勝利を盗む者。   作:レスに咽び泣くリボー推し

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 ちょっと時系列が変になっていたので修正。
 四月、白恵の生産牧場到着。
 五月初め、馬装。
 五月終わり、育成牧場到着。

 異常な精神成長速度と、早熟よりの早めの馬体の完成から馴致はかなり前倒されています。

 追記(2021/06/19)
 信じられないくらいボケをかましていたので、時系列とか色々と修正しました。寝惚けていたのでしょう。
 騎乗馴致の始まりを平均に近付けました。

 ・白恵
 アルセーヌの馬主。
 苗字は丹羽。フランスの小説や劇が大好き。

 ・エドモン
 アルセーヌの騎手。
 アルセーヌという存在の核心に迫りかけたが、『なんだ、名馬か』と納得(思考放棄)した。テンションマックス。漲るやる気。

 ちなみに、主人公最強系ではありません。


第八話 天才の騎乗の話、エドモン・ルーセルの場合。

「『おお、よく育ったね、クラス。いや、今はアルセーヌと呼んだ方が良いかな』」

 

 何事もなく、人を乗せて走っては放牧されて。

 時期的にはそろそろ秋天、天皇賞・秋が始まる頃。

 

 第二の母国語並みには聞き取れるようになったフランス語が聞こえた。

 待ちに待った騎手との対面か。

 昨日、育成牧場に立ち寄った白恵さんが明日、つまり今日騎手の人が来ると言っていたので、フランス語を話す聞き知らぬ声イコール騎手だと断定した。

 

 ワクワクしながらその方を向いた時、目に入ったのは、いつかフランスの生産牧場で見かけた顔。

 

『なるほど……彼がそうだったのか』

 

 縁がありそうだとは思っていたが、こういう縁だとは。

 あの時、柵越しに自分を見詰めていた彼が、自分の主戦騎手であるエドモン・ルーセル氏その人だろう。

 

 均整の取れた肢体、スっとして整った目鼻立ち。文句無しにイケメンと評するべき男は、自分に近付くと爽やかな笑みを浮かべて自分の鼻頭を撫ぜた。

 

「『じゃあ、今日は乗ってくださるんですね?』」

 

「『ああ。一番は明後日のGⅠ、日本の天才が出る秋の天皇賞を見に来たんだけどね。まだ乗ったこと無かったし、ちょうど良い機会かなって思ってさ』」

 

 ついでとは、失礼な男だ。

 イケメンだからと何事も許されると思っているのではなかろうか。イケメンだけど恋愛ボロボロなマチアスを見習った方が良い。

 

 まあ、白恵さん曰くはフランスの天才騎手との事だし、同じ天才であるあの例の男に興味を抱くのは当然かもしれない。歳も近そうだし。

 

「『鞍も着いてるし、早速乗っても良いかな?』」

 

 真正面から自分を見詰めて問い掛けてくる青い瞳。

 自分はそれにぶふっとくぐもった声と首肯で返した。

 

 こういうところからは、やっぱりこの人も競馬に関係する職に就いてるんだなぁと納得せざるを得ない。

 自分が転生してからこれまで関わってきた人達は、ナチュラルに馬と意思疎通を図ろうっていう気持ち、努力を欠かすことがない。

 みんながみんな、馬との信頼関係を何よりも大切にしているというか。そんな関わり方なのだ。

 当事者(当事馬?)ではあるが馬に関連する仕事はおろか、動物と触れ合う機会すらほとんどなかった自分は当事者にならければこんなことなど考えなかったであろう。よしんば考えていたとしても、実感は湧かなかったに違いない。

 

 なんて考えていると、エドモンさんが自分の手綱と鬣を左手で掴んだ。

 

「『……よっと』」

 

『……おぉ』

 

 思わず感嘆の声。

 安定感が凄い。

 この育成牧場で乗せた人も安定感はあるにはあったが、エドモンさんはなんというか格が違った。

 

 天才と言われるだけあって、乗せていても全然不安にならない。

 

 指示に従うまま、ゆっくりと歩き出す。

 右に左にグルグル。日本に来てからはあまり旋回していないが、身体はフランスでのそれに慣れていたのか目が回るなんてことはない。

 少し速く、走る指示を出されたと思えば、今度は急ブレーキ。これも何回か。

 ゲートの方も簡単に三回程こなした時、ふと、エドモンさんが零した。

 

「『……凄いな』」

 

 ? 何か琴線に触れることがあっただろうか。

 自分は教えられた指示通りに動いたのだが。

 

「『ちょっと走ろうか』」

 

『やっと走るのか』

 

「『……っ』」

 

 エドモンさんにそう言われて、大人しくゲートに入る。

 ゲートが開くのと、合図を待つ。この瞬間は何度経験しても緊張感と高揚感が凄い。

 

 ガチャン、とゲートが開くと、エドモンさんの合図を受けて飛び出した。

 

