対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode157 『現地調達』

 

「………………考えさせてください」

 

「フゥ~ン♪」

 

 

 絞りきった雑巾から滴る水滴のような声で、こちらを試す高位魔族達にタンマをかける。

 

 街角の奥から「ようやく弱点を見つけられた」と言わんばかりの、スネークレディの楽しげな声が聞こえる。

 

 背中をコンクリート敷きの壁に付けて両手で顔面を覆う。

 

 どう転んでも打開策が見えない袋小路に追い詰められているのはわかる。

 

 仮に私がここで未完成(ハッタリ)のパイプ爆弾を突きつけて『駒水ちゃんを開放しなければ全員まとめて吹き飛ばす!』と追加の脅迫を講じても通ることはないだろう。

 

 それこそ救助に入ると思っているスネークレディあたりに友達を吹き飛ばせるわけがないと、「そう。やってみれば?」と言われでもしたら、おしまいだ。

 

 できないことを晒せば、〈信用〉(ハッタリ)でこの場を通そうとしていることがバレてしまう。

 

 無防備であることが一度でも露見してしまえば、制圧など赤子の手をひねるよりも簡単に違いない。

 

 今、私が私を自衛できているのは、私が魔族語の本の情報を持っているという価値と未完成(ハッタリ)のパイプ爆弾が起爆すれば情報を失うという価値を両立できているからこそ、無事でいられているのだ。

 

 私の武器が〈近接戦闘(格闘)〉や体術のみならば、エドウィン・ブラックは直接手を下さず〈ライフル〉銃を構えた私兵部隊だけで十分に事足りるだろう。

 

 

(嗚呼。……チクショウ)

 

 

 考えてばかりでもだめだ。

 

 猶予を与えたばかりにパイプ爆弾を起爆させずに制圧できるという別の対処法を編み出されても私は終わる。

 

 それに次の奴等の出方として予測できる次の行動は、駒水ちゃんを対価に自発的な武装解除を促してくるはずだ。

 

 これまでの経験から割合的にはそうだった。

 

 いまはあくまでもこちらの出方を伺って……否。反応を楽しんでいるだけだ。

 

 飽きたらいずれそうなる。

 

 対魔忍世界というところも考慮すれば、衣服や靴も含めた装備品すら解除させる。

 

 これまでの非礼の詫びとして、全裸土下座とオークに命じて尿をぶっかけさせ、飲尿を命じる。

 

 顔面便器による尊厳破壊まで手の内が読める。

 

 私ならばそうする。

 

 正義の味方が無様に凌辱される瞬間ほど優越感に浸れるものは無い。

 

 

「……わかった。わかりましたよ」

 

「何が分かったのかしらぁ♪」

 

 

 顔面を覆うのを止めたタイミングで、建物の影から首だけをニョキっと生やすスネークレディ。

 

 鳥のような羽毛があれば、今ごろ私は細くなっていたに違いない。

 

 

か、んがえるにもこんな鬱蒼とした場所じゃ考えが纏まらないってことですよ。大通りの賑やかな場所でこの後の行動を考えさせていただきます!」

 

 

 震える声を押し殺して、旦那に対し愛想が尽きた嫁が放つ『実家に帰らせて頂きます!』のニュアンスでその場から離脱を試みる。

 

 ひとまず武器だ。

 

 邪神を相手取るのに作戦も魔術も使わず素手だけで挑む探索者など聞いたことは無い。

 

 とにかく今はハッタリ以外の武器が必要だ。

 

 『私が見てきたこれまでの探索の中で、奴等に対抗できそうな武装を模索しろ』と思考を張り巡らせつつ、表向きとしては思い立ったように行動を開始する。

 

 

「逃げる気?」

 

 

 鋭いスネークレディの一声が無防備にも背を向けた私へと刺さる。

 

 

「なぁ~に言ってるですか、蛇子ちゃん。今ちょっとばかり賑やかな場所で考え事をするって話したばかりでしょうが! あっ……ふーん?」

 

