対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode109 『実況側から、こんにちは!』

 さて、さっそくだが開始された期末試験の状況は芳しくない。

 

 先ほどまで私が滞在していたところは、神村さんのバズーカ砲の連射によって完全に焼失してしまっており、立ち上る黒煙がホログラムで構築された天井まで届いている。しかし天井には私が発見できていないだけで換気扇でも回っているのか、立ち上った黒煙が室内の空気を一酸化炭素で満たしてしまう……という状況に陥ることはなかった。

 

 それでもホログラムで構築されている筈の森で、炎は他の木々に延焼していく。そのため一部分だけ炎の森が出来上がってしまっていた。生木のいぶられる悪臭がこっちまで漂ってくる。

 

 

 てか、止めなくていいのか五車学園の教師陣。

 

 

 紫先生? ムラサキせんせー? ゆかりーん??? あの、今、採点してらっしゃられるのですよね?

 

 

 生徒が1人、しかも一般人の生徒が神村さんがバズーカ砲で放った爆炎に飲み込まれて真っ黒こげの煤まみれになっているんですけど。

 

 誰も期末試験のストップも、消火活動も、救助にも来ないんですけど?

 

 これは安全管理どうなってるんですか?

 

 それともこの世界ではこれが普通なんですか?

 

 私、五車学園が国立学園だからっていう理由と、五車学園以外にこの世界の学校を知らないから、この状況が正常な光景なのか、異常な光景なのか。すごく判断に困るんですけど。

 

 一般常識を働かせて考えることなんてできない。

 

 繰り返すようで悪いが、対魔忍世界は私の生きていた時代よりも半世紀以上先の未来の世界なのだ。

 

 かつての私の時代で例えるならば『昭和の価値観と令和の価値観が同じであるか?』と問われれば、それは間違いなくNoに違いない。昭和では当たり前だった体罰が、令和では治外法権気味ではあったが処罰の対象となっていたし。アダルトビデオなども獣姦や強姦、露出などのジャンルも過激なものや本物は個人撮影を除いて時代と共に消えていった。これを対魔忍世界の状況に照らし合わせた場合、下手をするとやはり北斗の拳のように暴力で解決するのが普通な世界になっていたとしてもでも何もおかしくはないのだ。

 

 

 あのナイ牧師とやら、本当にトンデモない世界に転生させやがって!

 

 

 だが、今さら悪態をついてもどうにもなるわけでもない。テロリスト襲撃後の入院期間中に一般的な教養問題を身に着ける他にも、ちゃんと他所の学校がどのような事を期末試験として出題してくるのか調べるべきだったかもしれないと深く後悔する。

 

 されどもそんな私を差し置いて、他所に戦闘はいまだ続行していた。

 

 

「二車ァ! 磯咲ィ! さっさと出て来やがれ!!! 囮の青空はとっくに果てたぞ!」

 

 

 神村さんの絶叫が聞こえる。

 

 どうやら今では、ついに彼女も索敵に回ってしまったようだ。

 

 

 すまない。

 

 すまない……。

 

 すまない…………。

 

 

 彼岸島のお師匠が吸血鬼を殺害するときのように謝罪しながらその様子を遠目から観察する。

 

 本来であれば。もう少し耐え凌いで、せめてドドン太郎と磯咲さんがふうま君と神村さんに接敵するまで時間を稼ぎたかったのだが……。いやぁ、いささか彼女を焦らし過ぎた。あそこまでバズーカ砲を掃射してくるとは。

 

 次に短気なヤツを煽る際には、焦らし過ぎないように気を付けよう。

 

 

 次があるかどうかわかんないけど。

 

 

「クソが! 役に立たねぇな! 所詮はメヌケの友人か!」

 

「んもう! やるだけやってやるわ!」

 

 

 やがて2人は目標強襲開始作戦地点への移動が完全に済み、森側とは反対側の校舎裏から姿を現してふうま君へ向けて突撃していく。

 

 予定よりも早い撤退によって囮役にもならなかった私のせいで、2人は神村さんの砲撃と弓走の雨の中を決死の顔で駆け抜けていた。

 

