対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
さてSMショップからかっぱらってきた竹鞭を筒状に束ねる。
剣先は素早く振るうことができるように空洞にして、持ち手部分には
それから形が崩れないよう髪留めで固定し、私が東京キングダムに持ち合わせることを断念した近接武器である『竹刀』を〈製作〉した。
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
お試しで竹刀を振り回してみる。
空を切る良い音。
振りかぶったソレは刀で切りつけるというよりも、野球選手がバットをフルスイングするような棍棒的な扱い方だ。
だが、これでいい。
竹刀の形状になるよう整えているが、竹鞭を素材に使っているため振りの動作に合わせて先端が鞭のようにしなる。
悪くない出来だ。
本来、竹刀を振るう場合は『クトゥルフ2010』における〈日本刀〉技能を26頁 を用いることで初めて扱うことができる。
しかし、この自作竹鞭竹刀を『新クトゥルフ神話TRPG』のルールに当てはめてしまうことで私はこれを〈近接戦闘(格闘)〉で振るうことができるようになった。
武器として〈近接戦闘(刀剣)〉の技能に分類されそうなものではあるが、竹刀は『新クトゥルフ神話TRPG』61頁における〈刀剣〉条件を満たしていない。
そのおかげで、竹刀を大きな棍棒=〈近接戦闘(格闘)〉武器として振るうことができるのだ。
監視役の私兵へ見せつけるように、西洋の騎士がレイピアで誓いを立てるときのように眼前で竹刀を立てる。
これが高位魔族に一矢報いるためのある種の秘密兵器。
竹刀が秘密兵器などという、剣道部に所属している中学生が中二病を患った際に対テロリスト装備として挙げてしまいそうなほどに滑稽な装備だが滑稽な装備だからこそ光るものが存在するのだ。
またもや私だけが私に関する情報カードを1つ切ることになりそうだが……。
あの高位魔族達には身体で
私の友人を人質に取るとどうなるのか。
五臓六腑、骨に染みわたるまでトコトン追い詰めて二度と人質を交換条件に隷属させようなどという選択肢が上がらないほどに。
駒水ちゃんが本物か偽物かあの距離では定かではない。
しかし毒を食らわば皿までという言葉があるように、罠であろうが一回確認はしてやる。
もし本物ならば正体を確かめつつも救出するチャンスへと繋がるのであればエビで鯛を釣るようなものにもなる。
………
……
…
「ほぉらね♪ 私の言った通りだったでしょ? ゼラトちゃんには————…………ちょっとぉ? 正気?」
「……」
竹刀を携え、屍山血河を築き上げた場所。
駒水ちゃんが囚われたままの地点へと戻ってくる。
既にパッケージはスネークレディの手によって開封されていた。
あまつさえ彼女の手には一升瓶程の太さのバイブが握られており、駒水ちゃんは全力で身をよじって逃げ出そうとしているところだった。
私の帰りが数分遅れていればツマミ食いされていたであろう。
そこへ打開策として持ち合わせてきた私の軽装に、スネークレディもエドウィン・ブラックも白い目で見る。
エドウィン・ブラックに至っては愚者を見るような目で一瞥したのちに、両目を瞑り私という存在が虫けらのような意識すら向ける程の相手ではないような邪神特有の反応を見せる。
至って普通の反応だ。
客観的に考えても、邪神相手に自作のみすぼらしい竹刀で立ち向かうなどと正気の沙汰ではないだろう。
誰だってそう思う。
普通はそう思う。
されどその常識が撃ち破られた時、アイツ等がどんな顔をするのか想像するだけでゾクゾクしてくる。
「さ、やりましょうか……」
真剣な顔をしながら中段の八相の構えを取りながらスリ足で近づく。
「そんな装備……でねぇ?私のことナメてるの?」
スネークレディの刺すような殺意の籠った一言が、私の表皮をチリつかせる。
これまでのおふざけ混じりの発言からは考えられないような気迫に圧倒されて、踏み出した足が強張る。
「……ギヒヒヒヒヒッ」
しかし殺意には殺意を。
顔を笑みでいびつに歪ませ、白い歯をギラギラと見せつける。
そのまま絞るように竹刀を力強く握りしめ前進を続ける。
前進するたびに握りしめる手は強固にしながらも肩の力を抜いて手首を柔らかくする。
元より探索者なのだ。
なにも完全に
そもそも竹刀の持ち込みは、最初の近接戦闘用武器として候補に挙げていたもの。
ナメていると思うならば上等。
そのままそっちも舐めてかかってみろ。
まえさき市の時みたいに泣きっ面にしてやる。
「……」
「はいはい分かったわよ。はぁ……」
退かぬ意志を強く表す私と対するエドウィン・ブラックは椅子へ優雅に腰を掛け、傍にいるスネークレディを顎で指示する。
