対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「…………」
まったく。
高位魔族は揃いも揃って壁の破壊に成功していないらしい。
「……できた。うっぷ……」
めまいと頭痛によって吐き気を堪えながら、完成した式を見ながら必要物品をまとめる。
必要物品はC4程度の爆発物。
期待できる威力は12ゲージショットガンをダブルバレルで接射時の射撃時の約4倍、最大火力時には8倍もの威力が見込める。影響範囲もC4と同程度の威力ならば198ⅿ以降なら安全圏内、地下施設に避難できるならば133ⅿ以降の地点を安全地帯として拡張できる。
が、必要数……これが今後の大きな課題になる。
東京キングダムは商業施設が数多くある分、爆発物自体を60個揃える分には困らないであろう。
——しかし今回は逆に数が多すぎても困るのだ。
爆発物数が過剰な場合、誘爆しないよう可能な限り爆発物を地下1階以上の地点に移動、もしくは見落としも含めて爆発の威力を調節しなければならない。
「ぐぅ…………頭が……いたい……」
「駒ちゃん、なるべく壁に寄りかかって安楽な姿勢を取ってください。……私の散らばった荷物の中にハンカチとかあるので、それで口を抑えて」
「うぅぅ……青空ちゃん、ごめんなさい……私、青空ちゃんを裏切って、うぅぅ……ご主人様の命令通り気絶させて拉致しようと……わたし……ごめんなさい……」
「大丈夫です。大丈夫ですから、まずは落ち着いて」
死を悟ったかのように彼女はぐったりとしながらうわごとのように贖罪の言葉を並べる。
私に出来ることは陽葵ちゃんから貰ったジャケットを渡し、素肌を隠させながら励ますことぐらいだ。
現状では咳き込む彼女に近づくことはおろか、寄り添って背中を摩ることすらできない。
一難去ってつぎ災難、厄介ごとは連続していく。
視野を広げれば一定の感覚を保ったまま、魔族の集団が私達を取り囲んでもいる。
いずれも淀んだ目をしていて、むすっと不貞腐れた顔で何を考えているのか読めない。
動きが制限された危機的状況で、必要物品を揃えなければならないのに……。まさに泣きっ面に蜂と表現するならば現状を指し示すのかもしれない。
因果応報とは言うが恐らく私がこれまでに虐殺してきた魔族の敵討ち、弱っているところを狙ってエドウィン・ブラックに献上するための供物として出向いてきたか。
それとも高位魔族の代行と担うつもりか。
あるいは人間の小娘を人生最後の
後者ならば道理にかなっている。これまでの経験から言えば
駒ちゃんに至っては状態で抵抗などままならないほどに酸欠でグロッキーで『犯してくれ』と体現する様にこの街で全裸なのだ。
エドウィン・ブラックが駒水ちゃんを監視役として置いていったことも、裏切りの代償として強姦の輪姦が命令を下されたと考えれば妥当かもしれない。
ただ不可解なのは、取り囲んでいる魔族はいずれもこれまでに攻撃する機会があったにも関わらず手を出して来なかったことだけが気になる。
「………………」
ただ敵のマシンガンを目前した歩兵のように誰が一番最初に犠牲になるか決めあぐねていたのかもしれない。
あいにく〈改造した釘打ち機〉は壊れたままだ。結果〈跳躍〉の連続で入手した〈手斧〉を振りかぶる形で構える。
奴等も薄々感づいているだろうが、今の私は空を飛びまわることができるのだ。
人類最強として歌われた合田沙保里の風船割りの要領で頭をスイカ割りにしてやる。
「ま、待ってくれ!」
『時間も惜しい』と思いこちらから飛び掛かろうとした矢先に、スイカ割りを開幕するには手ごろなサイズの頭部をしたオークが両手を前に突き出して無抵抗を晒す。
どうせ演技だ。
油断させたところにブスリ。そうに決まってる。
だからオークは殺す。一番最初に。殺す。
「はっ、は、話だけでも聞いてくれ! アンタ! あの高位魔族と傭兵の集団相手に大立ち回りしたって噂の人間だろ!? オレたちはアンタと、そっちの半裸の女に危害を加えに来たんじゃない! オレ達は高位魔族に睨まれようが、魔族に取り囲まれようが平然としているアンタに! 圧倒的なアンタに従いに来たんだ!」
オークはそのまま両膝をつき、半分仰け反りながら私が神になったかのような祈るようにして指を組んで見せる。
「…………っ」
光景が重なる。
記憶がフラッシュバックされる。
ああ、やめろ。
やめてくれ。
私に対して祈るな。
嫌な記憶を蘇らさせるな。
先祖は神なんかじゃない。
ただの奇妙な人間だ。
私もちがう。
ただの人間。
やめろ。
祈るな。
やめろ。
申し出をしてきたオークに続くように私達を取り囲んでいた魔族も近づいてきては同じように膝を付き、
「……やめ…………っ。……どういう風の吹き回し?」
「信用できないかもしれないが、信用しなくたっていい!オレ達はアンタに従う!今はそれさえ分かってもらえれば!ゲッホゴホッ!こ、ここにいる連中はアンタに従いたくて集まった。さっきブラックとアンタが話している内容は盗み聞かさせてもらったッ!このままじゃ壁の中のオレ達全員死んじまうんだろ!?死ぬのは嫌だ!オレ達を指揮してくれ!ここにいるこいつら、全員そうだ。皆おなじだ。だから、こんなほぼ魔族しかいないような街で平然と
煙を吸い込んで噎せながらも必死に力説するオークを〈心理学〉で真の狙いを探る。
もしも性器の味見が目的ならば、背後で全裸の駒ちゃんに意識が向くはず。
「…………」
「なぁ。頼むよ。ここから出られるならなんだってする。オレ達はアンタの敵じゃないんだ。ただ生き残りたいだけなんだ。たのむ……」
されどオークはオークらしからぬ演説と縋りつくような一心不乱の願いを私へと突き付けて来た。
「…………」
その揺るぎない気迫と勇気を振り絞った気骨は気に入った。
いずれ殺すにしても、奴の言う通り今は猫の手も借りたい状況なのだ。いいだろう。オークとの仲良しごっこなどまっぴらごめんだが、現状は利用するだけ利用してやる。
私が満足に動けない以上、時間も足りなければ人手も足りない。とにかく争って言い合っている時間も惜しい。
使えるものは何でも使って打開する。
魔術だろうが、敵だろうが、家財だろうが、死体だろうが、怪物だろうが、自分の命だろうが。
そのやり方が探索者としての在り方でもある。
どうせ死ぬならあがきにあがいて、前のめりに倒れて死んでやれ。
——いいだろう。こちらの世界でも【奇妙な共闘】の開演だ。
~あとがき~
危うい日々もありましたが、なんとか24話の1時間ずらし投稿企画はうまく行きました。来週からまたもや20時37分投稿です。
来年度までは頑張りたいですね。
またもや(新)クトゥルフ神話TRPGに再熱してしまったのでしばらくは向こうで遊びたいなと考えております。よろしくお願いします。
また作者は慰安旅行へ出かけているのでEpisode insideはおやすみです。