 その攻撃の矛先は全て私のチームメンバーの最高火力であり、相手にとっては尤も脅威となるであろうドドン太郎へ集中砲火が向けられている。しかし私が磯咲さんが指揮した通りに動いてくれているおかげで、早々なドドン太郎の脱落は阻止することができていた。

 

 彼女の “水鏡” によって神村さんの砲撃は地球防衛軍2から登場しているシールドベアラーのような弧を描く盾でほぼほぼ防ぎきり、弓走の弓術は彼女の水圧2挺拳銃から放たれる鉄砲水で軌道を逸らし着弾寸前のところで直撃を免れている。

 

 

 いやぁ、ほんとゴメン。

 

 

 予定では2人が接触するまで時間を稼ぐはずだったんだけど……。思ったより神村さんの砲撃が銃弾のカーテンと称賛していい程、精密でとても時間を稼ぐ余裕なんかなかったんだ。こればかりは分かってほしい。

 

 かつて対魔忍世界で経験したクトゥルフ神話事象系事件である洋館事件にて、なお先輩によるレーザー銃と神村さんのバズーカ砲によって、本来、火器の攻撃が通じない筈の赤き霧/磯八目巾着鰻という神話生物がその身をたじろかせていたのも何処か納得できてしまった。これは苛烈過ぎて嫌にもなるだろう。やはりあの場合、シンプルに奴の特殊装甲よりもこちらの火力が勝っていたと考えることが妥当だ。

 

 

 ……おっと。

 

 

 心の中で謝罪しながら考察を重ねているうちに、事態は進展しドドン太郎と磯咲さんが最優先第一撃破目標であるふうま君と接敵した。

 

 それからもふうま御一行の動きはこちらの想定通りに……。まるで手のひら上で踊るマリオネットのように行動してくれる。

 

 ドドン太郎による近接戦に持ち込まれるふうま君に対し、神村さんが駆け寄って彼の援護に向かう。されども磯咲さんが神村さんの進路を妨害して……——今度は弓走が超遠距離から2人の援護射撃を——

 

 

 こちらもこちらで全て作戦通りだ。

 

 

 あーあ。

 

 神村さん。

 

 今のは最高のチャンスだったのに……。

 

 やはり君はそのチャンスを不意にするのですね。

 

 ま、君にはできない芸当なのはわかっていたことでもあったのだけどさ。

 

 

「ふゥ、ヴゥ、まァッ!!! 俺はここで目抜けの当主様をぶっ飛ばして、俺こそがふうま宗家の当主に相応しいってことを証明してやる!!!」

 

「まだそんなこと言っているのか、だから俺は宗家とか分家のお前の上下関係には興味ないって言ってるだろ。俺だって好きで当主になったわけじゃないんだ。それに俺達の親父がいた頃とは違うんだ——」

 

 

 無事にふうま君へとドドン太郎をぶつけられたおかげか、心なしかドドン太郎がイキイキとしているように見える。何か当主争いのことで揉めているようだが……ここからではふうま君が何を言っているのかよく聞こえない。

 

 以前、鹿之助くんに病室にてあのドドン太郎とふうま君の関係性について説明してもらった時ことがあったが、やはり何度考えても時代遅れの風習に固執しすぎているのでは?と疑問に思うことはがある。これが両親とかの相続絡みで、宗家のふうま君がすべての権利を所有しているという話であればドドン太郎がブチギレる要因や言いたいことはわからないでもないのだが……。

 

 ここは2つの意味で、()()()()()()()()私には一生理解できない “仕来り” なのだろう。それでも、まぁ……。無粋にも『五車町を出たら、そんな身内による仕来りは無意味で無価値である』と思ってしまうのだが。

 

 さて。そんなふうま君とドドン太郎による個人的な問題は差し置いて現状、煤まみれの真っ黒な私でも客観的に分かる戦況がある。

 

 それはふうま君とドドン太郎このまま戦闘を続行したら『どちらが最後まで立っていられるか』ということだ。それは圧倒的な確率でドドン太郎で間違いないだろう。彼の持つ大太刀という武器の性質とふうま君が所持している日本刀の性質。2人の技量。力の差。いずれを見比べてもやはりドドン太郎が全てにおいて勝っている。

