対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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~まえがき~
 私(の意識)は今、シンガポールにあります。




Episode114 『ごめん、慰労会にはいけません』

 

「わぁっ」

 

 

 上半身に乗りかかったままの陽葵ちゃんごと勢いよく再び上半身を跳ね起こして、鹿之助くんの顔を凝視する。

 

 現状の彼の様子は、そっと私から目をそらして左下を見ている。その顔はまるで禁忌の箱の中身を見てしまい隠し通そうとする子供のような顔だ。

 

 このままこの場に目撃者がいなければ、ベッドからも跳ね起きて助走をつけながら殴りかかってくるアームストロング上院議員BBのようにふうま君に駆け寄っていたのだが。……この場では目撃者が多すぎるために掛け布団を掴んだ〈こぶし〉を握りしめる程度で抑える。

 

 だが勢いを殺さず、そのまま首を4人側へ——

 

 特に実技試験の最中に(モニター越しに)鹿之助が見ているぞ!」と発言したふうま君の顔へと……。喧嘩番長シリーズの如く〈目星〉ビームが貫通するよう祈りながらメンチビームを飛ばした。

 

 渾身の上院議員〈パンチ〉は飛ばないが、私の目星はイクストリーム成功してスペシャル貫通させる自信はあるぞ?! おい?!

 

 ……。

 

 彼もまた私と視線を合わせず、目線を左下へと——

 

 

「…………」

 

「……」

 

「……えっと。私の期末試験。試験室外から眺めていたひとー…………?」

 

 

 少し震えたような声で自身の左手を挙手する。

 

 この部屋に滞在しているふうま君を除いた5人に対し、あのガチバトルを目撃した、してしまった人物を自己申告で炙り出そうとする。

 

 

「はい!」

 

「はぁ~い」

 

「はい」

 

「……はい」

 

 

 真っ先に陽葵ちゃんが目をキラキラさせながら挙手する。

 

 続いておもちちゃんがゆるふわふわしながら手を伸び伸びと持ち上げ、続いておもちちゃんと陽葵ちゃんの様子を見てからそっと心寧ちゃんが。最後に蛇子ちゃんが小さく手を上げた。

 

 ふうま君は当事者だった為、挙げようが挙げまいが現場に居合わせたので……。

 

 鹿之助くんは——アッガイ。

 

 

Goddamn.(ガッデム。)

 

 

 ここで挙手しないのは彼なりの優しさか。それともドン引きしているのか。

 

 でも、もう。

 

 蛇子ちゃんに腕を腕を握りしめられての行動だったけど……ふうま君が対戦相手の名前を伏せていたのに、鹿之助くんは()()()()()()()()()()()()()()()って口走っている時点で……つまり——

 

 ふうま君のいう通り、私の実技試験を見ちゃってたんだよね?

 

 

そうだよね?

 

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

 

 病室を包み込む沈黙。

 

 

「……」

 

「…………どのあたりから見てた?」

 

「……」

 

 

 スッ……。と。

 

 鹿之助くんとふうま君のように目を逸らし、言いにくそうな顔をしたまえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃん。

 

 あ。

 

 もう。

 

 これは……。

 

 絶対、ロクなタイミングじゃない。

 

 

「えっと——」

 

「えっとね! 私達が実技試験を終えた後からだから、私が日葵ちゃんの雄姿を見始めたのは弓走ちゃんを最高の笑顔でボコボコに叩きのめ(オラオラオラーッ!)してから、一撃でノックアウト(しょーりゅーけん!)したぐらいの時からかな!」

 

「あっ——陽葵ちゃ……ん…………」

 

 

 恋愛クソ強女こと心寧ちゃんが私の心情を察して、陽葵ちゃんの正直な一言を発する前に言葉を発そうとする。

 

 しかし遺憾ながら、それよりも先に陽葵ちゃんは心寧ちゃんの言葉を掻き消す勢いと大声で、具体的な試験内容の一部を手ぶり身振り付きで意気揚々とを話してしまった。

 

 

「……」

 

 

 うーん。この。

 

 うーん。

 

 

「!?」

「?!」

 

 

 その発言で真っ先に反応したのは他でもない、鹿之助くんと蛇子ちゃんであり……。

 

 この顔は洋館事件以来の学園復帰後。教卓の暗証番号を解読したときに見せてくれた鹿之助くんの驚愕した表情と瓜二つだった。

 

 2人はその顔のまま、発言者である陽葵ちゃんの顔を見た後に私を凝視してくる。

 

 

「……」

 

 

 ふうま君は頭を抱えたそうにガクリと首をもたげる。

 

 

 OK. OK.

