対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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~まえがき~
 ハッピーハロウィン!

 「Trick or Trick!!!!!」(青空(くぎぬき) 日葵(しんそう)、上原 鹿之助への発言)




Episode105 『作戦会議《前半》』

「ではこれより、60分間の作戦会議時間を設ける! 60分後、期末試験実技を開始する!」

 

 

 紫先生はそれだけ告げると、バインダーでパタパタと顔を扇ぎながら、出て行ってしまった。

 

 就活生時代の教訓を生かすならば、この期末試験開始前の60分間の作戦会議も恐らく採点に含まれていると考えるのが妥当だろう。『このグループディスカッションは選考に関係ありません』というクソ説明張りに怪しい動きでしたよ! 紫先生!

 

 つまり私はチームメンバーの意見を尊重し合いながら、最善策の作戦を立案すればいいというわけですね!(就活χ回目の教訓)

 

 

 だがしかし私は磯咲さんと黙れドン太郎の2人と作戦会議を開く前に、まずはふうま君御一行の様子を観察する。

 

 

 第三者視点から彼等の動きを観察していると、今回の期末試験の内容は団体模擬戦だということを忘れているようなやり取りをするパーティではあったが……先ほどの初顔合わせ時よりは改善の兆しが見えていた。

 

 それは折り合いの付かない神村さんと弓走の2人に対してふうま君が仲裁に入り、なんとか団体模擬戦を成し遂げようと動いている姿だ。とても纏まるような兆しは見せていないが、それでも形だけでも2人を室内の隅に連れて行っては差し当たりのない会話を展開して仲良く……とまでは行かなくても、最低限の情報共有と共闘ができる状況は作れるように尽力している様子だった。

 

 彼等の作戦会議場が遠い場所にあって〈聞き耳〉盗聴することはできないが、それでもコロ先輩との交流によって僅かに鍛え上げられた〈読唇術〉で何を話しているのか探りはいれる。

 

 今、彼等は自分達がそれぞれできることを話しているようだ。ふうま君はいつの間にかに手にしていたシンプルな刀。神村さんは洋館事件でも派手にぶっぱなしまくっていたロケットランチャー、弓走はあの見た目通り弓矢を使うことができるらしい。

 

 

 ん? んっ!?

 

 

 い、今。

 

 弓走が弦を引いて弓矢を実際に射ったように見えたのだが???

 

 あれ? つまり、という事は……この室内ではVRゴーグルを用いたバーチャル世界での模擬戦闘ではなく、実際に殴り合うような流れになるこということなのだろうか?

 

 ここに来るまでの間、確かに他の試験会場から激しい衝突音が聞こえていたこともあったが……。

 

 待って欲しい。ツッコミが追いつかない。想定していた期末試験で行われる模擬戦闘が仮想空間等ではなく、実際に相手を物理的にシバき合う内容に動揺を隠せない。……それでもワンチャンVRゴーグル使用の可能性はあるので、ひとまずは分析に思考を回す。

 

 ふうま君のチームは『ふうま君の近接戦闘』、『神村さんの遠距離~中距離戦闘』、『弓走の遠距離戦闘』と実にバランスの整ったグループとなることを指し示している。

 

 一方でこちらは『青空 日葵(わたし)の近接戦闘』、『黙れドン太郎の近接戦闘』、『磯咲さんの中距離戦闘』と、弓走のような遠距離攻撃が可能な狙撃タイプがいない。

 

 紫先生との初模擬戦闘のように武器を貸出してくれるのでれば、迷いなく私は射程の長いアサルト〈ライフル〉か12ゲージ〈ショットガン〉を選んで遠距離対策をしたものだが……今回は武器の貸し出しを行っていないらしい。恐らくこのキャンプセットを持参して来てしまったことに理由がありそうだが……。

 

 とにかくふうま君のあの行動によって、こちらの方針もある程度さだまる。

 

 黙れドン太郎によるイキリ無作戦での突貫は、私達の敗北……期末実技試験の赤点の危険性がある。やはり勝ちに行くならば、磯咲さんが話していたように何かしらの作戦を立てるべきだろう。

