対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
今、私達は五車学園の校庭と校舎、プール設備、森林地帯がシチュエーションとして設定されたシミュレーションルームで、私達はゆきかぜちゃんのチームに索敵係の感知がある状態でも今どこにいるのか分からないような森の最深部に潜伏しているところ!
まだ試験は始まってないけど、陣取りは大事だもんね。
木陰に潜むなんて、陽遁の術者として自分の忍法が最大限が発揮できないかもだけど今回は陽動じゃなくて消耗戦だからたまにはこういうのもいいよね!
「では、まずは誰からやりますかぁ~?」
「うーん、やりやすい順番とか索敵の脅威を考えた時、やっぱり最初は上原くんかなぁ」
「ゆきかぜさんを最後に残すとするなら、上原さんを仕留めた後は相州さんですね?」
「うふふ~了解です~。そうです~。私の奥義で頭が痛くなっちゃったら、この鎮痛剤を使ってくださいね~」
「わぁ! ありがとう!」
「使わせて頂きますね」
………
……
…
「では、これより組み合わせ16組目の期末試験を開始する!」
館内放送で響く蓮魔先生の号令と共に私達は森の縁に近づいて3人を偵察する。
幸いにも3人はばらけた様子はなく、私達と同じように3人固まった状態でまずは全方位にむけてこちらの位置を探っているように見えた。
「うん、やっぱり」
「何がやっぱり何ですか?」
「上原くんを見て」
「?~」
私の視線誘導に2人は上原くんに注目する。
今、私達の視点では彼は私達の居場所の特定に勤しんでいるのか、ゆきかぜちゃんと蛇子ちゃんの後ろで艶のある長い髪の毛を静電気で浮かせて電遁の術でこちらの居場所を探っているようだった。
「髪の毛が持ち上がってるよ。あれはね、きっと電遁の術が発動している証拠」
あの動きは、日葵ちゃんのクラスがプールの授業だった日で見た光景と同一の現象だ。
制服姿のまま2人並んで見学席で何かを楽しそうにおしゃべりしていたのをよく覚えている。できることならば、私もあの2人に混ざりたいとも思えるような微笑ましい光景だった。
上原くんも日葵ちゃんに好意を抱いているのか、日葵ちゃんがそっと横に座ったり、首を傾けて彼の頭に頭を乗せた時に顔を赤らめ、まるで少女人形のような御淑やかな座り方で照れていた。
その時に彼は意図をしてか、してまいかはわからないけど、その髪をふわふわと持ち上げて電遁の術が発動させているのを私は見逃さなかった。
「! 見つかった!」
やがて上原くんが私達の潜伏場所に向けて指をさす。
バチバチバチバチバチバチッ!!!
その場から離れたところをゆきかぜちゃんの雷遁が襲い掛かってくる!
ゆきかぜちゃんの雷遁の術を実際に体験するのは今回が初めてになるけど、これはすごく凄まじい高威力!
ライトニングシューターから放たれた雷の弾丸は、たった1発だけなのに私達が潜伏していた茂みを真っ黒こげに焦がしちゃった!
「追撃が来ます! 私が囮になるので、2人は遮蔽物の多い深部への移動を!」
「りょ~かぁい~」
「気を付けてね!」
「ふふふふ~。それじゃあ、ぼちぼち発動させちゃいましょうかね~!奥義“空集虚散”~!」
ここで心寧ちゃんと別れて、ターゲットを分散させる。
完全に日葵ちゃんの戦術をマネするのなら、本当は分散しないで私達も固まって行動したほうがいいのかもしれないけど、今回はゲリラ戦法に出ること。めぐみちゃんの風遁の術を全力で使用することを考えた場合、分散した方が安全なのだ。
めぐみちゃんは心寧ちゃんと別れた後にあとに即ゆきかぜちゃんの周囲、校庭一帯に“空集虚散”の負荷を付与してもらう。木陰の隙間からしか彼女達のチームの姿は見えないがあの場にいる3人の誰も彼もが頭を抑え始めた。
めぐみちゃん曰く、“空集虚散”は周囲の気圧を弄る忍法らしいが、あれは頭痛が痛そう。
でも森の縁でゆきかぜちゃんの攻撃を攪乱している心寧ちゃんへの射撃が僅かに鈍って、やや追い詰められ気味だったけどなんとかダウンしないで逃げられたみたい!
