対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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~まえがき~
 フェラルグールとは
 ゲーム Falloutシリーズに登場する敵キャラクターです。
 素早い獣のような動きで、銃弾を回避し右往左往ダッチを踏んで急速接近してきます。




Episode112 『フェラルグールの狂奔』

………

……

 

 お互いに酷い有様だ。

 

 はたして何ラウンド殴り続けているのか……最初から数をかぞえていない。

 

 私は主に上半身全裸のまま、ちびくろサンボのように泥で真っ黒に染め上げて、顔面や胴体の裂けた皮膚から血液がダラダラと穴の開いたドラム缶のように垂れ流れている。

 

 おまけにこの死闘でくせ毛を抑えるための髪留めや後頭部で結っていたリボンははじけ飛び、まるで髪の毛は平成初期のヤマンバ・ギャルみたいだ。それは勝利を目指した代償の……とてもじゃないが鹿之助くんには見せられない格好だった。

 

 神村も神村で流血などしておらず、創傷と言っても擦過傷程度の傷ばかりでピンピンしているように見える。だがあれから何度も追撃を加えた関節を逆側に捻じ曲げる一撃は効いているのか片足を引きずり、逆側に捻じ曲げられた片腕の肘先を植物におけるシダレヤナギのように力なく垂れ伸ばしている。

 

 ここまで拳を交わして〈心理学〉の観点から理解できたこともある。

 

 今、ヤツは、蹴り技を封殺され、片腕はともかくとして片脚が折れているとまでは行かなくても関節に損傷を受け、満足に身体が動いていない彼女はこちらに恐れのような感情を抱いているのかもしれない。

 

 彼女の最初期ほどのように連続した攻勢から一転し、今や私が一歩彼女側へと歩を進めると、彼女は一歩後ろへと下がるのだ。だが痛む関節では満足に距離を取ることも叶わない。

 

 攻撃を仕掛けて来ないのであれば——こちらから仕掛けさせてもらう。

 

 

 再び足を一歩前へ。

 

 彼女が片足の膝を庇いながら動き出した瞬間を見計らって、一気に懐へと飛び込む。

 

 

 これまでの神村であれば二度も三度も懐に飛び込まれたのであれば、対策として私に対して膝蹴りなどで〈応戦〉(カウンター)を叩き込んできていただろう。しかし、これでのキャットファイトの最中に既に奴の片足の関節は反撃できない程度に破壊している。

 

 それに奴が私にカウンターとして蹴り技を叩き込むには、安定した立位保持状態を放棄せねばならず。更なる攻勢によって体制を崩せば私はボーナス・タイムとして “伏せ状態” の神村を思う存分蹂躙することが可能となる。

 

 もちろん。そんなリスクを神村は取らないだろう。

 

 リスクを取っていたとすればこのような距離を取る選択などせず、とっくの昔に〈応戦〉(カウンター)が飛んできている筈なのだから。

 

 

 いいねぇ……その顔。

 

 尋問で輪切りにしたカルティストの表情に似て、最高に濡れてくる。

 

 

 彼女の中では私とは十分に距離を取っているつもりだったのだろう。それが懐に入られたことで交感神経を刺激されその瞳を散瞳させていた。

 

 きっと頭の中では、また関節を狙った一撃が加えられるとそう思っていることだろう。

 

 本人は咄嗟のつもりだろうが、必然的にヤツの意識はこれまで重点的に狙い続けてきた関節へと意識が向かい、その部位を護るような体勢に入る。

 

 さらに今の動きは1()()で急に接近してきたようにみえたはずだ。私としては、一歩踏み出した後にその足が地面へ着地する前に更にもう一歩踏み出しただけの……〈近接戦闘(格闘)〉における訓練をすれば誰でもできる歩法にしか過ぎないのだが。

 

 

——されど、違うんだよなぁ?

 

 

 防御のためによたつきながらも更なる距離を取ろうとするのを見計らって、奴のまだ健康な足の指先を爪を叩き割る勢いでストンプ〈キック〉で踏みつける!

 

 

「ゥッ!」

 

 

 からの〈跳躍〉(飛び上がり)顔面回し蹴りに対するお返しとして、ハイキックを顎めがけてパイルバンカーのように射出するッ!

 

 

「……チィッ!」

 

 

 だがまたもや私の攻撃は仰け反る形で〈回避〉されてしまった。

 

 

 だが〈回避〉されることは大した問題ではない。

 

 

 奴は今、私のハイキックを避けるために視線は晴天を映す天井を仰いでいる。しかも軸足は私の度重なる攻撃で重心を支えきれずに体幹はブレた状態で、だ。

 

 

 ならば、これから小柄な私が畳みかけようとしているコンボ技は見えない上に、〈回避〉など困難を極めるに違いないだろう?

