対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
Episode85 『熱中症対策』
うわあああああああああああん!!!!!!!
鹿之助くん!!! 鹿之助くん!!! 鹿之助くぅぅうん!!! なんとかあの監禁病棟から退院できたよぉおおお!!!
そんな奇声を上げながら抱き着きたいのを我慢する、ある日の登校日の出来事。
かれこれ体感として半年ぐらい彼と出会っていないようなそんな気がしなくもないが……。
実質な話。鹿之助くんと出会ってから、私達はまだ2カ月ぐらいの関係であり、私が彼と実際に顔を合わせていない時間は1日だけだ。
それでも群馬県まえさき市での出来事によって、私達の信頼関係や絆は固く強く結ばれているのかもしれないが……。私の世界の価値観では、出会って2カ月の相手に抱き着いたりなどはしない。そんな
同級生に対して
「それにしても、今日も暑いなぁ……」
「ああ……ほんとにな……」
「こんな日こそ稲毛屋のソフトクリームでも帰り道に買って帰りたいよねー……」
「かーちゃんが言ってたんだけどよ。今日も日中30℃を越えるらしいぜ?」
「じゃけん、今日も適宜水分補給をしましょうね」
群青色の空、陽炎で歪む視界、けたたましいセミのバックミュージックを背にいつもの3人と共に学校へと向かう。
別にマウントを取るわけではないが、群馬県五車町の夏は都心部などと比較してしまえば非常に涼しく過ごしやすい夏ではあった。
舗装されていない土の地面はアスファルトのように太陽光を反射することはないし、ガンガンにつけられたエアコンの冷房によって室外機が恐ろしい熱風を放つ訳ではなく、ビルが密集して風通しが悪いわけでもない。
いわゆるヒートアイランド現象は発生していない。ゆえに暑いと言っても、現在の気温が28℃前後で……。2018年の41℃越え、2022年6月25日時点の伊勢崎市40.1℃、前橋市の39.5℃越えに比べれば……湿気がある分、すこし蒸し暑いぐらいだった。
あれ? でも気象庁では、確かそんな40℃越えが起きているのは群馬県や栃木県、埼玉県のような内陸部だったような……?
ま、まぁ、半世紀も刻が経てば、地球温暖化は多少なりとも改善されたのだろう。
「日葵はさー、俺と蛇子と同じぐらいに髪の毛長いのに、こんな猛暑でもさー。ケロッとしているよな……」
「え? あ。そうですか?」
「そうだよー。何かおかしいよ? 汗1つかいてないもん」
鹿之助くんはクリアファイルを取り出してパタパタと仰ぎ、蛇子ちゃんは襟元を少し緩ませて手でひらひらと微風を自分時自身に対して送っていた。
しかし、私が涼しげな顔で投稿していることに気が付いたのか、急接近してくる。その二人の目は虚ろで、さながらゾンビの様だ。
「いやぁー……あはは……。そう、ですかね?」
「「そうだよ!」」
「日葵ちゃん、ワイシャツの下に半そでのインナーを着てるでしょ!? それにタイツまで履いて! それなのに汗をかいて無いなんて、絶対おかしいよ!」
「なぁ、日葵ぃ~……。夏だっていうのに、なんで、どうして、そんなに着込んでいて汗1つかいてないんだ? 教えろよぉ……俺達、友達だろぉ~?」
「いや、あ。あ。た、大したことではないんですよ?」
「大したことないなら教えられるよなぁ~?」
「ねぇ~?」
二人は仲よさげに顔を見合わせて、にったり・にんまりと笑い合う。それからその張り付いた笑みでゆっくりと動く秒針のようにスムーズな動きで私の方へと振り向いた。
「ふ、ふうま君! たすけて! この暑い中、2人が! 2人が! ひっついて来ようとしてきます!」
「ふむ。悪いが青空さん。俺も汗1つかいていない理由が気になっている」
「ふうま君!?」
即座に暴走しつつある2人のストッパー役になりそうなふうま君へと助けを求めるが……。
結果はご覧の有様。ものの見事に見捨てられてしまった。
そんな私に2人は両手の指をワキワキと動かしながら、私の服にしがみついてくる。二人とも、私より約10㎝、20㎝身長が低いのだが、この暑い中で身を寄せ合う行為は余計な熱を籠らせる。
突然のじゃれつき行為に私は組みつかれて……ウッヒョォ!!! 鹿之助くんが! 鹿之助くんが!!! ゼロ距離に!
