対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode147 『袋叩き84秒前』

 

「——」

 

 

 私が高位魔族総動員の脅しに次の言葉——いつもの調子で誤魔化しの〈言いくるめ〉のために口を開き言葉を発する前に、斜め後ろの左右から何者の気配を察する。

 

 一言で言ってしまえば嫌な気配だった。

 

 2020sの真夏の玄関扉を開いた途端に感じる、ジメジメとした生ぬるい空気が頬を撫でるような空気の感触。

 

 完全に正面の高位魔族2体と痴女の魔族1体から目を離したくなくて、振り返るはずの首をもたげて正体を掴みにかかる。

 

 私は視界の外から攻撃されることが苦手なのだ。

 

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

 

 首をもたげた先には殺気に満ち溢れた小豆色をした4つの眼孔と深緑色の肌。

 

 顔面の骨格がガビガビの岩みたいに尖っている醜悪で無骨なオーク顔。

 

 額にはパイロットゴーグルのような水泳ゴーグルのようなものを巻き付けている。

 

 くすんだ紫色の髪はドラクエに登場するスライムファングのように整えられ、おばあちゃんにでも買ってもらったのかマントが一体化したかのような土色の服を着ている。

 

 それぞれの片手には私の所持している手斧など比べ物にもならない、総丈は5フィート(150センチ)の銀色に輝く巨大な斧が握られていた。

 

 2体とも銀の巨斧を握りこぶしの筋肉が浮き立つほどに力強く握りしめている。

 

 まるで私の回答次第で、この転生して得た命を薙ぎ払ってやるとでも言いたげに。

 

 

「あら。どうも」

 

「……」

 

「……」

 

 

 私の愛想笑いを浮かべた挨拶に2体は反応しない。

 

 

「ご苦労さん、ですね。突っ立ってないで掛けてはいかがでしょう? 円卓の席は余ってますよ」

 

 

 しかしここでビビッて舐められては、今後いっさい立つ瀬が無くなることだろう。

 

 だがら不敵な笑みを浮かべたまま新しい追加の訪問客へ顎で椅子に腰をかけるように促す。

 

 

「それとも君達は私の足。拉致要員(ハイエース)でしょうか?」

 

「ウフフフフフフフフ♪」

 

 

 なかなか動こうともしない来客に質問を投げかけている間、次に動いたのは蛇子ちゃんだった。

 

 私どころかオークすらも視線を蛇子ちゃんへ注視させる。

 

 視線の先で彼女はドツボにハマる面白いジョークでも聞いたように両目を瞑って笑い始める。

 

 先ほどのニタニタした笑みはどこへやら、身体を引きつらせながら笑っていた。

 

 心底今の私の窮地に陥った状況が面白可笑しいらしい。

 

 よく分からないが、きっと高位魔族ならではのギャグセンスだったのだろう。

 

 

「フフフフッ♪ アーッハッハッハッハッハッ♪ ご、ごめんなさいねぇ♪ あ、あ、あまりにもおかしくって♪」

 

 

 そのうち腹を抱えてゲラゲラと笑い始める。

 

 エドウィン・ブラックの隣で立ちんぼの桃色髪の痴女が、高級レストランで場にふさわしくない客を見るかのような疎ましそうな目を向けているが、蛇子ちゃんの大笑いは止まる様子を見せない。

 

 エドウィン・ブラックの方は蛇子ちゃんの方に興味がないのか、一瞥すらしようとしない。

 

 今のところ私の中での高位魔族ランキングは

 

 

『エドウィン・ブラック>蛇子ちゃん(スネークレディ)>桃色髪の痴女(名称不詳)』

 

 

 と、なっている。

 

 実際の力量など計り知れないが。

 

 

「クフフッ♪フフッ♪ ねぇエドウィン? ゼラトちゃんってば、面白い子でしょう?」

 

「…………」

 

「ただの虚勢……瘦せ我慢だろう」

 

 

 エドウィン・ブラックは私を見つめたまま微動だにしない。

 

 代わりに桃色髪の痴女の方が代弁する。

 

 ああ、私の振る舞いは瘦せ我慢に見えているのか。

 

 そのように見られることはかなり侮辱的だが、軽視してくれることはとてもありがたい。

 

 

「ふぅ……♪ いまはエドウィンに話しかけているの♪ ゆるゆるのお口を開くのはベッドの上だけにしてもらえるかしら?」

 

「なんだとッ……!?」

 

 

 痴女の言葉に薄ら笑いを浮かべる私を他所に、高位魔族同士で一触即発な気配が漂い始める。

 

 勝手に仲違いを始めて、勝手に自滅してくれることは理想だが——

 

 しかし蛇子ちゃんの方はからかっているような振る舞いで、こちらの思惑通りな同士討ちというわけにはいかなさそうである。

 