 

 今や私の表情は『素人は黙っとれ——』と、あの表情だが。

 

 ……これで私の友人たちが、どこからあの実技試験を目撃していたのか大凡の目安はついた。

 

 おそらく真っ先に私の実技試験の見学に来たのは、陽葵ちゃんと心寧ちゃんとおもちちゃんのグループだ。

 

 鹿之助くんと蛇子ちゃんの反応から察するに、私が弓走をフルボッコにした光景は見ていないらしい。でも陽葵ちゃんのおかげで無事に『今日』『試験会場で』『私が』『弓走に対して』『暴力行為を』『オラオラッシュで激しく致したこと』が判明してしまったな……。

 

 うん。

 

 これは見事に状況説明にふさわしい5W1Hだ。

 

 いいね。

 

 社会人になってもそのスキルは役に立つからね陽葵ちゃん。

 

 じゃあ、次は私と一緒に発言のTPO——Time()Place(場所)Occasion(タイミング)を覚えよっか?

 

超 Very bad.(チョベリバ。)

 

 

「…………」

 

 

 頭が重力によって下へと引き寄せられる。ポケモソの首をもたげるキマワリみたいになる。

 

 再び上半身をリクライニ~ング、ゴー……。

 

 正面から見たチベットスナギツネのような虚無な顔で、無言のまま白い天井を見上げながら今一度両手で顔面を覆う。

 

 やっぱ化けの皮って、こうやっていずれは剥がれるんだな。

 

 はい。完全に半壊していたネコの皮が崩壊しましたー。

 

 もう修繕不可能ですぅー。

 

 

「あっ。あぁ~! でっ、でも、蛇子は! 蛇子は! 日葵ちゃんがまえさき市で鹿之助ちゃんを助けられるだけの力があるってこと今回の件を通して、思ったよ!? 誰かを護るために強くなることはとても大事なことだよね! ねっ!? 速水さん?!」

 

「え、えぇ。日葵ちゃんの忍耐力に神村さんと十分に渡り合えるだけの実力が備わっていたからこそ、私達は誰一人として欠けることなくあの洋館から脱出できたわけですし。あの期末試験の出来事は日々の培ってきた努力と訓練の結晶ですからそんなに悲しむことはないと思います」

 

「うんうん! そうだよね!? 速水さんもそう思うよね!?」

 

「はい。むしろ実力が最大限に発揮されていて……確かに実技試験としては負けてしまってはいましたけど……。あっ、磯咲さんからも事情をお伺いしたのですが……本作戦は、また日葵ちゃんが考えたんですよね? であるならば不利な状況を一転させて相手を逆に追い詰めたことが合格点に至ったと考えられるのではないでしょうか?」

 

「そうそう! 隙を辞さぬ二段構えの囮作戦とか、びっくりしたよね! へ、蛇子はびっくりしたよ!? 実は日葵ちゃんは囮なんかじゃなくって、一般人なのに実は実働部隊で攻撃対象から逃れることで勝利への道筋をつくったところとか?!?」

 

「はい。神村さんの爆炎で生じる煤を利用して、全身に黒色迷彩を施して完全に気配を消し、弓走さんの背後から攻撃に加わった際には二車さんや磯咲さんもある種の囮として機能している二重作戦に驚きました。日葵ちゃんのおかげでそういう戦術もあるのかと私達は学ぶ機会を得られましたし……」

 

 

 ふうま君をあいだに心寧ちゃんと蛇子ちゃんが、彼ピ争奪戦を放棄し協力するようなフォローが地味に深く刺さる。

 

 ごめん、そのフォローは響きません。いま、絶望の淵にいます。この友の認識を南北に分断する原因を私は作りました。……本当は、あの頃(半壊した猫被れた頃)が恋しいけれど、でも今はもう少しだけ、意気消沈をします。私の作ってしまったこの要因も、きっといつかみんなの理解を乗せるから。

 

 

「しっ、鹿之助ちゃんもそう思うよね!?」

 

おっ……お、おう! 俺は、俺は日葵ができる奴だって知ってるけど、こうした形でも分かりやすい形で皆に実力が伝わったのは良いことだったんじゃないか? 俺さ、()()神村さんに対して恐れずに立ち向かって張り合っていた日葵はすげーと思ったし! 観戦していて、めっちゃ勇気もらえたぜ?」

