対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
………
……
…
「おっ。着替え終わったか」
女子更衣室から出た先には、シンプルかつ無地な青色の短パン水着を着用したふうま君が、他県の顔面偏差値平々凡々な女子達からキャイキャイ囲まれながら私達の着替えを待っていた。
あれは逆ナンパだ。
ふうま、あの野郎。
五車学園を離れてからもこうやって影で㊙︎ふうまファンクラブのメンバーを稼いでいるのか。
ふうまコノヤロウ。
「ふうまちゃーん! おまたせー!」
無自覚系・女たらしのふうまの所業にメラメラとたぎる思いを馳せている私をよそに、隣に立っていた蛇子ちゃんが即座に動く。
ふうま君に群がるナンパ女どもを千切っては投げ千切っては投げの要領で斬り込んでいき、彼に抱き着きピッタリと胸を押し付けるような形で彼女アピールをして烏合の衆を散開させる。
やっぱりそこらへんの女性では、まえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんのスタイルを含めた美貌勝る存在はいない。
もちろん、そこには私も含まれている。
蛇子ちゃんの登場で直ちに彼女達は『ケッ、彼女持ちかよ』とブツクサ文句を垂れながら雑多な人ごみの中に消えていった。
「……あれ? 鹿之助くんはどちらへ?」
と、ここで彼の傍らに鹿之助くんがいないことに気が付く。
私としてはあのモブにもみくちゃにされながら、鹿之助くんも囲まれてヨチヨチされているのかと思ったがそんなことはなかった。
私の人生におけるモブ共め。
鹿之助くんに関わらないことで九死に一生を得たな。
ある程度培った〈キック〉と、親から受け継いだ
「ああ、鹿之助のやつなら……」
ふうま君の視線が男子更衣室の入り口に向けられる。
自然と私もそちらへと視線が向く。
「うぅぅ……」
居た。
彼は男子更衣室の入り口で身体の大半を隠して、こちらの様子を伺っていた。
まるで凶暴な肉食獣に怯えて物陰から様子を覗き込む小動物のようだ。
今の状態から分かることは、彼の視線は、私達の集団…………というよりも私に向いているような気がする。
自意識過剰かもしれないが……彼と視線がかなりの頻度で合うのだ。
でも視線を合わせても先に彼が逸らしてしまうのだが。
……ということは、私が凶暴な肉食獣に見えているってこと!?!?
まって、そんなことはナイヨー? 怖くないから出ておいでー?
あ。ついでに。
彼はあの女の子のように長い髪の毛をサイドテールのように髪の毛を結っていることがここから観測できる。
「水着に着替えてから、ずっとあんな調子でな……」
ふうま君は困ったように片手で前髪をいじる。
「もー。鹿之助ちゃん、大丈夫だってば! 鹿之助ちゃんが一番、海に行こうとしてたじゃない。早くこっちにおいでよ」
「ぅぅぅ」
見かねた蛇子ちゃんが笑顔で手招きをするが鹿之助くんは出てこない。
出てこないどころか、更衣室内に引っ込んでしまった。
かわいい。
かわゆい。
かわゆす。
かわいいの三段論法。
鹿之助くんは、かわいい。
ギヒヒヒヒッ!
「……」チョイチョイ
「?」
アーケードゲームのもぐら叩き状態の鹿之助くんに見惚れていると、背後から蛇子ちゃんが
「…………」スッ
彼女は言葉には現わさなかったが『鹿之助くんを迎えに行ってあげて欲しい』というサインをジェスチャーで私に伝えてきた。
「では荷物を少しの間だけ、お願いします」
「おっけー♪」
パラソルやクーラーボックスなどの私物を待機する2人に預け、私は救命胴衣片手に男子更衣室へと近づく。
流石にズカズカと男子更衣室内に入るわけにもいかないので入り口で立ち止まる。
「鹿之助くん。大丈夫ですか? 何処か具合でも悪いのですか?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、その俺の持ってきた水着……その日葵に見せるのちょっと勇気があって、さ。でも、えっと、でも持ってきちゃったし、もう着ちゃったんだけど……、その、見せる自信が出ないんだ。……その、だから。その、日葵は俺の水着……見ても、笑わないでいてくれるか?」
鹿之助くんは、カーテンの扉一枚隔ててなんか随分な前置きをしてくる。
大丈夫だ。むしろ私としては早く魅せてほしいのだが。
早く! 早く! Hurry up!!!
