対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode161 『エドウィン・ブラック vs 探索者』

 

「………………」

 

 

 尻をペチペチ叩いて高位魔族のケツドラムセッションを開いている目前でエドウィン・ブラックが左手を軽く上げてなにかの指示を送る。

 

 途端に海岸で波が引いていくように銃口を降ろして物陰へと去る兵士達。

 

 彼の初動に対して私も駒水ちゃんを建物の影に押し込めるように〈隠す〉。

 

 そのまま蛇子ちゃんの尻を適度に叩きながら、ダークソウルに登場する深淵歩きアルトリウスの構えを取る。

 

 個人の嫌な直感というのはほぼ当たるというが、それはその人物が『これまで得て来た経験をもとに判断するからだ』と、聞いたことがある。

 

 そう。

 

 レイプされた生娘の如く、地面でぐったりとする蛇子ちゃんのケツをシバき続けながらも嫌な直感は直実に近づいていた。

 

 

「ゼラトシーカー」

 

「……」

 

「私は貴様を逃がすわけにはいかない」

 

 

 おもむろに右手の平の中央にあるホクロを見せてくる。

 

 否。あれはホクロなどではない。

 

 一見、ホクロにみえたそれは肥大化して……宙に浮かぶ立体的な球体を形成する。

 

 ゴルフボール大ほどの黒い球体が浮かび、それは細く光る赤い稲妻を纏っているように見えた。

 

 黒い球体が現れるのと同時に、背後から向かい風でも吹いているかのような逃走方向への足取りが重くなる。

 

 私の長い髪がエドウィン・ブラック側へとたなびく。

 

 最初は向かい風に対して踏ん張り逃げ切ろうと下半身に力を入れて抵抗するも、見る見るうちに力に抗えなくなる。

 

 しかし、次第にそれが彼の能力が風を操るものではなく重力に変化を与えるものだと気づく。

 

 例えるならばブラックホールに吸い込まれるかのような引力であったと言えばいいだろうか?

 

 

「ッ!」

 

「きゃっ!」

 

 

 やはり私の判断は誤りではなかったようだ。

 

 奴の球体に近づいた物体がどうなるか分かったものではないが、あの黒い球体がブラックホールだった場合。

 

 吸い込まれた人体はきっと冷凍ミートボールのようになってしまうことだろう。

 

 彼は私を逃がす気はないと言っていたが駒水ちゃんや人質兼肉盾の蛇子ちゃんに対しては気にもかけていない様子だ。

 

 もしも私よりも先に駒水ちゃんがブラックホールの中に落ちてしまえば、どうなってしまっていたかなど想像に難くない。

 

 事前に彼女を建物の影に避難させていたおかげで、建物の壁が地面のような役割を持ち彼女の落下を防いでくれるはず。

 

 しばらくは地面や壁の室外機しがみついて耐え凌ぐも、映画『タイタニック』の沈没ラストシーンのように身体がふわりと浮く。

 

 地面が壁にでもなったかのように周辺のものが滑り落ち始める。

 

 強制的に彼の方向へと強制的に引き寄せられる。

 

 吸引力が増していく穴に対して私の筋力(〈STRロール〉)も持たずに滑り落ち——

 

 

「ダメっ!!!」

 

「うあっ!?ぉ゙っ?!」

 

 

 蛇子ちゃんもろとも黒い球体をめがけて落下する寸前のところで、今度は腹部に強い締め付けられるような痛みが走った。

 

 痛みの代償として得られたものとして、自身が宙ぶらりんになっていることに気付く。

 

 まるで高所現場で転落したものの腰の安全ベルトによって一命を取り留めたかのような不安定な姿勢だ。

 

 キリキリと締め付けられる腹部の痛みに視線を向けると、どうやらパイプ爆弾のベルトが駒水ちゃんを避難させた建物側に続いているようで……どうやら落ちる間際のところで駒水ちゃんが引き止めたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズルッ………

 

 

 だけどもやはり私に加え蛇子ちゃんもぶら下がっている以上、その救援活動も長くは続きそうにもなかった。

 

 彼女が探索者ならば私達を武器や装甲へと置換することで100㎏越えの体重も難なく引き上げることができるのだろうが——

 

 追い打ちをかけるように引力も収まることを知らないでいる。

 

 

「駒ちゃん、いい! 離してください!」

 

 

 折角助けた彼女も落ちそうになるほど、建物から上半身乗り出してしまっている。

 

 あれでは時間の問題だ。

 

 助けたのにこのままでは共倒れでは本末転倒。

 

 腹が捩じ切れる痛みに耐えながらも、上空となった位置で踏ん張り続ける彼女へと指示を送る。

 

 

「やだ! やだ!離さない!対に離さない!!!」

 

 

 だからといって彼女も素直に指示に従うつもりはないらしい。

 

 両目をぎゅっと瞑ってまで全力全身に力を込めているのが伝わってくる。

 

 

「大丈夫! ヤツは私を殺すつもりはないし落ちても大丈夫だから!」

 

「青空ちゃんはご主人様の恐ろしさを知らないからそんなこと言えるの!3度も助けてくれた青空ちゃんを私は裏切れない!」

 

「……あ?

