対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode134 『トラップは最後の最後でほんの少しささやかに』

 

「…………」

 

 

 完全に総監督は黙らせた。

 

 頭脳(ブレイン)を論破したことで脳筋側の大男、ゲス男、チャラ男の殺気度が増したような気がするが、まだ手は出してこない。

 

 私を取り囲んだまま、頑なに鹿之助くんの元まで近づけるつもりもないようだ。

 

 

「はぁー……。鹿ちゃん、帰りましょう。みんな待ってますよ」

 

「うん……」

 

 

 鹿ちゃんに近づけない以上。

 

 私はどうすることもできないので片目を瞑って後頭部を掻きながら、もう一方の片手を水星の魔女でミオリネに手を差し伸べる血塗れスレッタのように突き出して彼が自ら這ってでも来るように促す。

 

 ゆっくりとだが這いつくばりながらも近づこうとする鹿之助くん。

 

 だが薬の影響でまっすぐ進めない。

 

 それどころか潰れたカエルのような動きで立ち上がることすら困難そうだ。

 

 やはり傍まで迎えに行って彼を支えるなり、背負うなりして立ち去る必要があるだろう。

 

 

「…………」

 

 

 うーん……。

 

 持ち去ってきたグラスを〈薬学〉で成分分析をしなければわからないが、強めの精神安定剤でも飲まされたのだろうか?

 

 グラスの残り香から推察するに高濃度のアルコール……とは考えにくいだろう。

 

 彼の様子から推察するに昏睡(マグロ)にはならない程度のデートレイプドラッグ辺りとか、歩けないことから筋弛緩薬が投与されたって可能性が考えられる。

 

 

「……」

 

「おぉっと、私としてはこのまま私達を見逃して足を洗う方が賢明だと思いますけどね。こちらのグラスは既に回収させて頂きましたが、彼女の動きを見る分に正常ではないことは確かです。このまま見逃してくれたら通報はしないで差し上げましょう。つまり民事訴訟はない……状況的によっては刑事事件に発展することもなし。どちらがあなた方にとって有益なのか、少し考えればわかるとは思いますが」

 

 

 そして鹿之助くんが動けない今、やはり私が動くと遮る大男。

 

 ダメ押しで隠し持ってきたグラスを取り出して指先でグラスのフォルムをなぞりながら、背後でこちらの隙を窺っているチャラ男の顔の前に差し出す。

 

 チャラ男はまさか現物を証拠品として押収されるとは思ってはいなかったのだろう。

 

 〈心理学〉で内情を探らずともわかるほどに激しい動揺を見せていた。

 

 さぁ。

 

 これは脅しが込められた〈威圧〉に近い〈誘惑〉。

 

 ダメ押しのプラン3*1、〈魅惑〉の離脱交渉だ。

 

 これがうまく行こうが行くまいが、最終的には残るプラン4、最終手段となる。

 

 死は早いか・遅いかの違いだ。

 

 

「……」

 

 

 一瞬だけ周囲の空気が凍り付いたかのような、時が止まったかのような錯覚が起きる。

 

 

「——やれやれ、ですね」

 

 

 ただ刻が動き出したのも、瞬く間だった。

 

 

「ウオラァッ!!!」

 

「……」

 

 

 私が背後にいるチャラ男とゲス男にグラスを見せている間に、大男による己の筋力に任せた〈こぶし〉が炸裂する。

 

 力任せのスイングは失神不可避のフックと言っても過言ではなく、重々しい空を切る音が響く。

 

 だが黙って殴られるほど私も優しくはないし、このような状況で背面攻撃など程度想定の範疇内だ。

 

 初撃は〈回避〉に専念し〈こぶし〉を見定め、身体を斜めに躱すことで一撃を振り抜かせる。

 

 

「ま、ご自身で経験なされるとよろしいかと」パリィン

 

「ゲッ!!!」

 

 

 振り抜かせ様に〈回避〉に用いた遠心力を使って、手に持っていたグラスをチャラ男の顔面に叩きつける。

 

