対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
Episode138 『劇的ビフォーアフター “魔都” 東京』
五車町を発つ朝は早い——とかはない。
明朝の出発とか五車駅に停車する電車の運行状況的に無理。
何度でも言ってやるが、五車町はニュータウン(笑)はニュータウンが付属したただの田舎町。
電車とバスを乗り継いで約3時間も移動手段に用いないと都心部に出られない超クソ田舎町。
そんなクソ田舎に存在する五車駅の運行状況、終電時間は——
なんということでしょう。
上りの最終列車がまさかの22時42分には通過していく。
本当に人をバカにしているかのようなニュータウンのトレインだ。
始発すら、最速で6時37分。
毎年恒例、年2回のイベント。コミックマーケットに向かおうものなら、到着した時点でもう入場が開始されている。
五車駅の隣のコイン精米場の方が24時間営業でよっぽどニュータウンだわ。
そもそもコイン精米場ある時点で、そこはニュータウンじゃないんだわ。
田舎なんだわ。
この街をニュータウンとかに制定した阿呆には、頬がおたふく風邪レベルで腫れあがるほどに往復ビンタを叩きつけてどこがニュータウンなのか数時間説教に明け暮れたくなるような時間だ。
ゆえに五車の始発も終電もそんなものだから、この真夏のクソ暑い中。
必要な機材や装備をリュックサックに詰め込んで鈴虫やコオロギの合唱を自然のBGMとして聞きながら、闇夜に紛れて終電間際の上り電車に乗って目的地である東京キングダムを目指していた。
私が『東京キングダムに行く』なんて夏休み前の
一般人は退いていた方がいい。
当日、東京キングダムは(もしかすると)戦場と化すのだから。
……と言っても彼女のことだ。始発前から五車駅に張り込んで私についてくる……なーんて行為に至るのは予測しやすい。
ゆえに脳内で悪態をつきながら、前日の終電間際の電車に搭乗しているのが回想顛末である。
………
……
…
乗り換えに乗り換えを挟み、東京都の大地を踏み締める。
遠方には東京キングダムへ渡るための大橋が霞んで見えた。
到着した時点で既に時刻は明朝3時を過ぎ去っていたが、半世紀以上も未来の東京の電車運行というべきか。
終電などという概念は消失しており、緊急事態が発生しなければ24時間電車が稼働し続けているようだった。
「はぁー……やっと着いた……」
丑四つ時だというのにも関わらず、大勢の育ちの悪そうなウェイに絡まれて不快な思いをした。
五車学園の運行状況が主な原因だが前日に出発してよかったと心から思う。
サイゼリアのくたくたのほうれん草みたいになりながら、本日宿泊予定の『東京百景ホテル』の前で緊張の紐を緩める。
五車町から東京に訪れるまで様々な悪意とハプニングに見舞われたものだが、なんとか装備一式を死守し五体満足+処女膜を保つことはできた。
(……
でも元の現世に置き換えると半世紀の時間の経過による治安の変化も何処か納得できてしまう。
2010年で考えた場合、半世紀前は1960年。日本国内では学生運動によって〈投擲〉火炎瓶が合法フィーバーしていた頃合いだ。
(でも、この治安の悪化はおかしいって)
また首都 東京都が “魔都” 東京都などと禍々しい名称で呼ばれるようになったのか理解できたような気がする。
今、私が降り立った東京都は東京の中心部に近い場所だ。
にも関わらず。
その場の治安が既に渋谷区の裏路地レベルなのだ。
『渋谷区の裏路地の様相が東京都全土を覆ってしまったかのようだ』と言えば、私と同じ
歌舞伎町のトー横レベルの治安が東京都全体を覆っている。
だがそんなニューヨークのような世界に片足を突っ込んだ都市部でも、電車の外から見る景色は絶句し目を白黒させてしまうような有様であった。
私が知る『かつての東京都』とはモニュメントとして高層ビルが数多く立ち並び、シンボルの東京タワーと東京スカイツリー、墨田区の金色のウンコがそり勃つ、それはまぁ、近代日本の首都と呼ぶには相応しいような場所だった。
県境を流れる江戸川は、酷い緑色に汚染し、時にはプランクトンの大量死滅で紅く染まるような……。
ちょい混沌とした場所だったのだが……。
現世ではそのような川は存在せず、関東平野の名に相応しいのっぺりとした地上ばかりの……東京タワーやスカイツリーはおろか金色のウンコすらない平面一色な光景となっていた。
都市の最中心部……渋谷や池袋など、かつて商業施設が並んでいた場所は、要塞のような巨大なダムのような壁に囲われていた。
まるで東ドイツと西ドイツを隔てたベルリンの壁のようだ。
その巨大な壁の向こう側には、地上200階はくだらないような高層ビルが幾重にも立ち並んでいる。
ビルの形もバリエーション豊かな槍の穂先のような形状の物からツインタワーのような形状をしたもの、竹を斜めに切ったかのようなバンブートラップ型のビルだってあった。
(正気か?
