対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
夕日が街の裏に沈み、空が陽葵ちゃん色に染まった頃。
私と鹿之助くんは、あの騒動ののちに何かをするわけでもなくふうま君と色んな意味でヘヴィな方の蛇子ちゃんの元に戻って、2人でパラソルの下で海を眺めながら時間を潰していた。
正確には鹿之助くんが男達に盛られたクスリでボンヤリとして動けない間、私が傍について海を眺めながら正気に戻るのを待っていたという次第だ。
最初は警察にでも通報しようかと検討したものの……。
前世での警察の調査に対する不信感や事情聴取、人の不幸を面白がる週刊誌等によるセカンドレイプ。
既に私刑として民家に火を放ったこと。
実際の被害者が男性の場合による性被害の泣き寝入り率。
日本国の被害者晒しの加害者擁護などを考慮した結果。
今回は未遂——介入によって被害を未然に防げたこともあって彼の今後を考慮し通報はせずに事態の解決は他の観光客の火の手に関する通報の処理のみで見送りとした。
ゆえにこちらはクスリが抜けるまでの間、ただただ海を眺めて3時間ほど浪費する。
「…………」
「…………」
当然。
警察にも告げていないのだから、ヘヴィ子ちゃんやふうま君に今回の件は伝えていない。
伝えるわけもない。
だから彼を抱きかかえて彼等と合流した後は『鹿之助くんは遊び疲れちゃったから、少し休憩したいみたい。2人は海を満喫して来て』と伝えたところ、あれから心配性の私のために定期的な生存安否確認報告を除いて、一度も拠点へ戻って来ていない。
「…………」
「…………」
あれから色々と大変だった。
足腰は立たず下半身だけは勃ったまま大惨事の鹿之助くんを引き連れて、共同シャワー室に連れ込み湧き出る穢れを洗いながして……。
彼が正気に戻るまでのあいだ脱水や水中毒を引き起こさない程度に適度の緩和ケアとした水分補給をさせ、日の傾きと共にパラソルの角度を調整し、移動は基本お姫様抱っこで…………。
理性が何度吹き飛びかけたことか。
——やばかった。
対魔忍世界にやってきて一番理性がやばかった。
カルティストを始末するときだって、理性を働かせた誰の目にも止まらないような慎重に配慮しての殲滅行動だったはずだ。
今の彼といるとその周囲の目など気にせず獣性のままに一発とは言わずに冷静さを取り戻すまで、恋愛のBによる
だけど、私達はまだ友人だ。
そういうことはしてはいけない。
ここは私の視点から見ればこの世界はアダルトゲームの対魔忍の世界線だが、それを実行することは現実的によろしいことだとは到底思えない。
そもそもそのような早まった行為に至った結果。
『交友関係が深まるどころか破綻するという尤も避けたい事態へと発展することだってある』し
〈医学〉観点から『薬物セックスによって鹿之助くんがED*1に陥ってしまったらどうする?!』と自分に言い聞かせることで踏みとどまれた。
記憶を思い返すたび、曲:ロウワーのMVに登場するユダが片手で顔面の半面を覆うという仕草を何度したことか。
「…………」
「…………」
「♥」
でも今は、今だけは。
自分へのご褒美として少しだけ彼と現状に甘えさせて頂き、彼の隣に座ってぴったりと肌をくっつけ合い、身を寄せ合って夏の海を眺めていた。
恋人でもないのにえっちな事に発展するのは倫理的に問題なので、この行為だけでも十分に満たされるような気がした。
また私が男役を務めていること、身体には幾十ものカタギらしからぬ傷跡やタトゥーストッキングによって輩の接近をあらかじめ排他できている。
それがまた完全な2人だけの特別な時間が構築できていて——
「ぅ……?」
「……どうかしましたか。鹿之助くん」
「ぅ…………」
「大丈夫ですよ。私が居る間は私が鹿之助くんを護りますから。安心して調子が戻るまで休んでくださいね」
また時々、彼は俯いた状態から小さく言葉を漏らしながら視界を正面に向けることがある。
約1時間前からこの調子だが呂律がはっきりしない以上、まだ完全にはこっちには戻ってないのだと思う。
だから私が最大限できることとして優しく微笑みながら母親のように優しい声で彼を労い、潤いに満ちた彼の長い髪を手で梳かすのだった。
「…………」
彼のつるつるむっちりとした大腿部で鹿乃助平棒は挟み込むように隠されており例のアレは見えない。
だが、私が触れるたびに『とぷとぷっ♥』と、股間から鹿之栗汁を迸らせていないことから、ある程度クスリは抜けているらしい。
私の中で悪魔が『お触り開放!放題!フィーバータイム!ヒーハー!』と叫んでいるが、一方の天使は『ステイッ!ステイッ!まだです!まだです!もっと意識がはっきりしてから愛撫しなさい!』と叫んでいる。
「…………」
「…………ぁ、ぁりがと……な」
「!?」ガタッ?!!!
「?!」ビクゥ!!!!
