対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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~まえがき~
 本Episodeでは4章の思い出を語ります。




Episode94 『五車学園プールとプールサイドでの思い出語り』

 やぁ。

 私は『青空 日葵』。

 元は『釘貫 神葬』というクトゥルフ神話TRPGから異世界転生してきた元探索者の現一般人。

 今は五車学園の授業の一環でプールへやってきている。

 

 輝く太陽。

 火傷しそうなプールサイドの床。

 鼻をつく塩素の香り。

 楽しそうにはしゃぐ、スクール水着姿の学生達。

 地獄の消毒用冷水とシャワー。

 

「…………」

 

 私は仏頂面のまま、五車学園の制服姿でその光景を見学席で眺める。

 それもプールサイドの日陰で、クラスメイト達が楽しそうにしているのをだ。

 誰も彼もが更衣室で楽しそうな顔をして、スクール水着ではしゃいで……。

 

「…………」

 

 梅干しでも食べたかのように唇をすぼめる。

 本当は私だってみんなと混じって泳ぎたかった。

 鹿之助くんの水着を眺めながら、泳ぎたかった。

 でもそれは叶わなかった。

 それもその筈。以前、魔界医療を専攻している医者の桐生先生の元で血液を700mlも抜かれたことが原因だった。あの一件以来、貧血によってぶっ倒れる事件が多発。『〈頭突き〉ドラミングガール』なんて不名誉なあだ名は生成されるし……。気絶したところを野獣と化した陽葵ちゃんにはお持ち帰りされそうになるし……。

 そんな貧血でぶっ倒れるような生徒がプールに入ってみんなと共に泳げるわけもなく……。

 ものの見事に教師からのSTOPで『見学』というオチだ。

 

(許さねえ……。ぜってぇ、桐生の野郎を私は許さねぇ……)

 

 内心はそんなことを思いながら、プールサイドに設けられた見学席で仏頂面のまま冷えた炭酸飲料を片手に出入り口をガン見するのだった。

 確かに私は泳げないかもしれない。

 しかし、泳げなくとも私は前から気になっていた鹿之助くんの水着が、スクール水着(男児用)スクール水着(女児用)どちらを着用しているかをじっとりと舐めるように眺めることができる。

 それに対魔忍世界の現代では、私の過ごした現代とは異なり頭にプールキャップを被らずとも入水することができるようになっていた。いわばインヌタ栄えのナイトプール。さらに嬉しいこととして、女子の水着は鼠径部とうなじが協調された……前世では旧スクール水着型と呼ばれる水着。男子の水着は黒光りしたビキニ水着という奴だった。おかげさまで前世の時代よりも、普段よりも生徒達は色っぽく見えるのだ。

 もしそんな状態で鹿之助くんを目視すれば私がどうなるか。…………フッ。皆までは言うまい。間違いなく、彼のショットガンは、私にイクストリーム成功。ダメージ2倍の火力か最大のダメージと最大のダメージボーナス、尊さによって〈爆破〉する。間違いなくノックアウトだ。

 これは盗撮不可避*1

 このために通販プライムで眼鏡型のカメラ、スパイダーカメラを大金をはたいて購入したのだ。絶対に鹿之助くんの水着姿をこの目と映像に収めるために、大金をはたいたのだ。

 興奮しすぎで倒れてしまわないように対策もしてきた。万が一、彼の纏う水着が私にとって刺激が強すぎるものでも、鼻血を吹き出して昏倒しないようにイメージと期待を最大に膨らませて彼の入場を今か今かと待つ。

 

「…………」

「……あれ? 日葵? 日葵も見学なのか?」

「」

「あれ? おーい?」

 

 でも現実はそこまでうまく行かないようだ。

 やってきたのはスクール水着の鹿之助くんではなく……普通の五車学園の男子制服を纏った鹿之助くんだった。

 あっ……! かわいい! スクール水着じゃないけど、真夏の昼間の太陽に照らされた鹿之助くんもかわいい! 髪の毛が輝いて見える……っ!