いわゆる大陸プレートが4枚も重なり合っているような地震国家日本では考えられないような建物構造ばかりであった。
要塞のような形状のベルリンの壁の手前側には、和風建築の建物は一切残されておらず……いずれも煌びやかでヨーロッパ風の建物に建て替えられている。
(かつては中国——ここでは中華連合か。私の時代では中華連合が日本の国土を買い占めるという惨状だったが、これではまるでヨーロッパ辺りに土地を買い占められたようだ)
また対魔忍世界では、東京の住民の半数は地下に移住したらしい。
都心の至る箇所に巨大なクレバスのような人工的な亀裂があり、クレバスの壁面には窓らしい四角形が幾千も備わっていた。
カーテンで遮られているものの溢れ出た蛍光灯の光が点灯し、都心部は煌びやかなネオンの看板などで囲まれており、とても私の知る東京都とは似ても似つかないサイバーパンクな光景と評するしかない。
まるでアニメ『PSYCHO-PASS』にて登場する夜景の東京都のような……。
表の見せかけの華やかさを隠れ蓑に、渦巻く暗澹が手招いている。
また電車の窓から初めて上記の景色を一望した時には、ディストピア世界の住民層区切りの街づくり化に失笑してしまった。
明らかに上級国民、中級国民、低級国民の3層に分けられたそれは、日本国として超えてはならない一線を超えてしまったかのような、後戻りできないような、取り返しのつかない——半世紀前の価値観を持つ私では極めて異質な異世界に見えた。
さらに言えば夜にも関わらず、東京都は物理的に暗雲が立ち籠るかのような空気の濁りを見せており、
こんなモヤだらけの空間じゃ、冬の透き通った日ですら富士山を拝むことはできないだろう。
(……本当に酷いな。日本国家はどこまで没落していくつもりか)
これも人魔外道の結託による混沌への凋落、混沌の化身も勝利のアヘ顔ダブルピースを晒してしまうほどの日本の未来なのかと思うと、精神的に参ってしまいそうになる。
世界線が違えど、この世界には対魔忍のような存在が現れるまで日本を護る八百万の守護神は存在しなかったのか。
(——嗚呼。ショッギョ・ムッジョ)
そう考えると『ニュータウン(笑)五車町は武家の仕来りを重んじてしまうような訳あり因習村ではあるが
「はぁ………………」
溜息を1つ吐き、考え込むのは一旦中断する。
東京キングダムに赴くための装備を背負い直してから、東京百景ホテルのエントランスホールから入る。
屋内は大理石で覆われた天井と壁、シャンデリアが吊るされた高級な内装をしていた。
田舎者だと思われると魔都東京では文字通りカモにされやすいことはホテルに至るまで存分に堪能したので、田舎者ムーブのような周囲は見渡さず慣れた手つきでフロントまで赴く。
「夜分遅くにすみません。こちらのホテルに予約している青空ですが……」
「いらっしゃいませ。青空様ですね。ようこそ。東京百景ホテルへ、お待ちしておりました。長旅お疲れになられましたでしょう?今日はこのままごゆるりと当ホテルでおくつろぎになってください」
「ありがとうございます」
ホテルにチェックインと共にホテルマンから部屋の鍵を受け取る。
部屋番号は4階の2044号室と、これから東京キングダムに旅立つ私としてはあまりよろしくない数字かもしれないが数字はあくまでも縁起担ぎにしか過ぎないと自分に言い聞かせエレベーターに乗って目的の部屋に入った。
………
……
…
室内は一般的なビジネスルームのように見えた。
一通り盗撮用のカメラなどが付属していないかチェックを行うが、最低限の高級ホテルを選んだ甲斐もあってかそのような仕掛けもなく、そのまま机で出入り口扉を封鎖して最高に羽休め場所として朝風呂を浴びる。
既に空は白んでいたが、ついて来れなかった陽葵ちゃんをからかうために魔都東京の夜景をフィルムカメラで撮影して帰宅後現像できることを楽しみにした。
入浴を済ませ湯気立つ身体にバスローブをまといながら、持ってきた携帯非常食を美味しく召し上げベッドへと寝転がった。
本当に五車町から東京都へ到着するまでに色々あった。
具体的には群馬県を南下して、埼玉県に突入し、東京に入ってからが一番ヤバかった。
これまでに受けた私の恥辱は、痴漢6回、盗撮5回、ひったくり3回、援助交際の誘い14回、置き引き未遂2回、スリが7回……乗車しているだけでもこの犯罪行為に見舞われた。
いずれも未遂に終わり、だいたいは私の装備が重かったようで犯人側が荷物の奪取を諦めたり、盗撮野郎のSNSのアカウントを特定して逆炎上させてやったり、痴漢で人の陰核にまで触れてこようとした奴の玉を潰したりして撃退をしていた。
