対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「…………」
流石にカルティストの根城内では、足音を殺し、息を潜め、気配を消した〈隠密〉行動を取っての侵入を試みる。
海の家を模した民家の2階、ふすま1枚を隔てた室内の一角に屈強なゲスのカルティストに囲まれる鹿之助くんの姿を確認する。
………
……
…
「ふあぁぁ……? えっと……そ、そうら……おれ、おれぇ……彼氏まっへる、から……帰らないと……」
「どこへ行くって?」
「おいおい、これからお楽しみだっていうのに逃がさないぜ♪」
「その彼氏とやらも海で他の女と新しい出会いしてるに違いないな」
彼は雑魚寝同然の布団の上に乙女座りをしたまま、呂律の回らない口調でその身を小さくしながら怯えた様子を見せていた。
その目はトロンとしていて焦点が定まってはいない。
既に正午過ぎだというのに、どこか寝ぼけているようなそんな反応だ。
殺意が滾るのと同時に、そんなトロンとして今にも溶けてしまいそうな鹿之助くんを見ているとこっちまで余計な内蔵まで燃え広がって、受精効果を高めるため子宮が降下を感じ取る。
「それにドエロいハメ取り素人AVにも出演するって承諾しただろ?」
「ど、どういしょぉ……?」
「ほら直筆のコレだ。破るってんなら違約金1000万払って貰わねぇとなぁ?」
「ロリガキ風情がこの金額払えんのかァ!? お゙ぉ゙ッ!!!?」
「ひっ……ご、ごめんなさ……どにゃらないで……」
「…………」
室内で繰り広げられる威圧行為に彼は、DVで暴力被害に遭って咄嗟に両手で顔を護るような仕草をする。
かわいい。ギヒヒヒヒッ♥
おっと。
ごほん。
ふむ……なるほどぉ?
私の耳がおかしくなければ、彼はAVに出演する契約を結んでしまったらしい。
あの様子じゃあ、掘る側というよりも掘られる側としてだろう。
今の彼はあのフリルスカートに手を掛けて、陰部を曝け出さなければどう見たって女の子にしか見えない。
ひとまず、いつもの慣れ親しみのある手荒な方法で奪還する前に、3種類の交渉を手段として挟むことができそうだ。
だがその段階に至る前に自身を成長させる過程として交渉を持ち込んだって良いだろう。
なに。
最終的に殺すことは確定しているし、殺してやるし、殺すが、それはあくまでも最後選択肢にしてやろう。
野郎ぶっ殺してやるぅ。
「ってことで早速、始めようか♪ アンタのエッチなところを俺等に見せて——」
撮影機材を手にした男が鹿之助くんのワンピースのフリルスカートに手を掛ける。
「あぁ、こんなところに居たんですね。探しましたよ」
彼のスカートが捲られる前に、私が襖を捲って先に侵入する。
「ふぇ?」
「お?」
〈隠密〉状態を解除し姿を現した突然の乱入者に、鹿之助くんは事態を理解できていないような目で。
イレギュラーの参上に、小規模な団体を形成しているカルティスト共は私へ鋭い睨みを利かせる。
撮影機材を持った男の手が鹿之助くんのクアンタム・ハーモナイザーを映し出す前に私へと向けられた。
ゆえに口だけは余裕の笑みを浮かべながら【推しの子】の表紙のような片手逆ピースサインを送って撮影してもらう。
「あ、あえ……? ひまぃ……? なんれぇ……ろうしへぇ……?」
「私の名前は
後ほど僅かに漏れ出た本名で自分が特定されないように偽名で誤魔化そうとする。
「あ……あぉぃ……だっへ…………?」
「ですです」
彼は思考するだけの力も残っていないようだ。
彼には満面の笑顔を向けて腕を大きく広げる。
まるで抱擁するために待機する天使のように。
救世主の登場に不安が少しでも和らぐように。
「おいおい、あんちゃん。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「てか、どうやって入ってきた? 下には仲間がいるのに……」
「土足で上がり込んできやがって! どういうつもりか知らねぇが、痛い目に遭いたくねえならさっさと回れ右して帰んな!」
鹿之助くんにヘラヘラと笑顔を向ける私へ大男が私の進路を遮って〈威圧〉してくる。
その手には私よりも三回り以上も大きい、青筋の浮かび上がった無骨な男らしい握り拳が作られており、既に殺気立ったスレッジハンマーのような肉塊は戦意に満ち溢れている。
だが動じない。
私も挑戦的な上目遣いで挑発し、口元はヘラヘラしたまま引きさがるつもりはないと意思表示する。