 ガラス片が砕ける音と、内部に残った残留物がチャラ男の粘膜に降りかかる。

 

 鹿之助くんが大半を飲んでしまったゆえに、効き目はさほどではないだろうが即効性という面では真水に混入したインクの染みのように確実に奴を汚染することだろう。

 

 

「このガキャァ!」

 

 

バチバチバチバチッ

 

 

「ひゃぁ、これは危ない」

 

 

 ガラス片が飛散し顔面でグラスを叩き割られたチャラ男が動けないところで、今度はゲス男の攻撃だった。

 

 この攻撃には直ちに〈受け流し〉の姿勢を取る。

 

 槍で突くような手の動きに対して手首に〈組み付き〉、〈組み付き〉したまま衝撃を直進方向へ往なし逃れる。

 

 奴の手には接触型の〈スタンガン〉が握られていた。

 

 青白い火花が飛び散るソレは痛そうだが、それよりも電流による『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』の “スタン” 状態に持って来られるのは面倒だ。

 

 

「ゴアアアアア!!!!」

 

 

 再び大男による獣のような雄たけびと共に、両手で指を組んだ〈こぶし〉によるスマッシュによる一撃。

 

 バイオハザードで飛び掛かるゾンビの脇を潜り抜けるようにして、またもや〈回避〉する。

 

 

 …………正直、東京キングダムに向かう前の肩慣らしにもならない。

 

 まえさき市でえっちなお店を開いている蛇子ちゃんやら、強制訓練連行の眞田先輩との戦闘と比較すれば緩慢(ノロマ)な動き過ぎる。

 

 

 だがいつものように非日常に片足を踏み込んだという臨場感は私の脳内麻薬を激しく分泌させてはくれた。

 

 スリリングな駆け引きが私に生の実感を与えてくれる。

 

 まぁ、〈回避〉行動の致命的失敗に至らなければNTRな状況には陥らないだろう。

 

 そんな小手調べにもならない3人組の存在よりも、この事態で一番厄介なのは——

 

 

「…………」

 

 

 鹿之助くんの隣で気配を消し息を潜め、カメラを用いて私の動きを機材に納めている例のカントク(カルティストの教祖)の存在だ。

 

 先に暴力での壊滅を求めてきたのは大男であれ、マスコミのように切り抜き映像…………私がチャラ男をグラスでぶん殴って怪我をさせた一部分だけを “切り抜き” されてSNSにアップロードされた日には、たまったものではない。

 

 都合のよい編集上の動画では私は悪者であろうし、五車町というクソ田舎にいる以上……即特定とまでは行かなくても警察の事情聴取やらが挟まることになれば、コイツ等を抹消しにくくなってしまう。

 

 それにSNSでは、人は怒りの感情に駆られて煽動された時こそ最も騙されやすい状況となる。

 

 であるならば、私がやらなければならないことはただ一つ。

 

 

「よいしょっ、と」

 

「あんっ

 

「……。鹿ちゃん。私の情緒と理性が乱れるので色っぽい声を出すの止めてもらえます?」

 

「ら、らぁってぇ……

 

 

 攻撃してくる男共をのらりくらりとした身のこなしで〈回避〉しながら身動きの取れない鹿之助くんに近づく。

 

 カルティストの教祖は手を出してこない。

 

 それどころか、手に持ったカメラをガッチリと握りしめたままレンズを私達へと向けたままだ。

 

 それを私は蔑んだ眼差しを向けて、まずは鹿之助くんをまえさき市での事件同様に首で抱えた。

 

 徒手搬送法の消防士搬送(ファイアーマンズキャリー)による背負い込みだ。

 

 あの時と同じように(ナニ)か硬い(モノ)スティックペロペロキャンディが押し当てられているが、私はもっと押し当てたって一向にかまわん!

 

 前回は生存本能を刺激されての勃起だったと思うが今回の要因はなんだろうか?

