勝利を盗む者。   作:レスに咽び泣くリボー推し

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 ちょこっとだけ未来の話と、騎手の運命の出会い的な話。

 追記
 二ツ星くんの馬名を変更しました。

 ・マチアス
 顔は良いが、どこか苦労人の気配が滲み出ている男。主人公の育成牧場の牧場長を務める。

 ・エドモン・ルーセル
 天才。架空騎手。運命の出会いを果たした。

 ・二ツ星くん
 馬名はグランシャリオ。成長が早い。


第三話 運命の騎手の話。

 ■天皇賞・春に向けて

 

 

 この世界(・・・・)に転生してから時折、ふと、思うことがある。

 

 自分は本当にこれで良かったのかと。

 

 無論、半分冗談だが、半分くらいは本気だ。

 

 

 転生してから幾日か、走る目的を定めたあの日。

 自分は確かにウマ娘プリティーダービーにお呼ばれするような名馬になろうと決意した。

 

 その為に走った。

 その為に数多もの馬達を、時に歴史に名を残すような馬すらも負かし、また負かされてきた。

 その為に、グランシャリオ(二ツ星くん)アルカナクイーン(名も無き隣人ちゃん)と鎬を削った。

 

 その果てに、自分は至り、そして往生したのだ。

 

 名馬と呼んで差し支えない馬生を送れたと確信している。

 競馬の神は、自分に七難八苦と栄光と、足跡と呼ぶに足る物語のような馬生を与えてくれた。

 きっと、ウマ娘プリティーダービーにもお呼ばれするはずだと、胸を張って言えた。

 

 だが、お呼ばれするのは自分本人ではないと思っていたのだ。

 

 いや、正確に言うなれば、自分の名を冠した美少女(他人)、これが当時自分の思い描いた理想像であった。

 自分自身があの世界に生きるなど、一ファンの身には過ぎた、あまりにも罪深く恐れ多いことだと思っていた。それは今も変わらない。

 

 しかし、現実とは奇妙なもので。

 

 前世の自分には、想像力と覚悟が足りていなかったらしい。

 

 

 今日は四月二十六日。

 前前世ではアニメで視聴し、前世では走りもしたあのレースの日。

 

 

「アルセーヌ、マックイーン! ボク、絶対に勝つから!」

 

「ふふ。テイオーさんったら。でも、わたくしこそ今日だけは、お二人にだけは負けませんわよ」

 

「自分も、二人に負けるつもりは無いさ」

 

 

 

 今、自分は絶賛スポ根百合に挟まれるという大罪を犯しています。

 

 

 

 

 誰か助けて……。

 

 

 

 

 まるで死刑執行を待つ大罪人のような心持ちで、自分はパドックへと向かうのであった。

 

 

 

 ■

 

 

『はっ、今未来の自分からのSOSを受信したような……?』

 

『何言ってるんだ?』

 

 真面目な話なのだが、二ツ星くんは取り合ってはくれない。

 

 まあ、自分でも同じ立場なら無視する。

 

『なーあー、そんなことより走ろうぜー』

 

『……二周だけだからな』

 

『やった!』

 

 嬉しそうに走り出した二ツ星くんを追い掛けていると、時折思うのだ。

 

 もしも自分に弟か甥が居たらこんな感じなのかもしれないな、と。

 

 生憎、前世では兄弟姉妹や甥姪の類は居なかったので、それがどんな感覚かは計り知れないが。

 

『ん?』

 

 そんなことを考えていると、ふと視線を感じる。

 

 気になって振り向いた先には、一人の小柄なイケメンがマチアスと話しているのが見えた。

 あの体格は騎手だろうか。フランス人みたいだし、態々自分に付いて日本に来るとは思えないから、二ツ星くんか名も無き隣人ちゃん辺りの様子を見に来たのだろう。

 

『おーい、早くー!』

 

 しかし、どうしてだろうか。

 なにやら彼とはこれから先も縁がありそうだな、などと思いながら、自分は少しばかり速足で二ツ星くんを追いかけるのであった。

 

 

 □

 

 

「『彼がそうかい?』」

 

「『ああ。だが、まさかルーセルさんがクラスの騎手を務めてくれるなんてな。しかも、わざわざ日本に渡ってまで』」

 

「『いや、僕もちょうど良かったと思うよ』」

 

 男マチアスは、柵に手を付いて走る二頭を眺める青年の問い掛けに答えると、心底意外だったという風に続ける。

 白恵が連れてきた騎手の男エドモン・ルーセルは、今やフランス競馬界において一番期待されている若手騎手であった。

 