飲み物を取ろうとクーラーボックスへと顔を背けた時のことだ。
顔を背けた瞬間、はっきりとした呂律の鹿之助くんによるお礼の言葉に身を震わせて彼を見てしまう。
彼もまた私の俊敏な動きに対して、身を細長く跳ねさせながら驚いた私を見つめてきた。
「…………」
「…………」
「………………鹿之助くん?」
「…………ぉ、ぉぅ……」
「もう大丈夫なの?」
「た、たぶん…………?」
ぎこちなくも返事を返してくる彼はいつも通りの彼のようにも見えた。
凝視する私から少し顔を背けて目だけはチラチラと……秘部全開放状態の乳首や私の海パンに目を向けてくる。
目のやり場に困ったかのような仕草や、腕を口元に持って行っては恥ずかしそうな顔をした彼は間違いなくシラフの反応だ。
「……。そっか。それはよかった」
「う、うん……」
「…………」
「……そ、それで……」
「はい?」
「おれ……。……お店の人に誘われてジュースを飲んで動けなくなった辺りまでは覚えているんだけど、そこからかなり記憶があやふやなんだ……。でも危なくなった途中で日葵が迎えに来てくれて、そして俺がいつの間にかここにいるってことは…………もしかして、俺は、また…………?」
「ええ。また、鹿之助くんを救っちゃいました」
体育座りに姿勢を変えながら両膝に顔の側面を乗せて、鹿之助くんの横顔をみようと少し前かがみになる。
相変わらず彼はこっちを見ようとしないが初々しい彼のことだ。きっと照れているに違いない。
だからこそ、彼の質問には調子に乗ってピースサインを作りながら満面の笑顔で返事をした。
「一時はどうなるかと思いましたよ。彼等のタバコの不始末で海の家は燃え始めるし、誘拐した彼等は道連れにしようとくるし、〈法律〉を振りかざされて大人用のえっちなゲームの導入部如くAVだって撮られかけたんですからね!」
「え? ……えーっと……? せ、正確かどうか……確証はないんだけど…………俺が覚えていることとして、日葵がこれまでに見たこともないぐらいに目を見開いてギラギラに輝かせて、日葵の方が半世紀前の法律を振りかざして司法無双していたような覚えがあるんだけど……?」
「
鹿之助くんの鋭い正確なツッコミにやる夫のアスキーアートのように手を動かして渦巻く矛盾を
ガハハハと豪快に笑う私に、やっと鹿之助くんは辻褄が合わなさそうな納得していない顔をしながらも視線をしっかりと向けてくれた。
その反応がクスリでぼんやりしている頃の彼よりも、その鮮明な反応がより嬉しくて。
普段の自然体の表情がブルアカのアスナのようなニンマリ顔として浮かんでしまう。
「……。……でも、さ。本当にありがとうな。今回も助けてくれたこと」
「いえいえ、礼には及びませんよ」
「今回だけじゃなくてさ、前回も……。その前も……。学校でもさ、勉強のこととかで気にかけてくれて、その他でも常日頃から色々助けてくれて……日葵が居なかったら俺はきっと……」
段々と声がか細く、しんなり、しおしおとしおらしい鹿之助くんの表情で私の情緒が掻き乱される!
理性が!理性が捩じ切れちゃう!捩じ切れちゃう!!!ぷっつん!
もきゅ!
もきゅっちゃう!!?!
私の天使と悪魔が「襲えッ!お前の神は赦す!」って囁いてくる!
その完全に私を頼りにしている発言は破壊力が高すぎる!!!!そんなこと言われたら、もっと頑張っちゃう!もっと鹿之助くんのために頑張っちゃうし、脅威を片っ端から露払いしちゃう!やめて!わたしから語彙力と啓蒙をうばわないで!でも、やめないで!やめて!やめないで!やめて!!!やめないで!!!
「ングッ……良いんですよ。私達…………友達じゃないですか」
「…………」
「私……。私にとっては……。
おーけぇぇえええええ!なんとか
私の天使と悪魔が拍手を送ってくれるぅぅううううう! いぇぇぇぇぇええい!!!
そりゃ鹿之助くんとはもっと特別で親密な関係になりたいとか思ってしぃぃぃいいいい!濃密な関係を築き続けている自信があるけどぉおおおお!
対魔忍世界で運命の巡り合わせてからの実際の月日では出会って3カ月目の頭っていうかぁ!?!!まだお互いの理解を深める時期だと半世紀前から転生してきた私は思うんだァッ?!!!