 

「……えぇ、まぁ。そうです。『見学』ですよ。先生から『貧血で何回もぶっ倒れる奴をプールに入れるわけには行かない』と宣告されてしまって……。プールの授業……楽しみにしていたんですけどね……。……色々と残念です

「そっか。でも、そんなに落ち込むなよな! 実は俺も見学だからさ、授業が終わるまでみんなが泳いでいるところでも見て涼んでようぜ」

「……そうですね」

「てか、なんだよその眼鏡。日葵に似合ってないぞ? 第一、日葵は目が悪くないだろ」

「あぁ、これは一種のサングラスですよ。紫外線から目を守ってくれるんです」

「へぇー……。世の中には、いろんなものがあるんだなぁ」

「えぇ、世の中にはいろんなものがあるのですよ(そして、これは君を納めるカメラでもあるの。ゴメンネ)」

 

 感心する鹿之助くんに対して、内心では謝りつつ鹿之助くんの方に首を傾ける。鹿之助くんは私から1つ分に席を空けた場所に座っていた。

 やがてクラスメイト達が地獄の半身浴消毒液を浸かり、プールサイドへとぞろぞろと集まってくる。プールサイドは滑り止めの為に床がザラザラとした面になっているのだが、彼等はあの半身浴消毒液に浸かってからというものの……足の裏が痒いのかひっきりなしに、足裏を地面にこすりつけていた。

 アレ、無性に痒くなるよね。分かる。いつの時代もそこは変わらないのね。ノスタルジーだわ。

 

「鹿之助くん」

「ぅん?」

「私は貧血での見学ですが、鹿之助くんはどうして見学なのですか?」

 

 ここでふと、彼がプールの授業を見学している理由について尋ねてみる。

 彼は私の見たところアトピー性皮膚炎では無さそうだ。今日も一緒に登校した様子からも何処か体調がすぐれないと言った様子は微塵にも感じられなかった。

 

「あー……えっとぉ……それはぁー……」

「?」

 

 問いかけに鹿之助くんは非常に歯切れの悪そうなモニョモニョと口ごもる反応を示す。

 私としてはどんな理由で彼がプールの授業を休んだのか、好奇心の赴くまま世間話でもするような気持ちでの質問だったのに対して、なかなか答えてくれない彼に対して私も眼鏡カメラを操作して感覚的なズームで、そのモニョる彼のかわいい顔を〈写真術〉で捉える。

 鹿之助くんの目は右往左往し、顔の向きがちょっと天井を見上げ、両手がわたわたと忙しなく動いていた。

 そんな彼の様子はまるで、おサボりとはまた少し違う他人には言い出しづらいような事情が挟んでいるように見える。

 そんな姿もかわいいよ。鹿之助くん。

 加えて、私がそんな様子の彼を観察していることに気が付いたのか、彼はその動きをより一層強めた。

 

「その、あの……えっとだな——」

「あっ。わかった」

「えっ!?」

「……さては鹿之助くん。泳げないんでしょ?」

「え? あ……っ」

「恥ずかしがらなくたって大丈夫ですよ。誰にでも得意不得意はありますし。——でも……そっかそっか~。カナヅチだったかぁ……。そりゃ、プールの授業は見学したいよね。わかる」

「あっ、そう……! そうなんだ! お、おれ、実は泳ぐの苦手で! いや、正確には苦手じゃないし、一応は泳げるんだけど! ほ、ほら、学校のプールって深いだろ?。俺の身長だと足が届かないこともあって……! 水遊び自体は嫌いじゃないんだけど……わかるだろ?」

 

 うんうん。と頷きこちら予測を展開すると彼はその慌てたかのような動きをピタリと止め、私の発言に対してぎこちなく頷いて非常に慌てた様子で事情を話してくれた。

 鹿之助くんの身体的特徴を鑑みてから、理由を考えた場合もっともらしい理由に思えた。彼の言う通り高校のプールは小中学校と比べれば、明らかに深い。

 実際に計測したことがないため五車学園がどうかは分かりかねるが、高校の授業で用いられるプールの水深は1.2メートルから1.7メートル。鹿之助くんの場合、浅いところから入っても首や顎が浸かるまでずっぽり行ってしまう。

 

「そ、そうだ! 俺のことなんかよりも日葵は? 日葵はどうなんだ? 泳げるのか?」

「私ですか? 私は……流れのないプールの中のような場所であれば、人並み程度には泳げますよ」

「おお!」

 

 私の答えに、鹿之助くんは尊敬するかのような目でこちらを見てくる。そんな尊敬の眼差しを向けられると素直に嬉しい。これはちゃんとカメラに納めておかねばなるまいて。

 しかし、この泳げることに関して1点補足しておきたいこともある。私が泳げるのは『新クトゥルフ神話TRPG66頁の“水泳”の項目、『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG80頁の“水泳”の項目が存在するからだ、と今では認識している。

 これ等には私が例え、如何なる服装……たとえば重厚な軍用ボディアーマーを着用したとしても危機的状況でなければ問題なく泳ぐことができるというものだ。

 こっちの世界に来てから泳ぐ機会はなかったため、今もできるのかどうか不安ではあるが少なくとも前世であるクトゥルフ神話TRPG世界線では、平常時に溺れることなく泳げてはいたので問題ないはずだ。