 

「陽葵ちゃん…………?」

 

「うん!私も!私も!日葵ちゃんすぅぅっっっごく!カッコよかったよ!私達には思いつかないような戦術とか編み出してたし! さすが、私が惚れた日葵ちゃんなだけあるぅって思った! ねっ!?おもちちゃん!」

 

「はい~。日葵ちゃんのこと、紫先生も『次回の模擬戦の訓練相手は青空で決定だな』とか~。『動きが洗礼されていて良い教材になる』とか~。『途中で戦法を切り替えた柔軟さは学ぶべきものだ』とかって~、称賛してましたし~。そんなに嘆かなくても大丈夫ですよ~?」

 

「…………」

 

 

 蛇子ちゃんと心寧ちゃんが私を励ますために、私と最も親しい関係上にある鹿之助くんと陽葵ちゃんを扇動してくれる。陽葵ちゃんは心寧ちゃんの圧に気づいていないかのようないつもの調子で私を励まし、鹿之助くんは蛇子ちゃんに促されながら、気にして無さそうな振る舞いをしてくれている。

 

 おもちちゃんも紫先生の発言をピックアップしてくれて……——でもそれは褒められているのかな? 私のやったことは、そんな模範的な教材になるような動きはしてないと思うんだけど。

 

 もう落ち込みムードに入っていた私は、だからこそ……

 

 

「……具体的に、良かったと、思うのは、どんな、ところ?」

 

 

 やや震えたような声になりながら、2人へ具体例を——

 

 

「真っ黒こげになりながらも恐怖に屈せず、上半身全裸のまま男らしく正面突撃したところ?」

「弓走ちゃんで神村ちゃんの砲撃を防ぎながら、1対1で戦うときは正々堂々と戦ったところ?」

 

「「」」

 

 

 蛇子ちゃんと心寧ちゃんの声にならない悲鳴が聞こえたような気がする。

 

 エネルギー波の爆発をモロに受けたコックカワサキみたいな顔になっている。

 

 きっと2人としては、私と最も仲の良い鹿之助くんと陽葵ちゃんに最大限のフォローをしてもらって元気づけるつもりだったのだろう。

 

 されども、その私と最も親しい2人はデリカシーに欠けた男の子正直で素直な女の子なのだ。

 

 心寧ちゃんや蛇子ちゃんのようにオブラートに包みながら、フォローなど器用なことができるはずもなく——

 

 疑問形になりながらも率直な感想を私へと教えてくれた。

 

 スローモーション撮影のような動きで、再び両手で顔面を覆い隠す私のご尊顔。

 

 

「……みんな。今日はお見舞いに来てくれてありがとう。私はもう大丈夫なので、しばらく一人にしておいてください」

 

 

………

……

 

 

「わァ……ぁ……」

 

 

 誰もいなくなった病室でちいかわみたいな泣きに入ってしまう。

 

 もうしばらく五車学園にはいきたくないです。

 

 

 次回。

 青空 日葵の五車学園、不登校編! おたのしみに!

 

 

 …………つら……まぢ、むり。

 

 




~あとがき~
 あぁ^~ シナリオクリアしているのに正気度の削れる音ォ~!(石臼を回す音)

 次回、いつものEpisode-EXで小話を展開して本章16章も終了としたいと思います!
 ですが、このままでは今年中に16章を終わらせるという納期が間に合わないので、EX小話は2022/12/31/23:59に公開したいと思います!
 作者は仕事納めが無くなったよ。

~評価コメント返信~
『20文字様』
■ 特異な強さで勝ったり負けたり予想がつかなくて、面白いです
◇ 楽しまれていらっしゃられるようで何よりです! 勝敗に関しては対魔忍RPG(原作)を見習って知略や策略を練りその上でどちらが勝利を掴むのか、オリ主が思考を張り巡らせて、作者はダイスの女神へ祈りながら執筆を行っています!
  また個人的な性癖になるのですが、あまり特異な異能の強さで無双する展開のお話は作者が好みじゃなかったりするので……(状況によっては無双好きな時もありますけど、でもダイスのギャンブル性は外せない絶対要素)
  年明けも戦闘系のお話を描いていくのでどうぞお楽しみに!


~生還報酬~
 正気度報酬 なし
 新クトゥルフ神話TRPG 選択ルール:幸運ポイントの回復(95頁)
 成功した技能の成長ロール

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