 

 

「おい、露出狂の痴女野郎」

 

「お゙ん?」

 

 

 ここで黙れドン太郎から聞き捨てならない渾名が私に浴びせかけられる。これまで囁かれてきた噂を上回るような内容を遠慮なく浴びせてきた彼に対して、こちらとしても不機嫌かつ眉間にしわを寄せる形で振り返った。

 

 

 “期末試験の短い間の付き合い” だとしても、先ほどから失礼で許されねぇ一線はあるのですよ。

 

 

 背後には模擬戦が始まってすらいないにも関わらず勝利を確信しているかのような顔をした黙れドン太郎と、黙れドン太郎の独りよがりな暴走に付き合いきれない・巻き込まれる私に対して気の毒そうな顔を見せる磯咲さんがこちらを見ている。

 

 

「ちょ、ちょっと二車くん! 青空さんに対して、そんな言い方はないんじゃないかしら?」

 

「うるせぇな。どう考えても声を掛けてんのにすました顔で無視しやがるコイツが悪いだろ?」

 

「そうは言っても……。彼女はふうま君とその他のメスブ——生徒の方を観察していただけで聞こえていなかっただけの可能性だって——」

 

「おい痴女野郎、さっきからメヌケをジロジロと眺めやがって。やっぱテメェもメヌケに心を奪わてたって奴か?」

 

 

 

 ここで黙れドン太郎の言葉に、磯咲さんが過敏と言っても差し支えないような反応をする。

 

 先ほどまで私に対して比較的好意的——すくなくともあの場にいた4人の中では、もっとも好意的な反応を返してくれていた磯咲さんがその身をピクッと震わせ、私のことを敵視するような鋭い目つきで見つめ始めた。

 

 ……ははーん? さては、お前も恋愛クソ強女こと心寧ちゃんと同じ『㊙ふうまファンクラブ』の会員だな?

 

 で、あるならば。私も完全な恋敵として敵対視される前に言わねばなるまい。ふうま君には悪いが、私は彼など眼中にないのだ。

 

 

「ははっ。まさか、まさか。私がふうま君を? 冗談は休み休み言ってくださいね? 私の好みはふうま君よりも鹿之助くんなのですが?」

 

「あぁ、そうだろうよ。少なくとも俺の配下を期末試験直前に病院送りへするぐらいには、あのクソザコチビにぞっこんだよな」

 

…………。ああ、あれは二車くんの配下の方でしたか……道理で赤子の手を捻るような手軽さだったわけですね

 

「不意打ちしかできねぇ卑怯者のクセに、偉そうなことほざいてんじゃねぇぞ……」ギリッ

 

 

 格下から売られた喧嘩は即購入スタイルに切り替わった私は、鼻で嗤いながらも奴には聞こえる小声で嘲笑う。

 

 本当は鹿之助くんを『クソザコチビ』とけなした奴を、どう貶めて社会的に抹殺してやろうかと画策していたのだが、彼を不幸に貶めることはふうま君も道連れにする可能性があること。自らの一時的な感情で待ち受ける夏休みの約束の準備を無下にするは避けるため、ここは一旦ブクブクと沸き上がるような地獄の窯の蓋を閉じて静かに対応することはできた。

 

 一方で黙れドン太郎は中二病満載の覆面とは逆の目で睨みつけ歯軋りしながら何かブツブツ呟く。

 

 しかし、余裕を持った悠々とした私の言葉と黙れドン太郎にとってただの煽りでしかなかったこのやり取りに、磯咲さんは胸を撫でおろして私に対する敵対心(ヘイト)を解除してくれている。

 

 だが今の彼女の中で何処か気になる部分でもあったのか、人差し指を自分の頬に押し当てながら首を傾げて視線は天井を向いていた。

 

 