 そもそも青空 日葵が中学生時代はテロリストの一件で、約1年間は入院暮らしだったし、五車町に来たあともこの五車町には、学校ぐらいにしかプールが無いことも相まって調べることができないでいた。

 

「できることなら、安全に泳げる場所でまったりと泳ぎに行きたいところですが……群馬県は内陸部ですしねぇ……泳ぎに行くには県外に行く必要があるんですよね……」

「まえさき市に行けば、市民プールとかあるかもしれないけど……アイツがいるかもしれないしな」

「…………アイツ?」

「ほら高位魔族のアイツだよ」

「あぁ、えっちなお店で働いている蛇子ちゃんのことですか?」

「えっちなお店で働いている蛇子ちゃんって……おい。それ、蛇子に聞かれたら絶対に勘違いして怒り出すから、その渾名は止めた方がいいと思うぞ。てか、えっちなお店で働いている蛇子ちゃんってなんだ? 日葵、まさか……あの高位魔族にそんな渾名を付けて呼んでいるのか!? そもそも、どういう経緯でえっちなお店で働いている蛇子ちゃんって渾名になったんだ!? 確かに怒った時の蛇子にそっくりだったって言ったけど! まさか、その流れでつけたのか!?」

 

 私の言葉に鹿之助くんは身を乗り出して、私の呼称について静止をいれてくる。

 そんな彼の顔は、目を見開いて驚愕しているようだった。これは誤解を解かねばなるまい。

 

「半分正解ですが、半分は不正解です。実は私と鹿之助くんがフードコートで別れたあと、えっちなお店で働いている蛇子ちゃんがわざわざ出向いて私に会いに来たんです。そこで、彼女がスネークレディと名乗ったので……愛称として『蛇子ちゃん』って呼び始めたのがきっかけですね」

「初対面の高位魔族を!? 愛称で?!」

「はい。彼女、私とお友達になりたがっていたので……」

「おともだちぃ!?」

 

 彼は先ほどまでの自信のない素振りは何処へやら……私の言葉に対して声を大きくしながら距離を詰めてくる。私はそれを逃げることもなく、ここぞとばかりの急接近のチャンスとして彼を迎え入れ、隣同士の席で座る。

 ……? おかしいな。彼の隣に座った時、なんだか冬場に下敷きで髪の毛をコスった時のような感覚を感じる。夏場だというのに……気のせいだろうか? 今、私が掛けているスパイダーカメラは静電気に弱いところがある。静電気が弾けて壊れでもしないと良いのだが……。

 

「……なにかまずいことでも?」

「いやいやいや! 日葵、まずいって! その話の最初から最後まで全部まずいって! 高位魔族とお友達——絶対にそれ何か裏があるぞ! 悪いことは言わないから、そのスネーク、レディだっけ?! 早めの絶交を告げた方が良いって!」

「いやぁ……そうしたいのは山々なのですが……。気に入られちゃったみたいで、ぜんっぜん……逃がしてくれないんですよねぇ……」

「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 鹿之助くんは片手を顔につけて天井を見上げる。鹿之助くんを困らせるような意図は私にはないのだが、困っている彼も非常にかわいいので、このまま淡々とした会話のままの態度を続けることにした。

 でも、鹿之助くんに言われずともまずいのは理解している。

 鹿之助くんには当時の状況を詳細にいう事はできないが、えっちなお店で働いている蛇子ちゃんとは最初の交渉が決裂した時に散々殴り合ったのだ。

 流石、高位魔族。あの時は手も足も出なかった。〈頭突き〉は刺さったが。

 私が逃げ切った後も、ぴえんヶ丘どすこい之助な敗北が余程悔しかったのか、こちらの入院先を突き止めて脅迫電話まで送りつけてくる始末。どう考えても真面な奴じゃないし、可能であれば全力で離れることこそが推奨されるような奴ぐらい分別はついている。

 

「でもね、鹿之助くん。この話には面白い話もあるんですよ?」

嘘だ。この話の流れは、絶対に面白い話じゃないぞ」

「まぁまぁ、そこは聞いてみてから判断してくださいよ。……えっちなお店で働いている蛇子ちゃんなんですけど、実は彼女……すごく泣き虫なんです。気の強い女はアナルが弱い理論ですね