アア↑↑↑~~~! 理性の音ォ^~!!! 飛ぶとぶトぶトブ!!! 私の理性ががが! 理性がトんじゃうぅっ!!!
「あーっ! 日葵ちゃん! うなじに何か貼ってるー!」
「なんだって!?」
「あー! とらないで! とらないで! 後生だから、とらないで!」
ベリッ!
「うぎゃー!」
蛇子ちゃんは、陽葵ちゃん制圧時でもみせたようなフットワークで私の背後へと回り込むと、目敏く首裏に貼っていたシートを発見しひっぺり剥がした。
別に痛みはないが、その場の空気が叫ばなきゃいけないような雰囲気がゆえに叫ぶ。
「ぐふっ」
「これ……冷えピタシート?」
「……えぇ、冷えピタシートですね」
「それが夏なのに汗1つかかない理由だっていうのか?」
「アッアッアッアッ……ふぅ……。そういうことになりますね。正確には3人の見えないところ……背中で汗をかいてますよ。ただ蛇子ちゃんが見抜いたようにインナーを着用しているので、ワイシャツが透けないだけです」
「それじゃあ、そのタイツもなのか? でもタイツは暑いだけで何も変わらないだろ?」
「
「し、嗜好品……。日葵ちゃん。この時季、タイツは好きだからって履けるものじゃないよ……?」
「そうですかね……? でも蛇子ちゃん見てください! 春の時期は、40デニールの黒タイツだったけど、今は肌色の20デニール肌色タイツですよ。通気性は抜群です! ほら、こんなに伸びる! こんなに透けてる!」
そんな蛇子ちゃんの指摘に通気性をアピールする。
うん。タイツは私の装備の中で外せない装備なのよ。そりゃね。真夏に履くものじゃないってことは充分に分かっているし、履かない方が涼しいことも分かってるけどさ……。
何かが起こるかもしれないじゃん? でもタイツを通学用鞄の中に入れておくと、いろいろ絡まるじゃん? 新品を入れておくのは勿体ないし、攫われたりした場合には持ち物を取られる可能性もあるじゃん?
その他にも、その色々な事に使えないのよ。いろいろなことに。真夏のJKの脱ぎ立てパンツ(未洗濯)とムレムレタイツは色々な交渉材料にもなるんだぞ。蛇子ちゃん……。ここら辺のお話は対魔忍世界の住人だしわかる?