 

 やっぱり、薬物?

 

 対魔忍世界だし、超濃厚な媚薬も混入していたとか?

 

 

「呑気にだべってんじゃねぇえええええ!!!」

 

「あぁ、すみませんね」

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 

 駆け寄ってくるスタンガン持ちの全体重を込めた捨て身の突進攻撃を身を翻す形で〈回避〉し続ける。

 

 いつまでもそんな得物を持って振り回されるのは面倒なため、すれ違い様に片足を突き出してタコ焼きをひっくり返すように引っかけて転倒させてやった。

 

 バレリーナが円舞曲(ワルツ)を舞うようにスリ足でクルクルと回転しながら〈回避〉する。

 

 

「わぁあぁああぁぁあああっ

 

 

 どうやら鹿之助くんは恐怖を感じているらしい。

 

 力が入らないなりにも、毛皮のフェレットの首巻のように、がっちりと私の身体にしがみついては色々押し当てて私の理性(のうみそ)へ着実にダメージを与えてくる。

 

 

「おっおっおっ?おん?おん?おん???おんおっおっ

 

 

 のうみそ、こわれる。

 

 

「ふざけんなぁああああ!!!」

 

「よっ」

 

 

 再び大男のラリアットのような前腕を振り回した攻撃。

 

 私の胸部を狙った攻撃のようだったがアルゴリズム体操のように、バーベルを首に乗せたまま行うスクワットのように頭を下げればぶつかることなどなかった。

 

 ありがとう。紫先生。

 

 ありがとう、紫先生のバーベル。

 

 筋トレの動きを〈回避〉として流用できる日が来るなんて想定してなかった。

 

 

「あっあああああああっ♥♥♥ドピュ

 

「あっ!?ドピ!?ああ?!ああああああああッ!?!??!」

 

 

 そんなことよりも私の左肩と右肩が大変なことになっている。

 

 右肩側からはしがみつく鹿之助くんの嬌声がモロASMRのように響き。

 

 なんか、なんか。

 

 語彙力を落ちてしまうのだが、左肩側からは。

 

 なんか。

 

 ナニかの発射音が聞こえてきた。

 

 つづいて

 

 びゅるるるるぅー。どくっ、どぷっ。

 

 って音。

 

 なんか。

 

 発射音側を見たら、ガチで私のほうが見境がなくなっちゃうような鹿之助くんの生理反応。

 

 なんか。

 

 独特な。

 

 なんか。

 

 尿とは違う。

 

 なんか。

 

 粘液状の。

 

 なんか、生暖かい液体が左肩——具体的に鎖骨を通って乳房を汚して行っているような感覚がある。

 

 布地が無ければ耳の外耳道と呼ばれる膣内(ホール)へホールインワンしてそうな勢い。

 

 明らかにカルティストが私を仕留めようとしている危機的状況なのに、鹿之助くんのえろえろ成分で状況と情緒と理性がやばいんだが?

 

 白濁した懸濁液のフレンドリーファイアで私の獣性が暴走しそうなんだが???

 

 ウウッ。

 

 オデ。

 

 オマエ。

 

 スティック。

 

 マルカジリ。

 

 

「ヒャ!?ど、どういうことだ?!!!こいつ、ちんちんがついてんじゃねえか!」

 

「えっ!?お前、男だったのかよ?!」

 

「こ、こいつ、こいつのこと……彼氏って言ってたよな……!? つまりお前達……ホモか!?」

 

「そういうのも114514!うん!おいしい!!!美味しい展開だね!」

 

 

 鹿之助くんによる男汁放流案件でどよめく一同。

 

 無事にシリアスブレイクです。

 

 シリアスが壊れたじゃん。

 

 シリアスが続けたかったの。

 

 どうしてくれんのこれ。

 

 ついでに今この時でも、私が男水着チャレンジによる〈変装〉が女ではなく男として見られていることは喜ぶべきか、それとも悲しむべきか判断に悩む。

 

