対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
Episode123 『完全アウェイ』
夏休み初日。
私は親の寝顔より見た白いブラウスに、スカートゴムまで伸びる青色ネクタイ、丈の短い紺色スカートである五車学園の制服を着用し、五車学園へ訪れていた。
それにしてもこの世界の五車学園のスカートは短すぎやしないだろうか?
今こそ感覚がマヒして気にもしてないが、突風が吹くと捲れそうになってヒヤッとする。
そうそう。これは誰に弁明するわけでもないが、今回は別に筆記試験や実技試験の再試験に来たというわけではない。
なお先輩とコロ先輩に会うためにやってきたのだ。
恐らく手渡している小冊子に描かれた文字……。
魔族語の種類が判明したのであろう。
夏休みに入ったというのにもかかわらず、五車学園高等部3年の先輩方とすれ違うことがある。
そのイソイソとした忙しない動きと、前世での高校生活経験・時期などを重ね合わせた状況から推察するに、彼等は大学進学のためにオープンキャンパスや願書を取りに行く段階なのだろう。
私もあと3年もしないうちに彼等と同じような行動をすることになる。
記憶の引継ぎ付き転生ボーナスのおかげで、願書を取りに行くことや進学予定の大学オープンキャンパスの誘導を見失う……なんて事態にはならないだろうが。
それに現世では自分のことだけのみならず、人生の先駆者として鹿之助くんや陽葵ちゃんの手引きとなれる存在になるつもりだ。
AO入試の手順とか、一般試験の申請とか、入学時の面接訓練、学力向上など教えるべきこと、やることはいっぱいある。
そういえば…………。
コロ先輩やなお先輩は一体どこの大学に行くのだろうか?
今後の就職活動や将来設計に視点を置いたとき、現代での認識は確実に『大学に行って当然』の時代だろう。
いいや。私の元居た時代よりも当然を越えて義務教育レベルの進学率になっているかもしれない。
そもそも高卒と大卒では収入が違う。
就職も最終的に最終学歴によって決まる。
…………と、言うのが私の元の時代の認識だった。
それに海外と比較してしまえば、日本の大学は入学だけが面倒で卒業は簡単といわれるほどなのだからお金があって入れるなら入った方が良い。
五車町に大学があることが一番望ましいのだが…………。
あいにく五車町には大学はおろか、短大、専門大学すら存在しない。
結果、五車町を出ないという選択肢は存在しない。これは五車町にとっては最悪の過疎化悪循環スパイラルである。
五車町に残るのは『現代社会に押しつぶされて地元帰りした一般人』か、『大学への進学を諦めて地元に根付いている一般人』か、『社会人として外に出たが伴侶を連れて戻ってきた一般人』などだ。
2人が進学するのなら、それはニュータウン(笑)五車町の外。まえさき市や埼玉のほうに行くのだろうか?
「えーっと、3-C、3-C…………ここですね」
そんなことを考えながら心寧ちゃんから伝えてもらった3年生の教室へと脚を運ぶ。
「なおコロ、なおコロ、なおコロ、なおコロ……。なおコロ♪ なおコロ♪」
教室に入るための扉に備わっている小窓からそっと教室内を覗いて、自作のリズムを刻みながら、なお先輩とコロ先輩の姿を探す。
コソコソしている姿を傍から見れば、それは何とも悪事を働く5秒前って感じだ。
べ、別にやましいことをしているわけではないのだが、ついこのあいだ名も知らぬ3年の先輩を期末試験の前日に病院送りにしたこともある。
それ故の行動だった。
その先輩が3-C教室の中で追試の準備をしていた日には気まずい……で済むどころが、正当な因縁をつけられ大惨事大戦に発展しかねない。
夏休み初日から暴力沙汰で楽しい長期休暇が消失とか、私は嫌だぞ。
「コロ先輩……居た! ゔっ」
教室が通常時よりも賑わっていないことから、即座に自席で座り友人達であろう人物2人と話しているコロ先輩を発見することはできる。
しかし私としてはとてもじゃないが、教室内に入ってコロ先輩の元に行く気は瞬時に失せてしまった。
そのコロ先輩の元でおしゃべりしている2人の姿……。
ここからでは後ろ姿しかみえないが、あの蓮魔先生カラーの太刀の鞘と白いハチマキ、雪ん子の藁合羽のような髪型と水色の髪色には見覚えがある。
あれは間違いなく蓮魔先生カラーの太刀持ちは黒田先輩だし、水色の髪の先輩はたぶん氷室先輩の姿だ。
黒田先輩とは洋館事件以来。氷室先輩とは私が陽葵ちゃんと心寧ちゃんのクラスの窓ガラスを〈頭突き〉でぶち破った際に廊下で交通整理を行っていた時以来……でもないや。氷室先輩も洋館事件(外)で顔合わせしているっけ。記憶に薄いけど。
いずれにせよ、今日のところは悪いことは何もしていないが私からしてみれば会いたくない2人であることは間違いない。
まぁ、相手は18歳。
私は……彼女達よりも年上だが、蓮魔先生の前に引きずり出されるのは勘弁してほしい。
ワンチャン、蓮魔先生も
現世では年齢マウントはやめておいてやる。
てか年齢でしかマウント取れない大人とか、存在そのものが恥ずかしいし。きっと変な目で見られるだろうし。
そういえば、洋館事件でなお先輩は五車風紀隊の隊長とか委員長とか言っていたような気がする。となると親しいコロ先輩も風紀委員の1人なのだろうか?