 

 

 じゃあ、〈回避〉は神村(おまえ)にとって最悪の一手だな?

 

 

 仰け反らせたところで素早く射出した足を地へと着き、今度はその分厚い胸部装甲近くの胸倉と腕に〈組みつき〉、受け身を取らせる余裕すら与えず重心が揺らいでいる脚へ体重を移動させて、大外刈りの要領で固い地面へ“押し倒す。”(叩きつける。)

 

 そのまま仰向けに寝転がった(“伏せ状態”の)所を、顔面を踏み抜くように足蹴り!(〈キック!〉)足蹴り!(〈キック!〉)足蹴り!(〈キック!〉)足蹴ッ(ストンプ・〈キッk)——ガァッ!

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ神村は私の前に立ちふさがる。

 

 

 『お前も探索者か?』と疑ってしまうほどに異常なタフガイだが、それでも私が優位に戦闘は続いている。士気も、威勢も私の方が(まさ)っている。

 

 顔面を始めとする全身から流血している状況を考慮すれば人のことを言えた質ではないが、この邪魔者のいない戦闘によって今の神村の右半面の顔はジャガイモみたいになっている。

 

 やはり『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG(61頁)“肉体的な損傷(負傷)”新クトゥルフ神話TRPG(116頁)“通常のダメージの効果”におけるかすり傷状態は最高である。普段であれば貧血を引き起こし倒れてしまうような流血状態であっても、それが明確にSTRを消失するものでなければ失血による昏倒などあり得ないのだから。全身には痛みという無慈悲な暴君が全身を支配しつつあるが、初戦は人間の小娘による殴打によるものだ。これまでの怪我の要因に比べればなんてことはない。

 

 

 ここでふと、ふうま君とドドン太郎の方に視野を向ける。

 

 向こう側もまだ勝負がついていないのかと思う反面。ドドン太郎は相変わらずふうま君に何かをキャンキャンと武者姿で咆え、ふうま君はふうま君でさっきからこっちをチラチラ視線を寄こしていた。

 

 いくら、ドドン太郎が中二病で前置きのない男のコだからって、戦闘中によそ見したら危ないよと注意しようとしながら、私の返り血で真っ赤に染まった神村の胸倉を掴み彼女の後頭部を地面にたたきつけて——ぐぶッ! グゾガッ! わたじの喉仏に綺麗な正拳突きを! ご、呼吸がッ!

 

 

「ゴガァッ!」

 

「ゥらァッ!!!」

 

 

 神村ァ!

 

 

 テメェは!!!

 

 

 そろそろッ!!!

 

 

 いい加減にッ!!!

 

 

 沈めェッ!!!!!!!

 

 

 スパイダーマッがビルの壁に張り付くように神村へ飛び掛かる。

 

 

 勢いづいたまま奴の胸元に馬乗りになって押し倒す。

 

 

 胸倉を掴み上げ獣のような叫び声と共に裂けた口から鮮血を迸らせた威嚇行動をしながら、文明人の欠片もない原始人の如く激しい殴り合いに熱中する。

 

 

 殴り合いの最中で、見事に奴の鼻頭と人中部へ〈頭突き〉をクリーン・ヒットさせる。

 

 

 また痛みで動けなく(スタンと)なったところを、まるで振り子時計の要領で顔面を殴って(〈こぶし!〉)殴って(〈こぶしッ!〉)殴って(〈近接戦闘(格闘)ッ!〉)——殴り返されて、転がって、立ち上がって——

 

 

 ドドン太郎も!

 

 

 いつまでも遊んでんじゃねぇッ!

 

 

 野郎(ふうま)は片目しか見えてねえし!

 

 

 〈回避〉しかしてねえだろうがァ!!!

 

 

 ふうまをサッサと始末しやがれッ!!!

 

 

 片目の遠近法ハンデがあるのに勝てねえから!

 

 

 テメエは分家止まりなんだよォッ!

 

 

「あ、青空さん!」

 

なぶ、なぶでづか? ぶうまぐん?」

 

 

 ここここでふうまくんからの声がかかる。

 

 喋る度に私の口から血が散弾のようにビュッビュと零れ落ち、既に地面は血と砂利交じりの赤黒い舞台の上で、痛みで呂律が上手く回らないがまさかのふうま君からの私へと声掛けにどうしてかは分からないが、現代人の言語での反応をせざる負えなかった。

 

 

「ヴガア゙ア゙あ゙あ゙ア゙ッ゙!゙!゙!゙」

 

「ごぉえッ!?」

 

 

 その気がそれた瞬間。神村が私の背中にまだ動く方の膝で膝蹴りを入れてくる。

 

