対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
勝鬨とは
勝った時に、一斉にあげる喜びの声。
「16組目の勝者。水城、上原、相州」
蓮魔先生の淡々とした声のおかげで、ぼんやりとした意識がスッと現実へと戻される。
身体がまたちょっぴりしびれているような感覚があるけど、ゆっくりと上半身を起こして片膝を立てながら周囲を見渡せば、周囲の景色は『何も設定されていない真っ白な空間のシミュレーションルームの冷たい床の上だった』。
日葵ちゃんなら今の状況をこんなふうに考えて描画しそう! そんなことが思い浮かぶ。
おもちちゃんと心寧ちゃんの方にも視線を向ける。2人は髪の毛が焦げて縮れたまま、ゆっくりと立ち上がって私の方へと歩いてきていた。私の髪の毛もこころなしかボワボワ……ライオンの
2人が到着するまでの間に、ゆっくりと大の字に寝っ転がって真っ白な天井を見上げる。
あーあ! 負けちゃった!
でも、やっぱりゆきかぜちゃんは凄いや!
あんなに最大出力みたいな電力を出していたのに私達を殺さない程度には加減できたなんて!
シミュレーションルームの演出効果もあるんだろうけど、ちょっとしびれた程度ですぐに気絶状態から復活できたということはそこまで電圧が高くなかったという証明でもあるよね!
つまり、これって……。
ある意味では、私達はゆきかぜちゃんを追い詰めるところまで追い詰められたんだ!
さて、まだ気絶状態にある蛇子ちゃんに寄り添う上原くんに、汗びっしょりのゆきかぜちゃんが近寄って行って蓮魔先生に医療班を呼ぶように伝えている。
「あはは……」
「陽葵ちゃん……」
「どうやらゆきかぜちゃん、まだ力を温存していたみたいですね~。完璧な演技に騙されちゃいましたぁ~……」
私の元までやってきた2人はフラフラだ。
だからもう一回上半身を起こしてから笑いながら2人を出迎えて、試験中におもちちゃんと心寧ちゃんからやってもらったように手を伸ばして、手を掴んで2人をその場に座らせる。
当然だけど、負けちゃったことに対して2人は残念そうだ。
私も今回は勝てると思って、少し浮足立っちゃったことも裏目に出ちゃったっぽい。
「うん……でもさ。今回の一件。逆に考えてみない?!」
「「?」」
「私達は最後まで誰一人欠けることもなく、全員で五車学園1年生学年トップで、実地経験も豊富なのゆきかぜちゃんをあそこまで追い詰められたんだよ!? これは誇れるべきところじゃない?! 確かに試験の試合では負けちゃったけど、私達は今回の試験を通して『対峙する相手の中には、自分が弱っていると見せかけて本当は余力を残している存在もいる』ってことが学べたから、今回の試験は私達の成長の大いなる一歩に繋がったと思うんだ! 何も成果を得られない状態と比べれば、私達は勝負には勝ったはずだよ!」
「「…………」」
だから2人を励ませるように、前向きに捉えて敗北を慰める。
「……うふっ」
「……ふふっ」
「うふふふふふふ!」
「ふふふふふふっ」
2人の顔が悲しげな表情から、じんわりと明るい表情になる。
「……そうですよね。私達は
「そうだよ!」
再試験にはなっちゃうけど、今回の試験は悪いことばかりじゃなかったもん!
「また頑張ろう?次は再試験だけど、再試験で合格すればきっと問題ないよ!」
「はい。ゆきかぜさんを相手に、私達の力でここまで善戦できたわけですから。再試験がどんな相手でも怖くないですね」
「再試験も同じメンバーだと良いですね~! この役割分担方法で再チャレンジです~!」
「えっ! じゃあ、また日葵ちゃん流の作戦でいいの!?」
「いいですよ~! いいですよ~! これだけの打開力があるなら次も是非、採用して考えてくださ~い!」
「じゃあ!また再試験の時は日葵ちゃん流に考えてみるね!」
「あっ。ではこのあと、今回の作戦を日葵ちゃんにお話してみて……。作戦についてのアドバイスを聞いてみたりするのはいかがでしょう? 陽葵ちゃんが困っているなら日葵ちゃんは手伝ってくれると思いますし……私からも日葵ちゃんに私達の動きを説明して連携行動の助言をお願いしてみます」
「! 流石、心寧ちゃん! そうしてみよう!」
2人とも完全に敗北の悲しみを忘れ去ったような晴れやかな笑顔だ。
やっぱり、その顔が一番だよね!
反省も大事だけど、いつまでもクヨクヨしてても何も変わらないし!
いつまでも過去の失敗を引きずっているより、次の問題をどうするか考える方が大事だもん!
私達は対魔忍だから憂鬱な顔で任務にあたるよりも、明るくハツラツとした顔で任務に従事したほうが皆に笑顔を与える存在になれるしね!
