対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode97 『日葵ちゃんの良さ』

 

——否。

 

 そうだ。

 その為の心寧ちゃんの存在だった。

 今、彼女は鹿子ちゃんを要介護しているが、緊急時には陽葵ちゃんの介護もできるだろう。

 だからこそ、顔を上げて——

 

「こ、心寧ちゃ……た、助け——」

「五車町でも不意な物陰から飛び出しがあって危険なのですよ」

「はーい、ごめんなさーい」

 

 だが現実はそこまで甘くない。

 既に心寧ちゃんへ助けを求めようにも、先走る鹿子ちゃんを追いかけて米粒ほどの大きさになっており……到底、助けは求められそうになかった。

 

「あーっ! 心寧ちゃん!?(恋愛クソ強女ァ!?) アッー!?

 

 突き付けられた現実(ぜつぼう)にあがる悲鳴。

 私が動揺した瞬間を見計らって、ここぞとばかりにさらに私を物陰に連れ込もうとする陽葵ちゃん。

 土と砂利の道は、抵抗するのに不適切で踏ん張りが利かず押し込まれる。じりじりと着実に私を田んぼと続く斜面の淵まで立たせる。

 今こそ斜面の淵に群生している雑草が突っ張りになって、そのまま斜面まで転がり落ちてしまうなんてことはないが……それも時間の問題だろう。

 こ、これは、もう。もう……『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』の小技。あの荒業を使うしかないのか!? やるしかないのか……!? いや、早まるな。駄目だ。陽葵ちゃんを傷つけるなんてことはできない。

 ならば、あの手法で……!

 ヒマリー! やるんだな!? 今…! ここで!

 

「陽葵ちゃん!? 陽葵ちゃん?!

 

 ああ!! 勝負は今!! ここで決める!!

 

 私の決意は固まった。

 ちょっとした賭けに出るが、これがうまく行かなかったらすぐに第二プランに移ればよいのだ。鋼人卿と対峙した時と同じだ。

 彼女を傷つけることなく、友達として一定の関係を保ったまま逃げ切るにはどうするべきか。

 私はいまだに胸部に顔を埋めて深呼吸をしながら人の尻を揉み、撫でまわし、爪を立てて愛撫する陽葵ちゃんに対して迫真な声をあげる。それも私の胸部にめり込んで行く陽葵ちゃんが興味を持つような声色を使ってだ。

 これをするには私の身体の可動域上、彼女の意識を私の顔へ……。簡潔に。顔を持ち上げさせることに成功する。

 

「なぁに♥♥♥?」

「ゴクッ……」

 

 彼女はこちらの意図する通りに、反応して胸の匂いを嗅ぐのをやめて私の顔を見上げてくれる。

 それは思わず『このまま抱かれてしまってもいいな』と思ってしまうような……。甘く蕩け切った女が官能に支配されたかのような顔だった。

 しかし、そんな彼女のかわいい顔とは裏腹に鷲掴みにした私の尻を掴む力が強くなる。それは内心では野獣のようなケダモノが潜んでいることを決定づける証拠でもあると捉え、その場の雰囲気には流されまいと私も彼女が自ら私から離れるような言葉を告げた。

 

「陽葵ちゃん。私も、陽葵ちゃんのこと大好きですよ」

 

 『大好き』の部分を感情が高ぶって、まともな思考ではなかろう彼女でも理解できるようにその部分だけ強調して愛を囁く。

 彼女の性格は正直で素直。

 この言葉かけは彼女の蛮行を更に加速させる危険性を秘めている。だが、それでも私の突然の求愛に愛撫していた両手の動きがビクッと細かく反応して、私を押し込む力が弱まる。

 だがこの程度では彼女の〈組みつき〉状態から完全には逃れることはできない。

 最低限できたことは、後ろ手で押さえつけられている両手の拘束状態から逃れる程度だ。だからこそ、私は彼女に頭を上げさせて彼女の期待を突いた〈言いくるめ〉で放ってまずはその興奮状態にある彼女の動きを止めさせた。

 

「……」カプッ

 