スネークレディとしては、うんざりした顔で一升瓶級のバイブをほっぽり投げて対峙する。
彼女は私の装備に対して心底がっかりしているのだろう。
ヤツの気持ちは理解できる。
あんなに大胆不敵なハッタリにハッタリを重ねていた奴がこんな装備で戻ってきたら溜息の1つや2つ吐きたくもなる。
「はぁ……興覚めだわ。ホント興ざめ。あんな大口を叩いて大層な武器でも持って帰って来るのかと思えば……」
「…………」
「ねえ、ゼラトちゃん? そんなふざけた装備で私に立ち向かってくるってことは、それ相応の覚悟があるってことよね?」
おどける様子もなく、楽しげな声も出さず。
ただ口元だけ笑みを浮かべて語りかけてくる。
ファッションショーでランウェイを歩くモデルのような無警戒な歩み。
死にかけの獲物をどのようにして嬲りいたぶってやろうかと考える猫のような表情。
「もちろん。蛇子ちゃんも済みました? ま え さ き 市 の よ う に 泣 か さ れ る 覚 悟 は」
倒置法を用いながら、周囲に〈目星〉をつけて潜伏している狙撃兵の配置の確認を済ませて彼女を煽って対抗する。
『お前は前座だ』と言葉には表さず態度で示す。
「随分と偉くなったものね。逃げ帰ることしかできなかった弱小人間のクセに♪」
「ははっ。弱小人間の癖に高位魔族から逃げ帰ったという実績は認めてくれるのですね」
「…………イチイチ癪に障る小娘だこと……」
「なら黙らせてごらん」
小言を呟くヤツに煽り前回のニタニタした啖呵を切るのと同時にスネークレディが視界から消える。
正確には消えたわけじゃない。
まえさき市と同じように正面から背後に回り込みに来ただけであり、スネークレディの〈組み付き〉攻撃を屈みながら〈回避〉する。
凶器の笑みを浮かべた彼女の攻撃は決して避けきれないような不可視の理不尽な一手ではない。
目まぐるしく飛び回り目障りな羽虫のように素早く、キラービーのような致命的な一撃なだけだ。
2度目ともなれば、ちゃんと動きを見て〈回避〉に専念さえすれば避けることは可能だった。
奴の手の内を知っている私がもっとも警戒すべき攻撃とは、触れられること。
しかし、要は当たらなければ問題のない話だ。
とにかくこれまでに培ってきた初戦や五車町で積み重ねた経験値を活かしてヤツに身体を触れられないよう身を捩じって躱し続ける。
屍山血河の牙城を一瞬に腐敗させた白色の毒霧の存在もあるが、こちらは生け捕りにするつもりならあまり気にする必要もないかもしれない。
「ふぅん♪ 少しは成長しているみたいね? でも私を躾ける気なら、避け続けるばかりじゃダメじゃない?♪」
「!」
私が魔族共にやってきたように眼球を狙ったかのような指先を槍のように伸ばした
「♪」
——違う。
この攻撃はフェイントだ。
まえさき市では顔面への攻撃を防御した際に、ストマックブローを叩き込まれたのだ。
それにコイツには触れられちゃいけない。
素肌へ触れた〈受け流し〉をした日にはどんなことが起きるかわかったものじゃない。
だから攻撃を受ける前提での防御ではなく、奴の右から放たれた攻撃を同じく右側へ幅跳びのように大きく飛びのいて再び〈回避〉する。
「フフフッ♪」
こっちはノーダメージRTAでも走っているかのように決死の〈回避〉の連続。
おかげさまで息が上がりつつあるのに、相も変わらずスネークレディは息も乱れず余裕の表情だ。
それに『グレード・オールド・ワン』級の怪物と対峙して、アドレナリンがドバドバ分泌されて脳は覚醒状態にあるにも関わらず、身体が睡魔に襲われているかのような重いだるさを感じ始めていた。
ヤツも私の身体の異常には気づいているようで、先ほどまでのような落胆した声色からは一方的な攻撃を楽しんでいるような素振りが見られる。
「………………!」
もしやと思い、直ちに距離を取る。
が、休ませる気も身体の異常を調査させる気もないのか高速移動で接近され、鈍くなった動きの身体に3連続、4連続のフェイント交じりの連撃が加えられる。
「…………」
「あらあら?顔色が悪いわよぉ? だからと言って、これ以上
鞭のような速度の〈こぶし〉を振るいながら、ケラケラと嗤うスネークレディ。
クソが。
下唇を噛みしめる。
牙城を瓦解させた腐食させる毒霧攻撃は霜のように白い色が着色されていたが、もしかすると我々が吐き出す二酸化炭素のように無色のまま毒霧を浴びせることも可能なのかもしれない。
それが今の私でもわかる身体を蝕む異常状態だと考えるのが妥当だ。
されど状況を逆に捉える。
私はまた奴の情報を1つ得られた。
宇宙の彼方まで吹き飛ばすための歩みを着実に進められている。
だが彼女ばかりに集中しても居られない。
時には視野を彼女から周囲へと向けて狙撃手の動きを確認する。
