対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
鹿之助くんのお話を聞くはずなのにも関わらず、不穏なタイトルですがお気になさらず。
「——ふふふふふふっ」
屋上に設置されている自動販売機のアクリル板の反射を使って身だしなみを整える。
よーし。これで、多少なりとも自分の身なりをまともな状態にまでもってこれたはずだ。今であれば鹿之助くんに出会ってもそこまで恥ずかしい思いはしないだろう。
だから鹿之助くんが到着するまでの間に、探させちゃったお詫びとして自動販売機でジュースを1本買ってベンチで待つ。
「ふふふふふふふふふ……」
「うわっ。……何1人で笑ってんだよ。気持ち悪りぃ」
「!?」
されど、運命とは残酷なものだな。
数分後。屋上に現れたのは鹿之助くん……ではなく。
神村さんだった。
彼女は期末試験にて度重なる私の関節攻撃は致命的な打撃となっていたようで、首から骨折時に用いる三角巾で片腕を吊り下げ、片足は松葉杖を用いての補助歩行する形でその姿を露わした。
また実技試験中、何度も〈キック〉による踏みつけの追撃を与えていた顔面には大量の絆創膏が貼られている。
「…………」
「そんなドン引きした顔すんじゃねえよ。俺をここまでボコボコにしたのはてめえだぞ」
『まさか、そこまでボロボロになるなんて』……なんていじめの主犯格みたいなことを言うつもりはないが、私より彼女の方がよほど重傷に見える。
あの時は殺意はあったが、息の根を止めるつもりはなかった。つまり殺したかっただけで死んでほしくはなかったという事だ。
あくまでも鹿之助くんの “憧れ” を塗り替える殺意で試験に挑んだのだから。
「いやぁ……ちょっとやりすぎたかなと……。……その節は、すみませんでした」
「ハッ。その辺は端から気にしちゃねぇ。そもそも先公どもが止めなかったってことは、試験中のこれぐらいの怪我は想定の範囲内の出来事だってことだ」
「は、はぁ……」
彼女の言葉に合点がいっていないかのような弱々しい返事をする。
だけど彼女の言う “想定の範囲内” には私も思い当たる節はあった。消火器と遺書用のICレコーダーで私の敗退演出をしたときも五車学園の教師陣、紫先生は試験の一時中止をかけることはしなかった。
まぁ、つまり。彼女のいう通りそういうことなのだろう。
改めて考えても五車学園やべーな。
「ンだよ。煮え切らねぇ返事だな。試験時の殺気に満ち溢れたてめえは何処に行っちまったんだ?」
彼女はそのまま私の方へと近づいてきて、ベンチへとドカッと音が鳴るほどの勢いで腰を下ろしては足組までもはじめ、背もたれに背中を預けてくる。
老後、脊椎圧迫骨折しそう。
「あー……私、オンオフが激しい女なので……。ちょっと、今はオフな気分なんです……」
「チッ。拍子抜け野郎が……」
そのまま苛立ちを露わにしながら懐からタバコを取り出して、私の隣でモクモクと煙を……。
「…………」
「…………」
沈黙。
ニコチンの副流煙が私を包む。
これから鹿之助くんに会うのに、服にタバコに臭いが付くのが嫌で立ち上がって彼女からそっと距離を取る。
前世ではタバコは嗜んでいたが、口臭や体臭がキツくなったことと、タバコ税がアホ程高くなったこと。タバコで
「…………それで何か御用ですか?」
悠々とタバコで一服する彼女とは対照的に、猫背になりながら私は粛々とここへと来た理由を尋ねる。
次第に鹿之助くんがこの場に現れる予定なのだ。
タイミング的に鹿之助くんが私に告白……なんてことはないだろう。あの蛇子ちゃんが私から鹿之助くん側に告白する様に推奨してきたわけだし。
なんにせよ。どんな話であろうとも鹿之助くんの “憧れ” である神村 舞華が目の前に居たままでは彼にとって話し辛いことには違いない。
結局、彼の “憧れ” を塗り替えることもできなかったし。
彼の心はまだ正面の女に向いているに違いない。
「邪険にすんじゃねぇよ。用がなけりゃここに来ちゃいけねぇってのか?」
「そんなことはないですけど……」
