対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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18章 『夏休み前の幕間』
Episode119 『今日もわちゃわちゃ』


 

 インフルエンザ。

 

 完治とまではいかないけど、無事に4、5日が経過した辺りで病状が落ち着きました。

 

 あと2日後。五車学園の方も7月20日、つまり私の自宅待機期間終了と共に夏休みへと突入することになるんですけど……。

 

 

「ひまりちゃぁぁぁぁぁぁん! 5日間も会えなくて、とっても!寂しかったよぉおおおお!!!」

 

「うるさっ……や、やめろぉ! 抱き着いてくるぁあぁぁぁぁっ!」

 

「陽葵ちゃん。日葵ちゃんは病み上がりなのですから、そんなに激しい抱擁をするのは控えておいた方が……」

 

「そうですよ!まだ病み上がり、ってかまだ自宅待機期間だから保菌者(キャリア)として感染力が残っているって……ぁぁぁぁぁ!!!! 私のマスクを奪うな! ちゅーはだめ! ちゅーはだめッ!!! 感染(うつ)るぞ! インフルエンザァ!!!」

 

「ここが日葵ん家と部屋なのかぁ……。な、なぁ。これってDJって人が使う機材だろ? どうしてこんなものが部屋に…………でも、なんつーか……予想通りって部屋で安心したよ」

 

「鹿之助くん?! ねぇ、それどういう意味!?」

 

「鹿之助ちゃんが言いたいのは、大人びたって意味だと思うな! この椅子フカフカ~! クルクル回る~!」

 

「蛇子ちゃん! 遊んでないで助け……」

 

「青空さんの本棚。TRPGと音楽と経済学、あとは科学系の書物ばっかりだな……この本、読ませてもらってもいいか?」

 

「別にいいですよ……ってもう勝手に本棚から取り出してるぅ!? ふ、ふうまくん! 本に飛沫ウイルスがまだ付着しているかもだから、触ったあとは手をアルコール消毒して!? ね?!」

 

 

 既に私の家の中はダンスフロアってほどに濃密な人員が訪問していた。

 

 ソーシャル・ディスタンスなんてあったもんじゃない。

 

 密です。密。MI・THU。三密です。密閉。密集。密接。密。密。密。密。みつ。Me too.

 

 密のゲシュタルト崩壊。

 

 ゆりこです。

 

 あ、いや。冷房をガンガン利かせながら窓を全開に開放しているから、二密かな?

 

 

 

で。

 

 

 

 いつものように陽葵ちゃんがマスクもつけずに、ギラギラとした真夏の太陽のような笑顔で私に飛びつき。

 

 心寧ちゃんが青空日葵の母親から出された500mlペットボトルのオレンジジュースの封を開けクピクピを飲んでいる。

 

 鹿之助くんはきょろきょろとあたりを見回しながら壁に立てかけられたギターやらDJミキサーやらカーディオイド式*1の収録マイクをまじまじとながめていた。

 

 蛇子ちゃんは私の3面自作デスクトップパソコンの前でゲーミングチェアに座りくるくると回って遊んでいる。

 

 ふうま君は私が生前にためになった80年前の経済学の書物を本棚から取り出し本を読み始めていた。

 

 オイオイオイ、まだこちとらインフルエンザの自宅待機期間中だっていうのに。

 

 お見舞いに来るってレベルの立ち振る舞いじゃないぞ! お前等ァ!

 

 

「ねぇ!? みんな?! お見舞いに来てくれるのは凄く嬉しいけ、私が罹患した病原体は『イ ン フ ル エ ン ザ』なんだ!? ただ風邪じゃないんだ!? まだ自宅療養・隔離期間なんだ!??!? ねぇ、知ってるぅっ!? インフルエンザって呼吸器の疾患で死ぬ病気なんだよ!?」

 

 

 陽葵ちゃんに組みつかれているため、発言の要所要所が力強い発言になってしまうが周囲を見渡しても誰も気にした様子は一切見られない。各々がそれぞれ好きなことをしながら私の部屋に滞在を続けている。

 

 この景色デジャウがあるぞ。2019年にコロナウイルスが蔓延したときに、感染者の1人が『このジュース、味がしない』と言って回し飲みをしたところ全員感染したあの現場に似ているぞ。

 

 間 違 い な く クラスター案件 だ ぞ !

