対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode166 『老獪な策略』

 

「分かりました。いいでしょう」

 

 

 〈手斧〉を収め宙で安楽な姿勢を取る。

 

 

「本当か?!」

 

 

 オークも神からのおつげを得た信者のように、その気味の悪い顔を明るくさせていた。

 

 

「ええ。今は一刻を争います。早速ですが皆さんに頼みたいことは6つ。まずはあなた方は何ができるのか、わたしに教えてください。次に地図を提示しますので現在地について教えてください。さらに続いて飲食店や商業地区にあるブタンガスの徹底的な回収および指定する箇所への設置。それと、なんでもいいので実弾が装填された狙撃用のライフルを1挺回収。あと遠方からでいいのでエドウィン・ブラックとスネークレディ……それと桃色髪の痴女が何処で何をしているかの偵察。それとこれからリストアップする物品の収集を指定する時間内にお願いします。」

 

 

 ここにいる魔族は随分と覚悟がキマっているらしい。

 

 私から攻撃されることも厭わないように近づいてきては食い入るように説明を聞き始め、弱点をひけらかすように自身の特性についても話してくれる。

 

 私がなぜ東京キングダムの精密な地形が記された地図について余計な探りを入れてくることもなく——地元住民らしい追加情報を淡々と報告しては私はそれを書き記す。

 

 そのうち調達品を聞いた全体の7割が爆発物で爆発四散した肉塊ごとく散っていき、3割のうち1割がその場に残って私と駒ちゃんの護衛、2割が自由に動ける遊撃隊として滞在している。

 

 念のため、駒ちゃんを足元に寄せて防御の構えを取っているが、誰も危害を加えようとはしてこない。いずれも私の顔色を窺うばかりだ。

 

 

 それにしても……体長2ⅿはあるオークを見下ろす位置に居るとは実に悦に浸れるものだな。

 

 

 その気になれば、いつでもその頭を叩き割ることができる。

 

 

………

……

 

 

 ひとまず残った地元民の情報を収集したことで現在地の把握は済ませた。

 

 マダムから貰った地図に、先ほど上空で計測した壁の距離を書き込み、おおよその壁があるであろう円を描く。

 

 魔族で編成された遊撃隊を指揮し、詳細なブタンガスの配置箇所・集合地点を共有したところで、平行作業としてリストアップしていた物品の回収に向かわせる。

 

 第二収集部隊の面々には私兵部隊を葬った位置、および葬った亡骸が安置されているであろう場所も伝えたので狙撃用ライフルの1挺ぐらいはすぐに見つかるだろう。

 

 きっとあれだけ仲間想いのエドウィン・ブラックの私兵達のことだ。数人程度の墓守を配置し装備や遺体を冒涜しようとする私の一時的な配下共と交戦することになる。

 

 私という一筋の希望が現れたことで士気を高めて向かっていった魔族達も何割か死ぬに違いない。あわよくばお互いに潰し合って、重体のオークを持ち帰って来てくれたのならばなお良い。

 

 

「さぁ、急げ。急げ。死にたくなければ、急げ」

 

 

 文字通り高みの見物で、戦国時代の武将にでもなったかのように指先ひとつで魔族を指揮する。

 

 これまで他人を指示する立場になったことはなかったが、自分で調達できない以上彼等をとにかく指揮するしかない。

 

 

 

 

 今の自分の姿が先祖と重なる。

 

 

 

 

 そのたびに頭にノイズが走って、前世(かつて)の記憶が蘇る。

 

 

 

 

 忌々しい記憶。

 

 

 

 

 前世で私が家を飛び出すまでの記憶。

 

 

 

 

 先祖におべっかを使って取り入れられよう、お気に入りになろうという家族・親戚たち。

 

 

 

 

 家族たちの心理を全掌握している上で、反発する私を気にかけるアイツの卑しい顔。

 

 

 

 

 虫酸が走る。

 

 

 

 

 大丈夫だ。私は違う。

 

 

 

 

 わたしは大丈夫。

 

 

 

 

 

 私は先祖(アイツ)みたいにはならない。

 

 

 

 

 

「ほ、ほぅ、報告申し上げます!」

 

 

 

 怯えているかのような顔をして、足元で膝をつき震え声の魔族の声で正気に戻る。

 

 いけない。

 

 今は過去の記憶を走馬灯のように走らせている場合じゃない。

 

 

「……なんでしょうか?」

 

エ、エドウィン・ブラックとその側近、スネークレディ、両名はここから北西の壁側にて地元住民を相手に蹂躙を繰り広げています!」

 

 

 伝令の言葉に目を丸くしてギョッとする。

 

 2人そろって私の前から消えて、どこで何をしているかと思えば…………。

 

 

「はぁー……」

 

 

 

 大きな溜息を吐く私に、この報告気分を損ねたと感じ取ったのだろう。

 

 魔族がビクッと縦長に細く伸びる。

 

 

「あー、違います。違います。報告してくれたあなたに対する溜息ではないです。『高位魔族が2人も揃って何をしているのかなぁ』と思いまして」

 

「は、はぁ……?」

 

「だいたい予測はつきますけれども、2人が地元民を蹂躙している(くだん)は、今回の爆発事件の首謀者はエドウィンブラックの一派だと決めつけて襲い掛かった——けれども返り討ちに遭っている状況ですか?」

 

「は、はい。そ、そうだと思われます……たぶん?」

 

「ははっ、そりゃ大変だぁ。顔の割れている有名人は引く手あまたな人気者でうらやましいことで。ケッケッケッ」

 