くそっ……じれってーな!!! ちょっと、やらしい雰囲気になってくるじゃないか!
いや、これはそういうプレイか??? 焦らしプレイ???
「んもう。何言ってるんですか。大丈夫です。どんな格好でも笑いませんよ」
「ほ、ほんとか? じゃあ……」
すごすごと鹿之助くんが出てくる動きが見えたので、私は振り返って蛇子ちゃんとふうま君に引っ張り出しが成功した趣旨を送る。
それから、鹿之助くんの方に視線を——
(゚Д゚)
……今、この更衣室のどこかで落雷の音が聞こえなかったか?
ドッピュッ♥ピッシャン!みたいな音。
モジモジと内股になって恥じらいながらも男子更衣室から現れた鹿之助くんの姿に、私はあんぐりと口が開くのを止めることができなかった。
でもそんな私に鹿之助くんがショックを受けてしまわないよう、自然な姿勢で口元を隠した。
だって、その場には……。
だってさ。
だってさぁ……?
「よ、よぉ……その、笑わないで、くれて、さんきゅー……な?」
恥ずかしさのあまり、泣きそうな顔になりながらも、不自然な笑みを浮かべ姿を現した彼に釘付けになる。
〈改造した釘打ち機〉が貫通したようになる。釘貫する。
そこにはワンピース型のフリルスカート付水着を纏った鹿之助きゅんが居たのだから。
「」
私は転生前も、転生後も生まれついての女だ。
だが今こそ、男性等における股間に雷撃が落ちるという感覚を子宮で感じ取っている。
やばい。やばいわ。こんなの誰が想定していたよ?
学校でプール開きの日に彼はもしかするとスクール水着を着用しているかもしれないと妄想を膨らませていたが、それが現実になるなんて想定なんかしてるわけないでしょうよ。いや、いいなーぐらいでは思ってたけど、ここは学校じゃないんよ。公共の場なんよ。公共の場でその恰好は破壊力の塊なんよ。
鹿之助の状態について、再度その御尊顔、御身体、御召し物を肉眼で認識する。
今、彼は普段下ろしている長い髪をハイツインテールで髪の毛を結わき、朱色のシュシュで髪留めしていた。白のホルターネック式の根元には黄緑色の蝶結び状のリボンがデザインされており、スクール水着の生地はエナメルのように光を反射させている。フリルスカートの色合いもカキ氷にメロン味のシロップを振りかけたような色合いで、私の視点からでは拝見することはできないが、しゃがみこんで彼の腰元まで視点を降ろせば歩くたびにふわふわと持ち上がるスカートのすそ越しに彼の玉袋をみることができるかもしれない。
さらに左の足首にはピンク色のリングバンド、右大腿部には白のフリルが付いた黄緑色の装飾品を身に着けている。右肩には黄色生地のトートバックを掛け、鹿之助も鹿之助くんで夏の海を満喫しようとしたのか、なんか、オイルとか、シュノーケルとか、シャベル(園芸用こて)とかが入っているのが見える。
「エンッ!!!」
「あぁっ!ひ、ひまりぃ!?」
「プパァ——」
あぁ……駄目だ。
直視したらこれは私が死ぬ。神々しくて死ぬ。鼻から血を吹き出して死んでしまう。
既に理科室に存在する刺激系の化学物を直に臭いを嗅いでしまった青年のように毒物によって致命を喰らったかのように、あまりの衝撃で背後に二、三歩フラついてしまう。
なんか。海に来たばっかりだけど、目標の8割を達成して満足した私が今ここにいるわ。
ふら付いて仰け反る私に、鹿之助くんが私を思ってか直ちに私の手を掴んで転ばないように咄嗟に引き寄せてくる。
オーバーキルとはこのことを言うのだろう。過剰な鹿之ニュウムの摂取に私は完全に急性鹿之射線症よ。間違いなく日爆だわ。
だが小柄な鹿之助くんが、蛇子ちゃんより大柄な私をふらつき倒れそうになるのを防げるわけもなく……。
むしろ鹿之助くんが私の手を掴んだことで、元から重心が安定せずバランスの取れない私が自分を制御できるわけもなく——
「わぁっ!」
鹿之助くんが私に覆いかぶさるようにして転倒してきた。
「————」
自身の意識とは別の意識化で、咄嗟に彼を抱き枕を抱きしめるようにして保護に回る。
