対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「——は——」
それは
「はろろーん♪ 本当にあなた達ってどこまでも凸凹コンビよね♪ こんなところで何をしているのかしら~? 呑気に逢引?」
本来ならばここに居るはずのない女の声が、もにょった私の返事を掻き消すように聞こえる。
今日は “会合” する予定ではない筈の女の声。
「ッ!」
最絶頂まで上り詰めていた高揚が地面にたたきつけられたかのように下落し、恐怖と警戒の色に塗り替えられていく。
背筋の毛、ほぼ全身の毛が逆立つ。
大事な鹿之助くんの返事をほっぽり投げてしまうほどに、突発的に表れた邪神に対して砂ぼこりを撒き上げながら身を翻し、SPY+FAMILIのルナ・フォージャーが牛の暴走を静止させた時のように身構える。
「…………」
「あら~? そんなに殺気立っちゃってぇ♪ かわいいお顔が台無しよ♪ 台無しにするなら私の手でグッチャグチャにするんじゃないと♪ ね?」
私達のパラソルの真裏。
死角に値する位置に、あの女がクスクスと嘲笑いながら佇んでいた。
凶悪な気配どころか何なら鹿之助くんが教えてくれた瘴気すら微塵も感じ取れない私でも危険を察知できる存在。
経験から伝わる生理的嫌悪感。
対峙しただけで圧力に押しつぶされそうになる心。
既にまえさき市の遭遇戦で切り札の1つを消費し、満足に渡り合えるだけの対策装備も無く——
コイツといま争うのだけは適切ではないという焦燥感。
その女はこの夕暮れのビーチで、肩に青白い獣の毛皮を羽織り、ノースリーブの白のビスチェとスリットの入った紺のタイトミニスカート姿を纏った——
——スネークレディの姿だった。
一難去ってまた一難。
ヤリモクの男達は簡単に蹴散らせたがこっちはそうもいかない。
そもそも来週には東京キングダムで会う手筈だったにも関わらず、わざわざこっちのバカンスに邪魔をするために顔を見せるなんて何が目的だ?
しかも絶妙にタイミングは最悪。
彼女はこちらの
いつでも私達など虫ケラのように握りつぶせると思っている邪神特有の慢心だ。
「え、えっと。ひ、ひまり? どうしたんだ? だ、誰が……?」
「はぁい♪ 元気にしていたかしら? ボウヤ♪」
「ひっ! な、なんでお前がここに……」
ただならぬ気配で躍り出るように身構える私に鹿之助くんもパラソルの裏から顔を覗かせる。
本当ならば彼を護るためにもパラソルから体の一部を出すことは “完璧な遮蔽” から逸脱する行為のため制止したいところだったが、こちらの装備品が男水着のみである以上、不意な彼の動きに警戒心を割くリソースは残されていなかった。
緩慢な動きでスゴスゴと出てきた彼は、まえさき市でえっちなお店を開いている方の蛇子ちゃんを見るや否や身体を硬直させる。
私を護りたいと言っていたのに、動けなくなるなんて情けない……なんて言わない。
こいつは私にだって規格外過ぎる存在なのだ。
まえさき市では知らなかったからこそ、あのような
だがあの休憩所で鹿之助くんから高位魔族の存在や脅威について説かれ、タイマンで一戦を交えたからこそわかる。
アイツはまずい。
私の世界線では十分な『グレード・オールド・ワン』級の脅威。
だからこそ制止のリソースは割けなかったものの私が左手で彼を隠し、毒牙から彼を私が護る。
これではプロポーズの過程で『護りたい』と言ってくれた鹿之助くんの面目は丸潰れだが、コイツの相手は別。
元を辿れば、私がまえさき市で迂闊に魔族語で書かれた本を迂闊に見せびらかせなければこんなことは起きなかったのだが。
やはり『無知は罪』そんなことを頭の片隅で考える。
「ヤボ用がちょっとあってね♪ 今から帰るところなのだけど、出向いた先に見知った顔が居るものだから『御挨拶に』って立ち寄っただけよ♪」
「それはそれは……ご丁寧にありがとうございます。『ああ!こんにちは、またお会いしましたね』(棒) さ、挨拶は済んだでしょ。とっとと
「イヤ~ン、そんなに邪険に扱うなんて酷いわぁ♪ 乙女心が傷ついちゃう♪」
「もう乙女って
「あらあらぁ? その発言はブーメランが刺さっているんじゃないかしら♪ そ・れ・に♪ それが友達に対する口の利き方なのかしらぁ?」
「と、ともだち? 日葵、コイツと友達なのか?!」
「…………」
「意外? ゼラトシーカーちゃんと私♪ 友達になったのよ♪ ね~?」
せせら笑う彼女に手の甲で羽虫を跳ねのけるようにしっしっしっと手首を動かす私に、この女はお返しとばかりに余計な事を鹿之助くんに暴露する。
背後を確認しなくても左耳から伝わる困惑する彼の声から、私と奴を交互に見ていることがなんとなくわかる。