 ひとまず、持参したショットグラスに麦茶を注いでグラスを口元へ運びエドウィン・ブラックへと視線を合わせて様子を伺う。

 

 

「それで? ゼラトちゃんはどうなの? この脅しで本物の在処は話すつもりになったかしら♪」

 

 

 ここでやっと友人同士の仲介役を担うつもりになったのか、蛇子ちゃんもケラケラと笑いながら頬杖をつく。

 

 意地悪っぽい顔を浮かべて、答えが分かり切っているかのような質問を投げつけてくる。

 

 

「ええと。何度でも説明しますが……事前に蛇子ちゃんにも説明させて頂いたとおり、あれは保険なんですってば。ここで、私が、仮に。仮に馬鹿正直に話したとしましょう。命だけは助けて貰えて、その直後の人生も真っ当に生きながらえる可能性はどこにあるんですか? ……第一、答えるわけないじゃないですか。本の在処をどうしても知りたいあなた方が、唯一の情報源である私を殺せるわけがないですから」

 

「ええ♪ その通りね♪ でも——」

 

「殺さずとも喋りたくなるようにはできる」

 

 

 エドウィン・ブラックの殺気が膨れ上がる。

 

 覇気に加え、凍てつくような言葉使いに周囲の雑音が一瞬にして途絶える。

 

 彼を縁取る輪郭が不明確なものになる。

 

 ジワジワと服に染み出していく血液のようににじみとなりて、黒色(こくしょく)の輪郭の仕切り線が空間へと切り替わっていく。

 

 深淵とも呼べる空間からは私がこれまでに出会ったこともない神話生物の触肢のような物体がちらつく。

 

 身体の全てがきわめて柔軟で、手足のほとんどはクラゲの足のように絡むこともなく不規則な動きで震え、エドウィン・ブラックの命令さえあれば『おまえのことなど容易に貪り殺せるぞ』を掛けながら——

 

 

 ここぞとばかりの迫真の脅し。

 

 

 私が本当にただの小娘、“青空 日葵” であれば股ぐらから黄金水を無意識に撒き散らしていたに違いない。

 

 蛇子ちゃんの瘴気を捉えられずとも、彼の瘴気は凡人ですら理解できる。

 

 できてしまう。

 

 それほどの妖気。

 

 先ほどまでバーで飲み会を開いていた魔族が一同に立ち上がり円卓から離れ——いいや。

 

 彼等は避難するわけでもなく、中央にいる————私を見ている。

 

 エドウィン・ブラックを縁取っている空間が分裂して公衆電話の出入り口大のポータルのようなものを形成する。

 

 その中から物々しい近接武器を構えたオークや、東京キングダムでは見たことのない魔獣が船底に開いた穴から流れ込む海水のようにワラワラと姿を現す。

 

 この場にいるあらゆる魔族が害意を突きつけてくる。

 

 私を挟むように左右に立っていた色黒オークがそれぞれ肩を掴み、肩の関節を外すギリギリ手前の力を加えてくる。

 

 控えめに言って絶体絶命のピンチかもしれないが、袋叩きに遭うことなど探索者時代の経験から想定内だ。

 

 大丈夫。

 

 割とあること。

 

 まだ焦る段階じゃない。

 

 探索者ならよくあること。

 

 カルティストの拠点に赴いたら、カルティストと結託している神話生物にも囲まれるとか。

 

 探索者ならよくあること。

 

 まだ焦る段階じゃない。

 

 割とあること。

 

 大丈夫。

 

 

「ハハァ。何を人間の小娘1匹にマジになっているんですか? 高位魔族ならもっと精神的な余裕を持たれてはいかがです?」

 

「…………」

 

「——ですが、余程。あなた方にとって、あの本はプライドを捨て去っても手に入れたいもののようですね」

 

 

 蛇子ちゃんと桃色髪の痴女の痴話喧嘩で得られた余裕を使って、あの〈追跡〉してきたオークを血祭りにした時の笑みを浮かべる。

 

 鷲掴みにされている両肩がミシミシと家鳴りのような音とプレス機に指を挟んだかのような激痛が同時に走るが、表情は崩さずにエドウィン・ブラックと対峙する。

 

 大丈夫だ。足の骨を折った時や頭皮を抉られたときの痛みに加えれば大したことはない。

 

 ついでに落ち着いて考えてでもみろ。

 

 彼等は弱いからこそ群れている。

 

 これまでに対峙してきた 本物の邪神(・・・・・)、神格の振る舞いを思い出せ。

 

 彼等は常に唯一無二の存在。

 

 奉仕種族は彼等に仕えているだけであり、神格クラスはその他の種族を意にも留めないものだ。

 

 

 こちらは準備段階から対神格用装備で臨んでいる。

 

 

