対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
さぁ!困ったぞ!
空中浮遊して早
〈改造した釘打ち機〉は破壊されていて、修理には青空日葵の母親の工具箱が必要。
その肝心の工具箱は地面で散らばっていて、工具を収集するには私は地上に降りる必要がある。
もがいてもどうすることもできない!
だが例えどうにかすることができたとしても、いま絶対に地上へ降り立つべきではない。
なぜなら——
「ゼラトちゃーん♪ 早く降りてらっしゃい♪ 生きていたことを後悔するぐらいに虐めてあげるから」
地上では、もっとも危惧していたことが現実に起きていた。
ヒンヒン泣き鳴いていたサーフボード肉盾子ちゃんが完全に復活した。
相変わらず尻は丸出しだが、顔は青筋立て、目は完全に室井先生並みの糸目だ。
乱れた髪をざっくりとしか直してないところからかなりの怒りが伝わる。
この場がアニメならば彼女からドス黒い炎がメラメラと湧き上がっていたに違いない。
きっと私は殺される。
散々惨い目を覆いたくなるような拷問を加えられたあとで殺されるパターン。
人生の中の苦痛で指10本のうちには入ることが起きるかもしれない。
「あー、蛇子ちゃん。火に油を注ぐわけではないですが、その苦情はブラックさんに言ってもらえますー? 私も好きで空中浮遊しているわけではないんですよー。この状態はいわば彼に魔術で吊り上げられてこうなってるんですー」
「エドウィン。降ろして」
「……」
「エドウィン?いい加減、あの減らず口が止まない小娘を地面に降ろして頂戴。もう我慢ならないわ、絶対に泣きわめきながら懇願させる。指の数本は捩じ千切って絶対に泣かせて命乞いさせてやる」
余裕のなくなった蛇子ちゃんが地上でエドウィン・ブラックに詰め寄って血気盛んに抗議しているのが見える。
「おー、こわいこわい」
一方で詰め寄られている彼は血気迫る蛇子ちゃんに一瞥もせず、駒水ちゃんに近づいてなにやら色々と話しかけているがここからでは何を離しているのか〈聞き耳〉をもってしてもよく聞こえない。
ただ遠目からでもわかることは駒水ちゃんは素肌に脂汗を滲ませながら、蛇子ちゃんや彼に対して怯え空中へ持ち上げられた私を見ようともしなかった。
まぁ、元の手筈では私を裏切るつもりだったのだろう。途中で心変わりしたようだが。
この程度は想定の範囲内だ。こちらもそのつもりで動いていたし。
蛇子ちゃんから危害を加えられていないことから、駒水ちゃんの所有権は彼にあると考えるのが妥当か。
「はぁ……」
こうなってしまった以上、仕方ない。
こういうことがあると『人質は見捨てるものだ』『友達など要らない』と前世と同様にろくでもない経験が積み上がってしまう。
いずれはこうやって友達だと思っていた人間に裏切られる。
まぁ、今回もそうだったように次回も友達を見捨てられるほどの徹底した利己主義にはなれないのだろうけど。
反省会は東京キングダムから抜け出してからするものとして、次の打開策を練るだけだ。
しかしこの状況で私に出来ることといえば……。
空中でバランスを取りながら、わずかでも程度でも動けるようになること。
〈改造した釘打ち機〉が何故射出されなくなってしまったのか検査を行うこと。
震災に加え爆発音が周囲で響いていたことを思いだし、高所から状況を把握しようと見渡すぐらいだった。
まず無重力間での〈低/無重力行動〉に関しては数分で移動などの行為をどうにかなるようなものでもなく、やっとの思いで倒立回転し続ける身体を制止させられるのが限界だった。
次に切り札である〈改造した釘打ち機〉が射出されなかった件だが、普通に弾倉の釘弾がすべて抜かれ、チャンバーの中は空っぽ。更に引き金が引けないような細工が施されていた。
陽葵ちゃんと同じジャケットのポケットに弾倉が残っているため装填自体は可能なのだが……これを再び最終兵器として振り回すためには〈機械修理〉で修理しなくてはならない。
最後に震災にあった東京キングダムだが、依然として津波の心配はなさそうだ。
海面側が特に引き波になっていないことから内陸部での地震であったのだろう。今頃、世間一般的な家庭では番組のテロップに『津波の心配はありません』との表示が加わっているに違いない。
(……むぅ)
地上での私の処遇については、蛇子ちゃんがエドウィン・ブラックに食ってかかって時間稼ぎとなっている以上、まだこちらに意識を向けられるまで時間が掛かりそうだった。
せっかく通常ではありえない高所から周囲の状況を見渡せているのだ。
ここは陽葵ちゃんや鹿之助くんへのお土産としてカメラで東京キングダム大橋と雲一つない綺麗な夜景、地平線に映る照明を撮影したいところなのだが……。
あいにく荷物は地上で飛散している。
…………。
しかし、今の景色。
妙に違和感がある。
爆発が発生する直前までには感じられなかった肌がざわつくような、血液が逆流するかのようなゾワゾワとする神話生物と対峙しているような異質な感覚。