 そのまま私ながらの愛情表現の仕返しだとでも言いたげに、彼女の首に腕を回し抱き寄せながら彼女の耳を優しく甘噛みする。

 私の尻を揉みしだいている片手が離された。今、陽葵ちゃんの腕の動きは鎖骨付近から伝わる感覚的に、彼女はルパン三世~カリオストロの城~編の最後の方で主人公ルパンがヒロインのクラリスを抱きしめようとしながら堪えるように腕を広げ持ち上げているのが分かる。

 しかし、これは抱きしめるか抱きしめないかの葛藤をしてではない。

 完全に思考が停止しているかのような、不意を突かれたかのような動きの止め方だった。

 

「ぁ……。ぁ……。ぁ……」

 

 そんな彼女を刺激しないよう抱きしめるのを止め、そっと脇にそれて〈組みつき〉状態から逃れる。

 陽葵ちゃんは顔を真っ赤に染め上げて、その両目は嬉しそうにウルウルと好きな男性からプロポーズされて喜ぶ女性のような歓喜の渦に呑まれているようだった。

 ここから彼女を絶望の淵に叩き落とすのは可哀想だとは思ったが、突然のヒマリウムで私は恐怖に晒されたのだ。ちょっとぐらい絶望も味わってもらってもいいだろう。

 

「ひ、日葵ちゃん……」

「ヘッ、このチョロイン」

「へ?」

「ハッハー! なんですか、その狐か狸につつまれたような顔! さては騙されましたね! うっそでーす!!! 陽葵ちゃんは大切な友人ですし、友達としては大好きなのは本当ですが恋愛対象ではありますぇぇーん!!!! ッシャア!オラァ!〈組みつき〉mnvr(マヌーバ)状態からの無事緊急脱出ゥ!」

「ひ、酷い!!! 本気にしたのに!?! もうだまされないぞ!!! 次は問答無用だからね!!!?」

「へっへっへーん! もう次なんてありませんよー。残念でしたねぇー? うぇっうぇうぇ! ギヒヒヒヒヒッ!」

 

 陽葵ちゃんから逃れられた瞬間を狙ってネタバラシをする。

 だが、ここで油断する私ではない。ふざけた笑い声を高らかに張り上げながら本気(マジ)ダッシュで離れてしまった心寧ちゃんと鹿子ちゃんを追いかけるのだった。背後を振り返ればしばらく間を置いたのちに、しょげることなく少し怒った様子を見せる陽葵ちゃんが走り寄ってくる。

 ちなみに、今回陽葵ちゃんの〈組みつき〉を引きはがす力以外の小技というのは『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』における72頁“素手の攻撃”4つ目■になる。これは私も前世ではよくやっていた手法で、力の差で敵わない相手に組みかれた時、肉を噛みちぎり激痛を与えて逃れる技だった。今回は甘噛みという手法ではあるが、好意を向けている相手には十分適応させられる技として応用を利かせられるようだ。

 彼女に顔を上げさせたのも、動きを止めたのも全ては、この小技の為の事前準備にしか過ぎない。

 

………

……

 

「も~! 日ノ出お姉ちゃんも、青空お姉ちゃんも遅いよ~!?」

「すみません。まったりおしゃべりしながら歩いていたら、いつの間にかに離されていました」

「あはは! ごめんごめん! 鹿子ちゃんはほんとに元気いっぱいだね! 元気なのは良いことだよ!」

 

 全力疾走によって汗を滲ませ、息を切らせながら10分後。

 無事に(?)私はなんとか鹿子ちゃんのグループに追いつく。

 背後を振り返れば、陽葵ちゃんは寸差の場所で残念そうな顔で私のことを見ていた。その様子はまったく疲労など感じさせないかのような……ケロッとしたあり余る若い体力が彼女の持久力の高さを表しているようで……。

 さてはオメー、体力馬鹿だな? あの時。流れに身を任せて組み伏せられようものなら、完全に体力の差で屋外でぐっちゃぐっちゃのドロッドロにされていたな?