「な、なぁ?」
「……はぁい?」
「その、日葵との関係なんだけどよ……」
「はい?」
「……。その。嫌だったらいいんだ。嫌だったら」
「……やけに勿体ぶった言い方で焦らしますね?」
鹿之助くんの特大の前置きと大きな深呼吸が挟まれる。
心の奥底でこれ以上ないぐらいの期待が膨らむ。
こちらの期待なんて裏切られた時……というよりも、私にとって位にそぐわないことを言われたときにショックを受けるからするべきではないが、これには期待をしてしまう。
「と、友達以上の関係になっちゃダメかな?」
「」モキュ
やばい。
やばい。
青空 日葵から釘貫 神葬が飛んで行ってしまいそう。
やばい。
今、自分がどんな顔をしているかも上手く表現できない。
イシキ、消し飛ぶ。
ヴォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ゙!゙!゙!゙(デスボイス)
「いいいいいい嫌だったらいいんだ!嫌なら俺は日葵を尊重するぜぜぜぜぜ?!!?」
どうぶつの森におけるハニワのような表情が拒絶反応と捉えたのか、同様に言葉が震えはじめ動揺し始める鹿之助くん。
待って。違うの。私の情緒が追いついていないだけなの。違うの。違うの。これは、違うの。
公衆の面前での “ホイッスルシャウト” を堪えているだけなの。
「と」
「と、と?」
「と、ととととととと」
初々しい生娘みたいな反応が出ちゃう。出ちゃう。中身はそんな歳でもないのに。出ちゃう。
「とととととととと友達以上のかかかかんけいってててててて???」
それは、もう。
蓮魔先生に問い詰められたときの反応とほぼ変わらない。
パニックは伝染するとはいうが、私の混乱で鹿之助くんもマナーモードバイブの動きを見せている。
この世界では彼とは同級生だが、転生者の年上として情緒を押さえなきゃいけないのに治まらない止まらないカルビー。
「と、とと友達以上の関係って、ほら、そのっ、あれだよ。アレ」
目を泳がせて可愛らしい挙動不審な鹿之助くんの顔をまともに見ていられなくなる。
もう小悪魔ちっくなブルアカのアスナのニンマリ顔とか無理。
日焼けのせいか、それとも興奮のせいか、顔から火が出るほどに熱い。
片手で口元を押さえ彼から顔を背ける。
両目を瞑って後頭部を掻く。
「あ、アレね。ア、アレ」
「そ、そう。アレだよ。アレ」
ここで『親友』とくるか、『恋人』と来るかで鹿之助くんに私という存在がどういう風に見られているのか。ハッキリ白黒つけられる。
で、でも、君になら
「い、言うぞ。日葵。聞くぞ。日葵」
「はい。どうぞ。お願いします。鹿之助くん」
決心の固まったかのような彼の言葉に応援されて私も彼の顔をちゃんと見据える。
私の方が身長も座高もが高い分、自然と彼を見下ろすとになるが、彼も逃げずに見上げて私のことを視界にとらえていた。
「お、俺も日葵のことを護りたいんだ。た、確かに姿も格好も、男らしさもない……お、女っぽい俺で説得力なんかないけど……。それでも、でも……。今日までみたいにいつまでも護られるばっかりじゃなくて。男として、目標の正義の
「——はい」
「だからさ、日葵。俺と付き合うような関係になって、今度は俺が日葵を護らせてくれないか?」
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
エンダァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!! キイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
頭の中がヘッピー!ヘロウィン!
あああああああああああ!!!!
今すぐにでも
砲丸投げの世界選手みたいな絶叫をあげたい!!!
「し、しかのすけくん……」
あのね!!!鹿之助くん!!!?
でもね!!?鹿之助くん?!!!
もうそれはプロポーズだよ!プロポーズ!!!!
でも恋人の告白じゃあないよね?!???コレェ?!
もうあれじゃん、これあれじゃん!? 結婚の時のアレじゃん! 籍を入れるときに言われるアレじゃん!!! 恋人すっ飛ばして結婚の申し出じゃん!!!
結婚を前提にお付き合いしてくれってことじゃん!!!添い遂げてくれってことじゃん!?
え!?私達、出会ってまだ3か月目なんだけど!?
神村さんとの殴り合い見た上で?!コレってそれも受け入れてくれたうえでの申し出だよね!?
もう
両手で自身の口元を覆い隠す。
一呼吸おく。
彼の顔を見つめ直す。
その表情はとても真剣だ。
真摯で本気の告白に圧倒される。
私の思い違いだとか、彼の “憧れ” である神村のこととか、今日の事件のとか、他に色々と考えなきゃいけないことが全てひっくるめられて
前世では
転生後ではその
だから心の奥底からずっと慕っていた彼から願ってもないような言葉を告げられて、顔から炎が噴き出しているような熱さに苛まれる。
心臓がとびぬけそうなほど鼓動が高鳴る。
群衆の声が一掃される。
心拍数が上昇する。
視野が狭まる。
身体が硬直する。
息が吸えなくなる。
喉がカラカラになる。
鹿之助くんしか見えなくなる。
飛ぶ。飛ぶ飛ぶ飛ぶ。トブ。
「————」
「ど、どうかな……?」
まさかの鹿之助くん側からの告白に喉を詰まらせ、身を固まらせて
私の視界は集中線で覆われ、ほほを桃色に染め上げながらも勇気を振り絞った鹿之助くんの顔だけが
~あとがき~
陽葵ちゃんが聞いたらきっと怒り出すな……。