勝利を盗む者。   作:レスに咽び泣くリボー推し

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 ・エドモン
 天才。勝ちたい。

 ・白恵
 二人に勝って欲しい。


第十四話 覚醒前夜の話。

「『うーん。朝日杯三歳ステークスは怪盗の手に……ですか』」

 

 新聞を見ていた白恵さんが、思いがけずといった風に零す。

 

 実際、この前のデイリー杯三歳ステークスの走りを考えれば、我がことながら見事なものだったと自惚れたくもなる。

 当然、そんな走りをすれば人気も上がるというもので。

 

「『本命馬はアルセーヌ、二番人気はリンドレイザーが予想されると……まあ、僕が乗っていても順当に上がっていただろうし、こればかりは仕方ないかな』」

 

「『そうですね……』」

 

 外国産の良血馬なんて、それだけで『強いだろう』という偏見を持たれる。その上でここまでの戦績だ。

 流石に人気を下げる為にわざわざ負けるなんて有り得ないし、だからこそいろんなやり方で悪目立ちしながら全戦全勝してきたわけだが、日本競馬における二歳馬の頂点を決める朝日杯三歳ステークスでは、誰もが自分は走る馬だと認識して臨んでくる。油断も隙も無いだろう。

 これまでのような意表を突く戦い方も、今までほどの効果は望めなくなるだろう。

 自力で勝負するしかない、かぁ。

 

 自分はそれなり以上には走れるんじゃないか、と自惚れ気味だが最近思えてきた。

 けれども、やはり歴史に名を残す名馬達とやり合うには力不足では無いかと怖くもなる。当然やるからには勝ちたいという思いもあるから、どうにかそこら辺の意識を変えていかなくてはいけないと考えはするのだが……。

 こればかりは、まだまだ時間も実績も足りないというしかない。

 

 朝日杯三歳ステークスの二週間前。

 早速現地入りしたエドモンさんとトレーニングに励む中、自分は思い悩むことになるのであった。

 

 

 □

 

 

「『アルセーヌ、ちょっと待ってくれ』」

 

『え?』

 

 今日も今日とて走っていると、上のエドモンさんが自分を止める。

 降りると自分の目を見つめてきた。

 

 はて、何かあるのだろうか。

 

「『……よし、分かった。行けるな』」

 

『え、え? 何が? 何が行けるんですか?』

 

 勝手に一人納得したエドモンさんは、自分に乗るとそのまま遠くでトレーニングしていたキングヴェルベルク先輩の方に向かう。

 

 併走でもするのだろうか。しかし、いったい何が分かって、何が行けるというのだろう。

 

「ヘイソウ、オネガイシマス」

 

「え? あ、分かりました」

 

 おおう、日本語練習中なのか。いっそ清々しいまでのカタコト日本語だな。

 しかし、エドモンさんが日本語を話そうと頑張っているのはなんか意外だった。まあ、言われてみれば天才系イケメンの皮を被った努力家、みたいな感じがしないでもない。自分と意思疎通を図ろうとする時はとても真摯なので、そこら辺も含め概ね自分的に好評だし信頼もしている。相変わらず鼻につくイケメンなのは変わらないけれども。

 

 何はともあれ併走だ。

 キングヴェルベルク先輩に乗っていた人が、合図役に別のスタッフを呼んでくると、先輩の隣でスタートの合図を待った。

 

「『アルセーヌ、頼むよ』」

 

『だから、何が……!?』

 

 それにしても、どうしてこうも天才と呼ばれる騎手は言葉が足らないんだ。

 

 内心ツッコむと、スタートの合図。

 と同時にいきなり全力疾走の指示。

 

 え、また逃げるの……!?

 

「『アルセーヌ、大丈夫だ』」

 

 いや、大丈夫だと言われましても。

 確かに前ほど逃げと先行の作戦に忌避感は無いけど、後ろが気になるのは変わっていないんだが。

 デイリー杯の時だって、結構早い段階から下がってくれたから後ろを気にしなくて済んだというだけの話で、あれがもし最後まで逃げるって言う話であったら、それこそ後ろが気になってレースどころではなかったと思う。

 

 というか、全力疾走してるから話すの危ないと思う。ヒヤヒヤするから止めてくれ。

 

「『後ろが気になるかい?』」

 

 いや、後ろよりもアンタが舌噛まないか気が気じゃないんだよ。

 頼むから舌引っ込めて、普通に乗ってくれ。

 

 

「『なら、気にならないくらいぶっちぎってやれば良い』」

 

 

 ……? 何を言っているんだ? もしかして、大逃げをしろって言うことか?

