対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode95 『縁の下の力持ちな おじさん』

「マジで最近、散々だな……蓮魔先生には連続で怒られるし、桐生の野郎に血液をぶち抜かれるし、気が付けばもうじき一学期が終わろうとしているし……」

 

 ある夏の昼休み、校舎裏の木陰の一角で満開に咲き乱れる花々にジョウロで水を与えながら私は涼んでいた。

 ここは鹿之助くんも陽葵ちゃんにも知られていない、私が1人で落ち着きたい時に訪れることを許されている特別な花園だ。

 それもそのはず。この花園に入るには有刺鉄線付きの高いフェンスを乗り越えるか、ボタン式キーロックの扉を突破する必要がある場所なのだ。ま、特別な花園と言っても何か特別な花壇があるわけではない。このフェンスの内側に入ったとてそこにあるのは、一定の周期で人間の死体が浮いていることに定評のある貯水槽と、特大のボイラー室。それと個人的に大好きな設備室である高電圧室ぐらいだ。

 ここは生徒のみならず、何かしら仕出かすと何処からともなく姿を現す生真面目な蓮魔先生や怖いことで定評がある紫先生の目を盗むにはもってこいな場所である。そんな場所こそむしろ五車学園の不良共のたまり場になりそうな場所ではあったものの……実際にそのような輩がこの場所に定住することはない。何故ならば——

 

「おっ、青空ちゃん。今日も来てくれたのかい?」

 

 いつもの鼻歌を歌いながら地面に生え伸びる花々に水を与えていると、不意に背後から足音もなく声が掛かる。

 背後には見上げる程の巨漢が立っていた。鶯色(うぐいすいろ)に1本の縦ラインの入った上下ジャージを着用した男性。日差し避けの為につば付きキャップを被り、オークにも勝るとも劣らない立派なでっぷりとした腹部を持つ巨体。その胴体は関取のようで横幅は『青空 日葵』の胴体の2倍は優に超えていたし、常日頃から用務員という力仕事を務めているためかその腕の太さはコマンドーの主人公、ジョン・メイトリックス大佐のように非常に筋肉質で丸太のように太い。だがしかし、そんな巨体ながらにもえっちなお店の蛇子ちゃんのように、音もなく背後に忍び寄ることへ長けている。・・・・すごい漢だ。

 そう。彼こそ、我等が五車学園の雑務を熟してくれる用務員さんこと沼津 彦四郎さんだった。

 

「あぁ。お疲れ様です。私がいない間のお花のお世話。ありがとうございました」

「いやいやいや気にするな。その子たちは俺が介入しなくても、そんなに手の掛からない子達だろう? ……そんなことよりも怪我の方は大丈夫なのか? 先生間の話では、重傷で入院は夏休みまで続くと聞いたが……」

「えぇ、問題ありませんよ。魔界医療のおかげですっかり良くなったので、ささっと退院しました。度重なる入院で出席日数も危うかったですし……」

「グフフフフフフ。五車学園の生徒にしては勤勉な心持で素晴らしいことだが、健康あっての物種だ。無理はするんじゃないぞ」

「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、それは彦四郎さんもですよ。この時期は熱中症には気をつけてくださいね。ギヒヒヒッ」

 

 彼は私を見下ろしながら、まるで悪漢が生娘を襲う直前のような細目でニヤリと笑う。その口端だけ開いて笑いかける様子や、笑顔なはずなのに鋭利な白目が彼の人相を更にあくどく魅せる。

 だが、私も同じようなものだ。テロリストから武装を奪い取った時や、まえさき市でえっちなお店で働いている蛇子ちゃんに一矢報いてやった時のような悪い顔で笑顔を返した。

 

「まさか青空ちゃんにそれを言われるとはなぁ、君に比べたらおじさんはそんなに多い入院経験はないが……」

「熱中症は脳をやられますから。私の骨折や刺し傷、皮下出血なんかとは比較にはなりませんよ」

 

