対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
Episode115 『2度目の悪質タックル』
「スゥー……。ハァー……」
嗚呼。どうして現実世界の青空はこんなにも蒼く、地平線の彼方まで続いているというのに私の心は晴れないのだろう。
鹿之助くんや陽葵ちゃんのお見舞いが終わった後。
私は室井と顔を合わせるのが面倒だったため、いつものように病室を抜け出して気分転換に出かけていた。
ここは五車学園の地下から最も遠い場所である五車学園の屋上。
ここから一望できる景色として、期末試験も終えて下校していく五車学園の生徒が見える。学生によって実技試験に対する反応はマチマチだが、五車学園1年生の約2/3は楽しそうに帰宅している。本来であれば半数は失格になるという試験内容であったはずのに、あの様子から察するにまえさき市で3時間ウンコしていたほうの蛇子ちゃん達の情報に誤りはないのだろう。
彼等は夏休みを友人達とどのように過ごすか話し合っており煌びやかな青春を楽しんでいるようだ。
「あーぁ……。やっちまったよなぁ……絶対にドン引きだよなぁ……」
一方でそんな学生達を眼下に私は死んだ魚のような目でブツブツとぼやきながら、体重を転落防止柵にかけて1人反省会を開いていた。
「スゥー……。ハァー」
何を隠そう。この青空 日葵。もとい釘貫 神葬は、五車学園高等部1学期の期末試験の実技試験にて『鹿之助くんの“憧れ” 』である神村 舞華を相手に、結果の合否を賭けた模擬戦闘を
まぁ、手抜きなしで暴れまわったことはさほど問題ではない。
最初からその赴きで挑んだわけだし。
紫先生に採点される
何よりも問題だったのは、その光景を鹿之助くんや陽葵ちゃん。私が普段つるんで行動を共にしている全員に見られていたという致命的な要因にある。
しかも鹿之助くんの “憧れ” を塗り替えるために、神村 舞華に勝つことができればここまでは落ち込まなかった。この鬱憤とした気持ちも多少なりとも晴れていただろうし、鹿之助くんに神村 舞華に打ち勝つ光景を見て貰えれば現状よりは
だが、現実はそうじゃない。負けたのだ。
私は奴に。
神村 舞華に。
模擬戦闘中に、ふうま君の妨害があったとか。途中まで私の方が優勢だったとか。
そんなのは理由にはならない。
社会人になれば結果がすべてなのだ。過程など評価されない。
他人の手柄をさも自分がやったかのように魅せる奴が上席に昇格できる。
現実とはそういう世界だ。
他人は『そういう人間の行為を分かっている。ちゃんと貴方を見てくれている』だなんて耳障りの良い気休めもあるが、それならばもっと世界や世間、現実はもっとより良くなっていることだろう。
私は……私は鹿之助くんに私の全力……素手での全力を見られた上で、敗北した。ひとりの女性としても見られたくない瞬間を見られてしまった。代償を支払って機会を得たうえでも “憧れ” の意識も塗り替えられなかった。
それが……もう……たまらなく悔しくて。口惜しくて。
病は気からとは言うが、心なしか体調も悪い気がするし。
既に私の出席日数は入院生活によってピンチなため、これ以上欠席してしまうと大学進学を推薦入試やAO入試での選考は厳しくなるだろう。だが一般試験で大学に行くことを想定すれば、夏休み突入までの残りの期間は家で引き籠って、御盆の季節の蛇子ちゃんと会う準備に取り掛かった方がいいだろう。
「あーぁ……。——よし」
この鬱蒼とした気分の復活、寝るまで。……あるいはしばらくの時間を要するだろうが、時間と共に回復できるはずだ。
だから転落防止柵の下段に両足をかけながら、前かがみに寄りかかって、下校していく学生達をもう一度、屋上から見下ろすため上半身ごと視線を下へ——
「だめぇえええええええええええ!!!!!」
「ウグォハァッ!??!?」
絶叫と共に私の左腹に人間の頭部が突き刺さる。
KICK BACKで米津が、冬の花で宮本に撥ねられるMADのように私は強制的に弾き飛ばされる。
だれかこの私へと降りかかる連続した
米津みたいにクラウチングスタートのポーズで着地して、撥ねてきた宮本を追いかけるガッツなんかないわ。ただでさえ実技試験でヘロヘロなのに追撃で轢殺タックルなんか喰らった日にはもう起き上がることすらできないわ。
それでも後日、夏休み明けに轢殺タックルを決めた人物にツケを払ってもらうため、相手が何者なのか確認のため上半身を起こす。
「だめ! 日葵ちゃん!!! まだ早まっちゃダメ!!!」
「へ、蛇子ちゃん……?」
そこには私を決して離すまいと……柔道におけるうつ伏せの状態のように両足を大きく広げ、上半身で私をしっかりと固定する——まえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんが、両目をぎゅっと瞑りながら押さえつけていた。
身動きしようとするたびに、女子高生とは思えない腕力で拘束しにかかってくる。
え。ちょ。え? 蛇子ちゃん???