 

 ただし——

 

 

「セイッ!」

 

「ふっ飛ベァ!」

 

「きゃぁっ!」

 

 

 神村さんと弓走の援護射撃が加わった状態では、恐らくドドン太郎の方が劣る。

 

 今は磯咲さんが、神村さんの近接攻撃を何とか往なしながら “水鏡” を器用に使って弓走の弓術を凌いではいるものの……。明らかに格闘術では神村さんには技量で劣っている上、向こうも本気で期末試験で赤点を取りたくないのか。あるいは “勝ち” に来ているのか。それともふうま君の指揮もあるからか、息の合った攻撃で磯咲さんを追い詰めつつある。

 

 このままでは磯咲さんが倒れ、2人がふうま君に加勢し形勢逆転してしまうのも時間の問題だろう。

 

 それにふうま君も状況を見越してドドン太郎の怒りを煽り、攻撃を単調化させることで〈回避〉を行ない時間稼ぎをしているようだった。

 

 

「うるせぇッッ! 黙って俺と戦え! 邪眼(じゃかん)夜叉髑髏(やしゃどくろ)(かさね)” ェ!!!

 

 

 ここでドドン太郎が大太刀を左手で制御しながら、必殺技を叫びながら邪気眼が発動した中二病男児のように片目を右手で抑え始めた。

 

 

「…………ブフォッ…………ン゙ン゙ッ」

 

 

 これには梅干しでも食べたかのように口をすぼめ、咄嗟に視線をドドン太郎から地面へと移すことで笑い出してしまうことを推し堪える。

 

 

 ……あ、あぶねぇ。まさかの必殺技っぽい技能の宣言に危うく激しく吹き出すところだった。

 

 

 じゃぁ、じゃ、がぁん……やしゃ、どくろ……かさねぇ……! じゃぁないんだよ!

 

 

 次に視線を彼等に戻した時には、なにやらドドン太郎はフォルムチェンジでも図ったのかいつの間にかに武者鎧姿になっていたが……。近未来の日本ということもあるし、仮面ライダーのような即変身セットが販売されていてもおかしくはないということで、特にこちらとしても気にするような要素でもなかった。

 

 そんなことよりも今は共感性羞恥心で死にそうになっているのだが? 予期せぬところでこちらのメンタルにダメージを与えて来ないで欲しいのだが?!

 

 あの場で乱戦している4人も誰一人としてドドン太郎の必殺技宣言に笑わず、戦闘を続行できているところは単純にすごいと思いました。(小並感) きっと死に物狂いで乱闘しているゆえに、ドドン太郎による必殺技の宣言に気が付いていない説もあり得る話ではあるのだが。

 

 

 さてはて、やはりアイツは中二病全開だったのか……。

 

 

 右目にオサレな眼帯付けて居たし、そのカッコイイとか思ってそうな臙脂色の籠手や脛当ての存在からは、そんな気がしていたよ……!

 

 ドドン太郎。それは許されるのは中学生までなんだ……流石に、高校生にもなって太刀を振り回しながら必殺技を叫ぶのは……私もやったことがあるけど、ここぞって時に叫ぶのが一番いいと思うんだ。

 

 

 まぁ。まぁ。まぁ。

 

 

 誰しも人間はこういう恥ずかしい過程を経て大人になっていくものだからね。

 

 

 少し先の未来で、必殺技を叫んでいた自分を思い返して恥ずかしい黒歴史に悶絶するといいのさ。

 

 

 誰しもが通る道だから。

 

 

 大丈夫だから。

 

 

 安心して欲しい。

 

 

 プププ……

 

 




~あとがき~
 今回の話で出た認識がオリ主が期末試験で戦闘訓練を行うことについて、以前。疑問を抱かなかった主な理由の解説編になります。

 いよいよ対魔忍GOGOの公式ツイッターも反応がなくなってしまいましたね……。
 気長に待ってますとも。


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