 

 

 なんとか手を離してくれるように画策する私へ、駒水ちゃんの発言が何かおかしくて拍子抜けた声が出る。

 

 なんか、いまの言葉にツッコミを入れたいところだが、ますます引力は強固な角度へとなっていく。

 

 建物に隠れていた駒ちゃんの胸部が完全に露出し、こちらから腹部まで見えるようになれば落ちることなど瞬く間に違いない。

 

 

「大丈夫だってば! 私にいい考えがある! だから離して! このままだと、一緒に落ちる!」

 

「堕ちても良い!青空ちゃんとなら何処へでも堕ちる!堕ちてみせる!」

 

 

 ん? んんんん???

 

 やっぱり何かおかしい。危機的状況なのに。

 

 それすら越えてしまう駒水ちゃんのパワーワードはなんなの?

 

 陽葵ちゃんとは感性の違いで危険なにおい(・・・)がし始めてるんだが?

 

 

「……ああ、もう!」

 

「………………」

 

 

 聞き分けのない駒水ちゃんに舌打ちをして、未だに手のひらと球体をこちらに向けるエドウィン・ブラックを見下ろす。

 

 球体の大きさは既に野球ボールほどの大きさからハンドボール大になっている。

 

 ……なるほどなぁ。

 

 あの球体が大きくなればなるほど、奴の力である引力は強力なものになるってわけか。

 

 やっと1つ、手の内をみせてくれた。

 

 高位魔族封印作戦がまた1歩前進したというわけだ。

 

 

 ギヒヒヒヒヒッ!

 

 

「はいはい! わかりましたよ! わかりました! 根負けしました! 落ちてくるなら、勢いよくお願いします! 私の胸に飛び込むように力強く!」

 

「青空ちゃんが望むのなら喜んで!」

 

 

 …………。

 

 うーん……この世界の私の友達って、どうしてこう……。

 

 言うことを聞いてくれない陽葵ちゃん2号に向けて、この状況で考えられる最善策の指示を送る。

 

 少なくとも彼女が私をクッションにすればあのブラックホールへ先に巻き込まれる可能性は低いと考えてのことだった。

 

 私の指示通り駒水ちゃんは自由落下速度よりも素早い速度で抱き着くように腹部に落ちてくる。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

「青空ちゃん!?」

 

 

 片手に蛇子ちゃん、片手に竹刀を握っている私は彼女を受け止めることはできず……。

 

 ……モロに腹部への〈タックル〉を受けることになったが、おかげさまで引力に引き寄せられるよりも更に速く加速する。

 

 そのまま超装甲の蛇子ちゃんへ、サーフボードのように飛び乗って……。

 

 

「やぁブラックさん!〈物理学〉における慣性と減速度と運動エネルギーの法則はご存知でしょうか?!」

 

 

 三位一体。

 

 文字通りの肉弾となって、ギラギラとした笑みのままエドウィン・ブラック目掛け突っ込む。

 

 蛇子ちゃんはブラックホールの餌食になってしまう可能性が極めて高いだろうが、ギリギリを求め過ぎれは私も巻き込まれることは彼も承知だろう。

 

 いずれにせよどう転んでも、高位魔族を1人消せることになる。

 

 ギリギリでブラックホールを消失させようものならば、蛇子ちゃんを葬り。

 

 事前にブラックホールを消失させれば蛇子ちゃん+私+駒水ちゃんの肉弾〈砲〉が落下の加速を加えたブラック目掛けて、異世界転生トラックの如く突っ込む。

 

 この勝負、どちらに転んでも私の “勝ち” だ。

 

 

 

 これまでありがとう蛇子ちゃん。

 

 

 泣き顔を2度も見られて私は満足したよ。

 

 

 さよなら蛇子ちゃん。

 

 

 

「ああ。当然」

 

 

 しかし途端に重力の向きがエドウィン・ブラックとは逆向きへと——かつ地面と同方向。

 

 本来の地球の重力側へと変化する。

 

 

「ハァ!?」

 

 

 唐突なチート能力じみた重力方向の変換行為で、ちいかわのうさぎみたいな声が出てしまう。

 