 情報不足という致命的な欠点はいまだ健在しているが、これはもう闘争の中で情報収集をしていくほかないだろう。

 

 上記の点にさえ目を瞑ればも恐れることなどないのだ。

 

 彼等は私に正気を失わさせるほどのパニック衝動すら引き起こさせぬ人外なのだ。

 

 これまでと比較してしまえば脅威としては低い部類だろう。

 

 わたしは逃亡宣言・後日郵送・誤魔化し、と。

 

 3つの警告——譲歩して直接的な対決から逃れる努力はした。

 

 それでもなお追撃を加えて今の道を選択したのは彼等だ。

 

 私に非はない。

 

 おまけに五車学園の一般人たちはこの場に存在しないのだ。

 

 情報屋の口止めも済ませた。

 

 護るものが何一つない上に、振る舞いを見られてしまう恐れもない。

 

 これが何を意味するか。

 

 

 私は自由にできる。

 

 

 そっちがその気なら私はいつでも、くさぶき城でのプロポーズ・ムードぶち壊し案件の鬱憤清算も含めて好きに暴れられることを思い出させてやろう。

 

 




~一方、その頃……①~

「オラ、起きろ!」ベチベチ!

日ノ出 陽葵「うぅん……。んん……ひまりちゃん、あと5分……」

「……牛みたいな乳しがやって」


ベッチィーンッ!


日ノ出 陽葵「い゛ったぁーいっ!!?!!ちょっとひまりちゃん!?もうちょっと優しく叩いて起こして欲しかったかな!? お詫びはキスでいいよ! もちろんディープなやつね!」

「ゲヒ……こんな時でもパートナーの名を呼ぶは仲睦まじいようで」

日ノ出 陽葵「あれ? 日葵ちゃん……じゃない!? あれ? あれ!? あれ?! なんで私、縛られてるの!?」X

「ゲースゲスゲスゲス! 騙されたとも知らずにノコノコとこれだから田舎娘は騙されやすくて助かるでゲス!」

日ノ出 陽葵「騙したの!? 日葵ちゃん居ないの!?」

「いるわけないでやんす! これだから田舎娘は!」

日ノ出 陽葵「酷い! あっ! でも夢の中で日葵ちゃんと色んなことはできたから、それは良かったかな!」

「「……」」

日ノ出 陽葵「私をどうする気?」

「ゲヒャ、そりゃもう……」

「どんなにぶっ叩かれても縛られても全身全霊で悦ぶマゾメス豚に調教してやるでゲス」

「最近は同性のペットを欲しがるお客様も多くて」

「調教が終わったらオークションで競売にかけるでゲス」

日ノ出 陽葵「くっ、そんなことにはならないよ!」

「ゲッヒャッヒャッヒャ! 縄で縛られた状態で何ができる気で?」

「ショーツもこっちのもんでやんす。闇夜の街をノーパンで歩いていたら犯してくれと言っているようなものでやんす!」

「さぁ、調教開始でゲス」


~一方その頃……②~
SR/【偵察任務】八津(やつ) (むらさき)の回想シーンの続き。
 『対魔忍世界に転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したいX』でのみ解放されます。


~あとがき~
 現在、その分投稿頻度を上げているから内容は実質1週間の1話分と変わらないからヨシッ!


~評価返信~
『只野喪豚様』
■ ひまりちゃんリョナ期待してます( ^ω^ )
◇ う、うちにはひまりちゃんは2人居ますけども……これはつまり2人ともじゃな?
  ひとまず対魔忍の陽葵ちゃんは引っぱたきました!
  オリ主の方はボロボロの雑巾みたいにしそうです!
  またかわいそうはかわいいのノリをやってみたいなぁ……。
  評価ありがとうございました!

『時間あるの様』
■ 対魔忍のこと全くわかりませんが、面白く最新話まで読みました。
◇ うおおお!40話~ぐらいからある魔の海流を乗り越えて最後まで読んでいただきありがとうございます!
  現在進みが牛歩でありますが、今後とも本作品を楽しんで頂けたらなと思います!
  よろしくお願いいたします。

『万能目薬エリクサー様』
■ エ駄死と言いたいところだが、R-18タグを付けずとも(日本では)許されそうな作品。
 総評:たまにTRPGが顔をのぞかせるが、対魔忍のR-17.9作品である。
◇ いやはやこれも対魔忍小説二次創作部R17ライン執筆先駆者であるセキシキ兄貴のおかげではあります。作者はあの方のおかげでセーフラインを掴むことができました!
  最近はバレットガールズファンタジア/PS4なるゲームにも手を付けまして、(CORE基準ですが)D指定、R-17範疇で済ませられるか分かった次第です。
  最近はTRPG要素少なめでしたので、本章あたりから盛り込んでいきたいところです。
  評価ありがとうございました!

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