思考の中で何かが引っ掛かっているのに、それが何か分からない。
「…………」
左手を口元、右手は肘に当てて違和感の解明に至ろうとする。
プラネタリウムで邪悪な神々や宇宙人が住まう星々と月を鑑賞するように夜空を見上げる。
上空には星が無かった。
雷雲のような真っ黒な雲が頭上を覆っている。
今にでも雨が降り出しそうな天候だ。
会合前まで見えていた朧月夜が見えないほどに暗雲が全てを覆い隠しており、ずっと焦げ臭——
「……ぁ」
推理が誤っていることを祈りながら爆発炎上した黒煙が立ち昇る行先を見つめる。
確信した。
この仮説を桃色髪の痴女の耳打ちに当てはめた場合、状況が合致してしまう。
繋がってしまった。
「あのう!?蛇子ちゃん、ブラックさん!?私を巡って揉めている場合じゃないかもしれませんよ?!」
バランスを崩し前のめりに転がるように狼狽した動きになってしまうが、どうでもいい。
直ちに地上で状況の把握が済んでいない高位魔族2人へ悲鳴を上げる。
それでもなお、私を手中に収めているからであるだろう。2人は気にも留めない。
あるいは私がまた余計な作戦でも企てているとでも思っているのか。ジロリと一瞥するか、嫌に気持ち悪い笑顔で応じてくる程度だった。
「ちょっとぉ!? マジだから! マジなやつだから! 少しばかり話を聞いてもらえませんかね? お願いします!何でもしますから!なんでもするとは言ってない」
慣れない〈低/無重力行動〉で体を動かすたびに、重心がしっちゃかめっちゃかになる。
1人空中でタイムショック時のような動きをして、さらに三半規管がやられる。
この魔術は実に、暴漢を拘束するには本当に実に合理的な魔術だ。
動けば動くほど。もがけばもがくほど。状況は悪化し、最後には抵抗しようとも思わなくなる。
されど手遅れになる前になんとか、頭上を指さして頭クルクルパーなジェスチャーを地上の連中に送る。
「…………チィッ!」
ダメだ。反応を得られない。
でも理解はできる。この事象、変化は地上からでは気づけない異変だ。
私だってブラックに82フィート……25ⅿ上空で呑気に夜景を見るまで気づけなかったのだから。
「駒ちゃん! 駒水ちゃん! もうこの際、裏切りとか心底どぉーでもいいから!今起きていることに比べたら些細すぎてどうでもよくなるから!ちょっとそこの建物の中に入ってエレベーター使って屋上まで登ってもらえません?ね?お願い。五車の友達としてのお願い!そこの分からず屋の高位魔族じゃダメなんですよ!事態の緊急性を何も理解してない!緊急避難速報が流れてもテレ東が平常運転だからって避難しないアンポンタンと同じぐらい理解できてない!今後の生死にかかわるから!ね!ねっ!?」
代役として全身全霊の絶叫を地上でバツが悪そうな駒水ちゃんに浴びせる。
もう高位魔族が動かない以上、彼女に頼る他なかった。
アメリ……米連のことわざに
この際、細かいことは言いっこなしだ。
彼女が屋上に到達するまでの間。期末試験の時と同じように黒煙の切れ目のおおよその距離を測定し、事態と状況の解析に勤しむ。
「青空ちゃん……!」
「よく来ました!ありがとう!そのままそこのハシゴを上がって展望台に昇ってもらえますか?」
空中浮遊しながら無重力で身体を動かしたために、その余韻で宇宙飛行士のようにぐるぐる反転しているところで屋上へ全裸で現れた彼女が現れる。
指示を立て続けに入れて事態の把握に向かわせる。
急かしたい気持ちを堪えて、彼女が確実に一段一段登るのを見守る。
彼女が足を踏み外して頭を打ってしまえばそれだけでおしまいなのだ。
「………………」
「上空と地平線を見比べてみていかがでしょうか? 爆発炎上する建物! そこから上空に昇る黒煙! 溜まり範囲を広げ続ける暗雲! 地平線は透き通った空気! この異常事態についてご理解頂けますか? このまま悠長に地上の高位魔族の痴話喧嘩を繰り広げてたら、みんな死にますよ!」
「……あ。ご、ご主人様ぁ!!!」
「エドウィン・ブラァァックッ! スネェークレディ! ガチでマジでヤバい状況だから雑談を中断してこっちを見ろォ!!!」
駒水ちゃんもまた高台に昇って異常事態に気が付いたようだ。
落ちないように注意を払いながらも地上で絶賛大揉め中のエドウィン・ブラックへ、私と共にキャイキャイ騒ぎながら意識を向けさせようとする。
異常とは爆発炎上した黒煙の煙が空で無散するわけでもなく。
一定の高度でとどまり、停滞し蓄積しているという状態だ。
どれほどの地帯が黒煙で埋まってしまっているのか、駒水ちゃんがエドウィン・ブラックの注意を引こうと動いている間におおよその計測は済ませた。
……私達が滞在している空間はおおよそ直径200ⅿの球体を形成しているように見える。
最悪なことに “内側” に居る状態で。
桃色髪の痴女が話していた内容と照らし合わせれば、排気口など存在しない可能性が極めて高いだろう。
仮にこの私達を閉じ込めている空間が完璧に密閉され空間であり、激しく燃える炎が大量の酸素を急速に消費しているとしたら?