 私の言葉に沼津さんは、またもや『グフフフフフフ』とその巨大な腹部を上下に揺らしながら、笑い声を押し殺すように笑いだす。

 あー……そうだ。一点修正したいこともある。オークに勝るとも劣らないでっぷりとした腹部と言ったが、実際にオークを見た上での感想としてはオークよりも腹囲は勝っているに違いない。オークは確かに体格が良く、筋肉質で不衛生なデブだ。だが、この今、目の前にいる沼津 彦四郎さんの方がずっとふとましい。具体的に、オーク達は頭部、首、胴体の存在をそれぞれ確認することができた。しかし、彼は首が存在しない。いや、実際にはあるのだろうが顎と一体化……あるいは胴体と一体化していた。太さではオークに勝ってしまうなんて・・・・やはり、すごい漢だ。

 いったい、その太っ腹なボディを生成するのにいくら資金を掛けたのか個人的に凄まじく興味がわく。

 それでも親しい間柄でも礼儀は必要であるのと同時に、そのお腹を手に入れるには何万kcalを掛けたんですか?なんて疑問はもっと親睦を深めてから聞くべきだろう。

 

「さて、こっちのシロツメクサですが、これは夏休みがあける前には花弁は散っちゃうんですよね?」

「あぁ、残念だが……シロツメクサの咲く時期は3月~8月までだからな。青空ちゃんが2学期で来る頃には散っているだろう」

「そうですよねー」

 

 幸福な花に視線を落として、彦四郎さんの言葉に後頭部を掻く。

 1学期の終わりを知らせる期末試験まで残り僅かな期間しかなかった。期末試験のシーズンに入ってしまえば、今日のように悠長な世話などできない。だが、このまま枯らしてしまうのももったいないだろう。だからこそ今日の私がすべきことは既に決まっていた。

 

「彦四郎さん。このシロツメクサ、いくつかのアクセサリーにしたいので摘んでしまってもよろしいでしょうか? 友達にいくつか送りたいのと最近、不運続きなので運気アップさせたいんですよね」

「そんなことか。もちろんだ。そもそも俺と君ぐらいしかこの花に見向きをしないし、そもそも育てたりなんかしないんだからな」

「ありがとうございます」

 

 彦四郎さんへペコリと頭を下げて、シロツメクサ、もといクローバーの絨毯に腰を下ろして近場のシロツメクサの花の根本を片っ端からへし折り摘み取り始める。

 黙々と雑草を摘む私に、傍で彦四郎さんも屈んでは私の左隣に生え伸びている花を摘み始めてくれた。流石は広大な五車学園を管轄している有能な用務員さんというべきだろう。彼は私の摘み取る速度よりも1.5倍も素早く丁寧に摘み渡してくれる。

 摘み取ったシロツメクサの花は、すべて花冠の材料として用いる。1本の茎の部分にもう一本のシロツメクサを交差させて、交差させた花をその下の茎に巻き付けていく。彼が材料を傍で集めてくれるから、私はそれをコツコツと編むことで花輪を形成させる。

 

「……なぁ、青空ちゃん。先ほど、不運続きと言っていたが何かあったのか? おじさんでよければ話に乗るが……」

「ははは、ありがとうございます。じゃ、遠慮なく——これは、ついこの間の話なのですが——」

 

 地道にコツコツと花輪を編む私へ、彼はそんな黙々と幸運の願掛け品を作っているとそっと顔を覗かせて気遣う声掛けをしてくれた。

 もちろん、私としては渇いた笑いを上げながら好意をそのまま受け止める。これから話す内容は、桐生先生とのやり取りや室井先生とのやり取りに関することだが、内容が内容だけに親や友人達に吐露できるはずもなく、その鬱憤を彼に話してストレス解消させてもらうことにした。

 

「——そいつは本当に大変そうだな。俺も最初こそ青空ちゃんのことを一部の五車の学生諸君と同じ大概な存在だと思っていたが、こう聞く限りだと青空ちゃんの場合、不幸が舞い込んできてそれに振り回されているみたいだなぁ」

「ほんっとに。ツイてなさすぎなんですよ。私。だからこそ、こうして願掛けのアクセサリーを作っているわけですが。ほい、1つ目っと」

「手慣れているなぁ。……シロツメクサの花言葉は——」

「『私を思って』と『約束』ですね」

「グフフフ、この分野では敵わないな」

 