「いやはや。いくら助走を多少つけたとはいえ、女子生徒の蹴り如きであんな大袈裟に吹き飛ぶとは……彼、当たり屋の素質がありますよ。無事に退院できたら伝えておいてください。次、鹿之助くんに手出ししたら、貴様で末代にさせる(下半身のシャウエッセンを粉砕する)と」

 

「……じゃあこっちも良いことを教えてやるよ。転校生。あのチビは暴力的なテメェよりも、あっちの神村 舞華に——「ああ、“憧れ”ているのでしょう? そんなことは以前、本人の口から直接。聞かせて頂きました」

 

「はっ。じゃあテメェの片思いは失恋に——「ですが私はそれで構わないと思っております。彼曰く、彼女が好いている理由は体術に長けていて、とてもお強いこと。そしてその強さに準じた正義の味方(ヒーロー)として、こうありたい存在という前提条件ありきの憧れなのですから」

 

「だったら——「つまり簡単な話です。今回で、その“憧れ”を塗り替えてしまえば済む話でしかありません」

 

「…………」

 

「これは運命なのでしょう。私が神村さんと手合わせを行い張り倒したいという願いがついに叶うときが来たのです」

 

 

 癪に障る黙れドン太郎の発言を私が一方的に押しつぶして発言の余地は与えない。

 

 さらに私。釘貫 神葬の先祖が親戚一同の目前で旧支配者のキャロル(お得意の讃美歌)を披露するかのような語り口調で、一筋の曇りもない満面のギラついた笑みを浮かべながら期末試験での私の目的も伝える。

 

 最初に展開した相手の意見を捲し立てるように押しつぶすやり方は、前世での就活y回目の際に実演して失敗した手法ではあるが……。相手に反論の意気消沈させるには持ってこいの技法だった。

 

 こちらも良い具合に、ピリピリ度合いは弓走と神村のように燃え上がっている。圧倒的なタッパを持つ黙れドン太郎が、こちらの身長162㎝に対して無言の圧力を掛けながらもゼロ距離で見下ろしてくる。私の見上げる顎の傾き具合からして彼の身長は180㎝ぐらいだろうか。あの高身長(177㎝)のふうま君と目を合わせて話すために見上げる角度より強い気がする。

 

 しかしそれでも奴を泣かせるには十分なタッチ距離だ。私には高位魔族を泣かせたことに定評のある〈頭突き〉があるのだ。こちらを殴ってくるようならば、そのクソ生意気なツラを眼帯と顎当てごと叩き割ってやる。

 

 紫先生はこのグループディスカッションタイムも採点に入れていることは想定範囲内だが、ここであらかじめ個人点数を落としておくことで最終結果では丁度良い点数になるはずだ。

 

 

「まっ、鹿之助くんの神村 舞華(“憧れ”対象)についてはひとまず置いといて……。それで? 私に話しかけてきたってことは、何か用があるってことですよね。作戦会議時間は残り50分しかないですし、ご用件を伺いましょうか?」

 

 

 したがって程よく採点の点数を削れた頃合いを見計らって、話を本筋に戻す。

 

 作戦会議中も多少は協調性は持ち合わせていることを評価してもらわないと私としても困るのだ。

 

 

「チッ。…………とことん癪に障る野郎だ

 

「なにか?」

 

「……これは簡単な話だ。この期末試験、ふうまは俺が殺る。だからテメェは手を出すな」

 

「なるほど。ふうま君は二車くんが殺るとわかりました。手出ししなければいいのですね」

 

「ほぅ……? 多少は物分かりがいいじゃねぇか」

 

「言ったでしょう? 私も神村 舞華さんに関する(“憧れ”の存在に対する)対応がございますので。で? 作戦は?」

 

「実技試験が始まったら、ふうまを見つけて俺が潰す。テメェ等は神村と弓走を相手していろ」

 

「えぇ、それはそうですね。では、作戦は?」

 

「あ? だから今、言っただろ。アイツ等を見つけ次第、俺がふうまを潰してお前等は神村と弓走を対処する。こんな簡単な作戦がわからないなんて頭悪いのか? テメェはよ?」

 

「はぁ。今、二車くんがお話されているのは、作戦ではなく最終目標ですよね? 私はそこに至るまでの “作戦” を聞いているのですが。日本語、伝わってます? 私の話は通じていますか? もう一度だけ優しくお尋ねして差し上げます。目標じゃなくて、そこに辿り着くまでの過程となる作戦はどのようなものですか? わかるか?この野郎。(do you understand?) 作戦を教えろっつってんだよ(Tell me the Strategy.)

