対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode163 『人生とは思い通りいかないものだ』

 

「………………」

 

「…………」

 

 

 地上へと降り立たなかった。

 

 そのまま地上約10フィート…………3ⅿの地点で身体が浮かされたままになる。

 

 逆に考えよう!

 

 ここは2度も人間風情に泣かされた蛇子ちゃんがジャンプしても届かない地点だ。

 

 やったぜ。

 

 

「おかえり♪ ゼラトちゃん♪」

 

「ただいま、蛇子ちゃん」

 

「遊覧飛行は存分に楽しめたかしら?」

 

「ぼちぼちって感じですかね。そっちは私の処遇について決まりました? いまだブラックさんの力で空中浮遊をされているところを見ると、駒水ちゃんと同様に私は彼の所有権に属する形にでもなるんですかね?」

 

「ンフ♪ それはまだ審・議・中♪ でも絶対にカオス・アリーナで働かせてあげるからね♪」

 

「ははっ、雇うつもりなら別にいいですけど。必ず “労働契約書” を見せてくださいね。ふざけた書類提示したら労基署の抜き打ち訪問以上に泣かしますよ」

 

「大丈夫よ♪ どんな劣悪条件でも最後に入団を懇願するのはゼラトちゃんだから♪」

 

「3度目の正直って知ってます? 1度目は蛇子ちゃんの配下、2度目はブラックさんの部下、3度目はアリーナの観客に蛇子ちゃんの泣きっ面を披露することになりそうですね? フハッ☆ 広がる痴態!」

 

「んにィッ!」

 

「おほぉっ☆」

 

 

 青筋の立った蛇子ちゃんが手を伸ばし飛び跳ねながら胸倉を掴みかかりに来るが、それをムササビが飛び立つような姿勢になって即〈回避〉する。

 

 しかしマジギレというわけでもないらしい。既に彼女の手の内を知っているからこその考察になるが、私に本当に危害を加えるつもりならば毒霧でも浴びせ地獄を見せた方がよほど簡単なはずだ。

 

 

「ゼラトシーカーよ。先ほどから猿の1つ覚えのように騒いでいたようだが、そこまで何を気にする。命乞いでもする気にでもなったか」

 

 

 空中でおちょくる私とキレる蛇子ちゃんを割って入るようにエドウィン・ブラックが仲裁に入る。

 

 くだらないことで揉める子供の仲裁に入る大人のような実にいい顔だ。

 

 

「ええ。このままだとみんな死ぬでしょうし、最後の悪あがきとして自覚の共有と共に恐怖を与えるために命乞いしました」

 

「…………ほぅ?」

 

「と言っても、私も確証を得ているわけではないのですが……ギヒヒッ

 

 

 私としては意図しないところで道連れに出来ることは、エビで鯛を釣るような事態なので明るい声でにんまりと笑う。

 

 

「詳しく説明してみせろ」

 

「ああ、それならブラックさんの側近さん?から報告を受けた方が早いと思いますよ。私の話はそれからでも」

 

 

 初々しく頭を下げながら、路地からひょっこりと現れた桃色髪の痴女の方を指さし彼の視線を誘導する。

 

 桃色髪の痴女の顔は(やつ)れ憔悴しきってていた。主やその部下、仇敵の手前、必死に隠そうとしているが『どのように説明すれば納得してもらえるか』と一瞬だけ見せた苦悩した顔や、あの勇ましい眼力が鈍って見えることが何よりもの証拠だろう。

 

 彼女に随伴している私兵達は調査に出かけた当初よりも数を減らしている。

 

 桃色髪の痴女よりも精神状態は不安定のようで89式自動小銃を抱き枕のように抱き寄せるもの、真っ青な顔をしているもの、ブツブツと独り言をつぶやいている者など……。

 

 彼等が辛うじて規律と正気を保つことができていたのは、桃色髪の痴女の指揮や鼓舞のおかげなのだろうと推測できた。

 

 確実に彼等も事態の把握を済ませているに違いない。

 

 

「ご報告申し上げます……」

 

 

 痴女は私を一瞥したあとで、エドウィン・ブラックへ小声で耳打ちをし始める。

 

 

「♪」

 

 

 もう内容を盗み聞こうとも思わない。

 

 空中で寝返りをうつように反転して、天を見上げながらソファーにでも寄りかかるような安楽な姿勢で報告が終わるのを待つ。

 

 こうしている間にも黒煙は着々と累積している。

 

 それを示すように指先をかき混ぜるように動かすと、あの私兵達が怯えて面白い。

 

 もっと怯えろ。お前たちは死ぬんだ。もう助からないゾ。

 

 ギヒヒヒヒッ!