「だったらいいだろ別に」
そのまま彼女はふんぞり返った姿勢でスパスパとタバコを吸い続ける。
ふーむ。このまま彼女がここでタバコを吸い続けるというのならば、やはり鹿之助くんの到着と同時に場所を変えたほうが良さげか。
「…………ところでよ」
「はい?」
「次学期の合同格闘技訓練。てめえは参加すんのか?」
「……それって体育の授業でやる奴ですよね?」
「おうよ」
「あー……どうでしょう? 私、体育の授業は中等部の学生と混じって体力作りしかしてないので……。そう言った格闘訓練の授業に出られるかどうかは紫先生の判断次第ですかね?」
「チッ」
私の弱々しい返事が気に喰わないのか、舌打ちをしながら左手で後頭部の髪をかきあげ始める。
今回は別に煽るつもりは一切ないのだが、流石に上の空の断言できないあいまいな返事が好みではないことは伝わってくる。
「……なら今度でいい。もう一回、俺と勝負しやがれ」
「……は?」
「勝負だよ。勝負!てめえの都合がついて、そっちの怪我が治ったらでいい。……俺は今日の勝負には納得してねえからな!だいたいふうまめ。真剣勝負を最後の最後で邪魔しやがって。俺はあんな形での勝利は望んじゃいねえ! ……それともなんだ? てめえはあんな負け方で満足って言いたいのか? 負け犬がよ!」
あ゙?
『負け犬』の言い方にカッチーンと金槌で石でも殴ったかのような、火打石をぶつけ合ったかのような音が脳内に響く。
満 足 し て い る わ け ね ぇ だ ろ 。
こちとらテメェをボコボコに泣かすまで叩き潰して鹿之助くんの “憧れ” の座を塗り替える予定だったんだ。それがふうま君の作戦勝ちとはいえ、邪魔が入ったせいで作戦・計画全てが灰燼に帰したんだから。
だが、その申し出は願ってもない展開に違いない。だから、ここではスイッチが入りかけるが心を押し殺して……。
「……そうですね。私もあの勝敗に納得してませんし、その申し出。是非ともこちらからもよろしくお願いしたいところです。次に手合わせする際には、リベンジマッチとさせてください。今度は邪魔者なしで思う存分、殺り合いましょう」
「ああ、てめえが持ってる
神村さんはようやく満足できる質問を得られたようで、満足そうな顔でまたもやタバコを吸い始めた。
しかし私を見つめる目は標的を定めた狩人の目であり。私もまた彼女が指摘してきた薄ら笑いと、いつものジト目で彼女と視線を合わせる。
「それで……話は変わるんだけどよ……」
「……?」
と、ここで彼女が急にしおらしい乙女っぽい……否。ポケモソの短パン小僧が仕草としてしそうな人差し指を人中にこすりつける行為をして、照れるかのような乙女の顔になる。
「てめえは『ふうま』と普段からつるんでるよな?」
「ん……。えぇ、まぁ……家の方向が同じなので通学するときとか、帰宅時に稲毛屋に寄り道する程度ですけど……」
「! その程度でも構わねえ。……今度さ。ふうまの野郎に、『稲毛屋のアイス』と『美味しい茶菓子』どっちが好みか聞いてくれねぇかな……?」
「……!」
稲毛屋のアイスと聞いた瞬間、あの 稲毛屋の怪しいソフトクリーム が脳裏に過ぎったがそんなことよりも今は神村の表情に釘付けになる。
おい。ま、まさか……。嘘だろ……?
思わず眉間にシワが寄り、ウサミちゃんがくま吉くんを疑うような表情になる。神村はそっぽを向いていて私の表情の変化に気が付いていない様だ。
あゝ、間違いない。これは恋焦がれた乙女の顔だよコンチキショウ。
「あるいは知ってたりとかよ……。知ってたら教えて欲しいっつーか……」
さらにもにょり始める神村 舞華。
「…………」
ふうま小太郎。
やっぱアイツなろう系小説主人公だよ。
磯咲さんやドドン太郎には冗談っぽく説明したけど、まさか現実でこんなことが起きるなんてこっちは想定すらしてないっつーの。現実は小説より奇なりとは言うが、構築されて行く㊙ふうまファンクラブのメンバーを考慮してみればこれは奇妙なことになっている。
もしかすると、もしかしなくても……ふうま君ってゲームで言うところの主人公か何かか?