「おっと、そうでしたか。そうでしたか。それは失礼しました。それじゃあ、私の彼女を引き取ったら退散しますね」
「…………」
「……何か?」
大男を反れて鹿之助くんの元まで向かおうと左に一歩踏み出したところで、大男もまた私の進行方向を塞ぐように動き目力を加えてくる。
ひとまずプラン1*1は上手く行きそうにない様子だ。
「回れ右して、サッサと、失せろ。って言ってんだよ」
「えぇ。彼女を回収したらね」
「話の通じねえ奴だなぁ?」
「彼女はヒョロガリチビのテメェの元に帰りたくないんだとよギャハハハ!!!」
「そうなの?鹿ちゃん」
「……ぇぇと……ぁ。…………ぁぅ…………」
問いかけに対し、鹿之助くんは上手く言葉が出てこないらしい。
両手で頭を抱えて言葉に示そうとしているが、くも膜下出血発生から2週間以内に現れる後遺症の1つである失語症が発現したときのように思った通りの言葉が口から出てこないようで口をもごもごと動かしている。
否。
彼の心理状態を〈心理学〉で内情を探るならば、言葉が出てこないことに加え。
最愛の妻が発見されてはならない瞬間を愛しの旦那様に発見されて、気まずくて言葉が出てこない乙女のような心理的な反応も伺える。
やはり、鹿之助くんは可愛いですね。
「帰りたくないってよ!ギャハハハ!!!」
「テメェに聴いてねぇよこのボケカススカタン」
「あ゙?」
「ん?」
なかなか言葉の出てこない鹿之助くんの代理者とでも言いたげにゲス男が下卑な笑い声と共に彼の発言権を奪った。
結果、心の声がそのまま漏れ出た上に明らかな一触即発な事態に大の大人の男が3人そろってゾロゾロと私を取り囲み始める。
どうやら男水着チャレンジのおかげで今のところは男に見られているらしいが、実際には私は女である。
性差も持ち合わせておきながら、人数程度でしか圧倒できないとは情けねぇ奴等だ。
ま、圧倒すらできてねぇけどな。
そんなお前等がこれからAV撮影の被検体に選んだ鹿之助くんも一見しただけの外見では女だけど、実際のところは男だけど。
——ピシャッ
私の背後に回り込んだ1人が出入り口である襖を閉じてしまった。
これで私が何か騒動を引き起こしても、チェイスで逃げ切る前に捕縛される確率が高まる。
しかし、こちらも鹿之助くんを奪還するまで引き下がるつもりは毛頭ない。
最終的には暴力。暴力で全てを解決する。
「いやいやいや。いやいやいやいや、彼氏さん。彼女さんは自ら進んで同意書にサインされているんですよ。我々が企画したAVに出演するって」
大男を正面に背後へゲス男とチャラ男が私を取り囲み、交渉の場も持たずに暴力に発展しかけた時。
もっとも鹿之助くんに近い、撮影機材を持った現場監督風の男が遠巻きにA4用紙程度のチラつかせてくる。
奴としてはこの場を穏便に済ませたいように見えた。
短気な性格を振りかざしているカルティスト共と私を含めた4人より冷静なようだ。
カルティスト一団の役割で考えるならば、奴が頭……教祖の役割が該当するだろう。
ヤツは〈法律〉がどうだの、違約金がどうだの、互いの同意がどうだの、自分は慣れた監督だからこういう事情や法律に詳しいだの、鹿之助くんを連れて帰るのであれば私を営業妨害で訴えるだの……。
以上の内容を、素人には分からないようなわざと小難しい言葉を使い、恐喝し、さらに捲し立てるような早口で〈言いくるめ〉てくる。
「…………」
魂胆が透け透けなんだよ。
きっと何もわからねえ浅はかな若者だと思っているんだろうな。
浅はかな若者に見えているならば、結構。
欺いてやるには丁度いい目くらましだ。
「——だから今回の撮影は同意を得た合法であんたの彼女さんは……」
「『AV出演被害防止・救済法』」
「ぅん?」
「民法のAV出演被害防止・救済法……知っているでしょう? 様々な法律に長けているAV撮影のカントクさんなら。当然。2022年6月23日に施行された性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する〈法律〉についてご存じのはずだ」
だがな。
人を見掛けで判断するとどうなるか教えてやろう。
齧った程度の〈法律〉知識で出し抜けると思ったなら大間違いだ。
リアル〈法律〉マウントには〈法律〉でマウントし返すぞこの野郎。
幸いにも、この法律の成立は2022年6月15日。私にとっては
つまりプラン2*2の出し抜き作戦を施行する。監督がマトモならば、この法律は提示されたくない情報だろう。