こいつは。本当に。余計なことしか。暴露しない。
「ぜ、ぜらと……?」
「日葵ちゃんの本名に近い名前よ。彼女と親友の間柄なのに
まえさき市で人間風情に泣かされた蛇子ちゃんの顔がニコニコとした愛想のよい表情からスゥと真顔に戻り、殺意と敵意むき出しで睨みつける私へと視線を合わせてきた。
そんな彼女からは敵意は感じられることはなかったが、明らかに青空 日葵を依代にしている『釘貫 神葬』に対して語り掛けている。
私の “正体” について対魔忍世界で唯一存在を知覚している・理解者であるとでも言いたげな顔だ。
「…………」
鹿之助くんが私のことを不審な目で見ている……ような気がする。
目の前の蛇子ちゃんから一瞬たりとも目を離すわけにはいかないので、不審な目で見ているのは私の思い過ごしかもしれない。
だが私の後ろめたい正体について触れられているせいで、彼の視線が気になってしょうがない。
そんな内心を見透かすかのように正面の蛇子ちゃんはほんのり微笑む。
人類を誑かし、破滅へと陥れる邪神の如く。
「…………要は愛称ってことですよ」
だから彼を〈言いくるめ〉て誤魔化すために『ゼラトシーカー』について、それっぽい真実だけ伝えて誤魔化す。
今日ほど鹿之助くんがヤク漬けにされて可哀想な目に遭っているにも関わらず、この瞬間だけは再びクスリで脳みそトロトロ鹿ちゃんとして頭を回さないで欲しいと願う。
《
「……あ。『ゼラトシーカー』は本名に近い名前だから愛称なのか」
背後から腑に落ちたかのような、小泉文書を読み上げながら納得しているかのような鹿之助くんの声が聞こえてくる。
もしかすると別の意図を汲み取っているかもしれないが、今の私としては結果オーライだ。むしろ誤った認識で納得してくれた彼へ内心ホッと一息つく。
鹿之助くんの不信感を煽ってきた挙句、私に心的ストレスを与えてきた蛇子ちゃんを一発〈頭突き〉でぶん殴って泣かせてやりたいところだ。
「ふふふっ♪ それじゃあ♪ 挨拶もできたことだし、またね♪
「はいはい」
「…………」
後ろ手でヒラヒラと手を振って、別れを告げる蛇子ちゃんが人混みの中に掻き消えるまで見送る。
彼女が背中を向けた途端、蛇に睨まれたような重圧感は消え少しだけ肩の力を抜くことができた。
しかし…………。
「…………」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
ご覧の有様である。
鹿之助くんは緊張の糸が途切れて溜息をつきながら夕方の空を見上げている。
そう。
完全に雰囲気がぶち壊されたのだ。
もう
ムードブレイカー蛇子によって。
うやむやになってしまった。
完全に蛇子ちゃんが視界から消え去った所で両目を瞑り後頭部を掻く。
本当に覚えてろよ。あの邪神。
近い未来、超科学の〈物理学〉演算で故郷の宇宙へショット&リリースしてやるからな。
………
……
…
「……あれ? 2人ともすごく疲れたような顔をして…… ——もしかして!?」
あのバカを宇宙の彼方へリリースする計画を練っている間に、まえさき市で3時間ウンコしていた方のヘヴィ子ちゃんがへとへとになっているふうま君の手を恋人繋ぎで引きながら目をキラキラと輝かせながら戻ってくる。
「いえ、色々とトラブルが重なりましてね……」
だが。
あの場にさらに護るべき対象を1人で抑えられたこと自体は〈幸運〉だったと考えるべきだろうか。
なろうのヤレヤレ系主人公のように前髪を掻きあげながら当たり障りのない返事で何事もなかったかのように振る舞いながら2人を出迎える。
日も暮れてきたことだ。
太陽が完全に沈み、彼女のような完全なる魔の者が跋扈する前に五車町へと帰った方が良いだろう。
~ごじつだん~
相州 蛇子「鹿之助ちゃん、日葵ちゃんとはうまく行った?」
上原 鹿之助「う、うん……。うん……」
相州 蛇子「ん? 煮え切らない返事だけど……え? でも……」
上原 鹿之助「……蛇子の後押しもあってカッコよく決められたとは思うんだけど……最悪なタイミングで最悪な奴に絡まれちゃってさ……それで返事を聞きそびれて……」
相州 蛇子「」(アチャーな仕草)
~あとがき~
次回から新章に行きます!
さぁさぁ、皆さんお待ちかね!
オリ主と作者はついに現実と向かい合わねばなりません……。
現状の状況から執筆中の内容から作者から言えることがあるとするならば、『お客様困ります!あー!あーっ!お客様!』のノリで『対魔忍!鹿之助くん!誰でもいいから助けて!!!超助けて!オリ主が大変なことになってるぅ!』です。現場からは以上です。
~生還報酬~
新クトゥルフ神話TRPG 選択ルール:幸運ポイントの回復(95頁)
成功した技能の成長ロール