対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
はい。
これにてドドン太郎による試合結果が分かりましたね。
………
……
…
「————ハッ」
次に意識を取り戻して目が覚めた時には、あの白い部屋だった頃のVRシミュレーションルーム——ではなく。
この対魔忍世界における『青空 日葵』の両親の顔より見つつある病室でした。
神村による鋼鉄のバズーカ砲フルスイングによる顔面ホームランが後を曳いているのか、視界がまだぼんやりとしていて焦点が定まらず目頭を少し抑える。
耳もキーンという音が響いて、まるで自分から数メートルの地点で爆弾が爆ぜたかのような酷い耳鳴りだった。
五感の約半数が機能しなくても最低限わかることは、手には何かすごく温かくスベスベするものが手を包んでいること。いつの間にか全身が病院のレンタル衣服が着用されていること。そしてあれほど神村のバズーカ砲によって熱傷に加えた煤まみれとなった身体は、期末試験中ほど酷くはなくバックリ抉られ引き裂かれされて全身血まみれだった私の怪我も触れてみたところサックリと切れているだけであって、既に止血が済まされており大したことはないことがわかる。
では先ほどまでの光景はなんだったのか? 夢だったのか? それとも現実なのか? 先ほどまでの死に物狂いの
そのまま辺りを見回そうと上半身を起こして——
ボヨンッ!
「うわぁぁぁぁん!!! 日葵ちゃぁぁぁあああああん!!!」
「うわっ!?」
「ショックで死んじゃったかと思ったぁぁぁ! 大丈夫だよね!? ちゃんと生きてるよね!?」
まだ満足に視界が戻らない状態であったが、次第に収まる耳鳴りから聞こえてきたのは馴染みのあるハスキーな大声と、私よりも高い体温を持つ人物。私の腹部目掛けてモシャモシャとした髪と2つの柔らかい双丘が直撃する感覚。おまけに誰かが抱き着いてきたことはわかった。
この過度なスキンシップをしてくる人物は1人しか私は知り得ないのだが。
「え、えぇ。大丈夫ですよ? 陽葵ちゃん。ちゃんと生きて、ます……よ?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
時間と共に次第にぼやけて見えていた視界が少しずつ正常な状態まで戻って行く。
やがて普段からボワボワのくせっ気のある髪の毛なのに、更にアフロちっくに髪を膨れ上がらせて泣きじゃくる陽葵ちゃん。
ベッドサイドには試験中に熱でも出たのか、デコに湿布を貼り付けて心配そうな顔をした鹿之助くん。
病室の奥隅には静電気で髪の毛がボサつき、毛先が縮れて焦げている心寧ちゃんが隣にいるふうま君の右腕を抱き。
ふうま君を挟んで反対側では首筋を摩るまえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんがふうま君の左腕を抱き。
両手に華だが逃げ場のないふうま君の顔は、私の目覚めに顔が引きつっていた。
病室の出入り口の近くでは、ヒビの入ったメガネに煤までもが付着したおもちちゃんが病室内に滞在していることがわかる。
「あれ? 皆さんお揃いで……あぁ。鹿之助くんも」
「えと。あ、あぁ……。おはよう。日葵」
「おはようございます。……すみません。今から変な事を聞くのですが、まだ現実と夢の境が付いていない状態でして、期末試験ってどうなりました? 私の最後の記憶だと神……いえ、対戦相手から
そこか現実感の無い状況に頭の整理が追いついていないため、確認のため期末試験の顛末を室内の6人へと片目を瞑って後頭部を掻きながら尋ねる。
アレが夢であれば、『夢オチなんて、サイテー!』な展開だが、今まで私が見て来て体験してきた出来事がただの夢ならば笑えないし、これまでの経験則から考えれば十分に
「それは現実だな。青空さんが倒れた後、かみ……彼女が骸佐を倒すために俺の加勢に加わって俺達のチームが勝って期末試験は終了した」
ふうま君の言葉に頭を抱える。