「それでは16組目の合格者を発表だが——」
「それじゃあ、再試験がんばるぞー! えいえい?」
「「「おーっ!!!」」」
遠くで蓮魔先生が合否発表をしているが、アレは私達には関係ないものだ。
だから蓮魔先生の発言を遮らない程度の大声で2人の士気を上げられる掛け声を発する。
2人の士気は最高だ! もちろん私も!
「えいえい?」
「「「おーっ!!!」」」
「えいえい?」
「「「おーっ!!!」」」
「えいえい?」
「……」
「お……っ!?」
「おほっー!?」
「おーっ!!!」
「…………」
ここで2人の声が裏返る。元気よく天井高くに突き出した拳が震えて居たり、肘が伸びて居なかったり、震えていたり、目を私から逸らして下を向き始めちゃった?
「…………」
「あれ? 2人とも? どうしたの? ほら! もう一回! えいえい?」
だからもう一度——
「……日ノ出 陽葵?」
「え? ひゃっ! は、はすま、せんせい?!?!」
えぇっ!?
背後からヨミハラの魔界の門から現れた異形の怪物のような声が聞こえたと思って振り返ったら、恐ろしい顔の蓮魔先生が居るんだけど!
だから2人とも静かになっちゃったんだね!?
待って! 私、蓮魔先生のこの顔を見たことあるよ!
60年前の話題になった漫画一覧を履修したときにこんな顔の登場人物を見た気がする。
「……。…………あっ!」
あっ! 確か進撃の臣人っていう漫画のイェレナの顔芸だ!!!
これは夢に出そうなぐらいに怖い!
たすけて! 日葵ちゃん!!!
「私は今、合格者発表をしているのだが……日ノ出 陽葵。大人しく合否判定も聞かずに友人達とおしゃべりとは随分と余裕な様だな?」
「え、えっと。だって、私達……実技試験……ゆきかぜちゃんに負けちゃったし。再試験だから合否判定なんか聞かなくってもいいかなーって……?」
「ほう? では合格を自ら破棄し、今一度試験を受けると? 貴様等はそう言うのだな?」
…………え? 合格?
「…………え? 合格?」
「そうだ。16組目は全員合格だ」
「え?」
「えっ?」
蓮魔先生の言葉に耳を疑い、心寧ちゃんもめぐみちゃんも騒めく。
「えっ? えっ?」
「なんだ? やはり不服か。では日ノ出陽葵、速水心寧、持田めぐみ。貴様等3人は不合格ということで再試験——」
「ま、待ってください! 試験開始前に負けたチームは再試験だっておっしゃりませんでしたか?」
「ああ」
心寧ちゃんの質問に蓮魔先生はあっけらかんとした様子で返事をする。
でも、やっぱりそうだよね?!
試験開始前に『負けたチームは再試験だ』って言ってたよね!?
私、紫先生がそう話したの日葵ちゃん達と一緒に聴いたもんね?!
「それは建前の話だ。本試験では “勝敗に関わらず、チームワークが発揮されているかどうかを重点的な採点を行っていた。つまり、1+1+1=3以下でなければ合格。これはそういう試験” だ」
「……。……えぇ~……?」
「えっと。それは……つまり、先生方は私達に嘘をつかれて居たという事ですか?」
「ふむ。速水は『嘘をつかれていた』と捉えるか。その認識なら半分正解だな」
「……半分……?」
「いずれにしろ、貴様等如きが実地経験豊富な水城、相州、上原を相手に勝てるとでも思ってい「思ってました!」
「…………日ノ出は、まずそのポジティブ過剰な性格を治せ。対魔忍の任務でその過剰思考は命取りになるぞ」
えー!? 今回は単純な忍法のぶつけ合いじゃなくて、日葵ちゃん流の作戦立案をしたし、ゆきかぜちゃんには負けはしちゃったけど途中まではうまく行ってたのに! 勝てない要素はそこまでなかったと思うけど……。
ううん。きっと蓮魔先生が言いたいのは『人の作戦の真似事だけでうまく行った気になっただけのポジティブ思考ではダメだ。自分の物として会得しなければ意味がない』ってことかな?
でも、蓮魔先生の口調だと最初から無理な対戦相手をぶつけて来たみたい。それにさっきから、左手に持ったクリップボードに備えられた紙をペラペラとまくって、何かを書き込んでいる。
「ところで貴様等の誰が、水城のグループをそれぞれ孤立させる案を思いついた?」
「それは——」
「はい!!!」
「日ノ出ちゃんです~」
「……」
勢いよく挙手する私に、心寧ちゃんとめぐみちゃんが中央に居る私へ手を向けてくれる!
それをすごい目で見つめる蓮魔先生。
まるで信じられないかのような顔をして……。
失礼だけど、そう思うのは当然かも!
今回の作戦立案は日葵ちゃん流の作戦に基づいて考えた作戦だからね!
もう、ほんっっとに日葵ちゃんを愛してる!
日葵ちゃんが居なかったら絶対にここまでうまくことが運んでなかったもん!