「!」
「あっ」
ここで窓からチラチラ様子を伺う私にコロ先輩が気づいて、視線が合ってしまう。
別にやましいことをした後ってわけではないが、とにかくあの2人……特に蓮魔先生大好きっ娘の黒田先輩とは
だからコロ先輩の気づきによって黒田先輩と氷室先輩も振り返るかのような素振りを見せた為、咄嗟に扉の影に隠れてしまった。
とてもじゃないが、もう一度教室の中を覗くなんて蛮勇じみた自殺行為はできる気がしなかった。
それに私の目に狂いが無ければ、教室内になお先輩は無く。コロ先輩しか居なかったような気がする。
「…………よし」
であるならば。
最終的にコロ先輩の元からあの気難しい風紀委員が居なくなるまで。なお先輩がこの教室に到着するまでの間、私は女子トイレにでも隠れていよう。2人が居なくなったら接触する形で。うん。それで行こう。
それが面倒なことに巻き込まれず、変な気遣いもせず、穏やかな日常を過ごせるルートに違いない。
足音で私の存在に気付かれない為に、抜き足差し足〈忍び歩き〉で教室から離れ——
「妖精ちゃん」
「ぴゃぁ!?」
熊を刺激しないようにしながら逃亡するかの如く、後ずさりしながら3-C教室から離れる私に突然背後から声が掛かる。人が全神経を足に向けている時に限って、その声の掛け方が耳元に向けて、ねっとりとしたASMRのようなこそばゆさがあって飛び上がってしまった。
咄嗟にファイティングポーズを取りながら背後を振り返れば、女子生徒用制服を纏ったなお先輩が小悪魔チックに微笑みながら、私の反応を興味深そうな眼差しで見つめている姿があった。
いいや。なお先輩だけではない。
その背後には私と面識のない面識のない女性…………。いや、彼は男児か? なお先輩と同じように女子生徒用の制服を纏った男性が興味深そうな顔でこちらを見ていた。
彼は水色のショートボブのサイドテール型の髪型をしており、その毛先は浅紫色に染め上げられていた。陽葵ちゃんのようにパッチリと開いた眼からは深度に応じて変化していく水辺の岸色の虹彩をしていた。
首には男らしさを演出してしまう喉仏を黒のチョーカーで隠し、手首には可愛らしいシュシュで手首のゴツさを隠している。私が一見彼女にみえる彼の性別を判別できたのかは、彼の体格にもあるだろう。彼の胴体は女性の△形に比べて▽形……に近い□形をしていたこと、そしてほぼなめらかではあるが膝の皿の凹凸具合はやはり男性における膝の骨格だった。
そんな2人の登場に、せっかく3-C教室から離れたというのに身構えながら背後に後ずさりしたせいで元の位置まで戻ってしまう。
「どうしたんだい? そんな中腰になりながら後ずさりなんかして」
「ちょ、ちょっ。な、なんでもないですっ! それよりも、な、なお先輩! 急に驚かせに来るのは止めてもらえませんかね!? 寿命が縮んだかと思ったんですけど!?」
「ふふふ、ゴメンゴメン。あまりにも妖精ちゃんが前方に全集中して僕達に気づいていないようだったから。つい驚かせたくなっちゃってね」
なお先輩は動揺しまくる私をからかうようにケラケラとお腹を抱えて笑う。
「と、ところで、そちらの御仁はどちら様でしょうか?」
「あぁ、彼かい? 彼は僕の友人の——」
「も〜!なーお? せっかく彼女にも僕が男か女かどういう反応をするか様子見したかったのに、“彼” なんて単語を使ったら僕の性別がわかっちゃうじゃないか」
「ははっ、ごめん。でも妖精ちゃんは、観察眼が鋭いからね。君の性別は既に見抜いていると僕は思うかな」
「そうかな? こほん。僕は
「ああ、そうでしたか……。はじめまして。私は青空 日葵と申します」
彼は下級生の私に対しても、女性っぽい仕草で可愛らしく頭を下げてくる。私も応じる様に彼ほど可愛らしい振る舞いはできないが、一呼吸を置いて心を落ち着かせてから堂々と頭を下げた。
正直、彼よりも女子力が負けているような気がしてならない。それどころか、滲み出る雰囲気から明るく陽気なオーラが出ていてその点でも負けているような気がする。
「えっと。なお先輩の御友人ということは、同じ可愛いものが好きな同志という仲でしょうか?」