でもこの世界はアダルトゲーム:対魔忍の世界線だから……。ふうま君が主人公だとすれば……竿役の長とか? え?つまり悪役チンポマン? 対魔忍をアヘアヘさせる凶悪魔羅持ち?
……まさかオークの血筋が混じっているとかねぇよな? あるいはサキュバスやインキュバスの遺伝子を持っているとか?
前者なら殺さなきゃいけないし、後者なら自分の貞操の死守を心構えなければならない。
しかし、ふうま君……どういうわけか関わったヒロインを片っ端から陥落させているような気がする。
ここまで多方面の人間から好き好きって好かれることはほぼない話だ。
学内でのふうま君の評価は、一部の層(ドドン太郎の取り巻き)とかでは “目抜け” ってバカにされているし……。礒咲さんのような例外は存在するが、授業をサボっていることを考慮れば真面目な生徒からの心象はよろしくない可能性が高い。
私が五車学園に来てからもう2カ月。既にふうま君のことが好きな女子は、心寧ちゃん、磯咲さん、神村さん。そして幼馴染のまえさき市で3時間ウンコしていたほうの蛇子ちゃん。
きっと私が認識していないだけで、もっと存在しているのかもしれない。
彼はラノベの主人公か? と疑わしくなるほどに彼はモテモテだ。
好みの問題もあるかもしれないが、鹿之助くんとふうまくん。2人が横に並んで全国100人にアンケート調査をしたら、67人ぐらいは鹿之助くんが選ばれる自信があるぞ。
ファンザの検索ランキングでは「男の娘」がランクインしてるぐらいなんだからな???
ちょい悪青年風情が、男の娘に敵うと思うなよ?????
おまけに「ふうま君が好きなんじゃないか?』疑惑人物はまだいるぞ。
見方を変えればドドン太郎こと二車 骸佐もふうま君に熱中しているし、いや。……。
……あれは好きの裏返し行動じゃないのか……!?
『好きだからこそ意地悪しちゃう~』的な!? お家がどうのこうの言っているのはあくまでも建前であって、男同士だし……そんなきっかけがないとふうま君と関われないとか?!
ありそう。ありえるな。
鹿之助くんが話していた家来とかそういう武家の要素で捉えた場合、男色家だという要素が加わってもおかしいことはない。
『ふうま君』とは…………わ、私にとっては……。たまにジロジロと視姦してくる程度の通学を共にする小悪党じみた顔つきの友人でしかない。
てか、私としてはあの人の事を見透かすような……『
むしろ、距離を置きたくなる。
……で、でも。だ、大丈夫だよな? 知らず知らずのうちに私もふうま君の謎の魅力に惹かれて恋心とか抱いてないよな?
鹿之助くんが大好きだよな??????
変わらないよな……????
よし。一回、心を落ち着けて頭に思い浮かんだ人物の名前を口にしてみよう。
「…………鹿之助くんと陽葵ちゃん」
よ゙ぉ゙ーしっ!゙
大丈夫! 私はふうま君なんか眼中にない。
今日も元気に、鹿之助くん……一筋じゃなかったけど鹿之助くんは好きだ!!!
陽葵ちゃんはね。女の子だからね。
あまりにも存在感が強すぎてふと頭の中に浮かんできただけであって……。
インパクトがね。強すぎるんだ。彼女は。
今も思い浮かんだ顔の中に、困惑する鹿之助君と徐々に拡大しながらチーク姉さんのバーン顔をした陽葵ちゃんが脳裏に現れたからね。
人の脳内の中でも主張がナンバーワンだったからね。
最終的に
と、友達としては好きだよ? 大好き。
でも恋愛対象ではないかな。
言い寄って来てくれるのは嬉しいけど。今の状態はきっと洋館事件での
ぅん? 待てよ?
ドドン太郎がふうま君のことが好きだと仮定した場合。これは鹿之助くんもふうま君は好きになっちゃう可能性があるんじゃ……?