自業自得とはいえ、叩きつけられた背中、腰、肩に鈍痛が走るが別にどのような怪我をしたところで行動に影響が及ぶわけではないのでこれはセーフだ。
そんなことよりも——
「わあっ……はっ……はぁっ、はっ、はぁっ……」
2人で纏めて転んだことで鹿之助くんと私の距離は、未だかつてない程に接近していた。
彼は支えきれずに自分もろとも転んだことにびっくりしたのだろう。
涙目になった鹿之助くんの驚いたような、困惑したかのような小さな溜息の風が私の顔面に掛かる。
彼の爽やかな口の匂い。
天然のルビーのような紫がほんのり混じった緋色の瞳。
「…………」
近い。
それぐらいしか分からないほどに私達の近い。
まるで創作界隈で時折見られる、異性と狭いロッカーの中に隠れた時ほどの距離。
それは背面の鈍痛を忘れさせてくれるほどに濃厚なひとときだった。
今、何も言わずに首を少し動かし顔を斜めに配置して、彼の唇に数センチ自身の唇を近づけるだけで、彼のぷるんとした柔らかい唇を重ね合わせ彼を独占できるだろう。
「おい!大丈夫か?」
鹿之助くんのマットとして寝そべりながら濃密な時間を過ごしている私にふとふうま君の声が掛かる。
同時に現実に引き戻され、まだ告白もしていないのに私は今何をしようとしていたか自身を咎めるような冷静さを取り戻す。
「あぁ、すみません。ちょっと立ち眩みしてしまいまして、転んでしまいました。鹿之助くんは大丈夫でしょうか?頭は打ってませんか?」
「あ……。あっ……あぁ、大丈夫……だ。日葵が護ってくれたから……」
「ならよかった」
私はふうま君の手を取り、立ち上がる。
同時に鹿之助くんのことは、海上自衛隊が海での漂流者をヘリで救助するように抱きかかえたまま抱き起こした。
いつもなら雰囲気ブレイカーふうまに憤りを覚えていたところだが、この瞬間だけは感謝する。
本当に私は何をしようとしていたんだ?
告白して、互いの距離感を確かめ合って、それからキスがセオリーだろうが。
何、過程を3つ4つ吹き飛ばして愛撫とセクロスの前段階であるキスの過程にぶち込もうとしてんの??? 恋愛のABC*1のA*2を何いきなりヤろうとしてんの????
お前、女だから許されるかもしれないけど、男が逆のことをやったら暴行罪で起訴されてもおかしくないことしようとしていたよな???
マジで、客観的に自分を見ような????
「…………」
さて、ひと段落ついたところで周囲を見渡す。
周囲の観衆は私達が転んだことで立てた物音に驚き視線をこちらに向けていたが、その殆どは他人には無関心な様で私達が無事であることが確認できるとすぐに各々の休日を謳歌するための日常に戻っていく。
残りわずかがまだ私達に興味を引いているのか、視線を向けたままだった。
周囲を見渡し現状を確認する私は置いといて、やがて蛇子ちゃんも近寄っては鹿之助くんの安否を確認して彼をからかって談笑している。
ん? 自分を客観的に視る?
この世界は対魔忍世界?
「それじゃあ! 気を取り直して、ビーチに行こう!」
蛇子ちゃんの仕切りでムードを取り戻し、今度はふうま君を先頭に来た道を戻る。
建物から出た私達をまばゆい太陽が私達の素肌を照り付ける。刺すようなチクチクとした紫外線の他にも、何かが心の奥底に引っ掛かって太陽のような感覚が心を刺され、後ろ髪を引かれる。
この杞憂が何を指し示しているのか、左手を口元に当てて右手は左肘に付けながら〈INTロール〉で……——
~あとがき~(追記)
そういえば……!
明日(2023/05/16)は対魔忍GOGO!のリリース日でしたね!!!
異世界転生者、大真しのぶ ちゃん……。
二次創作に劣らないほどの濃いキャラを期待しております。
登場人物全員ハイライトオフなので真面じゃなさそうなのはなんとなしに伝わってくるのですが……。
アクション対魔忍の方は容量の都合でDLしていないのですが、対魔忍GOGOはどうかな……?
もしも今後五車学園ワードなどが飛び交い、ふうま君達の学年が割れたりしたらこっちの二次創作に登場する機会が出てくるかも?
残り約3時間後が楽しみです!