 まさにこれこそ、決定的な成功(クリティカル)と呼ぶべき蹴り技だろう。

 

 彼女の膝蹴りが背骨へとピンポイントで突き刺さり、電流が走ったかのような神経痛が全身に駆け巡る。

 

 瞬間的な出来事ではあったが痛みにはこらえきれず、私はわきに転がった。

 

 その隙に神村はよろよろと立ち上がって地面に乱雑に転がったバズーカ砲を手に取る。たぶん、私のメリケンサックの要領で棍棒として用いるのだろう。

 

 だが彼女は、私とドドン太郎。背後にいるふうま君ごと、撃てるほど冷酷ではない。

 

 しかし、これまで〈近接戦闘(格闘)〉でしか戦ってこなかったヤツが、そんな得物に頼るという事はヤツ自身も限界が近いという証明でもある。

 

 いいぞ。その硬派のヤンキーを気取った仮面を剥ぎ取った状態で私の手に勝利を収めることは、何よりも “憧れ” に近づける。

 

 

「ず、ずっと言おう、言おうと思っていたんだが……」

 

「ばい?」

 

 

 だからこそ神村もなりふり構わない攻撃——

 

 飢えた獣のように歯をむき出しに噛みしめて、バズーカ砲を金属バットのように振りかぶった攻撃に出てきたところ見計らって——

 

 こちらもふうま君の言葉に応じながらも死肉を漁るもの/墓所の食人鬼のような眼光を煌めかせて〈応戦〉(トドメの必殺)による尊厳破壊強制脱糞公開処刑腹圧性尿失禁を誘発させる尿管結石痛級メリケンサック〈パンチ〉を————

 

 

「さ、さっきから、モニター越しに鹿之助が見ているぞ!」

 

「え゙っ!?」

 

 

ゴシャッ!

 

 

 ……五車学園だけに。

 

 そんな効果音が顔面から聞こえた気がした。

 

 

 それが期末試験中の最後の記憶。

 

 

 ふうま君の言葉に固まって。〈応戦〉のタイミングがズレた所を神村さんのバズーカ砲が、私の顔面にフルスイングして、ぷっつり意識が落ちてしまった感じ。

 

 

 まさかあそこで鹿之助くんを出汁に使われるとは思わなくて——ほんの一瞬、ハイな意識が現実へと引き戻されてしまった。

 

 

 ……正確には、彼の言葉によって私が道中に見たモニターの光景を眺める鹿之助くんの姿を連想してしまったことも敗因の1つになる。

 

 

 

 

 ははは。チクショウ。

 

 

 やっぱり、磯咲さんが警戒した通り……——

 

 

 ふうま君が最大の脅威だっ——

 

 




~あとがき~
 まーた鹿之助くんを出汁にされてますよ。(現地時間の)約2カ月前、生徒指導中に4階から飛び降りようとして紫先生にやられたばかりでしょうが!
 いずれ『【仕来り】上原 鹿之助』みたいな回想の末路を辿りそうですね……。
 鹿之助くんを出汁にされたらオリ主、肉便器になっちゃうよ!
 
 今回は完全に、ふうま君の『気づきによって相手を罠にはめるのが得意』という状況に敗北した結果になります。
 オリ主は主に『情報収集を元に事前準備を経て、万全な状態から組み立てた作戦を用いて相手をボコボコにする・完封ことを得意とする(+多少の軌道修正可能)』タイプの参謀なので、実はふうま君みたいなを戦いの中で即変化すること・臨機応変に即動ける参謀タイプは実はすごく相性が悪かったりします。
(※クトゥルフ神話世界線は、黒幕が戦闘中に作戦を練って探索者を完封する流れは殆どない(その場合は戦闘せずに勝つ手法を取る)ので育ちの違いです)
 あれ?そういえば……オリ主…………お前……。

 さてはて正面からじゃ、リアリティSRの対魔忍には勝てない……。
 やはり対魔忍に勝つには不意打ち、奇襲、背後からの強襲しかないのか……!

 次回、16章の期末試験の勝敗、試験の合否などエピローグや小話を挟んで期末試験編、終了にします! それと執筆方法がモバイル版での執筆に伴い2022年最後の大規模修正を検討しています。
(幽姫兎兄貴に質問されて致命的な情報掲載落としについても気づけたので(16章最終話には必ず掲載するよ!))

 あっ。16章物語の展開の方で心配している閲覧者兄貴姉貴達!大丈夫です!
 オリ主のグループには、まだドドン太郎が居ますよ! 神村はボロ雑巾ほどに手負いだし、ふうま君は対魔忍の能力に開花していない落第生! まだ勝敗の希望は残されてる!

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