 

 

 お互いに苛立ちのボルテージが立ち上っているのが分かる。黙れドン太郎は先ほどからちょいちょいにじみ出していた殺意の鉾先が私へと集中しつつあり、身体からは濃い紫色のオーラが肉眼で確認できるほどに具現化している。その調子なら、テメェの体臭もオーラで立ち昇りそうだな。

 

 だが、その程度のチワワ級な覇気で私が凄むと思ったら大間違いだ。

 

 その程度の殺気など、これまでに対峙してきたカルティストやら邪神やらに比べたら大したことはない。

 

 こちらも腕組みをしながら気怠そうに対応する。

 

 

「過程だ? ハッ! お前はあんなバラバラなチーム相手に作戦がいるとでも思ってんのかよ? 確かに神村の存在は驚異的かもしれねぇ。だが残りは何事にも無気力なメヌケと弓を扱う事しかできない雑魚だぞ? お前等、2人で抑えられる話じゃねぇか」

 

「…………」

 

 

 あ、駄目だ。コイツ。

 

 対魔忍世界らしい頭対魔忍な脳筋一点正面突破戦法で今回の期末試験に臨もうとしている。

 

 それを裏付ける証拠として、黙れドン太郎はわざわざ彼等に背中をみせつけ視線を向けることすらせず、親指でふうま君御一行を指さす。まるで今の彼等は護衛付きの無害な獲物の集団であって、さほど脅威でもないとでも言いたげだった。

 

 

 あぁー……。やっぱ対魔忍ではないとはいえ、対魔忍世界だからやっぱりいるんだなぁ……。

 

 私の命の恩人だからあまり悪くは言いたくはないけど、秋山 凜子さんっぽい思考回路の人。まっすぐ行ってぶっ飛ばす。まっすぐ行って右ストレートでぶっ飛ばすの人。

 

 

 ところが私はふうま君御一行は充分に脅威だと感じていた。今、あのバラバラだったチームはふうま君が司会役(・・・)を担うことによって、それぞれが繋ぎ合わされつつある。

 

 おまけに時折こちらの様子も観察しているのか、チラチラと一瞥ではあるが確認している。

 

 あっそうだ。おい、HUM(ふうま)

 

 お前さっき俺らがモメている時チラチラ見てただろ(因縁)

 

 ミテナイデスヨ(裏声)

 

 嘘つけ絶対、見てたぞ(確信)

 

 ナンデ ミル ヒツヨウガ アルンデスカ(裏声)

 

 あっお前さHUMさ、さっきユッ…誘導された時にさ、ジロジロ見てきたよな?

 

 そうだよ(便乗)

 

 イ、イヤ ソンナコト……(裏声)

 

 見たけりゃ見せてやるよ(震え声)

 

 

「ねぇ、あまりふうま君のことを過少評価するのは止めてもらえるかしら?」

 

「あん?」

 

「二車くんはふうま君の親戚で幼馴染ってことは知ってる。でも、いくら身近な存在のあなたでもふうま君の才能に何も気づけていないのね」

 

 

 と、ここで私と黙れドン太郎のやり取りに口をはさむことができず、半ば空気状態にあった磯咲さんが口を開いた。

 

 先ほどまでタジタジな様子からはうってかわって、自分の恋心を抱く相手を貶されたことや『㊙ふうまファンクラブ』の一会員として黙れドン太郎に喰ってかかる目で対峙している。

 

 

「本当はふうま君と敵対することなんて嫌だけど……。試験だもの、やるというなら最大限サポートするつもり。今の作戦も何もないままでは、あなたは確実にふうま君に負けるわ」

