勝利を盗む者。   作:レスに咽び泣くリボー推し

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 書いてて一番楽しかったかもしれないです。やり過ぎた感。

 ・エドモン
 天才。勝てると信じている。


第十五話 朝日杯三歳ステークスの話。

【本日、此処中山競馬場に十三頭の若き勇士達が揃いました。天候は小雨ですが、馬場状態は良馬場との発表。これは、各馬の好走が期待できそうです。】

 

 その日、誰もがアルセーヌを一番人気に推した。

 

 その年の朝日杯たった一頭の本命馬は、均整のとれたその美しい馬体を惜しげも無く晒し、鞍上を務める白人の青年は自信ありげな笑みを覗かせる。

 この会場の誰も彼もが彼らを推し、そのオッズは1.1倍となる。

 

 怪盗アルセーヌの名を冠したサラブレッドがターフに舞う姿は、一種の興行の如く。観客の心を掴んでいた。

 

【今日の本命馬アルセーヌ、本日も落ち着いていますね】

 

【ここまで三戦三勝で臨む朝日杯三歳ステークスです。鞍上エドモン・ルーセル騎手も念願のGⅠ初勝利に向けて意気込みが違うように思えます】

 

【対抗馬の候補は同じく外国産馬のリンドレイザーが推されているようですね。ここは、日本産馬勢にも頑張って欲しいところです】

 

 なるほど、リンドシェーバーはリンドレイザーになっているのか。

 そんなことを思いながら、大外十三の数字を割り振られたアルセーヌはゲートインする。

 

【各馬、体勢整いました】

 

 昨夜エドモン・ルーセルという男が見せた、アルセーヌの知らなかった一面。

 数分にも満たぬ独白に、エドモンという騎手のほとんどを理解した。

 

 その悲愴なまでの決意に、応えたいと思った。

 相手は十四年間破られることの無かったマルゼンスキーの記録を塗り替えた、朝日杯レコードホルダーだ。

 ただの馬では勝てるはずもない。

 だが、アルセーヌは自分のことを良くも悪くもただの馬だとは思っていなかった。

 自分だけが特異点であることを確と理解していた。

 

 

 ───これは、エドモン・ルーセルという相棒(・・)に捧げるGⅠ初勝利だ。

 

 気前よく、一番人気も、始終先頭も、全て丸ごと盗んでやろう。

 

 そこに、躊躇いなどありはしなかった。

 

 

【朝日杯三歳ステークス、今、スタートしました】

 

 

 運命のゲートが開く音。

 アルセーヌは、誰よりも速く飛び出した。

 

 

 □

 

 

【ポンッと弾かれるように飛び出したのは十三番アルセーヌ! 前走はライバルはおろか実況の度肝すら抜いた開幕速攻ですが、前走より200メートル長い本日も同じ作戦を採るのか】

 

【前走での奇策を警戒してか、各馬落ち着いて自分のペースを保てているようですね】

 

 本命馬がたった一頭と言えど、各馬の鞍上も調教師も、ただ勝ちを捨てていたわけではない。

 むしろ逆だ。勝つ為に、これまでのレースを研究してきた。し尽くしたと言っても良い。

 アルセーヌを研究して分かったことは、変幻自在の脚質と、鞍上の指示に完璧に応える聞き分けの良さを持つこと。素の身体能力も高く、適正距離は2000メートル以上。

 

 そして、ひとつのレースを逃げ切れる程の持久力は無い、もしくは単に逃げ切る作戦は苦手であろうということだ。

 

 特に後者の可能性については、前走途中のアルセーヌの挙動からかなり濃厚だと判断していた。

 

 その点、アルセーヌとそれに競り合う一頭の二馬身後ろで冷静に走るリンドレイザーには、アルセーヌと同等の身体能力があると鞍上の男は踏んでいる。奇策にさえ嵌らなければ良い勝負ができると確信してすらいた。

 

 各馬鞍上は誰一人として例外なく、アルセーヌを警戒しながらも、アルセーヌの奇策、動きにばかり目が行っていたと言っても良いだろう。

 鮮やかなまでのこれまでのレースを鑑みれば、それは当然の判断であり、どこまでも凡策であった。

 

【各馬、掛かっている様子もなく、最初のコーナーを曲がり向こう正面へ。これは若干縦長の展開です】

 