 きっとむき出しにしている素肌のあちこちが傷らだけで、そんな外見を晒している女など逆に考えづらい存在なのだろう。

 

 だが、この同時に脱出のチャンスを見逃す私でもない。

 

 男汁が乳房どころか腹部のへそ穴まで侵食したところで、相手側の動揺の隙を狙って襖を踏み倒す形で包囲網から突破する。

 

 

「あっ!」

 

「待てコラ!」

 

「騙しやがってぇ!逃げられるとでも思ってんのか!?」

 

「ええ! で、これは置き土産!」シュッ

 

 

 包囲網突破と共に外に立てかけ持参していた軍用スコップを手にして監督のカメラ目掛けて〈投擲〉する。

 

 

「ヒッ!」バキャッ

 

 

 《無欠の投擲》を扱ったわけではないが、アンダースローで放り投げられた軍用スコップは見事に刃先が監督の所持していたカメラに突き刺さりメモリーカード部分を真っ二つに粉砕する。

 

 

「よしッ!」

 

 

 Nice shoot.

 

 これだけの破壊力と命中精度ならば、この世界では野球選手にでもなれるんじゃないか?

 

 階段を駆け下りながらも、小さくガッツポーズを作る。

 

 指紋べったりのスコップをその場に放置するのは、致命的と言えば致命的だが少なくともSNSを中心とした数多の不特定多数に動画が拡散されるよりは幾分かマシな証拠だろう。

 

 それに証拠は最後まで完璧に隠滅してナンボだ。

 

 既にそっちの準備は整っている。

 

 

*1
プラン3:最後の警告。慈悲(大嘘)。断れば死で償わせるのみ




~あとがき~
 修正+加筆によって長くなってしまったので、2分割します。
 次回は2023/06/22の20:37投稿です。

 ところで今回の対魔忍RPGイベントで、本小説のオリ主特攻キャラが五車学園の教師陣の方に追加されてしまいました。
 『津島 優紀子』先生って言うんですけどね。
 あの先生、たぶん素性を隠して活動している異世界転生者には特攻じゃないかなぁ。
 この先生の仕事量は増えそうですが、密偵が居ないか調査するためにうまく溶け込んでいるタイプでも定期的な検診などでこの先生の忍法では隠せそうにもないし。

 元より、五車学園の学校関係者は作者が執筆時点で見落としていなければ

・井河 アサギ(校長)
・井河 さくら(対魔忍RPGでは、独立遊撃隊の担任教師)
・八津 紫(教師)
・蓮魔 零子(教師)
・上原 燐(野戦の臨時講師)
・高坂 静流(英語教師)
・ふうま 時子(教師)
・斎藤 半次郎(現代社会の教師)
・沼津 彦四郎(用務員)

 の9名しかネームドがいなかったのでNew教師の登場はありがたいっちゃありがたいんですけど……。
 こんな尋問特化型の有能対魔忍が居て、オリ主を警戒している井河アサギ校長が頼らないわけないよなぁ?!!!!
 でもそんな有能な尋問官を武闘派だからって現場に立たせちゃう対魔忍組織、マジ頭対魔忍。

 夏休み前の尋問はオリ主のインフルエンザ罹患により、なぁなぁになってしまったので次回登校した場合は彼女も尋問に同伴させます。
 紫*1、蓮魔*2、さくら*3、アサギ*4、津島*5に囲まれるオリ主……難攻不落脱出不可能の四面楚歌!!!
 今状況を考えるだけでもお腹と頭が痛くなってくるんですけど。

 ねぇねぇ、オリ主?
 スネークレディとエドウィン・ブラック+αとの会合とどっちがキツい?

 公式から囲ってきたオリ主包囲網。
 ところで対魔忍キャラクターコレクション図鑑Vol.2とVol.3の発売はまだですか? キャラ整理などで設定資料集が欲しいんですけど。

*1
鎮圧役

*2
捕縛役

*3
鎮圧役

*4
旧プロットの尋問役

*5
新尋問役

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