 

 

「……おおよその事態は把握した。ご苦労だった」

 

「はっ。ありがたきお言葉」

 

「さて、ゼラトシーカー。貴様の話も聞かせてみせろ」

 

 

 さて。

 

 痴女の話を聞いた上でも彼は動じる様子は見せなかった。

 

 豪胆なのか、打開策があると(おご)っているのか。

 

 どちらにせよ。

 

 いつかは慌てふためく彼のご尊顔でも拝みたいものだ。

 

 

「要点だけ纏めるならば、私達は空間に隔離されていて。その空間から脱出が出来ない状態にある。先の爆発によって周辺が炎上。このまま事態を放置すれば隔離された全員一酸化炭素中毒で窒息死するのも時間の問題って感じですかね」

 

「………………」

 

「更に付け足すならば、私が空中浮遊時にそちらの私兵部隊からの攻撃が無かったこと。今、そちらの隊員の数が減っていることから推察するに——鎮火活動で私にちょっかいを掛けている場合でもない状態。でしょうか?」

 

「……ククククッ

 

 

 私の推測に彼は満足したようだ。

 

 彼が肩を揺らし、口を開き歯を噛みしめて笑う様子をまったりと眺める。

 

 次にどのような手に出るのか観察していると、またもや彼の闇が分離しはじめ魔族が大量に表れたポータルを形成し始めた。

 

 

「ああー。私は何処へ連れていかれるのでしょーねー?」

 

 

 まるでコルトコンベアに乗せられた機械部品のようにドナドナされていく。

 

 無論、行先はポータルの中だ。

 

 大量の魔族がなだれ込んできたことや、私がこれから潜らされることからこのポータルは一種の両双方からの移動が可能な転送装置(ファストトラベル)のようなものなのだろう。

 

 しかしこの事態なのだ。もう抵抗はしない。したところでどうにかなるほど甘くはないことは承知している。むしろそうやって着々と手の内を明かしてくれることはこちらにとって好都合だ。

 

 

「はいー。潜り抜けた先はー? デッテデー」

 

 

 某ネコ型ロボットが秘密道具を取り出した時のようなSEを口ずさみポータルを潜り抜けた先は——先ほどと変わらない同じ地点でしたとさ。知っていました。

 

 

 ええ、分かっていましたとも。

 

 

(まー、魔術的な移動手段は予め潰していますよね。せっかく魔法的なそれで閉じ込めたのに逃げられたら本末転倒ですもん)

 

「ほぅ」

 

 

 そのままコルトコンベアのような流れでUの字を描きながらエドウィン・ブラックの元まで連れ戻される。

 

 

その顔、まるで分っていたかのような反応だな」

 

「ええ。ブラックさん。過去にあなたがどのようなことをしてきたか私は知る由もないですが、相当な恨みを買っているようですね? 私があなたに一矢報いるつもりならば。まずは逃げ道から塞ぐのが最初の1手でしょうし」

 

「面白いことを言う。この空間が貴様やスネークレディを狙っているものだとは思わないのか?」

 

「ははっ。それこそ面白いご冗談ですね。確かに私も東京キングダムで恨みを買い漁った自覚はありますが、恨みを買う相手などあなたの見せてくれたポータルから現れた魔族ぐらいなものです」

 

「脅しで済ませるつもりだったのだがな。アレを跳ね返してくるとは……よもや笑えたな」

 

「ええ、本当に。……仮のお話で私や蛇子ちゃんに向けられた作戦であるとしても、生還できたあとの周囲への悪影響をもたらすやり口が巧妙すぎてですね。……1時間、2時間そこらの即席で練れられる計画ではなさそうですよ? 以上を考慮した場合、私達が標的ではないと至った次第ですね。蛇子ちゃんが標的だとしても人間風情に2回も泣かされちゃう系高位魔族ですし。もっと雑な計画だって殺せますよ」

 

 

 足元で蛇子ちゃんの殺意と瘴気と眼圧が増すが、肩をすくめて見下ろしながら『悪気はないが、事実でしょ』と表情で応じる。

 

 ブラックの方は私の回答に満足したらしい。右手で顎をこすりながら満悦した笑みを浮かべている。

 

 

「それで。高位魔族はどうかわかりかねますが、人間は一酸化炭素中毒で容易に死んでしまいます。そちらとしては私に死なれたら困るでしょうし……。空間から脱出するまでの間だけ、休戦にしませんか? ほら、利害一致もしますし……こうやってのんびり話している間にも酸素は消費されてますよ…………。チックタックチックタックチックタック……」

 

 

 魔法少女村の網走のような口調で〈言いくるめ〉展開する一方で、桃色髪の痴女が指示を仰ぎたさそうにエドウィン・ブラックを一瞥する。

 

 

 蛇子ちゃんは……——ヒェッ。

 

 

 こ、この女。休戦する気配が微塵にも感じられないだが???