 

 お前等全員、夏休み自宅待機コースだからな! いいのか!? いいんだな?!

 

 今年の季節外れのインフルエンザウイルスはやばいからな!!! 感染したら覚悟しろよ!!?!

 

 

「だってぇ~。ここで日葵ちゃんに会いに来なかったら、夏休みに一緒に遊ぶ約束ができないじゃん……」

 

「メールとか、電話とか他の方法があったでしょ!?陽葵ちゃん!?」

 

「蛇子は最初その方法で連絡を取ろうって言ったんだけどね……」

 

「日葵ちゃんって意外と一部の層から人気があるので、予定が先に埋まっちゃう前に直接会いに行って約束をしようって……」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 

 ああ。蛇子ちゃんと心寧ちゃんの言葉に納得。

 

 これは多分、陽葵ちゃんがゴリゴリ・ゴリ押ししまくって私の家に凸してきた流れだな。たぶん。

 

 おそらく陽葵ちゃんと心寧ちゃんの他にも、ふうま君、まえさき市で3時間ウンコしていた蛇子ちゃん、鹿之助くんがセットで居るという事は普段から登下校を共にしている3人に連れて来てもらったとかそのあたりだろう。

 

 どんなに陽葵ちゃんが土地勘に長けていたとしても、流石に私の家へ1度しか訪れたことがないのに間違わずに遊びに来られるとは思わないし……。

 

 てか、『一部の層から人気』ってどこの層だよ。こんなロクな噂てんこ盛りの悪名高い転校生が、夏休み中に目前の親しい友人達以外から誘われるわけがないだろ?!!

 

 

「……ってそんな理由で納得できるかぁー!!!」

 

「でも!でも!直接会いに来たワケは、それだけじゃないよ!?」

 

「陽葵ちゃんに関しては、何も言わなくても行動で示して貰ってるから言わなくていいよ?!」

 

「違うもん! 日葵ウム(ヒマリウム)の光合成も一つの目的だけど、もっと別に目的はあるもん!」

 

 

 『日葵ウムの光合成も一つの目的』!? いやらしい意味にしか聞こえないから、大っぴらにそういうことを暴露するのは止めようか!?陽葵ちゃん!?

 

 陽葵ちゃんのその発言はマッドな科学者が『貴様のフォトニック・レゾナンス・チャンバーに俺のクアンタム・ハーモナイザーを入れるぞ!』と叫んでいるのと同じニオイがするからやめようか!!!?

 

 なんとか接触感染に至らない部分を押しながら、陽葵ちゃんを引き剝がしにかかるがぐいぐいと陽葵ちゃんは急接近してくる。

 

 日常的に鍛えているというのにも拘わらず私の方が完全に力負けしている……。

 

 紫先生のダンバーベルで筋トレしているのにナンデッ!?

 

 

は な れ ろ よ ぉ!

 

感 染 す る ぞ ! ! ?

 

 

「その目! 信じてないなー!?!」

 

「違いますぅー!!! 日ノ出 陽葵ちゃん(この目の前の超濃厚接触者)を引き剝がすのに必死なだけですぅー!!!」

 

「でも本当だから! 上原くん!?」

 

「あ、ぅ、ぉおう」

 

「陽葵ちゃん?!五車学園では『人の話は最後まで聞きましょう』って習わなかったの!?」

 

 

 と、ここで陽葵ちゃんは私から一転。

 

 アニメのツッコミみたいにビシッ!と人差し指を鹿之助くんへと向ける。

 

 鹿之助くんは、私のギターやら隠しそびれたポスターに見とれたかのようなまじまじとした視線を向けていたものの。陽葵ちゃんからの突発的な指名に、()んず(ほぐ)れつしている私達を恥じらうような視線を向けつつも通学鞄の中から紙束を取り出して、陽葵ちゃんに〈組みつき〉されて動けない私の元まで持ってきてくれようとする。

 

 

 ウィヒヒヒヒヒ!