「……その顔は何が言いたいのかしら~♪」

 

「ははーん? 高位魔族ってことは人間よりも長寿だったり? つまり……夕ごはんは昨日食べたでしょ!朝ごはんなら8時間後ですよ!」

 

 

 先ほどまでの絞り出した声とは打って変わった明るくふざけたような声でスネークレディの一言を往なす。

 

 

「ボケ始めちゃった蛇子ちゃんだと話にならないでしょうから、ブラックさんこれは貴方に宛てた発言になります」

 

 

 彼からの返事はない。

 

 返事はないが聞いているものとして扱って続ける。

 

 

「私に()()()()()()()()()()()()考える時間を与えることは、すなわちそちらもこちらの対抗策を練られるでしょう? そちらは私の自爆行為を阻止できない以上、長考する時間は互いにとって有意義だとは思いますけどねぇ! ギッヒッヒッヒッヒッ!」

 

 

 素の笑い声を上げながら、こちらの余裕をアピールして〈魅惑〉する。

 

 彼女を助けるのか見捨てるのかの濁しもバッチリだ。

 

 これは性的な拷問に掛けてでも私から情報を得たい彼等にとっては充分な交渉材料であろう。

 

 私が駒水ちゃんを助け出して高位魔族の包囲網を突破する作戦を考案している間に、先にそちらが自爆させない方法を思いついたのであれば施行すればいいだけの話でしかない。

 

 おまけに私が仮に救出の打開策を練り終えたとしても、現段階の話では最終的にはあの場所へと戻るのだ。

 

 

「そうだ。私のことがそんなに心配なら、そちらさんは頭数だけは充分に揃っているのですから考える間、本当に逃げないか監視役・尾行役を着かせてはいかがでしょう? 十分、腕の立つ(・・・・・・・)狙撃手も居ることですしねぇ! ギヒヒヒヒヒッ!!!!」

 

 

 大声で煽りながら着実に現場から離脱する。

 

 

………

……

 

 

 うっそだろ……?

 

 ……どうやら先ほどの交渉術〈魅惑〉は通った……?

 

 ………………今まで一度たりとも成功した実感がない〈魅惑〉術が?

 

 いや、うぬぼれるな。あくまでも()()()()()()()()と考えるべきだろう。

 

 一応 “マダム” と 遭遇した地点までは無事に辿り着くことができる。

 

 周囲を見渡すが人っ子1人見当たらない。

 

 〈目星〉をつけて周囲を調査をすれば、やはり私兵が闇夜に紛れてつけてきているのだが。

 

 

「さて……」

 

 

 壁を背に店先のオーニングの下に隠れ、頭上から覗き込まれない位置でマダムから受け取った地図を確認する。

 

 尾行している狙撃手たちを撒けるようなルートもあることにはあるのだが、早期から逃げられたと判断されて駒水ちゃんに危害が向かうことは阻止したい。

 

 ゆえに尾行しやすい道を敢えて選んで大通りを目指す必要がある。

 

 

「よし」

 

 

 ある程度ルートを頭に叩き込んだのちに荷物を開いて、青空日葵の母親の工具を取り出し〈機械修理〉で腕時計を分解する。

 

 閃光玉となる予定であったライターも解体して火打石をパイプ爆弾と組み合わせる。

 

 正面からの狙撃に注意を払いながらパイプ爆弾を片手での着火式に変化させることは、タイムミリットの迫る時限爆弾を〈電気修理〉で解体した時のようなスリルだ。

 

 とにかく見栄えは悪いものの、両手を使用しなければ脅威を発揮できなかったそれを自爆程度ならば片手だけでも発動させられる(ように見せかける)段階に至ることはできた。

 

 

「あとは……」

 

 

 また作業をしている合間に、あの高位魔族達を黙らせる武装が思い浮かべる。

 

