対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode171 『確固たる自信に満ちた〈変装〉』

 

 なるほど。

 どうやらこのボロアパートはカモフラージュの一種で、本命としては様々な違法薬物を製造する施設だったようだ。

 “いかにも”な跳ね上げ式地下扉があるものだから、いつもの探索心がくすぐられたことで、好奇心のままに調査をしてみたら…………出てくるわ出てくるわ対魔忍世界らしいをした薬物の数々。

 ただし、あくまでも製造のみがこの拠点の役割だったようで、ここに置かれている薬物がどんな効力を持つのかという資料は見つからなかった。私の〈薬学〉的な知識を持ってして〈鑑定〉してもわからなかった。まぁどうせエッチ(ヤク)だろう。

 

 そんな薬物の製造工場でも、地下の調査は満足のいく収穫が得られた。

 まず地下製造室に居た怪しい奴等は全員ライフル銃で射殺か撲殺することができたし、こんなボロアパートには似つかわしくない高価なガスマスクも手に入れることができた。私の知る製品より数世代未来のシロモノではあったものの、〈科学(工学)〉の観点からみれば、このガスマスクはスキューバ〈ダイビング〉の際に用いるボンベとゴーグルをガスマスクに一体化させ、小型化とデザイン性を特化させた商品のようだ。

 製造過程で事故が起きた場合。従来型のガスマスクでは気化した液体を防ぐことのできない状況でも、この高品質な近未来のガスマスクがあれば薬品を鼻孔や肺に取り込まなくて済む構造になっている。

 素晴らしい。実に素晴らしい。

 もし仮に今後、人間相手に敗北したみじめな蛇子ちゃんのような、目視不可能な毒霧を撒き散らす魔族が現れた時にこのガスマスクは非常に有効な対策になる。

 それに私用(わたしよう)の〈変装〉を完成させたときに、〈変装〉の悪臭で嘔吐してしまうことも防ぐことにも使えそうだ。

 

 使えそうなものを接収調達してから、この施設での私の窃盗が発覚しないように〈電気修理〉で地下施設の電気を灯した途端に電気系統がショートを引き起こし、施設が燃えるよう細工する。

 素晴らしいガスマスクを譲ってくれたお礼。私からの粋な計らいだ。炎上原因は私自らが行うではなく、施設を稼働させている魔族の手——もしくは私達を追いかける追跡者の手によって放火させる。ギヒヒヒヒッ!

 

 探索欲も満たしたところで、駒水ちゃんの元へと戻る。

 

「ただいま戻りました。早速ですが、これに着替えてください」

 

 早速、アパート内や地下施設で調達してきた衣服を休憩室で待機している彼女に手渡す。

 

「えっと……これは……?」

「ここのアパートの住民から譲ってもらったものです。この姿に扮してこの場から逃げ出します」

 

 彼女は私の指示に従ってイソイソと着替え始める。

 この衣服は何分装飾品が多い。ざっと目につくものでも色あせたボロボロの鳶職人の服に加えて水筒や首の周りには数珠のようなもの、顔にはガスマスク、頭にはヘルメット、ヘルメットにも装飾品、側頭部には農家が付けていそうなタオル掛け、手足首にはバンテージなどなどがあるのだ。

 

「うっ……くさい……」

「洗ってなさそうですもんねぇ……でも我慢してください。東京キングダムを脱出するまでの辛抱ですよ。脱出できたら適当なホテルでパァーッと温泉にでも入りに行きましょう」

 

 彼女が着替えている間に、自分の〈変装〉の一式と、残されている荷物の確認を行う。

 一時的に配下となった魔族達に集めてもらいはしたものの、これまでの過程でいくつか紛失したものもあれば、新しく入手したもの、〈変装〉する上で断捨離しなければならない装備があるのだ。

 

「それと恐縮なのですが、このジャケットと革手袋は駒水ちゃんが着けてもらってもよろしいでしょうか?」

「え? あれ? でも、それは……?」

 