 あぶねーあぶねー。今日も私は対魔忍世界にてささやかながらにも自分の貞操を死守できたようだ。

 それはさておき心寧ちゃんは、事情を知らずに子供らしくぷんすこぷんすこ怒る鹿子ちゃんの両肩を掴む形で制御している。こっちもこっちで制御に苦労したかのような顔色だった。

 

「日葵ちゃん……」

「大丈夫ですよ、心寧ちゃん。今のところは……ですけど。洋館内で告げた陽葵ちゃんの様子について、察してくれて今後は制御を手伝って頂けるようならばそれが何よりの私の慰めになります……」

陽葵ちゃん……

「ん? どうしたの? 心寧ちゃん!」

 

 一方で今度は2人の目を気にすることもなく、見境なしにこちらの片腕に蛇が巻き付くように絡んでこようとする陽葵ちゃんを振り払う攻防戦を繰り広げる私達。

 それを先走る鹿子ちゃんを御守していた心寧ちゃんはこちらを憐れむような目で見てくる。

 洋館では心寧ちゃんには、陽葵ちゃんのストッパーになってほしいと告げたものだが、陽葵ちゃんの親友であり身近にいる彼女がこんなを顔をするのだ。彼女も陽葵ちゃんの異変についてよく理解していることだろう。

 

「——でも陽葵ちゃんの気持ちも分かるような気がします。日葵ちゃんがこれで男の子だったら私もふうま君の次に……。もしかするとふうま君と同じぐらいに日葵ちゃんのことが好きになっていたかもしれません」

「え!? このタイミングで何言ってるですますか?! 心寧ちゃん!?」

「だって、日葵ちゃんは……確かに毎日生成されている噂こそひどいものですけど……困った時はまるでヒーローみたいに颯爽と現れて、どんな絶望的な状況でも常に前向きで……。神村さんには『自分を大切にしないやつが大っ嫌いだ!』と怒られてましたけど……その代わりにいつも友達を第一に考えてくれるタフガールで——カッコイイですもんね」

「でしょっ!? やっぱり心寧ちゃんも日葵ちゃんの良さが分かってるね! あ、でも、日葵ちゃんは私を許嫁認定しているからその座は譲らないよ! 日葵ちゃんは私の物! あげません……あげません!!!」

「ふふっ、それはもちろんですよ」

「オヨ。ヨ、ヨヨヨ~……」

!!! ♥♥♥♥

 

 心寧ちゃんは陽葵ちゃんを宥めるどころか、すごく優しい微笑みの顔を浮かべるや否や私の何処が惚れる要素になっているのか説明してきた。

 私としては心寧ちゃんがそろそろ『陽葵ちゃん。日葵ちゃんが困ってますよ、それくらいにしといたほうがいいです』と言ってくれることを期待していたのだが……。

 

 ここで、まさかの裏切り。

 

 いや、心寧ちゃんの気持ち的には裏切ったとかそんな気持ちは一切存在しないのだろうが……。

 おかげさまで陽葵ちゃんはさらに加速。

 アニメウマ娘でマックイーンが『ありがとう』を分けて貰おうとしたところ、激しく拒否するスペシャルウィークみたいなことを言い出している。

 おまけに私が彼女達の流れに呑まれて、両手で顔を抑えながらマックイーンの返事をそのまま真似ることしかできなかった。

 しかし50年前のネタであり、通じていない筈なのに陽葵ちゃんがすごく嬉しそうな顔をした。もう、ものすごく嬉しそうな顔だ。もし、このシーンがアニメならば陽葵ちゃんの頭の周りに、デフォルメされたお花が咲き乱れるようなそんな顔だった。

 

「ね~ぇっ! 稲毛屋に行こーよ! 稲毛屋に行くんじゃないの!?」

 

 しかし、ここで思わぬ助け船が出される。

 それこそ洋館でなお先輩が救出した鹿子ちゃんの存在だった。

 その場に固まって歩みを止めた高校生3人組に対して、子供らしく地団駄を踏んで催促をしている。

 

「おっと。そうでしたね。ごめんなさい待たせてしまって」

「あ。鹿子ちゃん。だから、いくら車通りが少ないからとはいえ、そんなに先を歩いたら危ないですってば」

「日葵ちゃんと稲毛屋♪ 日葵ちゃんと稲毛屋♪」

 

 彼女はきっと意図こそしていないのだろうが、子供だから許されるという特有の場の空気を読めない発言で私達の歩の進みを促進させる。

 なんとか、再び陽葵ちゃんの抱擁から脱して一緒に並んで歩く。

 稲毛屋はもうすぐだ。

 

 




〜あとがき〜
 平行世界線の対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。-Xでは、日ノ出 陽葵に青空 日葵(釘貫 神葬)がレイプされます。

 対魔忍GOGOの主人公が公開されてましたね!
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