 〈改造した釘打ち機〉と比較すれば『邪神に “アレ” が通じるのか?』という疑問は残るが、エドウィン・ブラックは差し置いても蛇子ちゃんは『グレード・オールド・ワン』級、ギリ『伝統的な怪物』級の邪神だ。試しもせずに完全に通じないと可能性を破棄するのはまずい。

 

 

………

……

 

 

「おい早く水を持ってこい!」

 

「私の店が!私の店がぁーーーッ!」

 

「火が燃え移るぞ!」

 

「チクショウ!対魔忍め!むごいことをしやがる!」

 

「早く火を消せーッ!」

 

 

「うわぁ……」

 

 

 未完成(ハッタリ)のパイプ爆弾の火打石に指を掛けながら大通りを抜けた先は火の海だった。

 

 片翼の邪竜/混沌の使い魔のような黒煙がクソの詰まった大腸のように膨張しながらモクモクと上空へととぐろを巻いている。

 

 大通りにいる人々の大半は押し寄せる津波のように侵食していく炎に対して必死に対策を講じていると言った方が良さげか。

 

 残りは逃げて行く人々やら、火事場泥棒、資金や家財を運び出す人々、それを狙う路上強盗、応戦する護衛で構成されている。

 

 この混乱は、一言で言えば混沌(カオス)だ。

 

 また不運な事に私が対策武器を調達しようとしていたSMショップが火事の火元らしい。

 

 セクハラな手付きで竹鞭のレクチャーをしてくれた店主が映画『PLATOON(プラトーン)』の表紙のように両腕を天に持ち上げ嘆き悲しんでいる。

 

 消防車など現れるわけない廃棄都市では、近隣住民による昔ながらのバケツリレーや水の魔術、消火器での消火活動で行われ、誰も爆弾をこさえた女に気づいていないようだ。

 

 パリで定期的に発生する暴動のような光景を目の当たりにしながらも、あの高位魔族2体をしばき倒すための得物が残されているか確認する。

 

 …………〈幸運〉だ。(グッドラック。)

 

 店先に乱雑にまとめられていた竹鞭は、避難時に蹴り飛ばされたおかげでかろうじて火の手から逃れていた。

 

 

「う~~ううう!あんまりだ……あ ァ ァ ァ ん ま り だ ァ ァ ア ァ!!!!」

 

 

 SMショップの店主がPLATOONのポーズから変化し地面に額をこすりつけて泣き叫んでいる間に、そっと転がった竹鞭を回収し火事場泥棒に加担する。

 

 

(………………)

 

 

 それにしても東京キングダムの路上には政府による一大プロジェクトの名残のある適当な感覚に消火栓がいくつか備わっている。

 

 備わっているのだが、誰もそれを扱おうとしていないのは印象的であった。

 

 正常に機能してればバケツリレーや水の魔術などで消化するよりもよっぽど効果的には違いないのだが、この島の連中は消火栓がどういうものか分かってないのかもしれない。

 

 はたまたいくつかの手順を踏んで放水に至る消火栓を扱うよりも、魔術やリレーの方が簡単なのか。

 

 あるいはパニックでそこまで視野が広がないのか。

 

 もしくは消火栓をこじ開ける道具がないのか。

 

 恩を売るため封をこじ開けるなどをして消火活動に参加したいところであるが……。

 

 こっちもいっぱいいっぱいな状況なのだ。

 

 一応、店先で泣き崩れている店主には、少しばかりの心持の対価として持ち合わせの現金全部——主にセルフファッカー眼孔屍姦オークから頂戴した金銭で支払いを済ませつつその場を後にする。

 

 

「………………」

 

 

 一方で……。

 

 こんな大火災を引き起こしたのは対魔忍らしいが、どのような対魔忍なのだろうか?

 

 少なくともビルの屋上で見たの対魔忍ではないだろう。

 

 水城ゆきかぜちゃんは雷使いだったし、の対魔忍は常人よりも素早く動けるタイプの対魔忍、黄色の対魔忍は影を自由自在に移動できるタイプの対魔忍だったはずだ。

 

 それこそ神村みたいにロケットランチャーから激しい火球を飛ばせるようなやつだとか?