 1つ目の花輪を腕に通して2つ目の花輪の製作へと取り掛かる。

 その様子を沼津さんは褒めながらも、空を見上げながらシロツメクサの花言葉を思い出しているようだった。しかし、彼が思い出す前に私が花言葉を告げる。

 そういえば、沼津さんとの交流のきっかけも、こんな花言葉から始まったんだっけか。

 シロツメクサの花言葉は『私を思って』と『約束』だが、彼と出会った時には校庭で四つ葉のクローバー集めをしていた時だった。クローバーの花言葉は『幸運』と『復讐』だったな。『幸運』も『復讐』も私の好きな言葉だ。

 

「様々な花言葉を知っているが、それも勉強で身に着けたのか?」

「いいえ。これは経験と習慣によるものですね」

「経験と習慣?」

「はい。私が旅行に出かけると必ず宿泊施設に花が咲いていて……その咲いている花言葉を知っていたことで救われたことが何度かあって。それ以来、花言葉を調べることが習慣付くうちに覚えていったわけです」

「なるほどなぁ。それが経験と習慣か」

 

 私が花言葉に熟達しているわけを沼津さんへ話している間に、2つ目の花輪も完成する。

 大体、前世にて私が花言葉で状況やその宿泊施設の特徴を見抜いている時は、その翌日か3日以内。近い将来に必ず私や友人達に対して不幸という名の厄災が降りかかっていたものだが……。沼津さんと交流を始めて以来、特に事件が起きていないという事は今回は何も起きずに済む日なのかもしれない。ま、あれはクトゥルフ神話世界での出来事。対魔忍世界でもそうなるのは限らないということなのかも。

 

「で? 不幸続きということは、あのキチガイ医師の桐生に無理やり採血をされたこと以外にも何かあるんだろう?」

「次は室井先生の関連のお話ですね——」

「彼か——」

 

 その後も沼津さんは『どしたん?話きこうか? ((^^))』と、人によっては卑しい下心が見えるような顔と表現できる面持ちで私の話を傾聴してくれる。

 しかし私としては彼がどんな顔をして人の話を聞いていようが、元からそういう顔であることや陰ながらに五車学園を支える縁の下の力持ちで真面目に働いていることを知っているから別に何とも思わないし、この人はそういう顔に見えてしまうところが損をしているようにいつも感じる。

 いやホントに。私も十分な教師陣の手を煩わせる悪ガキ、温厚なふりをしてたまにボロが出ている彼の言葉を借りるなら五車のクソガキ的な立ち位置に居るが……。仮に私が彼ぐらいの40代程度の年齢だとして同じように五車学園のクソガキどもを相手にしながら用務員さんが務まるのか?と尋ねられたら絶対に無理だもの。

 まず学校の用務員として勤めるための資格(スキル)として、普通自動車免許、ボイラー技士、危険物取扱者(乙四)、刈り払い機技能講習にオプションで電気工事士と電気主任技術者(三種)を求められ……。雇われた先での通常業務では花壇の整理や、登下校の見守り、校舎内のごみ拾い、施設の修繕、警備、イベント時の会場設営、時には靴箱のDIYまでを仕事として執り行わなければならない。とにかくその多彩な資格を求められる採用条件も、業務内容も低賃金な給与も含めてハードルが高すぎる。

 さらにその五車のクソガキから、暴力や心にもない言葉を投げかけられるというね……。彼曰く過去には『魂の色が汚い』だの『泥まみれの汚い男』だの言われたらしい。挙句の果てには、私と眞田先輩と黒田先輩みたいなのが学校の備品を破壊する。こんな低賃金で精神的にも肉体的にも追い詰められるふざけた職業は、医療福祉職以外に私は知らない。

 生徒指導として眞田先輩に絞られている間、私と眞田先輩と黒田先輩が破壊したガラスと窓枠を彼が片付けてくれたと知り。図書室で洋館について調べる前に謝罪しに行ったとき、彼はそんな私の蛮行を笑って許してくれた。正直、逆の立場だったらそんな言葉を投げかけられる自信はない。それを彼は黙々と仕事としてこなしているのだ。本当に心の底から偉いと思うし、誰にでもできる仕事じゃないことだとも理解している。

 更に今は、彼は私の愚痴も聴いてくれているのだ。

 