悪人だからこそ、ちょこっとその分野の知識に長けている。
それっぽく取り繕い、周囲を焚き付ける。
——でなければ素人を騙せない。
これは我々の業界では基本的戦術だ。
マトモなようなことを話しながらもマトモじゃないから、カルティストの教祖のような立ち位置をしているわけだが。
「あ、あぁ!当然、知っているとも! ほら、でもね、彼氏くん。僕らは正式な契約を交わして同意の上で——」
「当たり前です。事業者の義務 出演契約等に関する特則 第1節 締結に関する特則というもの出演契約締結時の契約書等の交付と、契約内容の説明の義務化があるわけですから。ところで今回の撮影は『撮影時の出演者の安全を確保する義務』を確保されているのですよね?」
「も、もちろんだとも!」
AV監督の言葉に、スゥ。と目を細める。
男のアナルは、無理やり男根を捻じ込もうものなら裂けてしまう——
——女性よりも裂肛しやすい繊細な敏感アナルなのだ。
と言っても、女性でも解さなければ確率的には裂けることには裂けるのだが。
まぁ、この場にほぐす為の前戯用の道具が置かれていない、そんなことも知らなさそうなヤツの『安全を保証する義務』に対する肯定は疑わしいものに他ならない。
アナルを4~5㎝広げられるように開発・調教するのにだって人によっては数カ月、怪我を伴わない前戯の段階ですら数時間を要することも分かっているかどうかすら疑わしい。
だが今はアナル論議や、アナル拡張に必要な時間を説くつもりはない。
あまり追い詰めすぎても私の追い詰める楽しみが端的な達成感しか残らなくなってしまう。
故にここはアナル拡張について追及はせずに敢えて泳がせる。
『安全を保証する義務』と『鹿之助くんのアナルの安全性の保証』については受け流して対応する。
「じゃあ、同法には『契約から1か月間の撮影の禁止』とありますが、こちらに関しては何かありますか? その契約書、明らかに
次の指摘に対して監督の男はアマゾン奥地の苦い芋虫汁でも食わされたかのような苦い顔をしている。
ありがとう前世時代のクソ法律、こんな半世紀後の未来で役に立つとは思わなかったよ。
でも滅べ、クソ法律。2023年の現代を生きるものにとっては新作『男の娘』や『スカトロ』『拷問』モノのAVが出ないわ、自分達の福祉に繋げられてしまう悪法でしかない。
「で、あ る な ら ば。この契約には〈法律〉上の規定内ではない。つまり違法ってわけだ。鹿ちゃん、どうでしょう?これを聴いてもまだAV出演したいですか?」
「で、でたぃわけ……なぃ……」
「はァーい!来ましたァッ!出演契約等に関する特則 第3節 無効、取消し及び解除等に関する特則ゥ!出演者は撮影時に同意していても、公表から1年間は無条件に契約を解除することができるの発動ゥ!!!!」
ヒャア! 我慢できねえ! 収穫の時だ!
最高峰のしたり顔で、左手を頭上に持ち上げて指パッチンを一度高らかに鳴らす。
鹿之助くんの出演拒否への宣言のおかげで、カントクが鹿之助くんと結んだ契約は完璧で究極の灰燼に帰した。
これを喜ばずして、いつ喜ぶ?
〈法律〉でマウントを取りに来たからそうなるのだ。次はもっと〈法律〉に疎い奴を引っかけるんだな。
うーん、マウントを取ってきた輩にマウントを取り返すのってぎもぢぃぢいいいいい!Foooooooo!!!
~あとがき~
㊗ 今日で無事に2周年記念!
いつも応援してくれる兄貴姉貴達、ありがとうございます!
先週は感想返信間に合わずすみません……。
『皆様に応援されて早2年!』とかテレビでよく聞くようなクサい台詞は個人的にあまり好みではないのですが、応援して頂けなければ割と本当に6章辺りでエターになっていた未来はありました。
本作は感想やファンアートを送ってくれて応援をくれた皆様の反応で続いているのはガチです。
だから今年もお礼を言わせて頂きます! 皆様のおかげでまだ続けられています!
ありがとうございます!!!
更新速度は現状維持で続行します!
休載したら……復活できなくなっちゃうよ感がするのです……。
これからも、本作をよろしくお願いします。
~ついしん~
鹿之助くんの水着回想確認して来たら、あっちはエドシマ海水浴場でしたね……。
でも本作品、既にオリ主が冒頭から五車学園を掻き回してしまったせいでバタフライ効果もあるし、今回はふうま君とヘヴィ子ちゃんが燐先生の代わりにいるし、茨城県海水浴場でも誤差やろ誤差!