自惚れでも何でもなくあの戦闘は、私がふうま君の言葉で平常心をかき乱されなければ勝てる戦闘だったのだ。
当初の目的である “憧れ” についても塗り替えることは叶わなかった。
『鹿之助が見ているぞ』だなんて、あの程度の言葉で冷静さを失ってしまった自分が情けない。
しっかりしてくれよ。釘貫 神葬。
鹿之助くんを出汁にされるなんて案件は、約2カ月前の生徒指導で紫先生からされたばかりだ。
この世界線は対魔忍世界なのだ。
わかっているはずだ。敵に弱みを握られることはこちらの生命線が危機に瀕することぐらい。
けれども、
……そんな展開の発展には陥らなさそうなのが不幸中の幸いかもしれないが。
それでも
約2ヶ月前は横隔膜をぶち破られたが、次は処女膜をぶち破られるかもしれない。
死ななければ処女膜ぐらい安いものでしか過ぎないが。
「あぁー……。ってことは、私達が再試験ですね……。うわぁぁっはぁぁぁぁ……再試やだぁー……。貴重な学生の夏休みを再試なんかで潰したくないー……」
しかし、今だけは後悔や安堵はそっと隣に置いといて、みんなの前でみっともなくそのままゆっくりと上半身を倒して後頭部を枕に沈める。更に両手で顔面を抑え嘆く。
悔しい。口惜しいことには変わらない。
試験に落ちたことも。敗北したことも。勝利を確信しながらドヤ顔で作戦を共有した上で失敗したことも。もう、恥ずか死しそう。
なにぶん今年の夏休みの御盆はまえさき市で人間風情に泣かされたえっちなお店を開いている蛇子ちゃんと会わなきゃならない強制イベントが控えている。
『敗北者は全てを失う』なんてアダルトゲームありがちな展開だが、そもそも対魔忍世界でごもっともな展開であり……。敗者に対する妥当な末路にうんざりした気持ちに支配される。
「あー……その件なんだけどな? えー……」
「大丈夫ですよ。日葵ちゃん。これは紫先生からのお話なのですが、今回の期末試験は勝敗はあまり重要視していなかったようです。団体戦でちゃんとチームワークが発揮されているかを重視していたみたいですよ」
「…………え?」
「うん! それは速水さんのいう通り! 日葵ちゃんのチームも1+1+1で3以上の成果をちゃんと出していたという結果が降りたみたいだから、日葵ちゃんも無事に期末試験:実技の部、合格だよ! 蛇子が保証しちゃう!」
非常に後悔する私に対して、ふうま君は言い出しづらそうに言葉を濁していたがそんな彼の感情を察知して恋愛クソ強女こと心寧ちゃんがふうま君の代弁をサラリと伝えて教えてくれる。
心寧ちゃんの言葉に反応するようにして、両手で覆った顔の半面を覗かせて様子を伺うが心寧ちゃんは何しろ彼女は表情が出ない。それが本当かどうか悩みどころではあったものの。続くようにしてふうま君を挟んで反対側に居る、まえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんが私の期末試験の合否と信頼できる優等生蛇子ちゃんの保証を付けてくれた。
「……ほんと?」
「うふふ、意外と日葵ちゃんって疑い深かったりしますー? 私達も勝敗に関わらずちゃーんと成果に見合った動きをしていたという事で、ちゃんと合格もらえましたよ? ね~?」
「ねー!」
両手で顔を覆うのを止めベッド柵越しに4人を見つめる私へ、おもちちゃんまでもがフォローを入れてくれる。
「はぁー……」
ここでやっと変な緊張で強張った体が溜息とともにほぐれて全身が脱力する。いま一度、顔面を両手で抑え、おしぼりタオルで顔面を拭いたときのように掌を下へと下ろす。
このまま安心感から2回目の意識消失してしまいそうになるが、身体の芯に力を入れることで意識を繋ぎ留める。
それに……私のお腹に顔を埋めて顔をこすりつけてくるじゃれつく犬のような陽葵ちゃんをこのままにするのは、普通に怖かったし。負傷してピリピリする私の左乳首が舐められそうな予感がしたし。
「そー……」
ペチッ
「あいた!」
そろりそろりとさりげなく乳房に伸びる手は軽く叩き落とした。