「室井先生は、退院させてくれって言っているのにずぅぅぅぅううううっとバカの一つ覚えみたいに『経過観察。経過観察。経過観察』って言うんですよ。傷も完治して、今回は措置入院でもないんですよ? 確かに緊急搬送されましたが、あくまでも任意入院なのに……あの監禁魔……」

「そっちもそっちで大変そうだな……。あー青空ちゃん? これは別に室井先生の肩を持つ訳じゃないが、俺達にも責任というものがあるからな。きっと青空ちゃんの意思を尊重したいとは思っているだろうが、万が一を考えた上での判断なのだろう、分かってやって欲しい」

「…………わかってますよ。わかってますけど……」

「ならどうすればいいか、わかるな? 出席日数のことが気になるなら、今後は怪我しないように心掛けないといけないじゃないか?」

「…………えぇ、2学期からは注意します」

 

 後半になるにつれて沼津 彦四郎さんとの会話は、やはり男性的な会話となる。

 最初こそ傾聴の姿勢で、同意と共感してくれる形で聞いてくれてはいたが、次第に問題解決を目的とした会話になっている。

 まぁ、こればっかりは仕方のないことだ。男と女とでは脳の作りが違うのだから。男は「目的を解決するための解決脳」、女は「声を出して共感し合う共感脳」なのだ。

 ゆえに私が求めている返事を返してもらうには異性の彼にではなく、同性の誰か。紫先生とか、もうじき1学期が終わりそうなのに出会ったことのないさくら先生とかに話を聞いてもらうのが最適解なのだ。

 でも彼に積もっていた悩み事を話したことで作業は進んだし、口に出すことで気分は晴れて、解決策は見つかった。おまけに今回の〈製作〉目標であった幸運の願掛け品は完成する。

 出来上がったのはシロツメクサの花冠と腕輪だった。

 それぞれが2つずつ。

 腕輪の1つは一つ葉のクローバーを飾り付けた自分用。

 もう1つが三つ葉のクローバーを飾り付けた陽葵ちゃん用。

 四つ葉のクローバー飾りの花冠は鹿之助くん用だ。

 そして、残り1つの花冠には帰り道の路上で見つけた六つ葉のクローバーを添えて——

 

「あ。そろそろ5限目かな……戻らなきゃ。彦四郎さん、お話を聞いてくださってありがとうございました」

「いやいや、青空ちゃんの力になれたら何よりだよ」

「あと、お話を聞いてくれたお礼に…………良かったらどうぞ」

 

 沼津 彦四郎さんに渡すのだった。

 彼の手に対してシロツメクサの花は小さく、ちょっとでも扱い方を間違えれば簡単に潰れてしまうようなガラス細工のような繊細なものだったが、小顔の彼が頭に乗せるには十分な大きさではある。

 

「俺に? ……ありがとう。貰っておく」

 

 彼はまた卑しいニヤリとした表情を浮かべながら、私から花冠を受け取るとつば付きキャップの上からかぶってくれる。とてもじゃないが、彼のキャラとしては花冠なんて似合わない。似合わないが、それでも花冠があるのと無いのでは、彼が放っている陰気な雰囲気を多少なりとも陽気なものへと変える魅力はあった。

 

「……大切にしてもらえると作った私としても嬉しいです」

「ああ、大切にするとも」

「じゃ、私はこれで」

「…………」

 

 腕に3つの花輪を手にして彼へうやうやしく頭を下げてから、開閉音が不思議としなかった沼津さんが入ってきたであろう出入り口に向けて歩み出す。

 

「…………青空ちゃん」

「はい? どうかされましたか?」

「俺からも青空ちゃんに伝えておきたいことがあるんだが聞いて貰ってもいいか?」

 

 何処か真剣で覚悟を決めてはなし出すかのような彼の言葉に、後ろ髪を引かれ立ち止まった。

 スカートのポケットからスマホを取り出して時間を確認するも、時刻は13時10分を指しており、5限目の授業が開始するまであと10分の猶予があった。だからもう一度、沼津さんの方へと振り返って肯定の意味を込めたあくどい笑みを見せる。

 