 そりゃあ、まあ、それが出来たら後ろのことなんて気にならないかも知れないが、自分にそこまでの脚力は無いと思う。

 と、文句を言おうと思っても、悲しいかな、いきなり止まるのは危ないし、そもそも文句を言える口も無い。

 

 何より、そこまで自信満々に自分を信頼してくれているエドモンさんに応えてみたいと思うのが、元人間だった自分の(さが)的なもので。

 

『仕方ないなぁ……ダメだったら体当たりするからな』

 

 内心悪態を吐きながらも、自分はさらに加速した。

 

 

 □

 

 

 日が経つのは早いもので、気が付けばあっという間に朝日杯三歳ステークスの前日である。

 

 最終追い切りを終えて、どうにも落ち着かなかった自分は輸送された先の馬房でクルクルと旋回していた。

 こんなこと久しぶりなのだが、無意識に旋回してしまう辺り、もしかしたらこれは自分の癖だったのかも知れない。

 これまでそんなことは無かったのだが。

 

 緊張、しているのかもなぁ。柄にもない。

 

 明日はGⅠだ。これまで走ってきた新馬戦や、いちょうステークス、デイリー杯三歳ステークスとはわけが違う。

 しかも、あの朝日杯三歳ステークス。日本競馬界の二歳馬最強を決める、とても栄誉なレースである。

 

 そこに、フランスで生まれ、フランスで育ち、日本で走り始めた中身人間の自分が出走するのだ。

 場違いというか何というか、どうしても漠然とした不安と気持ち悪さが拭えなかった。

 

 勝ちたい気持ちはある。

 アメリカとヨーロッパで頑張っている二人の為に、約束を果たさねばならないと奮起する自分がいるのは事実だ。

 

 しかし、生来の自分への自信のなさというのは前世の頃から引きずってしまっているもので。

 これまでは流れるような日々と、ドゥスやカルム、白恵さんに対する義務感などから考えずにいられたけど、今日ばかりはどうしても頭の片隅に追いやることができなかった。

 

『勝てるかなぁ』

 

 そんな弱気が顔を見せた。

 自分で言っておいて、滅茶苦茶自分を萎えさせてくる。

 

 ……くそ。ダメだな。こんなんじゃ、戦う前から負けている。

 こういう時は寝るに限ると、嫌に冴えた頭に苛立ちながら寝藁に寝転がろうとすると、馬房の外に気配を感じた。

 

 

「『アルセーヌ、起きてるかな』」

 

『エドモンさん?』

 

 

 エドモンさんの声に顔を上げて馬房の入口の方まで行くと、柱に寄り掛かるエドモンさんと目が合って、微笑まれた。男に微笑まれても、なんていう野暮なことは言わない。

 

「『ちょっとさ、分かんないと思うけど話したかったんだ』」

 

 そう言って、エドモンさんは口を開く。

 

「『僕は、フランスじゃ天才だなんだって言われていたけど、実は未だにGⅠレースのひとつも勝ったことがないんだ』」

 

『そうなのか。意外だな』

 

 てっきり、タケユタカレベルでGⅠにも勝っているのかと思っていたが。

 

「『明日、僕は勝ちたい』」

 

『っ』

 

 その声は、今までで一番真に迫って自分に響いた。

 本当に、勝ちたいんだなっていうのが伝わってくる。

 

 だが、次に続く言葉こそが、本当の意味で自分に強く突き刺さったんだと思う。

 

 

 

 

 

「『───他でもない、君の背に乗って、勝ちたいんだ』」

 

 

 

 

 

 ……それはさぁ、ずるいと思う。本当に。

 

 そんなこと言われたら、どんな無茶な指示だって遂行してみせるって思えてしまう。

 エドモンさんとかいう鼻につくイケメンに、GⅠっていう夢を掴んで欲しいって思ってしまう。

 そんなの柄じゃない、なんて言わないけど、なんかムカつく。ムカつくし、高揚している。

 

「『悪い、変な事言ったね。おやすみ、明日の為によく寝るんだぞ』」

 

 そう言って去っていく後ろ姿は、どこか切なかった。

 なんて言うか、印象変わっちゃったな。

 

 

 

『……明日は、勝ちたいなぁ』

 

 

 そう思ったのは、必然だったと思う。




 アドバイスとかあれば是非。
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 よろしくお願いします。

 アルセーヌ
 1988産
 父サガス
 父の父リュティエ
 父の母セネカ
 父の母の父シャパラル
 母クラスアリュー(架空馬)
 母の父トロイ
 母の母エクラ(架空馬)
 母の母の父リボー

 主な勝ち鞍
 ・新馬戦 1990
 ・いちょうステークス 1990
 ・デイリー杯3歳ステークス 1990
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