あ!痛い痛い痛い痛い! キマってる! キマってる!
「日葵ちゃんにとって今回の実技試験は散々な結果だったかもしれないけど、生きていればきっといいことはあるよ?!だから飛び降り自殺なんかしちゃ駄目!ここで死んじゃったら鹿之助ちゃんがすっごく悲しむよ!!!?鹿之助ちゃんだけじゃないもん!ふうまちゃんや私だって……!」
え? 飛び降り自殺?
えーっと……。わたし、そんな気はサラサラなかったんですけど……?
ぐぁっ!痛い痛い痛い! 一本! 一本入ってる!
だ、だいたい五車学園で飛び降り自殺したところで、死亡率は低そうだし……飛び降りたら下校していく学生達を肉クッションにして互いに不幸になるリスクと魔界医療で治療される確率のほうが高いから……!
そもそも飛び降り自殺なんて周囲に迷惑をかけるような高リスクの自殺よりも、もっとローリスクで確実に自殺できる方法とかも知ってるし……!
や、やめて……!
痛い痛い痛い!!!
は、はやく。はやく! 彼女の誤解を解かねばならないだろう……!
本当に痛いんだってば!!!!!
「蛇子ちゃん、待って。あ゛ぁっ?! 待って。待って……! 私、飛び降り自殺なんかしようとしてないですよ! 屋上でたそがれていても状況は何も変わらないから、今日のところは家に帰ろうとしただ、だけ、で、すっ」
「嘘だよ!日葵ちゃん、いま絶対に飛び降りようとしてた!そういう顔をしてたもん!!!」
「そ、そういう顔……」
蛇子ちゃんに言われて、彼女のケツをドラムと化したタッピングを一旦中断し、自分の左手で頬を掴んで押しながら考えてみる。
きっと彼女の言いたい自殺しようとしていた顔というのは、
「日葵ちゃん!お願いだから、考え直して!日葵ちゃんは確かに手段を選ばないところとかあるし、平気な顔して
「蛇子ちゃん。蛇子ちゃん。フォローしているつもりだろうけど、まったくフォローできてない。もうパニックで割と直球な意見が出ちゃってますよ」
「それはごめん!だけど日葵ちゃんが飛び降りちゃうのだけは絶対に阻止しないと——」
「あだだだだだだだだだだッ!!! はいはい! わかりました! わかりましたよ!!! これでいいですか!?」
こっちの関節をガチで外しに来ているんじゃないかと思うほどの怪力で抑え込みに入る蛇子ちゃんが落ち着けるよう、無抵抗の示すため持ち上げていた上半身を地面へと寝そべらせて上空を再び仰ぎ見る。
彼女の拘束を無理に引き剥がそうとせずに全身の力を抜く。まるで身体で降参であることを伝えるように。
やめて……! それ以上は……! 自殺する前に、圧縮されて圧死しちゃう……!
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙。
次第に弱まる拘束力。
刺激しないようにゆっくりと首を持ち上げて蛇子ちゃんを見つめてみる。
蛇子ちゃんは涙目になって、その頬をぷくーっと腫らしながら怒っているような表情を作っていた。まるでひまわりの種を頬袋に詰め込んだハムスターみたいだ。
「あの…………自殺はしないので、放してもらっていいですか?」
「妙な動きをしたら——」
「しませんって。
放してくれない蛇子ちゃんに、半分泣きべそをかく様な表情で表情で再び青空を仰ぐ。
やっと全身の力を抜いて無抵抗を示していることで、蛇子ちゃんもようやく抱き着きホールドをやめてくれる。
まずは蛇子ちゃんが私の上から退いて、私も蛇子ちゃんからローリングしながら離れる。それからお互いにゆっくりと起き上がって、ひとまず日陰のベンチに歩いていき一息つく。
「ハァー……」
「た、溜息なんて酷い!蛇子は日葵ちゃんを心配して——」
「ああ、お気になさらず。この溜息は蛇子ちゃんとは別案件ですよ。……主に実技試験です」
「そう?」
「そうです」
「そっか」
ベンチで膝に片腕で頬杖をついて溜息をつく、私に蛇子ちゃんは私の顔を覗き込んでくる。
でも正直な事を言うと蛇子ちゃんに対する溜息だよ。これは。
身長は149㎝しかなくて、お胸以外の外見は普遍的な女の子って感じなのに、いったいどこからそんなパワーが出てきたのか。……理解に苦しむ。火事場の馬鹿力という奴だろうか?