 

 

 私の元まで歩み寄ってくれて、小柄な体でちょこんと乙女のようにカーペット上に正座しようとする彼からしか得られない栄養素を補給! 補給! 補給ッ!

 

 これは鹿之ニュウムだー! ギヒヒヒヒヒッ!

 

 ……ジャネェーッ!!!!

 

 何度言ったら分かるんだーァ! ポ ン コ ツ学生どもがァッー!!!

 

 感染するから、それ以上、私に近づくなァーッてェーッ!!!

 

 

「えっと……これさ。夏休みの宿題な。あと期末試験の筆記テスト結果の答案用紙」

 

「あぁ。ありがとうございま……鹿之助くんそれ以上、私に近づいちゃ駄目。ソーシャル・ディスタンス。ソーシャル・ディスタンス! 6フィート! 6フィート!!!離れて!」

 

 

 中国武術『発勁』のような手の動きを鹿之助に向け近寄って来ようとするのを阻止する。

 

 

しょうがないにゃぁ…………」

 

「陽葵ちゃんはその場で座ってろォ!」

 

「きゃんっ!」

 

 

 『しょうがないなぁ……』とでも言いながらも陽葵ちゃんが鹿之助くんの元まで近寄って行って答案用紙集を代わりにとって来ようと動く。しかし即座に血眼になりながら彼女のスカートを捻り掴み捩り上げながら制止する。

 

 なんとしてもこの超濃厚接触者(日ノ出 陽葵ちゃん)を鹿之助くんに接触させるわけにはいかない!

 

 ゆえに6フィート(1.8ⅿ)ほど距離を空けて、壁に立てかけてあるマジックハンドを用いる形で鹿之助くんから答案用紙を受け取り点数を確認した。

 

 ……うん。

 

 今回も無事にある程度いい成績だ。そして夏休みの宿題も一般的な高校生に合わせた範疇の課題ばかりで夏休みの最後の日あたりにまとめて溶ける範疇なので問題はない。

 

 

「んもう! 日葵ちゃんったら乱暴なんだから でも私はそんな攻めの日葵ちゃんも好「はいはい」

 

「あ! でもでも、お見舞いや夏休みの日程や日葵ウムの光合成以外にも用事はあったでしょー!?」

 

「……みたいですけどぉ……。なら猶更さぁ? ポストに投函(ポスティング)でもよかったのに……」

 

 

 げんなりしている私に、陽葵ちゃんは赤ん坊が近づいてくるようにハイハイで歩み寄って来ては容赦なく人の点数を覗き見してきた。

 

 しかし見られて困る点数でもないので、ここは無抵抗のまま一緒に点数を眺める。

 

 

「あの……ところで日葵ちゃん。そろそろ窓を閉めてもよろしいでしょうか? 冷房を最低気温で利かせてくれているのに、窓を開けているせいで熱気が入って来てしまって空調の意味を為していないので……」

 

「心寧ちゃん、それは諦めて。せっかく皆さんの貴重な夏休みを私のインフルエンザで潰すわけには行かないですから」

 

「……」ショボン

 

 

 とここで心寧ちゃんが、胸元の服をパタパタと動かして胸チラをしながら、可愛らしく手で扇いで鎖骨と谷間を見せびらかしているが即座に却下する。

 

 最初は扇風機あたりでも回そうかと思ったのだが、どの角度に扇風機を設置してもインフルエンザウイルスが5人のいずれかに直撃するため断念したのだ。

 

 でもあざとい。あざといわ。心寧ちゃん。すべて分かってやってるんでしょ。この恋愛クソ強女! これは私には持ち合わせていない強かさ。つよい。

 

 蛇子ちゃん。人のゲーミングチェアでグルグル回っているだけでは駄目なんです……ッ!?

 

 

「わはー! ふうまちゃーん!」

 

 

 違う……ッ! これはただグルグル回って遊んでいるだけじゃないッ!

 

 これは既に仕掛けているッ! 恋愛クソ強女が扇情的な心理戦を幼馴染へと仕掛ける前に、先手を打ってふうま君の視線を釘付けにしようと動いていたのだ! それに恋愛クソ強女は気づいた!

