対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「はい! 日葵ちゃん!」
バサッ
「?」
ふうま君にMDコンポの使い方を遠方から説明していると、今度は陽葵ちゃんが私の正面に紙束をドサリと置く。
視線を移してみれば、そこには壁に掛けてあったはずの7月のカレンダーが私の目の前に……。
「夏休みの日程調整しよっ!」
曇りのない彼女の笑顔のはずなのだが、どこか鈍く目の奥が輝いているように見える。まるでこれは休みの日は所狭しと自分の予定を捩じり込もうとしているかのようなそんな目だ。
だがな陽葵ちゃん。私もちゃんと自分の日程を確保しているからな。
そんな思い通りに日程が組めると思うなよ。
「……はいはい。まず陽葵ちゃんは手を出して」
「はい!」
「はい。手指消毒。私の飛沫菌が付着しているからちゃんと消毒してね」プシュプシュ
ひとまず鹿之助くんから成績表を受け取るときに使用したマジックハンドを用いて、少し離れた位置に設置してある速乾性アルコールジェルを手繰り寄せる。それから雨乞いの儀式のように両掌を差し出す彼女の掌に2回プッシュして手指消毒させる。
私の手の動きに合わせて、オウム返しを行う彼女に少し和む。
「えーっと、それで……7月は……っと」
「あっ。まずは私からいいですか?」
自分の部屋にあったカレンダーではあるが再度日程を確認していると、冷房の真下で涼みながらふうま君へ胸チラアピールしていた恋愛クソ強女が挙手をし、カレンダーに自身の頭が覆い被さるように四つん這いになって真っ先に口を開く。
「はい、大丈夫ですよ」
「これは私がどうのって話ではないのですが、日葵ちゃんにコロ先輩となお先輩がお話したいことがあるので、この日からこの日までで日葵ちゃんの日程が開いている日があれば教えて欲しいとおっしゃってました」
心寧ちゃんは自身のスマホを片手に、五車学園が夏休みに突入した日である2078年7月20日(水)、21日(木)、22日(金)、25日(月)、26日(火)を順番に指さして伝えてくれる。私は即座に心寧ちゃんにもアルコールジェルを差出して消毒させながら首を傾げる。
おそらく洋館事件後のお見舞いで依頼した魔族語で書かれた本の言語の特定が済んだのか……。
あるいは特定が済んでなくとも、おおよそはその案件だと思う。
「それなら……最短だと21日ですね」
「21日ですね。わかりました2人にメールで伝えておきます」
「お願いします。あと他の細かいこと……時間とか待ち合わせ場所とかって聞いて貰えたりしますか?」
「えぇ、今からなお先輩にそれも確認しますね。わかったら教えます」
わぁ……。心寧ちゃんもすごい……。
流石、現代っ子……。
私と会話しながらも画面を見ずに、まえさき市で3時間ウンコしていたフィジカルおっぱいのようにスマホをフリック操作だけで文字を打ててらぁ……。
「なぁなぁ。俺もそっちに行っていいか?」
と、ここで私から6フィート離れた場所でちょこんと膝立ちしている鹿之助くんが混ぜて欲しそうな顔をしながら、人中を伸ばしながら軽く背伸びをしてカレンダーを覗き込もうとしている姿が目に映る。
「ダメです」
が、これを一蹴。
「なんで!?」
同時に当然の反応が返ってきた。
ごめんね。でも、これは別に意地悪しているわけじゃないのは分かってほしいところではある。
私としては鹿之ニュウムを補充したいところなのだが……。
「先ほどから申し上げている通り、本来であれば私は自宅待機期間中なので。
「えぇ!? でも日ノ出さんや速水さんは傍まで近寄ってるじゃんか?! 日ノ出さんに至っては日葵にめっちゃ身体をぐりぐり押し付けてるじゃんか!!!?」
「それは、心寧ちゃんの場合、窓の傍なので感染リスクがそこまで高くないからであるのと、陽葵ちゃんはもう何を言っても私のいう事を聞かないので諦めているだけです」
「…………♪」
今日の陽葵ちゃんに対して諦観モード私へ、ドヤ顔を浮かべた彼女は腕に組みついてきてはフィジカルおっぱい蛇子ちゃんよりも爆乳な胸を私に押し当ててゼロ距離まで身体を密着させてくる。
おい、陽葵ちゃん? お前、そんなにまでして楽しい夏休みを季節外れのインフルエンザで台無しにしたいそうだな?
あれだぞ? 私はちゃんと警告して感染対策も万全にしているのに押しかけて来たのは陽葵ちゃんだし、適切な距離を取ろうとしてもグイグイ近寄ってきているのは陽葵ちゃんだから、感染しても自己責任だし私はお見舞いには行かないからな???
葬儀には出てやる。
「……」ショボン
「んー。日葵ちゃんが鹿之助ちゃんのことが心配で近づけたくないのはわかるし、病気に罹ってほしくないって思っていることもわかるけど……。蛇子はその対応じゃ鹿之助ちゃんがあまりにも可哀想だと思うけどなー?」
ここでこの不公平な対応に蛇子ちゃんから鹿之助くんへフォローが入る。
改めて鹿之助くんに視線を移すが……お゙っ♥ お゙ほぉっ♥ ドスケベな顔をしてしょんぼりショゲている。あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙!゙ 本当は傍まで近寄らせたい~!!!