「抜群って言っても、履いているより履いてない方が涼しいような気がするのだけど……。ひ、日葵ちゃんはお洒落さんなんだね!」
そっかー。でも分かってもらえなかったみたい。最大のフォローはしてくれているけど、再び正面に回り込んだ蛇子ちゃんの顔は引きつっている。
OK. 話題を変えようか。ところで、その右手に持った冷えピタをそろそろ返してくれないかな? その冷えピタ24時間使える奴なんだ。まだ開封してから1時間も経ってないんだ。
「ところで日葵は、首に冷えピタなんか貼っていたんだ? 俺にはそれがどうして、こんなに暑い日に汗をかかなくて済むことに繋がるのか、イマイチよく分からないんだが……」
「あぁ!それは——」
「あぁ、それはだな……」
と。ここで私に近寄り服を握りしめていた鹿之助くんが、服から手を離して首をひねっている。
私としても『よくぞ聞いてくれた!』と、ここぞとばかりに解説に入ろうとしたとき、先にふうま君が口を開く。
「首には太い血管が流れているんだ。そこを冷やすことで熱中症予防や身体を効率的に冷やすことができる。だから青空さんは首に冷えピタを当てていた。そういう事だろう?」
「Yes! おっしゃる通りです。この方法は熱中症対策にも有用ですので結構重宝しているんですよ。あとは適当な水分補給と、塩飴での塩分の摂取。これが夏場の健康維持の秘訣です」
「あぁ、熱中症は状況によっては深刻的な健康被害をもたらすからな」
「お。ふうま君、もしかして分かるクチですか? もしや熱中症の原理とか、ご存じだったり? 喩え話の『ゆで卵構造』とか」
「青空さん、タンパク質が熱変性をおこす温度は約60℃以上だから、その喩えは中々に古い情報じゃないか……? 最新の熱中症の原因は、発汗による脱水症状やミネラルの不足。脳への血液の循環量が減少などによって引き起こされて——」
ふうま君はあっけらかんと言った様子で、首に冷えピタシートを張っていた理由を2人へと説明してくれる。
私もここで普段こそ緊急事態にも関わらず、人の指示も聞けないぼんやりとしていて役に立たない友人だと思っていたが少しだけ認識を改める。
ふうま君だが、そんな昼行燈な素振りや見かけによらず博識なようだ。
彼の新情報の解説と原理説明に『ふむふむ』と相槌を打ちながらも、『なるほど、なるほど』と言いながら、片目を瞑って後頭部を掻く。
この時、私としては本音としては、『あっぶねー!!!!』と内心叫び声をあげていた。まさか、ゆで卵理論が古い情報だったとは……私が説明するよりも先に『彼が話を先に振ってくれてよかった!』と思う。危うく自信満々に古い情報を彼等に話して、ふうま君からの情報の修正。鹿之助くんの前で赤っ恥をかくところだった。
ちなみに、私の知っている古い情報の『ゆで卵理論』というのは、『脳のたんぱく質を生卵に置き換えて、その部分が茹で卵状になってしまい “一度、茹で卵状になった卵は2度と生卵には戻せない” という不可逆的な理論上の元、脳に障害・後遺症が残る』という原理説明情報だ。
まぁ、よくよく考えてみれば私の生きていた時代から半世紀も時間が経過しているもんな。私の知り得る過去の情報が常に正しい訳がない。私の時代での変化として、上杉謙信女性説は棄却されていたし……。
「ふうまちゃんが物知りなのは知っていたけど、それを実践に生かせる日葵ちゃんも色々知っているんだね。蛇子、ちょっとびっくりかも」
「俺も……。ふうまの話していること、ちょっとよくわかんないんだけど日葵はちゃんと理解して相槌と返事をかえしている感じだし、日葵がそっちの話もできるってことに驚いてる」
私達の会話のやり取りに2人はついて来れないのか、ただただ目を丸くして私達の会話を眺めていた。
確かに彼等はまだ高校1年生だ。ここら辺の医学的・生物学的な内容は中学生時代にふわっと授業の一環として触れた程度で、よほどの物好きでもない限り、忘れてしまうような内容で、それが一般的だろう。それに気温が30℃満たないのならば、学校側からもそれほど口うるさい熱中症に関する注意喚起も行われなくても何ら不思議ではない。
それが日常生活で使用されない、自分にとって興味のある情報でなければ、人間の記憶というものは簡単に薄らいでしまう。これは仕方のないことだ。
