ってたりするのだろうか?

 

「昨日、グランシャリオさんはデューハーストステークスに優勝したみたいです。ヨーロッパ競馬じゃ、来年の三冠候補らしいですよ? マチアスが大喜びで教えてくれました」

 

 あの二ツ星くんがデューハーストステークスに勝ったのか。

 ヨーロッパ競馬二歳戦最重要のGⅠに勝つなんてな。弟のような存在の活躍が誇らしい。

 

 

 ん? デューハーストステークスに勝った?

 

 

 ……え。

 

 1990年のデューハーストステークスって言うと……ジェネラスか?

 自分がしっかりと白恵さんの言葉を理解出来ているとすれば、もしかして、二ツ星くんがジェネラスに勝ったと言ったのか?

 ヨーロッパ競馬における来年度の年度代表馬に選ばれる、あのジェネラスに?

 

 ……マジか。

 いよいよ、史実とは別時空説が濃厚になってきたな、これは。ははは。

 ……はぁ……。冗談だろ、強過ぎないか。

 

「それと、伝えるタイミングを逃したので、今報告しようと思うのですが」

 

 まだあるのか。

 もう自分の頭の中は混乱極まった境地でいっぱいいっぱいなんだが。

 

 流石にこれ以上のビッグニュースは無いよな?

 ……無いと言ってくれ。

 

「アルカナクイーンさんはこの前、アルセーヌさんの新馬戦の週に開催されたフリゼットステークスに優勝したみたいです」

 

 フリゼットステークスかぁ……。そうかそうか。GⅠレースに勝つなんて、カルムも凄いなぁ。

 

 1990年のフリゼットステークスは、たしかメドウスターだもんなぁ。

 十四馬身差(・・・・・)を詰めたのかぁ。どんな末脚使ったんだろうなぁ。

 というか、そもそもカルムがアメリカに行っていること自体初めて聞いたのだが。

 

 ……あれ、これ、今のところ自分が一番弱い説あるんじゃないか?

 兄貴風吹かせてた自分が一番弱いだなんて、情けなくて涙が出てきそうだ。

 

「アルセーヌさんには、お二方以上に頑張ってもらいますからね! あ、でも、頑張り過ぎないくらいの程々にお願いします。それでは」

 

 去り行く背中。

 自分の胸中は複雑も良いところ。

 

 

『……もう少し、頑張ろう』

 

 

 思わず零れたそんな切実な決意は、誰の耳に届くこともなく消えた。

 

 

 □

 

 

 翌週、自分は見事三番人気でいちょうステークスに優勝した。

 

 

 そしてその中一週後、自分はある人物と共にデイリー杯三歳ステークスに臨むことになるのであった。




 アドバイスとかあれば是非。
 感想はモチベーションに。評価はパワーに繋がります。
 よろしくお願いします。

 アルセーヌ
 1988産
 父サガス
 父の父リュティエ
 父の母セネカ
 父の母の父シャパラル
 母クラスアリュー(架空馬)
 母の父トロイ
 母の母エクラ(架空馬)
 母の母の父リボー

 主な勝ち鞍
 ・新馬戦 1990
 ・いちょうステークス 1990
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