鹿之助くんも陽葵ちゃんみたいに隣に置いて夏休みの日程を組みたい~~~!!!!
されども今年の季節外れ性インフルエンザを舐めてはいけない。
これは今日の情を取るか明日を取るかの選択なのだ。5日間のうち約4日間、死にかけた私が言うのだ。これほどに説得力のある発言はないはずなのだが……。
「日葵ちゃん。日葵ちゃんはマスクを着けているけど、鹿之助ちゃんもマスクをつける形ならどうかな? 蛇子、学校の授業でお互いにマスクをしていればうつりにくいって習ったことがあるけど」
「……」チラッ
あ゙ぁ゙~!!! ずるい~~~~! 鹿之助くんのその目配せは卑怯だわ~~~!
「…………まぁ、それならいいです」
「……!」
「ただし。このカレンダーに触れたら必ず手指消毒をすること。私のくしゃみ射線上に立ち入らないこと。私が口から大量流血しても素手でそれに触れないこと。むやみに自分のマスクの口元を弄らないこと。家に帰ったら徹底的に手洗いうがいをすること。いいですね?」
「え? 大量流血?」
「え? 大量流血?」
「いいですね?」
「お、おう!」
「え? 大量流血?」
本当はマスクを着用した状態でも1ⅿは距離を離したほうがいいのだろうが、私の細かい指示にだんだん蛇子ちゃんの顔が物申したそうな……ボプテピピックでポブ子が顎にシワを寄せるような顔になりつつあるため、適度なところで中断する。
鹿之助くんは蛇子ちゃんが持参していた未使用のマスクを受け取ると私の隣、陽葵ちゃんの反対側へとやってきた。
ああああああああああああああ!
鹿之助くん家の匂いがするぅ! これはシカアニマル臭ゥ! 53位ワッカみたいな顔になるぅ!
「それでさ。7月の月末から8月の1週目の辺りって日程はどうなってるんだ? 今度、俺とふうまと蛇子で海へ遊びに行く予定があるんだけど……よかったら日葵も一緒にどうかなって思ってさ」
「
「え? でも日葵ちゃんこの日に既に投資・株取引って——モガッ?!」
「本当か!? やったぜ!」
陽葵ちゃんが余計な事を口走る前に、左手の平を陽葵ちゃんの口元にパーンと塞ぐようにして強制的に黙らせる。
はい。
株取引も重要だが、そんなものはこの夏の日の思い出に比べたら些細なものにしか過ぎないのだ。
陽葵ちゃんの腕を振りほどき、彼女の口を塞ぎつつ即座にマジックハンドで机上から筆記用具セットを取り出し、元の予定を黒く塗りつぶして海の日程を組み込む。
まぁ、御盆の前だが準備の過程に必要なものもこの海で採取できそうだし、おまけに鹿之助くん達と海に行けるというならば断わる理由などあるはずもないのだ。
投資・株取引、お金なんてね……——
社会人になってから地道に稼いだって間に合うんだよ!
ひと夏の思い出に比べたら安いものさ!!!
「モガー!モガガー!」
「日葵ちゃん。こっちの8月のこの日程はどうでしょうか? 鹿子ちゃんを連れて川遊びとか考えているのですが……」
「川遊び! いいですね! 大丈夫ですよ!」
こうして私のDIYと株取引と筋トレと謳ってみた収録だらけの夏休み日程は、陽葵ちゃんのくぐもった叫び声と共に日程が定まっていくのだった。
………
……
…
「うーん。今年の夏休みはかなり充実した1カ月半になりそうですね」
カレンダーに指を添わせて確認をする。現状定まっている大型日程として
・『夏休み初日に、なおコロ先輩の元へ』
・『鹿之助くん達と海に行くこと』
・『絶対に外せない観光』
・『(青空両親の)実家帰省』
・『鹿之助くん家に遊びに行く』
・『鹿子ちゃんを交えた川遊び』
・『陽葵ちゃんと遊ぶ』
・『稲毛屋に遊びに行く』
・『まえさき市で買い物』
が既に決定している。
この間に私事として、筋トレやらDIYやら収録やら自己学習などが含まれている。
まぁ、私としてはこの5人以外から夏休みの期間に誰かから誘われることはないと睨んでいた手前。心寧ちゃんが言っていたような先客で予定が埋まるなんてことはなさそうではある。
~あとがき~
対魔忍RPGを嗜む、みなさまは如何をお過ごしでしょうか……。
私はガチャ運的には最高峰でしたが、目当てと偏りとしては大ダメージを受けました。しばらく、今後もまだまだ東姐さんに頼り切りになりそうです……。
五車ユニットを3連続と、すり抜け同じキャラ2連続の確率はクトゥルフ神話TRPGで1決定的成功を出すよりも難しいはずなんだけどなぁ……?