 勢いづいて落下する肉弾は無重力空間をワンクッションしたかのような静止が加わると、そのまま地面に落ちてしまった。

 

 危機的状況を打破するために企てた即席の合体技が音を立てて崩れる。

 

 

「遊びは終わりだ」

 

「!?」

 

 

 今度は私の身体だけが力任せに宙に浮かされる。

 

 空にでも落ちるように。

 

 

「お? お? おっ? おっ!おっおっおっおおおおお!」

 

「……」

 

「おぼぼぼぼ!?」

 

 

 空へ落ちる間際、洗濯機の脱水モードのような回転が加えられ、耐え難い遠心力によって所持品が強制的に分離される。

 

 三半規管がかき混ぜられ、どちらが上か下か方向感覚を失ってしまう程の重力変動。

 

 口から出てきた言葉は溺れ死ぬボーちゃんのモノマネぐらいしか出てこない。

 

 

「ッ! ご主人様!」

 

【動くな】

 

「っ」

 

 

 なぜかエドウィン・ブラックと私をご主人様呼びする駒水ちゃんが立ち上がるも、彼に圧力を掛けられ跪く形でたちまち動けなくなる。

 

 

「褒めてやろう。ゼラトシーカー」

 

「…………

 

「人間の小娘にしては知恵を振り絞りよく頑張った。だが人間と魔族では生まれ持った素質や寿命が異なる。実力では私の足元にも及ばんな」

 

「……ゔぉ……え……——エレエレエレエレエレ……」

 

 

 逆さづりの状態でようやく、怒った子供がシリアルの箱を投げたあとの中身のようなグロッキー状態から解放される。

 

 口からが飛び出ていく。

 

 先ほどの急激な振り回し行為で竹刀や未完成(ハッタリ)のパイプ爆弾は私の手を離れ、ヤツの手中へと収まってしまった。

 

 胴体から伸びる他のパイプ爆弾も千切れて地面に落ちている。

 

 

「さぁ、貴様はここからどうする?」

 

 

 挑戦的にエドウィン・ブラックは嗤う。

 

 やっと高位魔族も人間っぽい感情を見せたかと思えば、それが嘲笑いだとはやっと私のことを認識こそしたが舐められているらしい。

 

 されどその挑戦に乗ってやるように袖で吐瀉物を拭って辛うじて残された〈改造した釘打ち機〉を奴に向けて——

 

 

カチカチッ

 

 

()()()()()

 

 

 釘が出ない。

 

 

「無傷で返却されるとでも思ったのか?」

 

 

 壊されている。

 

 

「あぁ……」

 

 

 これでは成す術もない。

 

 




~一方、その頃……①~
日ノ出 陽葵「——うっ……いたたたたたたぁ……」

日ノ出 陽葵「一体なにが起きたの……?」ヨロヨロ

日ノ出 陽葵「えーっと……ピカって光って……振り返ったら大きな爆発が——」

日ノ出 陽葵「——爆発!?」

日ノ出 陽葵「日葵ちゃん?!」ダッ



~一方、その頃……②~
「——」
「——」
「——」
「——」
「——」
「——」

死屍累々

八津 紫「……フンッ」スタスタスタ……



~一方、その頃……③~
上原 鹿之助「……」オドオド

ふうま 小太郎「大丈夫さ。あの青空さんなら」

相州 蛇子「現地の高坂先生と合流してから蛇子達も一緒に探すし、紫先生も日葵ちゃんの保護に動いているって聞いたし、ふうまちゃんの言う通りそんなに心配することないよ」

上原 鹿之助「…………違うんだ……」

相州 蛇子「え?」
ふうま小太郎「は?」

上原 鹿之助「確かに、日葵のことは心配なんだけど……普段の日葵の行動を考えると取り返しのつかないことを始めてそうで……俺はそっちも心配なんだ……」

ふうま小太郎「あー……そうだな」

相州 蛇子「う、うん。そ、それはね……うん」



~一方、その頃……④~
?? アスカ「ノマドの兵士だらけ……あの爆発も、やっぱりコイツ等が……」キッ

日ノ出 陽葵「ひまりちゃーん!!!」ダダダダダッ

?? アスカ「!? ちょっとあの子そっちに走り寄って正気!? そっちは——!」



~あとがき~
 陽葵ちゃんの状態が正気かって?
 大丈夫です。ちゃんと狂気ですよ。

 CoC公式鯖で遊んでいるのですが、思ったよりもハマってしまってガッツリ卓に参加してしまってます。最高です。
 問題は何も小説の続きが書けてないことですね。
 まずい……。

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