「——!」
「——————。———」
「————」
何か遠くで3人が話しているのが聞こえる。何を言っているのかはよく分からないけど、また上原くんの髪が静電気で少しふわふわしているから、忍法でこちらの居場所を特定しようとしているのかも。でもやっぱり “空集虚散” が効いてはいるのか、先ほどまで程より私達の居場所の特定は正確じゃない。頭の横を押さえながら見当違いの森の中を指さしている。
だけど……。
「いたっ!」
「喰らいなさい!」
わざと心寧ちゃんはその上原くんが指定した場所から顔を出して、ゆきかぜちゃんの雷遁と蛇子ちゃんのタコ墨の攻撃を発動させる。もちろん、反射神経と移動能力を強化する迅遁の術の使い手である心寧ちゃんが、めぐみちゃんの “空集虚散” の負荷を受けた2人の攻撃が直撃することもなく、回避に専念してすべての攻撃を避けていく。
特に蛇子ちゃんのタコ墨は五車では有名で、体に付けば魚臭さが三日三晩消えないと恐れられているから、一回でも被弾しちゃうと一生その吸盤センサーで追われちゃうので入念に回避し、またその墨を踏みつけてしまわないようにその場所には近づかないようにしてくれていた。
時々、蛇子ちゃんが見当違いな場所に墨の攻撃をしているけど、踏んだら最後どこまでも追いかけられちゃうので遠方で見守っている私が心寧ちゃんに指示を出してその場所の墨を踏んでしまわないように電話で連絡して報告している。
私達の作戦はうまく機能していた。上原くんに索敵結果を誤認識させながらも、あえて心寧ちゃんがその場から姿を現してはゆきかぜちゃんと蛇子ちゃんに攻撃を入れさせる。2人は少しずつだけど、忍法を使っていく。
これを何度も。何度も何度も繰り返す。
「——!——!」
「——————。————!」
「————!———」
やがてまた3人が何か話しているのが見えた。攻撃も止み、煩わしい雑音もないから耳をそばだてて何を話しているのか掴む。
「さっきから速水さん、蛇子達に姿を現すばかりで一方に攻撃して来ない……。一体どういう意図なのかな? 今回は攻守交替の防衛線じゃないのに……」
「もしかして……! 鹿之助! もう2人の位置は!?」
「か、変わってないぜ? さっきと、同じ場所、でも森の奥に、隠れてるな」
「…………てっきり、奇襲の為の陽動だと思ったのだけどそれも違うみたいね」
「となると奥に隠れた2人に意識を向けさせつつ、さっきから攻撃で姿を現している速水さんが攻撃の機会を伺っているのかな? ……ところで鹿之助ちゃん、大丈夫? 結構辛そうだけど……」
「へ、へっ! おれは、大丈夫だぜ! こ、こんな頭痛ぐらい! 俺は2人みたいに強くないから、ふうまが俺に教えてくれたレーダー役として、2人の役に立たないと……。それに、これくらいは役に立って、今度は俺が日葵に迫る危険を素早く察知して事前に護れるぐらいに強くなりたいしさ……」
「うふふふふっ。ならもっと頑張らないとだね! きっと今の言葉、日葵ちゃんが聞いたら絶対に喜ぶと思うよ!」
「へ、へへっ」
「ねぇ。その『日葵ちゃん』って “5月に編入された例の転校生” よね。あのふうまを含めていつもつるんでるけどどんな感じの子なの?」
ゆきかぜちゃんのその質問は私も気になって、隣のめぐみちゃんに術を弱めて貰って、心寧ちゃんには一旦陽動を中断させる趣旨を電話で伝えて耳をそばだて続ける。
鹿之助くんが日葵ちゃんに対してどう思っているのか。恋敵になるのか、それとも日葵ちゃんが一方的に上原くんのことを好きなのか。見極められる判断材料になりそうだもんね!
すごく気になるんだもん!
「蛇子の認識だと、日葵ちゃんは
「お、おれは
「ちょっと? 鹿之助ちゃん?」
「いや、でも、だってさぁ?」
「じゃあ鹿之助はどう思うの?」
「うーん……。俺が良く知る日葵はトラブルメーカーで好奇心旺盛? 遠慮のない行動が大胆不敵すぎて扱いに困っちまうヤツ……? 割といつも騒ぎの中心には日葵がいるな。でも、俺はそんな日葵のことが嫌とか苦手じゃなくて……蛇子の言う通り知識が豊富だから勉強の教え方とかうまいし、発想と機転の転換が奇想天外だし、俺の窮地にはいつも日葵が守ってくれて……。…………あと、こんなことを言うのは恥ずかしいんだけど……。どこからともなく颯爽と現れてゲームの騎士みたいに助けに来てくれる俺の尊敬できるヒーローだと思ってる、かな? もしも一緒に任務に出られるなら、
むむむっ。
ごまかしているけど、それは上原くんも暗に日葵ちゃんが “好き” って言いたいのかな!?
私は暗にじゃなくて明に押していくタイプだけど、それぐらいの恋の動きは読めるよ!