「——と言った感じだな」
「なるほど、それが最新の情報でしたか……いやぁ、危うく知ったかぶりで赤恥をかくところでした。教えて頂きありがとうございます」
「青空さんにとって為になったようなら何よりだ」
「……あ、蛇子ちゃんはそろそろ冷えピタシートを返して?」
「うん」
「ありがとう。……あぁ^~♥」
ふうま君からの最新の情報にお礼を言って、私とふうま君を眺めている蛇子ちゃんの手から冷えピタシートと取り返し、首筋に張り付ける。
あぁ~ひんやりとしていて、たまらねぇぜ。
再び冷却効果で涼む私にふうま君は、満足そうに笑いかけてきた。だから私も同じように笑い返す。
「ところで……」
「はい?」
「青空さんは、どこでそのゆで卵理論を知ったんだ?」
「え?」
話はそこで一旦終わり、学校へ向かうと思われたのだが……。
意外なことに、ここでふうま君が話を繋げてきた。しかし、彼の問いかけ方に少し違和感を感じる。まるで尋問されているかのような圧を感じ取ったからだ。
涼み和んだ顔から、彼の表情を見つめ直す。……彼はまっすぐとこちらを見定めていた。しっかりと視線を合わせ、私から一瞬も視線をそらさない。〈心理学〉上では、彼はとても私に対して真面目に問いかけてきていることが分かる。明らかに友達間で交わされる駄弁のような軽いものではなく、非常に重要なやり取りでもするかのような目で——
「……ソース……いえ、この情報を知り得た出どころ、源泉ですかね? このゆで卵理論は——Twinter……ネットで見つけた情報ですね。でも、またどうして?」
「…………いいや、大したことじゃないんだ。『ゆで卵理論』をどこで知ったのか気になっただけであって。……気分を害してしまったようであればすまん」
「いえいえいえー? 別に気分なんか害してないですよー? いま私、怖い顔をしてたかしら?」
私が問いかけに応えると、彼はすっと目を逸らした。まるで何かまずいことを聞いてしまったかのように気まずそうな顔をする。
私も私で彼の尋問のような問いかけにムッとして答えてしまったのかと、この前の洋館事件でなお先輩に休憩を持ち掛けられた時のように両手で自分の頬を挟み込んで、ほっぺたをぐりぐり回しながら笑顔を作る。
「ねえ? 鹿之助くん。いま、怖い顔してた? してた?」
「え? 別にしてなかったとは思うけど……でも、ふうまも日葵も、すごく真剣そうな顔はしてたな」
試しに私達の会話を傍から聞いていた鹿之助くんに印象を尋ねる。鹿之助くんは私達の会話のやり取りは真剣だったと捉えたらしい。
なるほど……真剣な顔、ね。私としても別に彼に対して怒ってはいない。ただ、尋ね方に違和感を感じたのと、この質問には解答しなければならない・はぐらかしてもまた別の機会で同じようなことを聞かれるという圧を感じ取ったために答えただけに過ぎない。
だが、それがふうま君にとっては、私が気分を害したかのような顔に見えたわけだ。この情報から手繰り寄せられる彼の思考は、彼は私に対して「失礼な質問をした」と思っているのだろう。しかし、そこまで客観的に判断すると『ゆで卵理論』のソースについて尋ねることは失礼なことだとは思えない……。
つまり、ここから導き出される答えは、彼の『ゆで卵理論』は表面上の問いかけであって、核心は別のところにあるのだと思われる。
つまり——
~あとがき~
しょっぱなから不和不和しています。
不和不和タイム♪ 不和不和タイム♪
そしてしばらくの間、我々(閲覧者兄貴姉貴達&作者)現実世界と本小説の時期がリンクする貴重な時期に突入します。
~おさらい~
ふうま君の怪しい動きについておさらい内容を透明文字として置いておきます。
考察するもよし、簡易的に思い出したいなら透明文字を確認をするのもよしでどうぞ!
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
忘れてしまった閲覧者兄貴姉貴達に補足すると、対魔忍RPGの主人公こと『ふうま小太郎くん』はアサギ校長や、紫先生、蓮魔先生側の対魔忍です。
つまり、オリ主の動向を身近な存在。友達という身近な視点で探っているわけです。
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