 

 今、蛇子ちゃんの胸は回転が停止するたびにばるんばるん跳ねている! おい! やめろ! その攻撃は恋愛クソ強女に対してフィジカルの強さで仕掛けているのかもしれないが……。

 

 

 お胸がマリアナ海溝私にも効く……ッ!

 

 

 ところで。これ鹿之助くんが巨乳好きだったら、私。詰みじゃね?

 

 てかそもそもの話、五車学園にはフィジカルおっぱいしかいなくね? クラスメイト達も最低ラインがCカップ。平均基準がD~Eカップ。転校してから2カ月あまり。それ以下のバストサイズを私は見たことないんだけど?

 

 日本人の平均のバストサイズB~Cカップだぞ???

 

 どうなってんの? このニュータウン????

 

 フィジカルおっぱい “が” ニュータウンなの????? おかしくね???

 

 顔面格差も程々に存在するが、意気揚々とその胸囲格差でマウントを取らないで欲しいのだが?????

 

 

「「「……」」」チラッ

 

 

 さて、そんな混沌とした室内でふうま君の反応はというと……。

 

 

「青空さん。この小さなCD-Rはどうやって聞けばいいんだ? CDを取り出すにも開くような構造が見当たらないんだが……」

 

 

 彼は彼女達の胸チラそっちのけで、今度は私が〈機械修理〉と〈電気修理〉で組み立てたオリジナルの音楽コンポに興味を持っているようで、自作のMDディスク片手に四苦八苦していた。

 

 

 ぶぅ゙ま゙ぁ゙あ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ゙!゙!゙!゙?゙

 

 

 この昼行燈!!!

 

 

 気持ちはわかるよ!?

 

 

 男の子だもんね! そっちの機械の方が気になるよね! 男の子だもんね???!

 

 

 わからないこともないさ?!

 

 

 でもさ! でもさ! それはじゃないんだよね!

 

 

 暗に胸の大きさバトルしている乙女の戦いに私を巻き込まないで貰っていいかな!?

 

 

「…………。それはそのまま使うものです。挿入口に金属側が右側に来るように、VHSをビデオデッキに差し込むようにコンポの中に入れてください」

 

「ぶい・えち・えすを、びでおでっきに差し込む……?」

 

「あっ……。……すみません。今の説明は忘れて。MDコンポの使い方……今のダウンロード世代の子にはなんて説明すればいいかな……

 

 

 何やら恋愛クソ強女とフィジカルおっぱいの視線が私へと向いているような気がするが、気にしてはいけない。私はたぶん御存じの通り、ふうま君に微塵も興味はないのだ。両目を瞑って後頭部を掻きながら、ジェネレーションギャップによる葛藤を押し殺してうまい説明方法を考える。

 

 

「青空さん、V・H・Sってなんだ?」

 

「えっと、お気になさらず。そのフロッピー……カセットテ……ケースをUSB端子に差し込むように機械の穴に全部差し込んで下さい。そうです。そうそう。あとは壁面に描かれたボタンを押して……スマホの再生機能とだいたい同じです。あっ、ツマミで音量調節できるのと、再生する前に音量を確認してください。たぶん、前回のままなら110㏈だと思うので45㏈ぐらいにすれば個人で楽しむ分の音量になると思います」

 

「…………」

 

 

 怪訝な顔でこちらを見つめてから、おぼつかない手の動きでコンポに触れるふうま君。

 

 わかるよ。VHSなんて古代化石のツールを喩えに出されて説明をされても分かんないよね。

 

 今の子はフロッピーディスクの金属部をカシャカシャ触ったりしないもんね。カセットテープにA面B面があって入れ替えたりも、伸びたテープを鉛筆で巻き直したりしないもんね。

 

 何なら河川敷に不法投棄されたエロ本の存在も、概念すら知ら無さそう。

 

 でも対魔忍世界だし河川敷には『不法投棄された肉便器が転がっている』なんてスケールの違いのドエロが落ちているかもしれないが。

 

 今のは私が悪かった。焦り過ぎて説明方法が時代錯誤しすぎだ。

 

 陽葵ちゃん引き剥がしたら、ちょっと落ち着くね。ごめん。

 

 

*1
正面の音を拾ってくれるマイク

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