上原くん! 日葵ちゃんについて考えて話している時ずっと右の口端と頬の間を右手の人差し指で掻いてるもんね!!! 顔も紅潮しているし!
なんだかんだ言いながら日葵ちゃんのこと意識してるね~~~!!?!!
「…………ふーん。そうなんだ」
「そんなことを聞いてくるってことは、ゆきかぜちゃんも何か日葵ちゃんのことで気になることでもあるの?」
「まぁね。あの子とは1度、転校してくる前。中等部3年生の時に会ったことがあるから」
「えっ! そうなのか!? 何処で出会ったんだ!?」
「ねぇねぇ! その時の日葵ちゃんってどんな感じだったのー?!!!」
「……そうね。ちょっとぐらいなら話してもいいかしら……。あれは殲滅任務に従事していた時の話よ。今でも忘れもしない……。彼女は、対魔忍からテロリストを護る盾として活用された人質で——」
話し込むゆきかぜちゃんに蛇子ちゃんと上原くんが顔のパーツをすべて真ん丸にしている。
私も顔のパーツが真ん丸になっちゃうっ!
まさか日葵ちゃんゆきかぜちゃんと面識があったなんて!
でも、あの日葵ちゃんが人質になるなんて想像できないなぁ……。
「えっ、え。そんな状況。どうやって助けたんだ?」
「本当は試験に集中しなきゃだけど、蛇子もかなり気になる」
「助けてない」
「「「え?」」」
ぴしゃりと発したゆきかぜちゃんの言葉に、2人と同じく私も固まっちゃう。
えっ。助けてないって、それはどういう意味なのかな……? でもでも日葵ちゃんはテロリストに人質として捕まって居たんだよね?
あ、そっか! 風の噂でその時はアサギ先生も出たって聞いたから、アサギ先生が日葵ちゃんを助けたのかも! 最強の対魔忍なら人質救出も余裕だろうしね!
今すぐにでも森の中から飛び出して3人の話に混ざりたいけど、絶対に集中砲火されちゃうし話に混ざるどころか話が中断しちゃうと思うから今は盗み聞きするだけで我慢する。
「彼女は自身が人質として囚われた時。私も、さくら先生も、アサギ先生だって動けない中で “自分の命と引き換えに” 隙を作ったの。道中で拾ったらしい拳銃を隠し持っていて、真正面からテロリストへ目と鼻の先の距離で撃ち合ってね。ま、事前に蛇子ちゃんから御守りとして渡されていた治癒の墨で一命を取り留められたんだけど」
「えっ……え、えぇ……?」
「ひ、日葵ちゃんって五車学園に来る前……。中等部の頃から、はちゃめちゃだったんだ……」
「それから1年後に学園に転校してきたって聞いて、ある意味私も助けて貰ったような形になったからお礼を伝えに行こうと思ってたんだけど……アサギ先生から『会っちゃ駄目』って言われてたからいつも遠巻きで見ることしかできなかったの。ふぅん。2人から見て彼女はそんな子なのね」
えぇぇぇ???
思わず上原くんと同じ反応を返しちゃう……。
アサギ校長先生が助けた訳じゃないんだ……。
でもちょっとわかったこともあるかも!
それが理由で日葵ちゃんの居るところでは、ゆきかぜちゃんが居なかったんだ!
やっぱり日葵ちゃんはすごいや!
神村ちゃんにも言われてた自分の命を大切にしないところが目立っちゃうけど、転校してくる前から窮地から脱しちゃう実績を持ってたんだね!
「ま。要人保護の目的で五車町に
「う、うん……対魔忍なら、ね……」
「そ、そうだな……対魔忍、ならな」
あんなツンツンつっけんどんなこと言ってるけど……。中等部時代の実地任務での実績『殲滅作戦』で日葵ちゃんに助けられているなら、実は『ヨミハラで4人の一般人:救出任務』でも助けられていたりしてね!
『救出任務』での出来事はあまり喋りたがらないから詳細は知らないけど!
成功した裏には日葵ちゃんが居たりなんかして。あははは!
そんな偶然あるわけないよね!
ところでそっぽを向いちゃったゆきかぜちゃんの背後で、蛇子ちゃんと上原くんが何か神妙な顔でアイコンタクトを取り合っているよ!
なんだろう? 何か今のツンデレ発言で気になることでもあったのかな?