「その、それで……。大丈夫なのか? 身体の方は……さ? 日葵は初めてシミュレーションルームを使って、その上での模擬戦闘を行ったから、かなり体に負担がかかったと思うんだけど…………」
病室内のお見舞い客が一巡する程度に話した頃合いで、陽葵ちゃんの次に私に近い位置にいた鹿之助くんが声をかけてきた。
「……?」
「あー……えーっと、だな——」
如何せん理解していないような不可解な顔をしていることに気が付いたのか、あのシミュレーションルームでの負荷について説明を挟んでくれる。
どうやらあのシミュレーションルームでは、状況に応じてホログラムを実体化させるほかにも、負傷した際に過度な表現や描写を行うことで実際にはそこまで大した怪我や状態でもないにも関わらずさも致命傷であるかのように演出することができるらしい。
鹿之助くんの説明によって、病室から目覚めた時の私の身体に負傷がそこまで深手ではなく、脳処理ではあの期末試験での出来事が夢で片付けられそうになっている仕組みを把握することができた。
なぁーるほど? そういう仕組みだったわけだ。
これを過去の事象とすり合わせるならば、
内容は確か1人の人間からどれだけ血液をとったら人間は死ぬものかというもので……被験者をベッドの上にしばりつけ、その周りで「ヒトは三分の一の血液を失ったら人間は死ぬ」と話し合いをする。それから被験者の足の親指に切り傷を作り、用意してある容器へ被験者が血液がポタポタと滴っていることが分かるように細工する。数時間後、実験者は『どれぐらいになったか?』『まもなく1/3となる』と被験者の前で会話したところ、その被験者は静かに息を引きとったという話。
確かノーシーボ効果だったか。自分の「思い込み」が身体にマイナスの影響を及ぼす、否定的な暗示によって及ぼされる現象。
洋館事件で骨折した時に乱用しまくったプラシーボ効果とは真逆の原理。
私の場合は特に拘束などはされていなかったが、ホログラムによって過度な演出を視覚効果から経てしまったことで実際よりも極めて重症だと思い込んでしまったというわけか。
途中からいつ意識が吹き飛んでもおかしくない怪我を神村さんに負わせているのにやけに頑丈だなとは思ったんだけど……。そういうことだったのか。
すげーな五車学園。
設備が最新鋭設備過ぎて、やっぱ半世紀前の時代の私にはついていけない技術力だよ。
夏休みは遊ぶことばかり考えていたが、もっと技術に対する理解を深めるために学習の機会を設けた方がよさそうだ。
「……そういうことでしたか。説明していただきありがとうございます。あの時、確かに対戦相手から蹴り技を受けて頬が口裂け女みたいにバックリ切れたかと思ったんですけど……今、触ってもそんな傷が存在しないのはそんな仕組みによる演出があったからなんですね?」
「おう。あとあのシミュレーションルームで戦闘訓練をする際には、防護膜が個人に与えられるってのも聞いたことがあるぞ。……その、日葵と神村さんみたいな肉弾戦は演出だけじゃ軽減できないから打撃が直撃する前に空気の膜で衝撃を緩和するんだってさ」
「へぇー……?」
空気の膜。これはちょっと何を言っているかは分からないが、多分、磯咲さんで言うところの水鏡。私の感覚で言えば空気の防弾チョッキや通販プライムで付属しているエアークッション緩衝材のようなものだろうか。
完全に攻撃をシャットアウトできない辺り《肉体の保護》の魔術とは違う。……《セフデカーの皮膚》あたりが妥当か?
「ん?」
いや、ちょっと待って欲しい。
そんなことよりも……——
——空気の膜より、いま重大な事を口走らなかったか?
~あとがき~
パソコン閲覧用執筆から、モバイル版執筆に変更してから小説が長く見える問題。
二分割しました!
今年も残りわずかですし、最後ぐらい2~3日間隔投稿しようかと思います。
連投し対魔忍だ!
そして掲載忘れた疑惑の修正の件ですが、10章と12章には概要がありますね。ありました。他の章はまだ確認してないです。
次回は2022/12/29、20:37投稿です!