 

「……あぁ?」

 

「そうですね。私も磯咲さんに同感です」

 

「……! 青空さん…………!」

 

「二車くん。私には磯咲さんが話しているふうま君の才能について、何を指しているのか分かりかねますが……。私としては、彼には人を引き付ける力があると思います。……例えるなら『なろう系小説の主人公のような力』を持った存在に似ていますね。それを軽視するのはいささか……」

 

「えぇ。私も青空さんのいう、なろう系……?というは分からないけど、青空さんの言うことに一理あるかしら。彼にはあなたに無いような特別な魅力があるの。だから私達が敵として対峙するならば油断しないで挑むべきよ。私達が彼に勝つには、青空さんがあなたに尋ねたようなもっと具体的な作戦が必要になってくるはず」

 

「……」

 

 

 流石に2対1の議論では分が悪いのか、黙れドン太郎は反論してくることもなく、ここでやっと背後に居るふうま御一行を一瞥する。

 

 彼等は今、床に座り込んでは地面を見つめて何かを話しているようだった。

 

 遠目でもわかることとして、神村さんが『ああでもねえこうでもねえ』と何かを熱心に2人へ話している様子が伺えた。

 

 

「……ケッ。……そこまで言うんだったら考えるか……」

 

「それがいいわ。でもあと50分で何から話せばいいのかしら……」

 

 

 やっと黙れドン太郎は観念したのか、その場に座する。

 

 それを期に磯咲さんは私と顔を合わせて、ふうま君達がやっているような円陣を組むようにして共に座り込む。

 

 ただし作戦を立てると言っても、磯咲さんと黙れドン太郎は今回の合否が決まるような場面でのグループディスカッションの経験はあまり経験がない様子で、二人とも首を傾げたり、腕組みをして両目を瞑っているばかりだった。

 

 正直なところ、洋館事件の時のように私が中心となって引っ張ってもいいのだが……。

 

 いや、ここは引っ張っておこう。彼等に敗北して、学生の貴重な夏休みを補講で潰すのは非常に勿体ない。

 

 

「ではまず、お互いに今回戦う相手についての情報を出しあいましょうか。相手を知ることは、作戦や戦略を練る上で対処法に繋がってきますので。……ご存じかもしれませんが、私は入院生活の方が長いので……いつもつるんでいるふうま君と、とある事件で共に行動したことのある神村さんの情報しか知りません。弓走さんについては完全に無知な状態なんですよねぇ」

 

 

 腹を決めたからには話は早い。

 

 こういう作戦立案や話の流れを作ることは得意分野でもある。

 

 しかし、だからこそ2人の……特に、やっと協力する気になった、黙れドン太郎の下手なプライドをこれ以上に傷つけて話が停滞することを避けるためにも……。片目を瞑って後頭部を掻きながら、まるで自分自身も初心者であるように下手に出ての話題の提供をする。

 

 

「はぁ……しかたねぇな。じゃあ、教えてやる。弓走、アイツは……そうだな。一言でいえば融通の利かないお堅い優等生だ。俺達の部隊で例えるなら磯咲みたいなポジションで、弓術に長けている。ただ体術の授業では……努力はしているが実に結ばないところが見受けられるな」

 

「ふむふむ。ありがとうございます。磯咲さんは、何か彼女についてご存じなことはありますか?」

 

「そうね……。彼女なら五車町に昔から存在している弓の名門弓走家の跡継ぎってことかしら? 二車くんの言う通り近接戦闘に関しては私達——青空さんは除いた5人の中では、体術を苦手科目にしているところがあるのだけど……。その代わりとして弓術だけは天下一でこの五車学園1年生の中では右に出るものはいないわね。目視していればほぼ100%の確率で弓を当てることができたり、曲射や貫通力の高い弓が驚異的だから、彼女と近接戦闘に持ち込むにしてもまず本人に辿り着く前にウニのようにされる方が高いわ」

 

「なるほど、なるほど……」

 

 