 

 放火は日本国憲法において死刑に値する極めて重罪な犯罪なのに……。

 

 こんな大通りの人目のつく……。もしかしたら監視カメラとかで映像として納められているかもしれない場所で放火するだとか、怖いものなさすぎだろう。

 

 対魔忍がやったってバレてるってことはきっと姿も見られているだろうし……。

 

 放火した対魔忍は後先考えないことで無敵か???

 

 魔族が話していた通り、公共事業が消火活動できない場所での放火とか本当にエグい。

 

 “放火をする” という行動の観点からはとても仲良くできそうな気はするが、もうちょっと上手な放火のやり方と離脱方法をレクチャーしたいものだ。

 

 




~一方、その頃……①~

日ノ出 陽葵「……」ウロウロ

ノマド兵士「…………」

日ノ出 陽葵「……」キョロキョロ

ノマド兵士「おい君」

日ノ出 陽葵「ひゃっ!? は、はいっ!」

ノマド兵士「この辺じゃ見ない顔だな?見たところ傭兵って感じでもない。危ないから離れた方が良いぞ」

日ノ出 陽葵「えっ。でも私の友達がこの近くにいるらしくって……」

ノマド兵士「……そうか。だが長居はしない方が良い」

日ノ出 陽葵「忠告ありがとうございますっ」ドギマギ

ノマド兵士「………………」ジロジロ

日ノ出 陽葵(……すごい見られてる……不審がられているのかな? 一旦、離れた方が良いのかも……)


………
……



日ノ出 陽葵「はぁ……。もうちょっとで日葵ちゃんの元までたどり着けそうな気がするのにうまく行かないなぁ」ハァ……

釘貫 神葬((青空 日葵の姿))「ギヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」ダダダダダッ!

日ノ出 陽葵「!? 日葵ちゃん!?」

日ノ出 陽葵(い、いま、日葵ちゃんの声がしたような?! 追いかけてみよう!)


………
……



釘貫 神葬「♪~」

日ノ出 陽葵(日葵ちゃん! やっぱり日葵ちゃんだ! やっと見つけた! 思いっきり飛びついて再会を喜びたいけど……日葵ちゃん、どうして手榴弾なんか持ってるんだろ……? 驚かせないように話しかけないと危ないよね……)

釘貫 神葬「……」ジロリ

日ノ出 陽葵「」ビクッ

釘貫 神葬「………………」フッ

日ノ出 陽葵(あれ? あそこにいるの……日葵ちゃん……だよね? 今までに見たこともないすっごく怖い顔してたけど……)

釘貫 神葬「……よし。あとは……」

日ノ出 陽葵(あっ! そっちの大通りは!)タジタジ

日ノ出 陽葵(声かけるタイミング逃しちゃった……)ションボリルドルフ


~一方、その頃……②~
【偵察任務】八津 紫
 前回と変わりなし。


~あとがき~
 ちょっとしたぼやき。
 現実世界が対魔忍世界に近づいてますね……。
 実際に台湾有事が発生して、対魔忍世界の史実通りになってしまったら、対魔忍RPGの方はどうなっちゃうんでしょうね?
 フィクションと現実は切って話すべきですが、ここまでフィクションに現実が則して来てしまうとフィクションの方が改変しなければならないみたいな事態に陥りかねないので心配です。
 それこそ中華連合国とか言ってますけど、触れられないネタになってしまったり……。
 割と対魔忍世界の歴史として記載された台湾有事とか、沖縄侵略とかがシャレにならないぐらいに近い現実にもなってますし、毎日新聞情報で調べればすぐに出て来ますが、2023/10/17にも熊本知事に対して沖縄の離島住民の避難先の受け入れを松野官房長官が話に向かってますしでね……。
 ただ戦争が起こらないことを祈るばかりです。

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