「さて、休憩時間はこれぐらいにしましょ。鹿之助、レーダーの反応は?」
「あ、えと、さっきと同じ、かな」
「蛇子ちゃんの方も休憩してどう? まだ墨は吐けそう?」
「うん。墨が少しでも当たれば、蛇子の吸盤で鹿之助ちゃんのレーダーのお手伝いができると思って連発したんだけど……今の休憩でまだ撃てそうかな? いまのところ全部回避されちゃってるけど十数回は放てそう」
「よかった」
「——な、なぁ。もしかしてなんだけどよ。さっきから隙を見せているのに攻撃して来なかったのって……こっちに、ゆきかぜもいるし……。勝てないことを見通して日ノ出さん達、引き分けに持ち込もうとしていたのか……?」
「あるいは蛇子達の忍法切れを待っていたのかも。疲弊したところで攻勢に打って出てくる算段とか」
「考えられるわね。要するに今回の実技試験。勝って合格するには待っているだけじゃダメってことね」
あっ!
今のわざとだったの!?!!
私としては日葵ちゃんの話をしていたから、様子見していただけだったんだけど!
でも、やった!
こっちの意図が上手くゆきかぜちゃんのチームに伝わった!
でも忍法切れ狙いの作戦がバレちゃってる!
だけどゆきかぜちゃんを孤立させちゃう作戦は分かってないみたい!
これは無事に第二段階に移せそうだし、ゆきかぜちゃんがこっちを見てきている辺り、森の中に引き込めそう!
「うわぁーはッはッははー。ばれてはしかたなーいー。そうだよー。時間制限を越えたらユキカゼちゃん達も私達と同じ失格なのだ——」
「そこっ!!!」
バチバチバチバチバチバチッ!
「うひゃぁっ! て、てったい! 撤退! 心寧ちゃんもポイントAまで逃げて!」
ここで心寧ちゃんの案である陽動を更に放つ。根の葉もない根拠のない発言で、本当に時間制限があるかどうかはわからないけど……。不安を煽ればきっと私達の目的はうまく果たされる。
少し休憩して忍法の回復をしていたのはこちらも同じだからね! 日葵ちゃんの話をしながら休憩しているとき、めぐみちゃんの忍法の負荷を軽減してこっちも回復に努めてたし!
状況としてはほぼほぼ同じなのだ!
ダメ押しで私も心寧ちゃんに対して指示をいれる。たぶん、これで3人は攻撃が届かなくなっちゃうから森に侵入するほかに選択肢がなくなるはずなのだ。
『まだ上原くんの索敵が正確に機能している』、『休憩もしたから大丈夫』という誤認識を抱えた状態で。
………
……
…
先ほどの煽動がうまく行ったおかげでゆきかぜちゃんのチームは私達を追って森の中に入ってきてくれた。
森の中にもめぐみちゃんの奥義忍法である “空集虚散” が校庭よりも微量だけど撒かれている。これは私達にとっても軽微の頭痛を誘発させることになっちゃうけど、めぐみちゃんが忍法の対策である頭痛薬を事前に配布していたことで症状は特にない。
いざとなれば、私の陽遁の術で高気圧を発生させちゃえばいいからね!
私の場合はゆきかぜちゃんや神村ちゃんと違って、陽遁の術を発動させちゃうと潜伏する筈なのに輝いちゃうし、攻撃として火の玉を放っちゃうと同時に忍法切れで気絶しちゃうから最終手段だけどね!!!
私はめぐみちゃんと解散し、心寧ちゃんと合流する。
めぐみちゃんは倒されちゃうと奥義忍法を発動できなくなっちゃうから、今は最深部で来るべき時を待ってもらっているところかな。
彼女達が森に侵入してから、先ほどよりも頻回に姿を見せる心寧ちゃん。
それを「逃げるなぁ!」と叫びながら追いかけるゆきかぜと蛇子ちゃん。私はそんな攻撃と追跡に専念している2人の後を必死に追いかけている上原くんの背後からこっそりとついていっている。
身体能力の高い2人は『心寧ちゃんを追うこと』と『時間内に私達を倒す』ということに夢中で、先ほどまでよりも上原くんへの気配りがおろそかになっていた。
レーダーとして活躍していた上原くんも先ほどから心寧ちゃんの姿を常に捉えていることもあるし、2人へ私達が今どこにいるのか伝える必要が無ければずっと走り続けていたこともあって、息は絶え絶えになってうまく自分の状態を伝えることもできないみたい。
そしてチャンスはやってきたよ!
やったー!
~あとがき~
Episode-insideにて、あらすじの宣言回収!
~評価コメント返信~
『森田雅也様』
■ 面白かったです。 これからも頑張ってください!
◇ 応援ありがとうございます! 今後も執筆を続けていきたいと思ってます!
『ひまじんまるひ様』
■ すごく面白いです。続き楽しみにしています
◇ 135話というとこのひとつ前……! 丁度作戦会議している時ですね!
ありがとうございます! これから『雲隠れゆきかぜちゃん孤軍奮闘ヘロヘロ大作戦』を始動していきます!