そもそも日葵ちゃんが五車学園に運命的な転校をしてくれなかったら、私も心寧ちゃんもきっと今頃まだ洋館内で彷徨って…………きっと、この場に居なかっただろうし……。
あー! だめだめ! 落ち込んじゃ! 情報収集はある程度大事にすることとか、日葵ちゃん無しで危険な場所には入ったりしないって決めたんだから。
これはもうあの元気の出る踊りを踊るしかないね!!!
(日葵ちゃんの日葵ちゃん)美味しいヤミー感謝感謝!また(日葵ちゃん)いっぱい食べたいな! デリシャ、シャ!シャ!射ャ!射ャ!
「」
あ!!! そうだ!!! 日葵ちゃん!!!
「あ!!! そうだ!!! 日葵ちゃん!!! 蓮魔先生! 合否発表の邪魔をしたことはごめんなさい! 全員合格でお願いします! えっと私、今回の作戦がうまくいったことで日葵ちゃんにお礼を言いに行かなきゃいけないから先に抜けます!」
「おい待て日ノ出。その不思議な踊りの内容以外にも、まだ “その作戦” とやらについて聞きたいことが——」
「今から日葵ちゃんの試験の応援にも行くんだけど!めぐみちゃんもよかったらどうかな?!」
「あ、はい~。ご一緒します~。本場の日葵ちゃんの作戦を見てみたいですし~」
「おぃ——」
「心寧ちゃんは、ふうま君の応援に行くでしょ!? 途中の試験会場まで一緒に行こうよ?!」
「えぇ。もちろん」
「貴様——」
「それじゃあ、蓮魔先生 採点ありがとうございました!」
「人の話を最後まで——」
不審な目で私を見ながら呼び止める蓮魔先生をシミュレーションルームに置き去りにして、バスガイドさんみたいに2人を引っ張りながら出入り口に走る。
先ほどまで気絶していた蛇子ちゃんも気絶した状態から戻ったみたい。
上原くんもほっとした様子で、首筋を摩っている蛇子ちゃんに試験は無事に合格できたことを伝えているっぽいかな?
そうだ!!!!!
日葵ちゃんの試験を見に行く前に、上原くんに謝らないと!
オデコに鉄球をぶつけちゃったことを謝って、恨みっこ無しな関係に戻ろう!
「上原くん!」
「わっ。ひ、日ノ出さん……」
「そんなゆきかぜちゃんに隠れちゃうほど怯えないでよ! ただ単に謝りに来ただけなのに。試験では鉄球を当てちゃってごめんっ!」
「おう……それは別に気にしてないからいいぜ。今回の試験はさ、そういうものだと思っ「ところで上原くんも、日葵ちゃんの応援に行くよね!?」
「お、おぉ……そのつもり、だけど……?」
「じゃあ、日葵ちゃんに会う前にオデコまだ赤いから医務室で診てもらった方が良いかも! 式神の鉄球を頭に当てちゃったし、冷やすための湿布を貼ってもらってから来た方が良いよ!」
「それは…………そうだな……。日葵を心配させるわけにもいかないし、わかった。助言サンキュー。ちゃんと手当してもらってから行くよ」
「じゃ!」
いよぉーし!
これで日葵ちゃんの試験内容を前半は独占して私は見ることができる!
我ながらに邪魔者を排除した完璧な作戦だね! うーん! これは試合には負けたけど、確実に勝負には勝ったし、事後処理でも私の方が上原くんに勝ったね! 間違いないよ!
わぁっはっはっはっはっはー!
~ごじつだん~
相州 蛇子「陽葵ちゃん……大事なお話があるんだ……」
日ノ出 陽葵「なにかな!?」
相州 蛇子「蛇子、今回の実技試験で鹿之助ちゃんを陽葵ちゃんが倒したって言わない方が良いと思うな。特に鉄球で顔面に一撃入れたこととか……」
日ノ出 陽葵「えー!? どうして?! 対魔忍として強いって証明しないと、日葵ちゃんは振り向いてくれないよ!?」
相州 蛇子「うん。
日ノ出 陽葵「え……それって……。上原くんを倒しても強い私になびいてくれないってこと?」
相州 蛇子「うん……。むしろ逆かも……逆で済めばいいかな……」目そらし
日ノ出 陽葵「ええええええ!? そんなぁ……頑張ったのに……」ショボン
こうして相州 蛇子の
日ノ出 陽葵は、上原 鹿之助の制止を振り切ったガチギレ
~あとがき~
参加されたサークルの方、ご来場の方、運営された企画者の皆様方、お疲れ様でした! 開催即座30分ぐらいで新刊完売が出るほどの賑わいでしたね!
次回は2024年開催を目途に前向きに検討されているようなので、開催地点がまた伺える範疇であれば参加したいところです!(
次は
既に先駆者は居ますが、対魔忍×クトゥルフ神話TRPG本?(シナリオ販売はライセンスが必要なのですが……)とか出してみたいです。
私個人と致しましては、イベントは十分に楽しませて頂きました! ありがとうございました!