「……大丈夫ですよ。5分ぐらいなら時間あります。私みたいに長々と話されちゃうと困っちゃいますけど」

「じゃ、手短に伝える。斎藤 半次郎先生は知っているよな?」

「え? あ、ハンジロー? あ、いえ。知ってますよ。ハンジロー先生のペースさえ乱すことが無ければ紫先生と同じでいい先生ですよね」

「あぁ……。実は、俺。半次郎先生とは親しい間柄でな。今度、日程が合えば夏休みに彼の自宅で勉強会をするそうなんだが、良かったら青空ちゃんを誘ってきてくれないか?と言付けを受けてな」

「ハンジロー先生が?私に? へぇ?」

 

 願ってもない言葉に、少し信じられないような息が鼻から漏れ出てしまう。

 斎藤 半次郎先生といえば、五車学園の現代社会の授業でお世話になっている先生の1人だ。

 紫先生や蓮魔先生とは違って授業以外では直接的な関わりが少ない先生で、ただ学校の先生としては尤も相応しいきちんとした身なりをしている。髪の毛を七三分けで纏め、まるでサラリーマンのようなストライプスーツを着こなしており、いつも銀色の懐中時計を持ち歩いて神経質そうに時計を見ているのが特徴だった。あれは間違いなくマイペースな性格なのだろう。以前、他の生徒から授業時間外で授業の内容について質問を受けた時、不機嫌そうな顔をしてその生徒を無視していた。

 年齢的には前世の私と歳が近く、五車町の中では室井先生の次に私好みな人だ。その次に沼津さん。具体的にハンジローの容姿について魅力部分を上げると、あの私達生徒を見つめるときの冷徹な目。私の祖と似た目で、どこか親近感と私の唸る好奇心が刺激されて調査に乗り出したい気持ちを感じられずにいられない。

 ゆえにハンジロー先生の前では “いい子ちゃん” で居るように心がけている。気に入ってもらえれば何か楽しいことが舞い込んでくるようなそんな気がするし。それでも、噂やら入院の一件で毎回ボロが出てはハンジローは蔑んだ目で私を見るのだが。しかし、それもまた良い。いつか鹿之助くんにもあんな目で見つめて貰いたいものだ。

 それはさておいても、そんな私のことをハンジローが興味を持って自宅に招待を? もう、これはワクワクが止められないですね!

 

「…………」

「でも現状、即答は……できないですね。今年の夏休みの日程はカツカツなので……。予定が合えばよろしくお願いしたいところですけど……ハンジロー、先生のことですから曖昧な回答は嫌いだと思いますし『今回は辞退させてください』と伝えて貰っても良いですか?」

「そうか! それは良かった! 伝えておこう!」

「?」

 

 どこか重々しい口調だった沼津さんは私の辞退の知らせを聞くや否や爽快そうな声を出した。肌色のタイツを頭に被って後頭部側に引っ張られたかのようなにんまりとした笑顔を浮かべる。

 しかし、『それは良かった』とは? あ。ははーん? さては沼津さん、ハンジローとそりが合わないのか。まぁ、あの人は気難しさMAXな人ですし。

 あのヒト付き合いが上手な、まえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんですら苦手意識を持っていたので分からなくもないですけどね。……ま、社会人ってそういうところが大変ですね。同じ職場に勤める以上、嫌な奴とも関係を築かなきゃならないっていう。

 ま、私はハンジローのこと好きですけど。……まぁ、好きってか核心としては興味が湧くようなタイプ。私生活とか暴いてギャップ萌えを感じたくなるようなタイプ。

 

「話はそれだけだ。もう行っても良いぞ」

「了解です、それじゃまた」

「おう」

 

 軽く挙手する形の挨拶ののちに今度こそ別れる。

 いやー。それにしてもハンジローのお誘いに乗りたかった。

 チクッショウ。えっちなお店で働いている蛇子めぇ……。アイツが私の『〈魔族語〉か〈魔獣語〉で書かれた本』の文字判別を友人に頼んだところ判明しそうなので、東京キングダムでの待ち合わせはなしで。という連絡をそのまま承諾さえしてくれたら、ハンジローの元に行けたのに……。

 あぁ、シロツメクサの腕輪を作ったけど、やっぱり私はツイていない。鹿之助くんにあげる予定の四つ葉のクローバー付きの花冠を自分用にすればよかったかな。

 

 




~あとがき~



~おまけの報告~
 次回から新章、行きます!

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