対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode91 『日ノ出陽葵は天然』

「また闇と光がいちゃついてるぜ……」

「凸凹感スゲーよな。胸も、性格も、肌の色も……」

「俺、日ノ出にあんなこと囁かれたら墜ちちまうよ……」

「オレ、日ノ出に日サロ役を頼んで接点を持とうと思ったんだけど、うまくいかなかったんだよなぁ。それをあの絶壁はどうやって……」

「まさか女性にしか興味がない……?」

「だったら普段のあの男女関係なく近い距離感で接してくれる態度はなんなんだよ、アレは絶対に男……いや、に気がある証拠だって!」

「なに馬鹿なこといってんだよ。日ノ出は俺にこそ興味があるんだぜ? この前なんか合同授業で喉が渇いたって言ったら、飲みかけのペットボトルを『良かったら』って渡してくれたんだぞ?」

「はぁ!? そんなわけないだろ。この前の怖い話をしてくれた時、日ノ出は俺に抱き着いて噛みつく真似をしてくれたぞ! あれは俺のことを所有物だって示してくれたんだ!」

「そのぐらいなら俺にだってやってくれたもんね! こっちは財布を落とした時、即座に拾い上げて『落とし物だよ!今度は落としちゃダメだからね!』って言いながら『ぎゅっ』と手を包むように渡してくれたんだからな!」

「あぁ!? その程度で気があると思うなよ! 俺だってそのぐらいやってくれたぞ! まっ、俺はお前等と違って日ノ出が高台の荷物を取るとき『退いて貰うの悪いから』って、あの豊満なおっぱいをぎゅぅう~~~って、押し当てて貰ったんだからな! 日ノ出は俺に気があるんだ!」

「「「「「「なんだと!?」」」」」」

「……?」

 

 いつの間にかに外野がクソうるさくなっている。

 最初はヒソヒソ話で済ませていたにも関わらず、だんだんと声が大きくなってやがるぞ。自分自身の発言時の声の大きさに気づいていないのか? 盛りのついた男子生徒(オスザル)(ども)

 そして私が6月に危惧していた通りに、陽葵ちゃんの人気はうなぎ登りのようだ。罪な女だな……陽葵ちゃん。

 ちなみにそんな男子生徒たちの会話が聞こえた当の本人は、首を傾げ頭にクエスチョンマークを浮かべながら、右頬を人さし指でポリポリと掻いている。まるで事態をよくわかっていない……まるで他人事みたいな顔をしていた。ほんと、罪な女である。

 こっちの行為に関しては、ガチの天然っぽいから怖い。

 陽葵ちゃん。こんなことを言っちゃ彼等や全世界の男に失礼だが、男は想像を絶するほどアレだぞ。『男は欲情している時、誤った判断をする確率が2倍に跳ね上がる』という論文が残されるぐらいにはアレだぞ。

 ——いつか陽葵ちゃんにも映画を見せよう。タイトルは『男と女の不都合な真実』約70年前、2009年の映画だ。キャッチコピーは『女の恋はココ(アタマ)でするが、男の恋はココ(アソコ)で恋愛する!』

 

「…………あれ? ねぇ、なんか……また?」

 

 その一部の男子生徒どもが騒いでいると、真面目に自習の課題に取り組んでいるクラスメイトから気になる一言が聞こえてくる。

 何……? と思い、鼻をひくつかせて周囲の臭いを〈目星〉と〈聞き耳〉で探ってみれば……。

 確かに臭う。西郷寺くんが掃除して、綺麗なのを確認してからセットしたはずなのに、チョークの粉のようなまだ臭いがする。

 時間が経つにつれて、悪臭は部屋全体に充満していき、熱を持った『陽葵ちゃんは誰が好きなのか』議論も中断されて、ざわざわと再び騒めき出す。

 

「…………」

 

 直したと思ったのに直ってなかった件について。

 

「ひ、ひまりちゃん! 大丈夫だよ! そんなこともあるって!」

「…………」

「そ、そうだぜ! そんなショックにならなくても、うまくいかないことぐらいあるさ! な? なっ!? 日ノ出もそういってることだし! そうだよな!? 日ノ出!?」

「う、うん! こればっかりは上原くんに完全同意! だからそんなに落ち込まないで!!!?」

 