「『ぉおっ、と。ちょっと抑えて』」

 

 手綱で減速の指示を受けたので、少しだけスピードを抑える。

 一気に減速し過ぎないように自分で調整しながら、エドモンさんの次の指示を待つと、今度は加速のサイン。

 

 段々とスピードを上げていく指示からするに、どこまで出来るのか見たいのだろうか。

 

 よし。

 期待に応えるべく、ゆっくりと速度を上げていく。

 

「『もう少し抑えて』」

 

『え。……分かった』

 

「『……やっぱり』」

 

 やっぱりとはどういうことなのだろうか。

 首元を摩られながらそう言われたので少し減速しただけなのだが。

 

 それにしても、なんだろう。

 凄く馴染むのだが、指示がさっきから中途半端で不完全燃焼感が凄い。

 

 少し不満を感じながら、流すような速度でコースを走っていると、唐突にエドモンさんが首元を摩りながら囁いた。

 

「『全速力』」

 

『……! 待ってました……ッ!』

 

 やっと全速力で走れる。

 喜びを全て出し切るように、ビュッと地面を蹴って風を切る。

 自分は残りの直線を、これまでに出したことがないような速度で駆け抜けるのであった。

 

 

 □

 

 

「『……オーナー。アルセーヌはいつから騎乗馴致を?』」

 

 試乗を終えてすぐ、エドモンはアルセーヌを労うと一直線に白恵の下へと向かった。

 

 鬼気迫る様子のエドモンに、白恵は整った相貌に困惑の色をのせながら口を開く。

 

「『え、えっと、九月に入ってからすぐですね』」

 

「『……一ヶ月と少しでアレか。正真正銘化け物だな』」

 

「『そんなこと言わないでください。アルセーヌさんはとても頭が良いんです』」

 

「『……そんなことは、分かってる……ッ!!』」

 

「『っ!?』」

 

 声を荒らげたことは、それも女性に対してのそれは、自分でも驚くことであった。普段なら。

 だが、エドモンはそんなことよりもアルセーヌという馬の異常さにばかり頭が回っていた。

 

 しかし、絶句する白恵を見て頭が冷えたエドモンは罪悪感を抱きながら謝罪の言葉を零す。

 

「『……悪かった。少し、気が昂っていたみたいだ』」

 

「『い、いえ。どうかされたのですか?』」

 

「『なんでもない』」

 

 お詫びと言ってはなんだが、ここでひとつ、エドモンは予言しようと思った。

 

 それは、絶対に外れることは無いと胸を張って言えた。

 

「『……彼は、とんでもない名馬だ。きっと、GⅠを獲ることだって容易い』」

 

「『……そうですか。それは嬉しい予言ですね』」

 

「『彼を僕に任せてくれてありがとう。きっと、その期待に恥じない騎乗をしてみせるよ』」

 

「『はい、よろしくお願いします。……そろそろ時間なので、私はここでお暇しますね。また何かあれば連絡してください』」

 

 去っていく白恵の後ろ姿を見ながらも、考えるのはアルセーヌのことばかり。

 

 四年間乗ってきて、あんな馬に乗ったことは一度もない。

 あれは、誰がなんと言おうと唯の馬ではない。馬の皮を被った悪魔、はたまた怪物だ。

 

 頭の良い馬は居る。時々人間と接しているような気になるような馬もいるとか。

 あのシンボリルドルフは騎手以上に競馬を理解していたとも聞く。

 

 だが、アルセーヌはそんなレベルではない。

 

 何せ、アルセーヌという馬は人の言葉を理解して、鞭すら振るわせることなく指示を遂行してみせたのだ。

 

 最後の直線、ただ全速力と一言語り掛けた(・・・・・)だけ。

 

 それだけで、あの馬はこちらの意図を理解したとばかりに鳴いて、文字通り全速力で駆け出した。

 そんな馬、馬という生物が誕生してから歴史上唯一ではないだろうか。

 強い、そういう他無い。

 

 この馬となら、どこまでだって行ける。

 エドモンは確信した。

 自分が欲して止まなかったGⅠ勝利という勲章すらも、容易く掴み取るだろう。そんな風に思えて仕方なかった。

 そして、きっとそれは間違っていないだろう。

 

 

「『……とんでもない名馬を任されたものだね』」

 

 

 その栄誉を重荷に思うなんてとんでもない。

 これは、自分に任された、エドモン・ルーセルという男の騎手生活最大の使命だ。誰にも譲るつもりはない。

 この名馬を、日本一、いや、世界一にだってしてみせよう。

 

 未だ、あの高揚感は忘れられそうになかった。




 アドバイスとかあれば是非。
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 よろしくお願いします。

 アルセーヌ
 1988産
 父サガス
 父の父リュティエ
 父の母セネカ
 父の母の父シャパラル
 母クラスアリュー(架空馬)
 母の父トロイ
 母の母エクラ(架空馬)
 母の母の父リボー

 主な勝ち鞍
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