「??? 何言ってんだ???」

「鹿之助くんがあのカルティ……ケモミミローブの集団に捕まったとき、私も鹿之助くんと合流するために彼女と別れようとしたんですけど……。蛇子ちゃんったら『日葵(わたし)と離れたくない』って騒いでて……そこで頭を使って(・・・・・)お願いしたらギャン泣きしながらも見送ってくれたんですよー。いやぁ、鹿之助くんにも見せたかったなぁ。高位魔族な蛇子ちゃんが口元を抑えながらギャン泣きしている光景」

「ねぇ、日葵。俺がふうま達を探したりアイツ等に捕まった時、マジで何してたの??? 話を聞けば聞くほどあの時の日葵の行動(スケジュール)上忍対魔忍(特殊部隊)のソレなんだけど……」

「今説明した通りですよ? きっと火事場の馬鹿力ってやつですねぇ……。あれは絶対鹿之助くんが居なかったことで発動した(人としてのリミッターが外れちゃった)のでしょうねぇ」

はぁ……俺の中での一般人の定義が壊れそうなんだけど」

「ん? 何か言いました?」

「……。いいや。ところで、今の話……どこがおもしろい話なんだよ」

「え? だって考えてもみてくださいよ。鹿之助くんが店先で怯えていたあの高位魔族が『私と離れるのが寂しくて』ギャン泣きしていたんですよ? 構図的にギャップ萌えからの可愛いを通り越して面白い光景じゃないです???」

「…………俺さ。いま少し考えてみても、あの高位魔族のギャン泣きしている理由が“日葵と一時的にお別れするから”なんて単純な理由だとは到底思えないんだけど。絶対に、日葵()何かしたんだろ? 高位魔族を泣かせるようなことをしたんだろ??? てか、高位魔族を泣かせるって何??? 俺には絶対に無理なシチュエーションなんだけど?」

「やだなー鹿之助くん。私を何だと思っているんですか。私は何処にでもいる一般的な女子校生(JK)青空(あおぞら) 日葵(ひまり)ちゃんですよ? えっちなお店で働いている蛇子ちゃんには、ハンムラビ法典に誓って変なことはしてないです。」

「やっぱ何かしたんだな? 俺にはハンムラビ法典が何か分からないけど、ハンムラビ法典に誓ってってことは、その誓約か何かには誓える程度には何かやったんだな!?」

「はっはっはっはっ」

 

 鹿之助くんの総ツッコミ交じりの話題に食いつく様子を横目で確認しながら、片目を瞑って後頭部を掻いて豪快に笑ってごまかす。

 

「『はっはっはっはっ』じゃないぞ!? 笑ってごまかすなよ?!」

「でも、笑えたでしょ? 今の面白い話」

「その話を聞いていて俺はずっとハラハラしっぱなしなんだが!?」

「ふふふっ♪ 楽しんで聞いて貰えたなら何よりです。あ、今の話。ふうま君とまえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんには内緒ですよ」

「まえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃん!?」

「そっちは、我らが友人の相州 蛇子ちゃんのほうです。別にメヌケのような蔑称じゃないですよ。ほら、私には現状2人もお友達の蛇子ちゃんがいるので差別化を図るための渾名です」

「……ひまり。学校ではえっちなお店で働いている蛇子ちゃんも、まえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんも、どっちも蛇子の前で口にしない方がいいぞ。間違いなく。間 違 い な く。蛇子から問答無用で容赦なく墨を吹きかけられるからな? いくら日葵が一般的なJKでも、アイツは絶対に容赦しないと思うからな?」

「当然ですよ。この愛称は2人の蛇子ちゃんが同時に出てきた時に差別化を図る目的以外に使用しません」

「…………。もう、日葵が本当に一般人なのか、疑わしくなってきたぜ……」

「うふふ。私は何処にでもいる普遍的な女子校生ですよー♪」

 

 クラスメイト達が水の中で、きゃっきゃと水遊びをしている中。

 正面を向いて半分あきれたかのような溜息をつく、鹿之助くんの頭と半身にそっと自分の半身を預けるのだった。

 

 バチッ

 

 夏にも関わらず静電気が弾けたが……メガネは無事なことを祈りつつ……——

 

 

*1
※2020s現法で盗聴はグレーですが、盗撮は犯罪です。絶対にやめましょう




~青空日葵の家~
釘貫 神葬「さてさて~♪ ドアップ鹿之助くんをダビングしちゃうぞ~☆」

 プスッ……ボンッ!

釘貫 神葬「えっ……嘘……。えぇぇえぇえええ!? 買ったばかりなのに!? どおして壊れてるのぉぉおおおおおぉぉおおおおお!? やっぱ静電気!? 静電気のせいなの!? 3万円んんんんんんんッ!!!!!」

 盗撮は止めようね!

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