 残念な結果に私が肩と視線を落とすと2人が手をバタバタと振りながら懸命に私のフォローに入ってくる。

 別に悪臭を根絶できないことに対して、絶望しているわけではなかったのだが……。

 いや、今はそんなことよりも、そろそろ課題に取り組むべきだ。私はこれまでの『にゅういんぐらし!』で後がないのだ。

 でも、何故臭いを根絶できなかったのか、興味を引いてとても集中できそうにない。

 どちらも熟さなきゃいけないのはつらいことだ……斯くなる上は……。

 

「陽葵ちゃん」

「うん!どうしたの?!日葵ちゃんの為なら、なんでも力になるよ!?」

「ん? 今何でもってするって言った…………いえ。今の言葉は聞かなかったことに——」

「はい! なんでもするよ! ヨツンヴァインになってワンワン鳴けるよ!?」

「……。……じゃ、私の代わりに課題をやってもらえませんか? もちろんタダでとは言いません。今度の休日、稲毛屋に行きましょう。課題を代行してくれたら、そこでアイスを奢りますよ」

「えっ!!! つまり、それって……っ! 初デートのお誘い!?」

「!?」

「「「「「「!?」」」」」」

「……鹿之助くん。日ノ出陽葵ちゃんは天然なので、言葉選びが絶妙なだけです。……今の話を真面に受け取らないように」

「おおおおおおおう。そ。そそそそそうだよな!」

「えー? 私はそんなつもりないんだけどなー……?」

「それで、陽葵ちゃんはやってくれるんですか? やらないんですか?」

「やるやる! 絶対にやる! 任せて!」

 

 女の子同士でデートに向かうなど私の価値観からしてみれば異端な発言に、鹿之助くんはうぶな反応として脳天に落雷がぶち当たったかのような顔をしていた。……あと『陽葵ちゃんは誰が好きなのか』議論をしていた男子生徒共も。

 一旦は衝撃を受けている鹿之助くんをなだめ、陽葵ちゃんの返事を急かして課題を任せる。承諾を得た後は、再び自分の机を移動させエアコンの真下に陣取り、今度は誰も使っていない教卓を移動させて、机を重ねる形で高さを調節し再びエアコンのカバーを開いた。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!」

 

 私の課題に取り組むことで絶叫をあげる陽葵ちゃんはさておき……さて……相変わらずフィルターには何も異物はついていないが、この臭いが続いているという事は、きっと内部の送風部位にまで粉が入り込んでしまっているのだろう。

 つまるところ、この悪臭を取り除くには、その深部まで綺麗に掃除しなくてはならない。

 たぶん私がこのような推理を立てずとも、他の教室でも私と同じように用務員さんである沼津さんがフィルターの掃除は一通り行ったのだろう。だけどそれで直ることがなかったということか。だから先の会話でもあったように業者が来るのに違いない。

 

「鹿之助くん、教卓の中に工具が入っているので取ってもらってもいいですか? 今週の教卓のパスワードは7458です」

「………………はぁ……」

 

 私の言葉に鹿之助くんは怪訝な顔をする。

 この前の一件によってせっかく割り出したパスワードが短時間で私が解析したという事にきっと信じられないのだろう。でも私が表情で『頼むよ』という顔を作ると、ため息をつきながらすごすごと教卓へと向かいコードを入力してくれる。

 

 ピッピッピッピッ……カシャッ

 

 んん。やっぱりな。

 パァーフェクトだ……クギヌキー……。

 今度は一発だ。

 ……ギィヒッ。クキキキキキ……。

 

「んぁっ!?一発?! 日葵なんで教卓のパスワード知ってんだ?! この前の蓮魔先生がパスワードを変えてあの一件以来、先生達もこのクラスでは手元を見せないで入力してるのに!?」

 

 ふふふっ♪ 鹿之助くんは本当にこちらの期待通りの反応を返してくれる。

 だからこそ、ちょっとばかりすごいことをやってのけて、からかってしまいたくなるのだ。

 

