勝利を盗む者。 作:レスに咽び泣くリボー推し
顔は良いが、どこか苦労人の気配が滲み出ている男。主人公の育成牧場の牧場長を務める。
・美人馬主
儚い系美人。主人公の馬主。火力でゴリ押せるゲームにハマるタイプ。
・騎手の男
天才。架空騎手。
・二ツ星くん
額に二ツ星のマーキングのある黒鹿毛の男の子。ヴェイグリーノーブル辺りの血を継いでいる。
・名も無き隣人ちゃん
鹿毛の女の子。まだまだ小さい。ミルリーフ系。
気が付くと昨日の記憶が飛んでいて、いつの間にか寝藁の上ですやすやしていた。
何をやらかしてしまったのか、皆目見当もつかない。
冗談だ。何もしてない。
恐らく、サガス産駒であることを聞いて喜びに舞っていたのだろう。
いや、正確にはサガスという言葉がはっきり聞こえたというだけで、自身がサガス産駒かどうかは分からないが、この際そういうことで。我が希望。零細血統よりも、確かな安心である。
サガスは、1980年代に活躍したフランス産の名馬で、彼の有名な凱旋門賞に勝ったことのある馬だ。
三度の凱旋門賞の出走、一度目は十一着と奮わなかったが、二度目で優勝、三度目は降格となったものの一着でのゴールであった。
名馬と呼んで差し支えないだろう。
まあ、知っていることと言えばこのくらいで、サガスがいつ頃死んだのかも、その産駒が走ったのかどうかも分からない。
けれども、自分が超絶希少なヘロド系に属する馬であるということも分かったので、競馬の神とやらがいるのならば、我に七難八苦と乗り越えた先の名誉を与えてくれることを祈る。
実はトウカイテイオーの父であるシンボリルドルフもヘロド系なので、当然ながらトウカイテイオーもそこに属する。
つまり、自分とトウカイテイオーは遠い親戚みたいなものである。
トウカイテイオー推しとしては、申し訳なくもあり、またとても喜ばしい。
しかし、となるとこれはもしかするかもしれない。
サガスが活躍したのは1980年代前半から中盤。たしか、1985に引退して種牡馬になったはず。
つまり、トウカイテイオーと同じ世代であるという可能性も……?
ああ、だから昨日記憶飛ばすくらい喜んだのか。納得である。
『おい、クラス!』
『どうした、二ツ星くん』
一人納得していると、額に白く二つの星のようなマーキングのある黒鹿毛の幼駒が頭で小突いてくるので受け止めた。
どういう訳か、馬になってからというもの、ある程度成長した馬の言葉が分かるようになった。
どうやら構って欲しいらしい。
構うと言っても、放牧場の芝コースを一緒に何周か走ってやったら満足してくれるのでチョロいものだ。
彼の名前はまだ無い。というか知らない。
知らないのも呼ぶ時に不便なので、目立つ額のマーキングから勝手に二ツ星と呼んでいる。
この牧場には、自分と二ツ星以外にももう一頭幼駒がいるのだが、彼女は気難しい質なのかあんまり寄ってこない。
多分、二ツ星くんが早熟だから現時点で何を言っているのか分かるというだけで、もう暫くは彼女の言葉は分からないだろう。まだまだ小さいから晩成型みたいだし。
ちなみにだが、実はこの二ツ星くん、結構足が速い。
多分だけど早熟型、二歳馬戦で活躍するタイプだと思われる。成長が早く、馬体も自分より明らかに大きい。
前までは頭突きされても大したこと無かったが、そろそろ受け止めるのも厳しくなってきた。
もしかしなくともライバルになるであろう彼だが、まあ、懐いてくれているので無下にも出来ず。
なんだかんだと共に育って今に至る。
そう言えば、自分はこの牧場においてはクラスと呼ばれているらしい。
多分フランス語なので意味は分からないが、時々クラスアリューという名詞を耳にするので、恐らくこの幼名は自分の母の名前から取ってきたものだと考えている。
しかし、そんな名前の馬は見たことも聞いたこともないので、もしかすると母方は望み薄かもしれない。
……あれ、そもそも母親らしい母親の顔見た事ないぞ?