 

 高位魔族を煽るようにケラケラと嗤って変に強張っている魔族の緊張をほどこうとする。

 

 私の皮肉たっぷりの発言で——

 

 

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 ダメだこりゃ。

 

 魔族も笑ってくれているけど、緊張がほどけた笑いじゃなくて上司に愛想笑いを浮かべた部下みたいな顔になっている。しかも表情筋が硬く苦笑いみたいになっている。

 

 

「また彼が率いている壁外の部隊についてなのですが…………」

 

 

 苦笑いの愛想笑いを浮かべる魔族は続けて、ブラックの伏兵について言及をし始める。

 

 そういえば桃色髪の痴女あたりが、(おぼろ)とかアレクトラとかリーという固定名詞を耳打ちをしていたのを思い出した。

 

 

「続けてください」

 

「はっ! 朧率いる朧忍軍(おぼろしのびぐん)は壁外の周囲へ広く展開し、ブラックではなく貴女を探している様子です。またアレクトラ部隊は強行突破しようと壁に攻撃を続けていますが破壊には至っていないようでした! 他の部隊についてはこちらからも確認できておりません!」

 

 

 伝令係の魔族の言葉に視線を左下に向けて、左手を口元に当て、右手を左肘に添える。

 

 一酸化炭素中毒になる現状を除けば今は壁があるがゆえに、ブラックの残りの兵隊からの強襲による危機から逃れられているのだろう。

 

 前述を踏まえれば壁が無くなった途端にその朧忍団なるものやアレクトラの部隊がエドウィン・ブラック+蛇子ちゃんと共に私の捕縛に向かってくるに違いない。

 

 まさに鬼に金棒。空中浮遊している状態では満足に行動できない上に、自由の効かない状態でなだれ込まれたら一貫の終わりだ。

 

 今こそ味方として動いている地元民で構成された魔族達もパワーバランスが崩壊すれば向こう側につくに違いない。

 

 では私がこの場から駒ちゃんを引き連れて最善を選びながら逃げ切るならばどのようにすればいいか……。

 

 

「…………。承知しました。ひとまずは彼等の乱闘騒ぎに巻き込まれないように爆発物回収組には設置数だけ把握しつつ動いて貰ってください。また朧忍軍とアレクトラなる集団の配置を教えて頂けますか?」

 

「はっ!」

 

 

 伝令の魔族に地図を渡し壁外の各部隊について記述させる。

 

 記述したものを確認して、あえてアレクトラ部隊の目前に〇をつける。

 

 

「なるほど、ならば……こちらの集合地点と物資の配置箇所を微調整します」

 

 

 伝令の魔族に地図を見せて、合流ポイントを指定する。

 

 

「え、で、ですが…………そちらには……?」

 

 

 当然の反応。

 

 

「構いません」

 

 

 されどそれでいいのだ。

 

 私達はアレクトラなるものの集団の前で作戦を展開する。

 

 伝令の魔族は目を白黒させて納得していない、私の状態から伝令の魔族も追われている身であることは承知であろう。にも関わらず、敵前に出ようとするなど正気ではなさそうな顔をしている。

 

 

「は、はい……では……?」

 

「……ああ、ええと。あとは物資回収の際に蛇子ちゃん——嗚呼、スネークレディに関してはサディスティックで無差別テロな一面があって周囲へ毒をまき散らすので、極力、彼女の視界に入らないように」

 

「は、はっ!了解いたしました!」

 

 

 私の一言でそそくさと魔族は去っていく。

 

 場の空気を和ませるには至らなかったが、今の情報はありがたい。

 

 私に従う魔族達は忠実でいい奴等だが、またもや指示によって何割かは死ぬことになるだろう。

 

 お互いに利用し合っているのだ。利害関係が崩壊した時、また敵に戻り相手との対峙。きっと彼等も理解している。

 

 ならばどのように立ち回れば良いかわかるだろう。

 

 それにしても……高位魔族共にとっては湧いてくる虫けらを片っ端から叩き潰すような作業のおかげで、私へ差し向ける脅威は着実に減らしていること。

 

 死体が増えることで酸素の消費量が減っているのも本当にありがたい。

 

 




~一方、その頃……①~
~クラブ・ペルソナ内~

?? アスカ「ええっ!? 貴女、対魔忍なの!?」

日ノ出 陽葵「うん」

マダム「…………。その下着として着用している戦闘用スーツは間違いなく対魔忍ね」

?? アスカ「ってことは、あの子も対魔忍!?」

日ノ出 陽葵「そうだよ。日葵ちゃんの対魔忍スーツは見たことないけど……。今回も一人じゃ危ないから私も一緒に同行しようとしたんだけど、私を心配してくれたのか何も言わずに1人で東京キングダムに来ちゃって……」

?? アスカ「対魔忍のあなたがそういうならそうなのでしょうけど……。あの子が対魔忍……? (あの行動から対魔忍だとは)にわかには信じられないわね」

マダム「……変ね。対魔忍はここ最近の魔族の動きが活発化してから作戦行動は控えている筈だけれども?」

日ノ出 陽葵「日葵ちゃん、夏休み前に観光に行くって言っていたのでもしかすると任務とは別なのかも……? 個人的な調査がしたいって言っていたので……」

マダム「なるほど、ね」


~あとがき~
 陽葵ちゃんペルソナ内に無事保護。
 懐柔コースからの情報源として扱われています。

 対魔忍RPGの新鹿之助くんはまだ出てこないですかね?
 そろそろ供給がほしいぞい。

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