「簡単な話ですよ。ハンジロー……もとい、斎藤(さいとう) 半次郎(はんじろう)先生のメガネと懐中時計のおかげです」

「メガネとカイチュウ時計???」

「そう、眼鏡と懐中時計です。ハンジロー先生は鹿之助くんもご存じの通り、生真面目な性格なので眼鏡のレンズはいつもピカピカに磨かれていますし、懐中時計も埃一つありません。まるで鏡のようですよね」

「……鏡、反射か?」

「Yes!! Good. Very Very Good!! えぇ、そこから割り出しました。ね? 簡単でしょ?」

「……俺には無理だよ」

 

 鹿之助くんの回答にウィンクをしながら、サムズアップ……グッドサインを送りながら手渡される工具箱を受け取った。

 だが実際のところは違う。

 この方法で暗証番号を割り出すには、教卓のキーパッドが眼鏡や懐中時計に反射するように光っていなければならない。この教卓のキーパッドは光らないし、何よりも蛍光灯という邪魔な光が反射を邪魔し実際には何も映らない。反射させるには角度()重要だ。私がハンジローの装飾品からキーパッドの暗証番号を見抜くには、彼を見下ろすような位置取りに居なければならず、教壇は私達が今いる位置よりも1段(約20㎝)ほど高い位置にあるため、この手法で暗証番号を割り出すことはできない。

 つまり、これはあくまでも鹿之助くんを誤魔化すための表向きの解決策だ。今後、彼がハンジローの懐中時計へどんなに目を凝らしたとしてもパスコードの情報を引き出すことは叶わないだろう。

 

——では実際のところ、どうしたか。

 

 これも簡単な話。

 ここの食堂では紙パックが出る。紙パックは基本的に内用液が漏れてしまわないよう、内部にパラフィンやポリエチレンなどのPE……つまり、プラスチックフィルムでコーティングされている。これを丁寧に剥がしてキーパットの上に設置して先生がキーパッド入力後に剥がすことで、どのシートを押したのか指紋で判別することができるのだ。

 あとは授業が終わった後にプラスチックフィルムを回収。押した数字を光に透かして判別して、前回と同じように確率として【4×3×2×1=4!】の方程式を用いて……。1限につき『3回』間違えると蓮魔先生が乱入してくるから、毎回2回の施行を自分のクラスと他のクラスで重ねて……。これならば1日……いや、半日もあればパスコードを簡単に割り出すことができる。

 

ね? 簡単でしょ?

 

 本当は鹿之助くんにこの方法を自慢したい。だけど、今は我慢だ。エアコンの修理とか良い内容は仕込んでも構わないだろうが、キーパット式の鍵の開錠方法なんてそんなに使う機会はないだろう。それに、この手法は学校の授業の内容を応用したものではない。わざわざ聞かれてもいない教えられることもないやり方を公開して『私、何かやっちゃいました?』ムーブは命取りだ。

 

「それで、日葵はその工具を使って何をするんだ?」

「ああ。悪臭の原因はフィルターではなく、その送風機構にあると思われますので今から〈機械修理〉でさくっと直します」

「え、そんなにさっくり直せるものなのか!?」

「そうですね……私の見積もりでは、3限目が終わるまでには修理できるかと」

 

 鹿之助くんは驚いていたが、このぐらいは「技巧の授業や自宅で触れたことがあるだろう」と思い、これは『私、何かやっちゃいました?』ムーブにはならない筈だと想定して、深い言及はせずに修理へ入る。

 そして、それから40分が経過し、先ほどの冒頭(Episode89)に戻るのであった。

 何がともあれ私の〈機械修理〉技能で、エアコンは完全に直せた。

 陽葵ちゃんと蓮魔先生の乱入こそあったが、蓮魔先生に首根っこを掴まれる形での連行前にクラスメイト達に簡易指示を出す。

 

 『当面のあいだ』特にエアコンを使用する夏場と冬場の間は後方に設置してある黒板には使用禁止の紙切れを貼り付けてもらうのだった。

 

 


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