【残り1200メートルですが、果たしてこのまま展開は先延ばしとなるのでしょうか】

 

【ここは、アルセーヌの動きに注目ですね。どこから仕掛けるか、目が離せません】

 

 だからこそ、そう、だからこそ誰もがアルセーヌの動きを予測出来ていなかった。

 

 もう既に、策は始まっていたのだということを、観客も、実況すら理解していなかったのだ。

 

【向こう正面から第三コーナーへ。まだ動きはありません、依然アルセーヌ先頭です】

 

【各馬、アルセーヌの動きを警戒してか動けずにいます。仕掛けるタイミングは大丈夫か!?】

 

 その言葉に急かされたかのように、追い込みの位置にいた馬が段々と動きを始める。

 普段ならば、この展開は定石通り。何も問題は無く、レースは終盤に向けて加速する。

 

 だが、この場にいる全ての人間が、このレースに言い様の無い得体の知れなさを感じていた。

 

 不気味なまでの静けさ。

 スタンドは静寂に支配され、馬の蹄鉄が大地を踏み鳴らす音と実況の声だけが響く。

 

【アルセーヌ、未だ先頭を譲らず後ろとは五馬身(・・・)の差。中団も仕掛け始めるが、このまま逃げ切ってしまうのか!】

 

【ここで七番リンドレイザーも動き出す! 五番クリエイターを抜いて二番手に上がって参りました、後続も釣られて続々とスパートをかけてゆく!】

 

 リンドレイザー鞍上は、これは勝てると確信し、三番手の位置、第四コーナー手前から距離を縮めるべく始動する。

 アルセーヌに追い縋っていた一頭を抜かし、二番手へと浮上する。

 そのままアルセーヌの喉元へと噛み付かんと剃刀のように鋭く末脚を発揮して。

 

 だが、そこであることに気がついた。

 

 

【これは、どういうことでしょうか! リンドレイザー、追い付けない! 差はどんどん広がってゆく! 残り400メートル、差は七馬身!】

 

 

 アルセーヌとリンドレイザーとのその差は、縮まるどころか開くばかり(・・・・・)なのである。

 

 ここで、初めて鞍上の騎手達は戦慄を覚えた。

 

 自分達は、既に怪盗の術中。

 誰一人、アルセーヌに手を伸ばせない。

 

 

【どうした、どうしたことか。差は広がるばかり! 後続馬も懸命に追い掛けますが、未だにアルセーヌの影すら見つけられない!】

 

 

 事ここに至り、彼の馬の影を踏める馬はもう既に居ない。

 

 全てを理解した観客は、立ち上がり歓声を上げる。目の前を駆ける怪盗の姿を目に焼き付け、歴史的瞬間をその目に刻む。

 

 

【残り200メートル、アルセーヌ、まだまだ加速する! 後ろのことなど見えていないのか!!】

 

【後続馬、どうしても手が届きません! リンドレイザー粘るが、これはどうか!?】

 

 

 無情なまでの差を前にして、その実況の沸騰は何処か白々しい。

 これ以上離されてなるものかと、他馬は必死に脚を動かした。

 

 だが、最初から最後まで、レースは怪盗の手のひらの上。

 

 

 黄金の馬体と黒の騎手が、ゴールを駆け抜けた。

 

 

【───完全犯罪(パーフェクトゲーム)ッ! 誰一人、この怪盗を捕まえられないッ! 我が目が信じられません! 一着はアルセーヌです!】

 

 

 二着との間には大差。掲示板が指し示すタイムは、1分32秒4。疑う余地の無い最速が、この日競馬界を震撼させる。

 

 このコースレコードは、二十三年後に破られるその日まで、ターフの怪盗アルセーヌの名と共に競馬史に刻まれることとなるのであった。

 




 アドバイスとかあれば是非。
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 よろしくお願いします。

 アルセーヌ
 1988産
 父サガス
 父の父リュティエ
 父の母セネカ
 父の母の父シャパラル
 母クラスアリュー(架空馬)
 母の父トロイ
 母の母エクラ(架空馬)
 母の母の父リボー

 主な勝ち鞍
 ・新馬戦 1990
 ・いちょうステークス 1990
 ・デイリー杯3歳ステークス 1990
 ・朝日杯3歳ステークス 1990
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