結果については小学生の理科の授業で習うような内容だ。
どうなるか私達の命運など、想像に難くない。
「ご主人様! お願いします! 青空ちゃんを地上に降ろしてあげて! このままじゃ死んじゃう!」
「そうだぞ!エドウィン・ブラック!死にますよ!自殺はできないけど、窒息死しますよ!私という貴重な情報源失ってもいいのか!?ああん?!わかったらさっさと地上に降ろしてください!お願いします!」
「………………」
ここでやっとエドウィン・ブラックが億劫そうな緩慢な動きで高所へと居る私の視線でとらえる。
「おっ? おっ? お? ……お?」
持ち上げられた身体は空気抵抗を受けながら徐々に地上へと下ろされる。
ジェットコースターで急降下したときのような感覚。
男性が例える玉ヒュンというものを感じながら地上へと向けて降下していく。
「よしっ! やっと話が通じましたね! 協力ありがとう!駒ちゃん! もう十分だから焦らずに地上に降りておいで!」
「…………うん」
降りながら駒水ちゃんに声をかける。
彼女からの返事はなかったが、同じ異常事態を観察した者として指示通り動いてくれることを願う。
地上では満を持したかのような顔の蛇子ちゃんが私を待ち構えている。
さぁ!困ったぞ!
ついにフヨフヨと、あまり丁寧ではない降ろし方で地上へと——
~一方、その頃……①~
日ノ出 陽葵「ひまりちゃん!?」キキーッ!
日ノ出 陽葵(な、なんで空中に浮いてるの!?)ビックリ
日ノ出 陽葵(あ! あの仕草! 何か打開策を練っている時の顔……! ってことは、いま空中に居るの……日葵ちゃんの意思で浮いているわけじゃないってこと? お見舞いの時、調査とか言ってたし、怖くて悪い人達に捕まっちゃって困ってるってこと!?)狂人の洞察力
日ノ出 陽葵(だから私も一緒に同行するって言ったのに!)
日ノ出 陽葵(あ?! 私に気づいてくれた!?)
日ノ出 陽葵「待ってて! 今、助けに行くからね!!!」ダッ!!!
ゴチンッ!!!
日ノ出 陽葵「痛ぁーいっ!??!?」
日ノ出 陽葵「え?えっ?」
日ノ出 陽葵(か、かべぇ? 目の前なんにもないのに???)ペタペタ
日ノ出 陽葵「……!? なにこれ!壁がある!? 日葵ちゃん!ひまりちゃーん!!!」ドンドンドンッ!!!!
~一方、その頃……②~
八津 紫(爆発騒ぎがあったのは青空日葵が逃げ回っていた通路の奥か)
ブォンッ!
八津 紫「!」ザシュッ!
「死ね!対魔忍……!」
「テメェ……対魔忍だろ……! よくも俺達の店を燃やしてくれたな……!」
「殺してやる……! この街の対魔忍は殺してから、ブチ犯して死体を店前に吊り下げてやる!」
八津 紫「……次から次へと……飽きない連中だ」
「殺せェ!」
「ツケを払わせろ!」
「死ねェ!!!」
八津 紫「仕方ないな」チャキッ
~あとがき~
陽葵ちゃん、来ないで(切実)
みんな来ないで。
駒水ちゃんに陽葵ちゃんまで狩場に来られたらオリ主が過労死しちゃう。
エドウィン・ブラックとスネークレディ、桃色髪の痴女相手に2人も3人も守れるほど強くないから来ないで。
次の五車祭、鬼崎母と未来舞ちゃんみたいですね。私は見送ろうかなと思います。
新鹿之助くんはいつになったら新しいタイプで来てくれるのか……。天井できるほどには石と意志は溜めてますが、こうも来ないと困っちゃいますね……。
そういえば100万文字突破してました!
対魔忍小説でここまで来れたんですね…感傷に浸ります。