「一番ひどかったのは、アレだな」
SNSで盗撮された挙句、所在地を晒される行為もアレだったが駅から出た瞬間に援助交際の誘いを受けたことか。
目玉が減圧症のようにギョロっとしていてインスマス面のアイツは明らかに危険なオーラを纏っていた。
生理的に受け付けないとはいえ、赤の他人ゆえにやんわり断ったら暴言を吐かれて殴られそうになり、現場を目撃した警察官が仲裁してくれて安心できたかと思いきや殴ってきた奴とグルで背後に回り込んできたヤツが確実に一発ぶん殴ってきたこととか。
(私がクトゥルフ神話TRPG側の住民じゃなかったら、後頭部の
片目をつぶって殴られた場所を掻く。
軽めのたんこぶができている。
〈応急手当〉として冷水を浸したタオルを押し当てた。
——本当に日本とは思えない治安の悪化状況に思い返すだけで、うんざりする。
途中から被害件数の勘定をやめたものだが、実際にはきっともっと狙われている。やはりSNSに盗撮写真を貼られた内容にも書かれていたが、田舎娘っぽさがいけないのだろう。
でも現代の東京の奇抜に奇抜さを掛け合わせたファッションにはついて行けそうにもない。
具体的なファッション例を挙げるなら、A.D.2078において一般的な若者(男)の服装といえばトラ柄のつば付きキャップを被り、黒のタンクトップにダメージジーンズ、茶色の皮ベルトと稚拙な強盗犯のような朱色のバンダナを逆三角形に折ってマスクが標準らしい。
初遭遇時には面を喰らった顔を露骨にしてしまった。
「……ダメだ。東京旅行1日目の出来事が濃厚すぎて、興奮して眠れない」
ベッドに入って、部屋を暗くして、適当にゴロゴロしていれば眠くなるかな?と思ったが一向に眠れず上半身を起こす。
致し方ないので明日、東京キングダムに持っていく予定の装備一式を確認のために布団の上に広げて再確認し始めるのだった。
~一方、その頃……①~
日ノ出 陽葵「明日は東京キングダムで日葵ちゃんと観光しながらデートっ♥デートっ♥♪」
速水 心寧「あの……息まいているところ申し訳ないのですが……。日葵ちゃんは絶対に同行を認めないと思いますよ……?」
日ノ出 陽葵「えっへへー♪ 大丈夫! そんな時はたまたま行先が同じ方角だった体でデートするつもりだから!」
速水 心寧「だとしても、どうやって日葵ちゃんの出発時間と合わせるのですか?」
日ノ出 陽葵「そこはみことちゃん*1に日葵ちゃんのスマホ端末の位置情報を割り出してもらっているから、このセンサーを見ながら家を出たタイミングで私達も駅に向かえば大丈夫!」
速水 心寧「そんな一筋縄で行くでしょうか……」
日ノ出 陽葵「へーき!へーき! ふふふ。日葵ちゃん、今日は一日中ベッドでゴロゴロして過ごすんだぁ……♥」
~一方、その頃……②~
上原 鹿之助「」ソワソワ
相州 蛇子「鹿之助ちゃん、ずっとソワソワしているね。やっぱり明日、日葵ちゃん東京キングダムに行っちゃうからかな?」
ふうま小太郎「きっとそうだろうな……」
相州 蛇子「大丈夫だよ!鹿之助ちゃん!独立遊撃隊は同行できないけど、紫先生に話は通してるし東京キングダムに行かないように配慮してくれるよ!」
上原 鹿之助「で、でもよぉ……。日葵は一般人なんだぜ……? 対魔忍みたいな度胸だし、一般人には見えないけど一般人なんだぜ……?」ソワソワ
ふうま小太郎「ああ、その気持ちはわかるがな……だが今は任務に集中しよう。何かあれば紫先生が動くし、順当に事が運べば明後日の朝には青空さんに会えるさ。それに何か起きても大丈夫なように俺の方からも根回ししておいたから安心しろ」
上原 鹿之助「ぉ、ぉぅ……」ソワソワ
~一方、その頃……③~
「昨晩、青空 日葵が大荷物のまま五車駅を出たとの監視班からの連絡がありました。向かった先は東京キングダムだと——」
八津 紫「ご苦労。下がっていいぞ」
「はっ!」
八津 紫「……。……ついに尻尾を見せたか」
~あとがき~
お ま た せ し ま し た 。
新章に突入!
第6章 『日程調整』で再遭遇したスネークレディと東京キングダムで高位魔族が得たがる『アラガルノーヴの書』に関するお話です。
人はいずれ現実と向き合わねばならないのです……。
それは小説の登場人物であれ、作者であれ——
8月はコミケなどもありますが、ちょっと投稿形態を変更しようかな?とか検討しています。(投稿スピードは減らしません、むしろ増える())