 陽葵ちゃんの橙ジャケットと革手袋は、私にとてもとっても大切なものなので全身を衣服で覆い隠す〈変装〉となる駒水ちゃんに託す。

 私には親友から貰った宝物を置いていくなどできなかった。本当に甘ちゃんだ。

 それにこれ以上、びたびたと血で浸して使い物にならなくしてしまうことは避けたい意図もあった。

 もちろん、駒水ちゃんの反応は正当だ。『このとても暑い夏のシーズンに革製のようなジャケットと革手袋をつけるなんて正気じゃない』とでも言いたいのだろう。わかる。逆の立場なら同じ反応を返していたに違いない。だがこのジャケットと革手袋は特別製だし、どうせ纏う服で隠れる。

 彼女が考えているであろう問題など屁でもない。

 

「これ…………」

「……言いたいことはわかります。でもこのジャケットは特別製ですごいんですよ! 羽みたいに軽いですし、衣服の摩擦感は感じられないですし、防刃製もあるんです! おまけにどういう構造原理なのか調査中ではありますけど、この衣服を着ていると涼しくて快適なんですよね!」

「は、はぁ?」

 

 駒水ちゃんは困惑しているが無理もない。

 営業のセールストークのように早口で不思議な橙ジャケットの性能をまくし立てて解説し、無理強いにも近い勢いで彼女に陽葵ちゃんからのプレゼント一式を着用させる。

 

「…………」

 

 しかし私の解説に彼女は驚愕するわけでもなく、思っていたよりも素直に陽葵ちゃんのジャケットを着てくれる。どこか困惑の表情と不思議そうな表情を浮かべながら。

 さて陽葵ちゃんのジャケットを託したおかげで、私も私で荷物整理に専念できる。

 ひとまず〈改造した釘打ち機〉と手斧は装備できる。

 五車町に戻って解析が必要な盗撮用メガネと、絶対に怒る陽葵ちゃんを制御するためのフィルムカメラは必要。私用の〈変装〉装備の一環としてオークからブン盗った2連式ショットガンも生存率向上のために持っていく。

 金品装飾品は駒水ちゃんの装飾品に紛れ込ませるとするとして、分断されてしまった時用に財布の1万円札をショーツ内側へ〈隠す〉。この防水の風呂敷も彼女に持ってもらおう。工具に関しては買い直せばいいがあって困るものではない。これはバラして持たせる。

 その他の荷物は破棄だ。私がここまで持ってきたリュックサックも、私の衣服も、弾倉が空になったライフルも、〈変装〉加工に使ったファイティング・ナイフも、だ。

 

「着替えが終わったら、こちらのショルダーバッグをお願いします。あと重めですが、その服装の格好としてこの銃も手にしておいてください。こちらがこの服装を譲って下さった方の身分証明書です。ここを出終わる前に概要を頭に叩き込んでおいてくださいね」

 

 AK系統のアサルトライフルを渡し、持ち主の身分証明書の頁を開いて見せる。

 駒水ちゃんは五車学園で私より優秀な学生なのだ。これを暗記することなど容易だろう。

 私も地下で手に入れたガスマスクを被り、自分の〈変装〉の準備を整える。

 

「うん。……それで青空ちゃんはどんな格好をするの?」

「私? わたしはですね…………これを着ます」

「…………ヒッ!

 

 悲鳴が部屋に小さく響く。

 

——彼女は手渡した身分証明書を落としてしまう。

 

 即座に拾い上げるが、彼女の身分証に私の衣装からしたたる血が付着してしまった。

 追跡者を地下製造工場へと導くための小細工である私の服で血をぬぐって、彼女の震える手へ今度は落とさないようにしっかりと手渡す。

 

——ま、無理もない。

 

 だがこの手法ならば敵の盲点を突けることには間違いない。

 怯える駒水ちゃんをなだめつつも、内心では追跡者共が大混乱する図を連想してほくそ笑む。

 

 




~あとがき~
 次回は来週の20:37です。

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