でも今は神村さんに “憧れ” を抱いているわけだし……。流石にそこまでは……?
「…………」
神村はいまだに私が話半分で相槌を打ちながら聴いていることに気づかず、ふうま君について延々と語り続けている。
おや?
…………なんだか、鹿之助くんが好きなのは神村さんなのに、神村さんはふうま君ばかり話題に持ち上げている今の様子に腹が立ってきたぞ?
「俺さ、あいつのこと今回の期末試験で——」
「神村さん?」
「あん?」
ゴッ! バキィッ!
だから彼女の正面に立ちはだかり。
私の不意打ち攻撃による〈こぶし〉で、神村の右顎を左拳でスパァーキィング!!!
「ガハッ!?」
チッ!
激しくぶっ飛ばしたが、意識消失してねぇ!
これは顎への一撃が浅かったッ!!!
だが今度は鹿之助くんが説明してくれた空気の膜とやらでの防護壁は無しだ。
歯で唇の裏側を切ったのか、それとも私の実技試験中で創傷した傷口が再び開いたのか。そんなのは私にとってどっちでもいいが、神村の口から血液が飛び散り、ついでにタバコを吹き飛ぶ。
五車学園を記念すべきタバコでの不慮な事故(大炎上)20回目として飾るわけにもいかないので、タバコはそのまま踏み消す。
「てめ…………まさか…………てめ、てめえも……っ」
「神村さん。私はふうま君についてあまり存じ上げませんし、彼のことが好きでも嫌いというわけでもございません。ですが、あなたがふうま君に対するノロケ話を続けるというのならば(これから到着する鹿之助くんを傷つけない為にも)私はあなたを黙らせる義務があります」
なるべく憤怒の感情を押し殺しながら、鹿之助くんの感情を弄び……あまつさえ、期末試験で同組になった程度の関係性でふうまの野郎にうつつを抜かしやがるこのクソ売女に優しくも丁寧な口調、指関節を連続でクラッキングしながらほんのり笑顔を浮かべながら近づく。
「ハーァ??? やっぱてめえもふうまのことを——」
「ぅるせー!だからふうまのことは眼中にねえっつってんだろ!! 黙って殴らせろやァ! 私はあいつの身長と顔と性格は私の守備範囲外なんじゃボケェ!!! だいたい、てめえを好いてる人の気持ちも知らねぇでさぁ!!! オラァ!立てよ!次は松葉杖じゃなくて車椅子生活を余儀なくさせてやるからよぉッ!!!都合がいい時は今だよクソッタレ!第2ラウンドの短期決戦じゃゴルア!!!」
「アァ!? 上等じゃねえか! そっちがその気ならやってやるよ!!!」
こうして期末試験後の第2ラウンドは火蓋が切って落とされたのだった。
オイオイオイ、殺すわコイツ。
楽しい夏休みをぶっ壊してやる。
~あとがき~
思う存分、神村さんとは期末試験で殴り合ってなおかつ濃厚な戦闘描写をしたので、続きません。
対魔忍RPG、ついにドドン太郎がユニットとして参戦しましたね。
神村 東でボコボコにしてやるから覚悟してろよ~???
~ごじつだん~
のちに現場に到着した鹿之助くんは次のように語ります。
上原 鹿之助「お、おれ、今日のことで日葵がすごく落ち込んでたから……元気付けるために、蛇子の助言とかもあって……。夏休み『一緒に海へ遊びに行こう』って誘いに行ったんだ。蛇子が誘うよりも俺が誘った方が、日葵は元気が出るからって…………そしたら、そしたら……日葵の奴……屋上で神村さんと血まみれになりながら、今度は素面で……また殴り合ってて……。相打ちで倒れたんだよ……。なぁ。ふうま…………日葵って、本当に一般人なんだよな? でも対魔忍を……あの神村さんを相打ちで殴り倒す一般人って何? 対魔忍でも魔族でもないんだよな? 本当に一般人なんだよな???」
ふうま 小太郎「おれにもわからん」(匙投げ)
相州 蛇子「」(渾身のアチャーという仕草)
~生還報酬~
成功した技能の成長