 私は2人の発言を、キャンプセット内に入っている筆記用具を取り出してノートに記していく。

 

 相手をする身としては、これは本当にやっかいなタイプかもしれない。

 

 

 遠距離武器が磯咲さんの所有している二丁拳銃のみが、私達チーム唯一の遠距離攻撃武器だ。

 

 

 拳銃の射程は精々20m前後。対して、弓走さんのアーチェリー用弓の攻撃射程は一般的に90mにも及ぶ。明らかに攻撃が届かない。私の方も消火器を用意してはあるが、届く訳もなければ、こんな広大な場所では煙幕としての活用方法も不可能だった。

 

 近づいて叩くにしても何か遮蔽物や死角生み出す物体なければやりようがない。彼女がこちらの接近に気が付き、本人がその場から逃げ出して引き射ちしてしまえば、イタチごっこは免れないだろう。

 

 特に今回のフィールド……。この真っ白な何もない空間が、彼女の援護射撃という特性を十分に発揮させるに違いない。部屋の隅に追い込んで、タコ殴りにするにしても屋外張りに広いこの空間では一苦労過ぎる。

 

 さらにその状態で神村さんとふうま君を相手にしなきゃいけないというのは……。無理だ。現実的じゃない。

 

 

「ありがとうございます。では、次は神村さんについて情報共有を致しましょう。私が神村さんについて存じ上げていること致しまして——1度喰らって死にかけたあのロケットランチャーの砲撃は強烈ですね。赤き霧——赤い幽霊を物理的に退けるだけの十分な火力もあります。ただし弾速自体はそこまで速いものではないので、遠距離対峙した場合には目視での〈回避〉は可能ではあるかと。しかし〈回避〉したとてロケットランチャーの炎に炙られることでⅠ度熱傷を引き起こすだけの威力はありますから……。直撃はしなくとも爆炎による範囲攻撃が手痛いところです。ゆえに爆破による衝撃や熱波効果を狙われると厄介ですね。あと彼女個人について特筆できる部分としましては仲間想いな部分でしょうか」

 

「「??????」」

 

 

 弓走に対する情報収集を済ませたところで、次は神村について私の知りうる情報を2人に共有する。

 

 すると黙れドン太郎は両目を瞑って考えることを止め、磯咲さんは顎に握りこぶしを当てて記憶を思い出すのをやめて、2人とも私の顔を凝視してきた。その顔は瞬きの回数が増えて口が少し半開きになっている。

 

 2人の状態を〈心理学〉で分析すると……目を丸くして……私の説明に何か分かりにくかった部分でもあったかな?

 

 

「……おい。テメェのこの前の入院は、授業外で神村とルール無用で殴り合ったことにあったのか?」

 

冥途(メイド)バズーカを喰らった? 目視で回……? いったい、何を……いえ何があったの……?」

 

「ははっ。そのお話はまた今度、時間のある時にですね。それでお二人は? 神村さんについて何か知っていることはありますか?」

 

「か、神村さんについては……ご、ごめんなさい。わ、わたしも青空さんが弓走さんを知らなかったように知っていることは何もないかしら……? あっ。あっ、OBの眞田 焔さんを慕っていることとか、普段は校舎裏にいることとか、か、かしら? …………ご、ごめんなさい。よく考えれば、何かしらあると思うんだけど……」

 

「神村は……あいつはお前が言ったバズーカ砲以外にも近接戦にも長けてんな。悔しいが素の力だけなら今回の6人の中で一番……俺と同等ぐらいか?」

 

 

 黙れドン太郎の言葉に『なら神村さんの近接戦闘技術はぞんざい大したことなさそうですね』と言葉が出かけるものの、ここは今のところ保っている協力関係を持続させるためにゴクンと飲み込む。

 

 

「…………」

 

【挿絵表示】

 

「おい、なに笑いこらえてんだテメェ」

 

「ベ…………ベツに?」

 

 

 それに先ほどはロケットランチャー……もとい、バズーカ砲の解説に偏ってしまい説明のタイミングを逃してしまったが、神村さんが近接戦闘に長けていることは私も承知している。