「そんなところかな♪ 僕となおそれぞれ目指す場所は違うかもだけどね!」
「2人とも立ち話はここらへんだよ。さぁ、妖精ちゃん。コロちゃんなら教室の中にいるよ」
彼はいつの間にかに私の背後。教室側へと回り込み、コロ先輩+αβがいる教室を指さししてくるが……私としてはその中に黒田先輩と氷室先輩がいるのだ。
いまは絶対に中に入りたくない。
「あー……えっと」
「あれ? どうかしたのかな?」
「ええー…………どうかしたって言いますか、どうかしているんですけども……」
「ぅん? ああ! 大丈夫。黒田さんも、氷室さんもちょっと生真面目過ぎるところがあるだけで、君が何も悪さをしていないなら必要以上に怖がることはないさ」
教室内は入ることを渋り『前門の男の娘、後門の美少年』に挟まれて動けない私。
もにょもにょと口籠る私の心情を瞬時に察して後門の美少年が耳元で囁くようにおだやかな口調で私の両肩を掴みにかかる。
「なっ、なお先輩?」
「本当に妖精ちゃんってこうしてみると不思議な子だよね。黒田さんと氷室さんの2人は怖がるなんて」
「いやぁ……それはまぁ……」
「僕は分からないこともないよ。黒田さんも氷室さんもどっちも怖いもんね」
「の、のぞみ先輩……!」
「それは妖精ちゃんの経歴を、のぞみは知らないからさ。彼女のこれまでの活躍を知ったら反応が変わるだろうね。そうだね……当時の妖精ちゃんは『洋館の怪物』や『脱出不能のループ空間』はまったく怖くないって振る舞いだったんだ」
「えっ……その洋館って……。『雨降洋館』?」
「ああ」
「それは、なおが疑問形になるのもわかる気がするかなぁ……」
「えぇ……? あ、わ、わははは……」
驚くのぞみ先輩と、事情を説明するなお先輩の言葉に完全に目を逸らして、はにかむようにぎこちなく笑顔を作りつつも片目を瞑りながら後頭部を掻く。
だが赤き霧/磯八目巾着鰻の場合は、瞬時にそれが慣れ親しむことはないクトゥルフ神話TRPG世界の神話生物だって理解できてしまったことと、あの時は一般人である陽葵ちゃんとかコロ先輩とかアイツから護らなきゃいけない存在が居たために気を強く保てたのであって……。正直、赤き霧/磯八目巾着鰻の存在の方が脅威として考えた場合、末恐ろしい。
あの時は犠牲者を考慮して逃走の道こそ選んだが……。
それに——
血が出るのであれば、殺せる。
そう。最終的にぶっ殺せばいいのだ。
ループ空間に関しては情報収集の賜物だ。あれで、脱出に関する情報が一切残されていなかったとしたら途方に暮れていたかもしれない。
「それじゃ、行こうか」
「え? ちょ——え!」
「大丈夫。大丈夫。僕達が一緒だから」
「そうだよ! 『雨降洋館』の怪談に比べたら、ちっとも怖くない、怖くない」
「あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああ!」
なお先輩は注射を怖がる子供をあやすように同じ単語を二回連続で語りかけながら、私をコンパスのように180°反転させると両肩に手を置いたまま3-C教室に押し込もうとする。
自身の両足をびったりと地面につけて堪えようとするも、のぞみ先輩までもが加勢してくる。流石に男で2人に〈組み付き〉され押されようものなら、腕力で私が敵うはずもない。既になお先輩によってほぼ耐えられなかったのだ。
そのままずるずると雪かき橇で運搬される雪のように運ばれていくのだった。
~【お知らせ】〜
5月1日より、更新日時を毎週月曜日20:37に変更します。
4月30日投稿後は、翌日の5月1日にEpisode127を投稿する予定なのでよろしくお願いいたします。
〜あとがき〜
男の娘っていいよね!
藍野のぞみくんを出したかったんですよ〜。
せっかく新ユニットで【体操部の妖精】という二つ名がついていたので、これはもう【消火器の妖精】と出会わせたいじゃないですか!!!
鹿之助くんに続く男の娘(個人的ジャンルとしては女装男子)だったので、特別な思い入れがあるのです。
でも……方や煌びやかに舞う意味での
同じキラキラでも意味合いが違います。