□
「『おう、クラスはすくすく育ってるぞ。アイツは頭が良いから、手が掛からなくてちょっと寂しいくらいさ』」
マチアスは、電話越しに聞く友の声が弾むのを聞いて笑みを零す。
クラス、そう呼んでいる例の幼駒の育成は順調そのもので、この調子ならば早い内から馴致にも至れそうだと、その成長性と頭の良さに舌を巻いた。
少なくとも、他の二頭と比べても大人と子供の違いのような、そんな感覚を覚えるくらいにはクラスは頭が良かった。今まで触れてきた馬の中でもここまで頭の良い馬は見たことがない。
唯一心配であったのは出産後すぐに息を引き取った母親の代わりにクラスに乳を与えることとなった乳母馬のことだが、それも特に問題無く馴染んでくれた。
「『大丈夫だって。半年後にはお前の牧場で元気にやってるさ』」
他の幼駒とも上手くやれているみたいだし、気性に関しては完全に問題無しだろう。
ここまで来ると、欠点を探すことに躍起になってしまうが、一時期気になった旋回癖も頻度は多くないので気にするべきことでもない。
特にこれといった心配事が無いのは良い事である。
取り敢えず、報告すべきことは全て話したと電話を切ろうとした時、男は己が耳を疑った。
「『はぁ!? 来週来る!? いきなり過ぎるだろ……って、切りやがった』」
いつもいきなりな友人のことだ。来ると言ったら本当に来るだろう。
通信相手を失った受話器を置いて、嬉しさと面倒臭さとを綯い交ぜにした複雑な面持ちのマチアスはため息をひとつ。
「『ったく、仕方ねえなぁ』」
だが、どうしても喜色を隠すことは出来ていなかった。
□
その人物は、二ツ星と一緒に芝の上を駆け回っていた時に唐突に訪れた。
「こんにちは、クラスさん」
『え……日本人?』
「私は
第一印象は、儚い系和風美人。
白恵と名乗ったその女性は、自分と目線を合わせながら首元をそっと撫でて柔らかく微笑んだ。
すると、何やら今朝から慌ただしくしていたマチアスが牧者の方から駆け寄ってくるのが見えた。
「『シラエ、来てたんなら言ってくれよ』」
「『ごめんなさい、マチアス。でも、早く会いたくて仕方が無かったので』」
「『君のそういうところは相変わらずだな。でも、そういうところが白恵の良さでもあるんだが』」
「『ふふ、ありがとうございます』」
どうやら二人は仲の良い間柄らしい。出来ているという程の仲ではなさそうだが。
というよりも、雰囲気から察するにマチアスが一方的にアタックを仕掛けている感じなのだろうか。白恵さんは全然気にも留めていないみたいだが。
気持ち悪いくらいに喜色満面の爽やかスマイルでマチアスが白恵さんに微笑みかけるものの、当の白恵さんは全く気が付いていないのかガン無視して自分に向き直った。
……哀れマチアス……。
「あのね、クラスさん。私、貴方の馬主なんです」
『へぇ、そうだったのか』
「来年からよろしくお願いしますね」
丁寧にお辞儀をしてきた白恵さんに、自分も頭を下げて返す。
なるほど。
だから、一見部外者な白恵さんが牧場に入ってこれたのか。
その口振りから察するに、来年には自分は日本に渡る感じになるのだろう。
……ん? もしかして、自分、日本競馬で戦う感じなのか?
それはそれで戦いにくいなぁ……。
「『さてと。もう満足したので帰りますね』」
「『え、もう帰るのか? ディナーでもどうかなって思ってたんだけど……』」
「『ご一緒したいのは山々なのですけれど、クラスさんに乗っていただきたい騎手の方とお話する予定がありまして』」
「『……そうなのか。分かった。コイツの為にも良い騎手を頼む』」
「『ええ、もちろん。クラスさんのこと、私の代わりによろしくお願いしますね?』」
露骨にマチアスのテンションが下がってるな。
多分ディナーかデートに誘ったんだろうけど、この感じだと振られたようだ。可哀想に。
暫くの間は、自分だけでもちょっと優しくしてあげよう。
そう心に決めて、自分は美人馬主の背を見送るのであった。
□
「『まあ、確かに再来年には日本で短期騎手免許制度が実装されるのは知っているとも』」
「『はい。なので、貴方に是非と思いまして』」
「『ただし、君は僕に重要なことを伝えていない』」
「『?』」
「『その年からは、あの皇帝の嫡男が走るんだろう?』」
「『……ええ』」
「『君の馬は、皇帝の子にも勝てるような良い馬なのかい?』」
「『そうですね。サガスとトロイ、そしてリボーが入っている馬を良い馬と呼ばずして何と呼べば良いのか、私には分かりません』」
「『はっ、揃いも揃って強い馬だが、その血が走るかどうかはまだ分からないだろう。彼のイルピッコロは常勝馬であっても、その曾孫が無敗で在れる保証はどこにもない』」
「『いえ、ありますよ』」
「『なに?』」
「『貴方が、私の馬を勝たせるんです。日本で』」
「『……くく、面白い人だね、貴方は』」
「『よく言われます』」
「『───乗った。その馬の鞍上は僕の物だ』」
アドバイスとかあれば是非。
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よろしくお願いします。
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1988産
父サガス
父の父リュティエ
父の母セネカ
父の母の父シャパラル
母クラスアリュー(架空馬)
母の父トロイ
母の母エクラ(架空馬)
母の母の父リボー
主な勝ち鞍