 デビュー初年度で重賞勝利、GⅠ二着。二年目からは狙いを変えて勝利数を着々と増やして行き、去年にはデビュー二年目にしてフランスのジョッキーにおけるリーディング二位を達成した。

 

 白恵からその話を聞いた時は、そんな大物をよくもまあその気にさせたものだと、マチアス自身驚嘆せざるを得なかった。

 

「『で、クラスは走りそうですか?』」

 

「『そうだね……馬体は悪くない。走り方にも変なところは無いし、順調に育ったら走る馬にはなると思うよ。後は乗ってみなきゃわからないかな』」

 

「『アイツは凄い馬なんです。俺は、何処であろうとアイツが活躍する姿を見たい』」

 

 三年間でかなりの馬に乗ってきたであろうエドモンがそこまで言うなら、きっとクラスはよく走るだろう。

 

 

 マチアスにとって、クラスという馬は特別な馬だ。

 

 

 まだまだ新設の域を出ない生産牧場とはいえ、これまでの産駒は奮わなかった。自分のせいだと涙を流した日もある。

 

 だが、クラスは違う。

 

 関わる内に、コイツの走る姿が見たい、とただただそれだけを思うようになった。

 勝って欲しいとか、勝たせてやりたいとか、そんなことはこの馬に対しては考えられない。

 こいつが走る先に、どんな未来が、どんな栄光が待っているのかと楽しみなのだ。

 息子のように思っているからなおさらに。

 

 誇らしげな気持ちになるマチアスであったが、エドモンの胸中はそれとは対照的そのものであった。

 

「『(彼もピンと来ないな……引き受けたのは間違いだったかな)』」

 

 今まで、エドモンは運命の出会いというものをした事がなかった。

 強い騎手、伝説的な騎手は皆、その運命的な出会いとやらを経験して一皮剥けるという。

 エドモンは、端的に言えばそれを渇望していた。

 

 エドモンがこれまでに挑戦してきたGⅠレースは十八回。

 そのどれもが掲示板に乗るという結果に終わった。

 

 つまり、勝ったことがないのだ。

 

 馬が悪いわけではない。

 優秀なジョッキーであった祖父の伝手で、大手の優秀な馬にも幾度も乗っている。重賞クラスなら勝利は常に射程圏内であった。

 

 エドモン本人に才能が無い、というわけでもなかった。

 天性の勘もある。馬に対する深い理解も。

 

 しかし、GⅠレースを勝つジョッキー達には届かない。

 それをエドモン自身が直感していた。

 

 自身が乗って二位になった馬で、翌年そのレースに勝利されたこともある。

 悲しいかな、同じ走りは出来そうになかった。次元が違うと言っても良い。

 

 エドモン・ルーセルは伸び悩みの時期にぶつかっていた。

 

 そんな時だ。

 白恵という名の女から連絡を受け、いざ会ってみれば日本で自分の馬に専属として乗って欲しいと言うではないか。

 

 普通なら断る。

 だが、その時のエドモンはこの状況を打破する契機になるやも知れぬと請け負った。

 何より、美人にああまで言われては引き下がれなかった。

 

 もしかしたら、その馬が運命の出会いかもしれない。

 そんな淡い期待もあった。

 

 結果は残念なものであったが。

 

「『(流石に、そんな都合の良いことは無い……か……?)』」

 

 否、残念なものであったはずだった。

 己を見る一対の眼差しを受けた時までは。

 

 

「『……っ!』」

 

 

 その時のことを、エドモンはこういう他なかった。

 

 

 ───運命を感じた(・・・・・・)、と。

 

 

 総身が打ち震えるのを理解する。心の底から、この出会いに歓喜した。

 

 あの眼差しは、正しく問い掛けであったのだ。

 

 お前は、相応しい騎手なのか?

 

 そう聞かれたなら、こう応えるしかあるまい。

 

 

「『いや、そうだね。乗るまでもない』」

 

「『え?』」

 

「『彼は走るよ。僕となら、ね』」

 

 

 先までの鬱屈とした思いなどどこにもない。

 今ここに至って、エドモンの脳裏にはこの馬と掴み取る勝利、ただそれだけがあった。




 アドバイスとかあれば是非。
 感想はモチベーションに。評価はパワーに繋がります。
 よろしくお願いします。

 アルセーヌ
 1988産
 父サガス
 父の父リュティエ
 父の母セネカ
 父の母の父シャパラル
 母クラスアリュー(架空馬)
 母の父トロイ
 母の母エクラ(架空馬)
 母の母の父リボー

 主な勝ち鞍
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