 

 ゴキブリの空気炒めを止めさせるときに “背後からの奇襲” で〈組みつき〉首を絞めに掛かったにも関わらず、彼女の技によって壁や机に叩きつけられて挙句の果てには殺されそうになった。その流れるような攻撃方法から彼女の近接戦闘が長けているのは言わずもがなである。

 

 しかし彼がこうして共有してくれたことで、私はその説明の手間を省くことができた。

 

 

「では次はふうま君ですかね」

 

「目抜けのザコだ」

 

「おい? 二車 骸佐くん?(黙れドン太郎?) 次、友達のふうま君のことを私の前でマヌケ(メヌケ)っつたら、その眼帯をひん剥いてこの筆記用具を用いて目玉を抉り抜きお前を物理的に完全失明させます(目抜けにします)からね?」

 

「青空さんに同じく」

 

「では私は右目をやるので、磯咲さんは左目を」

 

「了解したわ」

 

「……」

 

「ゴホン。話を戻します。まぁ、彼は……色恋沙汰に疎い昼行燈ではあることは間違いないでしょうね。いろんな人から好意を貰っているのに気づけてないんですから。ちなみに。これは予想ですが、この期末試験が終わった頃には神村さんも弓走さんも彼にメロメロになってますよ」

 

「!」

 

「冗談ですよ。磯咲さん。ま、もし本当にそんなことになっていれば、本物のハーレム系なろう系小説の主人公ですね。近い将来、口付けを迫られているのに『キムチでもいい?』とか聞き間違えそう」

 

「ふうま君は……そうね。授業はよくサボっちゃうけど、実は授業以外ではとても勉強家で戦術に長けているのよ。それに、ああ見えて人を扱うのが上手なの」

 

「ほぅ…………!」

 

 

 私は鹿之助くんとは同じクラスだが、ふうま君とは別クラスの為に彼の授業の出席率についてはあまり詳しくはない。

 

 詳しくはないが五車学園の制服を着崩し、遊び慣れているかのような外見によらず心の中では熱中症の話を語り合えることから、見かけによらず授業の内容を聞いている優等生タイプなのかと思っていたところがあった。

 

 ああ、紫先生に連れられる待合室(カフェテリア)での駄弁では『つまらん授業はサボっている』と言及していたような気もする。私はてっきり高校生男子が見せる『俺ワルだぜ』アピールの一環かと思っていたのだが……。そういうわけでもなさそうだ。

 

 不良として分類されるにしては、迷宮のような五車学園の図書館という不良はあまり立ち入らなさそうな場所を把握していることもあったし。

 

 だから磯咲さんの発言が衝撃的で思わず言葉を漏らしていた。

 

 されども……戦術家で人を扱うのが上手いのか……。やはりうまく黙れドン太郎を丸め込んで作戦を立てたことは正解か。彼女の評価が的を射ていた場合、彼は他の2人を自分のペースに巻き込んで私達に対する作戦を練っていたに違いない。

 

 先ほど私達をチラチラと見ていたことにも合点がいく。

 

 




~あとがき~
 ハッピーハロウィン!!!
 高評価をくれないとエターにしちゃうぞ!(ホモは嘘つき)
 無くても大丈夫です。頑張れます。まだチキンです。

 ところで今回の文字数は1万文字……!? うっそやろ?!
 今回を2分割にするべきだったか?

 熱中して頑張って書きました。
 でも間に合わなかったのでチマチマ加筆修正が入ります。
 挿絵、追加しました!

 週2本のペースはやはり無理そうですね……。

小説の書き方の書式について、Episode101の書式はどちらが見やすかったですか?(アンケート時期を変更してEpisode106まで集計を取ろうかと思います(挿絵のアンケートはEpisode-IFへ変更))

  • 新書式 (描写文にも適宜、行を空ける)
  • 従来型(行は描写とセリフの間のみ)
  • 両立型(作者の好きなように行を入れる)
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