そのたびにイラつくヤツが少しずつ力を開放するがとにかく直撃さえなければ、こっちの勝機は残されている。
……それに周囲の観察で分かった嬉しいことある。
邪神を味方につけている私兵部隊はスネークレディが負けるだなんて微塵にも思っていないのだろう。
それこそ『まえさき市で泣かされた』という事実も、私が言い出した
彼等は窓の傍で滞在しているが〈ライフル〉銃でいつでも引き金を引ける状態にはなっておらず、約束されたイベント戦を鑑賞している。
これは好都合であることに他ならない。
「よそ見する余裕なんかあるのかしら?」
スネークレディの激しい連続攻撃。
獲物を中央に捕らえとぐろを撒く蛇が獲物を執拗に攻撃するが如く四方八方からの攻撃。
重くなる身体に足がもつれて体幹が崩されて行く。
まずい。
「——ッ!!!」
「アハッ♪ その表情♪ いいわぁ……♪ 濡れて来ちゃうじゃない♥♥♥ その表情をもっと見せて♪」
目の前で起きたことに度胆を抜かれ、奴が喜びそうな顔になってしまう。
目までやられてきたのか……今、攻撃する腕が見えなかった。
私が竹刀を振るう音よりも鋭い空を切る音だけ。
まるでプロの1本鞭による一撃のような恐ろしい音。
かすっただけでも、衝撃波で
「ほら♪ほら♪ほら♪ほら♪ほら♪ほら♪ほら♪ほらぁ♪ 足が千鳥足になってるわよ♪」
「ぐっ……!」
ここまで来ると〈回避〉もいっぱいいっぱいになる。
既に彼女の攻撃のいくつかは自然に降ろした髪をかすめ、時には毛先を撫でられる。
髪を鷲掴みにして引き倒してくるまでしてこないところを見ると、威勢だけはとびっきりな小娘のお遊戯会の段階まで落ちているのかもしれない。
だが『いまは掌で転がしているだけだ』とでも言いたげに、触れられた髪の毛が溶けてパラパラと落ちていく。
よろけながらも起死回生に転じるための予備動作に入る。
私もただ逃げていたばかりじゃない。
これまでの防御戦でエドウィン・ブラックと駒水ちゃんが待機している方に歩みを進めて少しでも距離を稼いでいた。
少なくともパッケージの中身は駒水ちゃんに見えた。
あともう少しで……。
「ウフフ♪ そうよねぇ♪ そっちにはゼラトちゃんの本命の武器があるものね♪ その武器はブラフなんでしょう? 不意打ちの代名詞といえばゼラトちゃんだもの♪ ……でも♪ もう使う機会なんて与えないけど♪」
何もかも見抜いていると自信たっぷりのスネークレディ一言と共に攻撃が苛烈を極める。
漫画で例えれば『南斗の拳』の百裂拳。アーマードコアⅥで言えば、初心者殺しのバルテウスミサイルのような流星群じみた鉄拳が飛んでくる。
旧日本軍の銃弾のカーテンと呼んでしまっても差し支えないだろう。更にいくつかはこちらのミスを誘発させようと魂胆が孕む連続攻撃が含まれる。
仮にこれがアクションゲームならば、クソゲーと呼ばれても納得してしまうような鬼畜の難易度。
「捕った♪」
遊び飽きたのか、ついに蛇子ちゃんの右手が私の胸倉を掴む。
握り拳が捻りを加えてきて、陽葵ちゃんから貰った大切なジャケットから嫌な音が聞こえる。
ここまでしっかりと腕を伸ばした状態で胸倉を掴まれてしまっては、切り札の1つであり蛇子ちゃんを泣かせた実績すらある〈頭突き〉も彼女の額に突き刺せない。
「ッ!」
『まだ負けてない』と彼女の加虐欲を誘うような顔をして、野球のバットを振るうようにまだ拘束されていない腕に握られた竹刀を振るうも——
「♪」
パシッ♪
余裕の表れのつもりなのか、容易に私の竹刀による一撃を軽々と受け止めてしまっ——
~一方、その頃……①~
日ノ出 陽葵「うぇーん! 私が燃やしちゃった店へ行っちゃう前に日葵ちゃんに声をかければよかったー!」ビェェェン!
?? ??「」ピクッ
日ノ出 陽葵「ちょっと遠回りしただけなのに見失っちゃったぁー!」トテトテトテ…
?? ??「……」ジー
日ノ出 陽葵「ひまりちゃーん! どこー?! 私も来たよー!?」トコトコ
?? ??「……」ジー
?? ??「……」カチッ スタスタスタ
~一方、その頃……②~
八津 紫先生に変わりはないので、次回から変化があるまで鹿之助くんのグループと同様に飛ばします。
~あとがき~
対魔忍RPG Ecstasyの事前登録は済ませたかい!?
事前登録の期限は今日の、日本時間12:00までらしいから忘れてる人は登録してくるんだよ!
そしてちゃんと成長しているなぁ。オリ主……。
顔面への攻撃をイーサンガードで防ごうとしてボディブローをブチ込まれたときと比較して善戦してはいるけど……でも高位魔族に胸倉を掴まれましたね。
しかも〈頭突き〉が刺さらないほどに腕を伸ばされて、武器まで掴まれちゃってまぁ……。無事捕縛。
スネークレディも成長、この場合は学習を済ませてますね!