でも、まさかねぇ……自殺すると思って轢殺タックルをしてくるなんてねぇ……。
「? なに?」
蛇子ちゃんの顔をじーっと見つめる。
黄緑色の髪に、金色の光彩。顔のパーツが全体的に中央に寄っており、あどけなさの残る可愛らしい童顔だ。
まだまだ子供の。そんな子供が私の自殺の心配を、ね。
「蛇子ちゃんは、どうして屋上へ? 私はてっきり既に鹿之助くんとふうま君と帰っていると踏んでいたのですが」
「それは日葵ちゃんが病室にも教室にも居なくなっちゃったからだよ? 帰りのホームルーム中に陽葵ちゃんが鹿之助ちゃんのクラスに乱入したんだって。鹿之助ちゃんに日葵ちゃんが病室にいないことを伝えて、でも教室にある荷物はそのままで……鹿之助ちゃんと陽葵ちゃんが2人揃って蛇子達のクラスに『日葵ちゃんがいないから一緒に探して!』って入ってきたの」
あぁん。その病室の出入り口に面会拒否の看板を立てかけたはずなのだけど。校医の室井が入る前に陽葵ちゃんが入っちゃったかぁ……。
そっかぁ……。陽葵ちゃんだもんね。陽葵ちゃんなら仕方ないね。そっかぁ……。
「そっかぁ……」
「それに心配してくれているのは、鹿之助ちゃんと陽葵ちゃんだけじゃないよ。速水さんに
「……。ぅん? ……なんか私の知らないところで大ごとになってません? それ」
「なってるよ!」
なんだろう。
自殺するつもりはないけど、今すぐにこの場から消えたくなったぞ。
え。これ、探してくれた皆になんて説明しよう。
すごく心配させてしまったことは申し訳なく思うけど……失踪した理由は『屋上にて実技試験でミスったことに関して、たそがれていましたー』とか説明しなきゃダメなやつ? ダメなやつだよね?
いや、ここは『外の空気を吸いに出かけてました』ぐらいで説明しよう。『ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません』をつけて。
「あー……」
「日葵ちゃんは嫌がるだろうと思って敢えて先生方には伏せてたんだけど……。あまりにも見つからないから、ふうまちゃんのお姉さんである時子先生にも内密で掛け合って日葵ちゃんを探してもらったんだから!」
「…………あー」
「でも、よかった。蛇子は日葵ちゃんが無事でいてくれて」
無事でいるなんて大袈裟な……。
そんな風に思ってしまったけど、蛇子ちゃんは私が飛び降り自殺しようとしたように見えたんだもんね。
大袈裟、ではないか。
「この度は心配おかけして、誠に申し訳ございません……」
「もうっ! 『誠に申し訳ございません』だなんて、蛇子と日葵ちゃんは友達なんだから『ごめんね。』ぐらいでいいんだよ?」
「……ごめんね」
「うん! いいよ! でもまずは日葵ちゃんが見つかったことをみんなに伝えるね」
私の言葉に蛇子ちゃんはにっこりと笑ってスマホを取り出す。
わぁお。
流石、現代っ子。スマホをフリックして高速で文字を打ち込みメールを送っている。私にゃまだ無理だね。せいぜい、ぽちぽちタップして文字を打つのが限度かな。
~あとがき~
17章でまたもや濃縮された1日が始まるドン!
~評価返信~
『kak様』
■ 毎話楽しませて頂いています。
◇ 楽しんで頂きありがとうございます!今後とも続けていきますのでよろしくお願いいたします!
『月琉様』
■ 対魔忍知らずに読んでみたけど教師がいきなり暴露をするって展開で、えってなりました、
◇ な、なにを暴露したんでしょう……? もしかしてボコボコ宣言ですか? もしそれなら……対魔忍世界は実は平常運転です……! 感想ありがとうございました!