 

 

 舌なめずりしながら両手をワキワキさせて……。

 

 

 むしろ休戦協定を結んで自由行動が可能になった瞬間に背中から刺してきそうなオーラを放ってるんだが???

 

 

 煽り過ぎたか?

 

 

 それとも虐め過ぎた?

 

 

 でも最初に私の友人を人質に取るって一線を越えてきたのはそっちだってこと忘れてない?????

 

 

 私は報復しただけなんだけど???

 

 

「ふむ。……残念だが、その申し出をこちらが飲むことは無い」

 

 

 これまでが上手く行き過ぎた反動か、それともこれまでに積み重ねてきた〈信用〉(ハッタリ)が音を立てて崩れ去ったためか。

 

 残念ながら思い通りに事は運ばないらしい。

 

 当たり前だ。エドウィン・ブラック側にとって、私を空中に固定し捕縛すること——すなわちほぼ王手まで詰められたのだ。わざわざ異常事態程度が発生したぐらいでちゃぶ台返しされるなどたまったものではないと考えているに違いない。

 

 諦観する私から視線を外し、彼はそのまま指示を待つ痴女とスネークレディ、駒水ちゃんに命令を下している。

 

 この距離だ。〈聞き耳〉を(そばだ)てずとも、痴女には壁の案内を指示し痴女の部下には鎮火活動の継続。

 

 スネークレディには彼と同行するように話しているのが分かる。

 

 駒水ちゃんには私の監視を指示している。

 

 

(……一度、そちら側の陣営を裏切った駒水ちゃんを監視に着けるとは何を考えている?)

 

 

 怪訝な顔をする私へ、彼はそのまま愉快な仲間を引き連れて障壁がある方角へと歩いて行ってしまう。

 

 私は宙に浮かべられたままだ。これには片目を瞑って後頭部を掻きながら地上から不思議な顔で私を見上げている駒水ちゃんと顔を見合わせるほかなかった。

 

 




~一方、その頃……①~

日ノ出 陽葵「ひまりちゃん!!!」ドンドンドンッ!!!!!!

?? アスカ「ちょっとあなた! 何してるの!? 闇の街で女の子1人で出歩くなんて正気!?」ガシッ!!!

日ノ出 陽葵「離して!日葵ちゃんが悪い人たちに捕まっちゃってるの!私が!わたしがたすけにいかなきゃ!日葵ちゃんが私をたすけてくれたように!私が!!日葵ちゃんを!助けなきゃ!!!」バタバタバタ!

?? アスカ「日葵ちゃん……? ……もしかして貴女、あの……女の子の知り合い……?」

日ノ出 陽葵「新妻だよ!!!」バタバタバタ

?? アスカ「に、にいづま……?」キョトン

日ノ出 陽葵「呑気に説明している場合じゃないの!日葵ちゃんが!日葵ちゃんが!!!」バタバタバタ!!!

?? アスカ「ああ、もう!ちょっと落ち着きなさいって!いいから今はまずいの!離れるわよ!」ガッチリ、ズルズルズルズル……

日ノ出 陽葵「ひまりちゃぁぁぁあああああん!!!!!!」

?? アスカ「うるさっ——!」


~あとがき~
 いつも本作を楽しんでいらっしゃられる皆様、作者です。
 お知らせがございます。
 本作品ですが、休載を検討しております。
 今年いっぱいは頑張りたかったのですが、どうしても私事で筆が乗らず……。

 楽しみにしている皆様方には申し訳ございませんが再開まで今しばらくお待ち頂きたいです。

 一応次回分は執筆できそうなのですが、来週の12/6 21:37投稿後は打ち止めになります。
 また変化があれば活動報告書の方で報告いたします。


Episode163 『人生とは思い通りいかないものだ』


 感想は休載に関する以外のことを書いて欲しいな!


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