対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode172 『死なずの高位魔族』

 

 〈変装〉を整えたのちに敵対派閥に壊滅させられたボロアパートの入り口から、悲鳴をあげ逃げ惑うよう犠牲者のように堂々と退出して裏口から出てくる。

 私の衣装から、ポタポタと滲み出ている血液が演出として異彩を放つ。

 

 一方で表通りでは仲良さげに肩組をしながら堂々と2人で東京キングダムを練り歩く。

 しばらくして背後からの閃光に、自然を装って振り返ればボロアパートの方から火の手が上がる。

 放火っていうのは、こうやってやるのですよ。対魔忍。ギヒヒヒヒッ!

 

 大通りの方面では何十人かの新たに雇われた傭兵達は私達の話をし、賞金首を求めて通路を右往左往している。

 人間のみの2人組構成観光客は1人残らず身分提示が求められていた。

 どんな状況であれ流石は治安劣悪な東京キングダム。一部では観光客も適当な理由のこじつけで裏路地へ引きずり込まれ路上強盗の餌食になっていた。

 

 エドウィン・ブラックの私兵の姿はちらほらと点在しているが、完璧な〈変装〉を施した私達には気付く様子もない。

 似たような背丈の()()だったのならば、疑いもかかるだろうけどねぇ……。

 私達を見失った内通者は消えたターゲットを必死に探す焦燥の声をあげていた。

 建物の屋上には忍び装束の者どもを稀に確認できるが、あれが朧忍軍と呼ばれる組織の斥候なのだろう。コロ先輩との関係で学びの機会を得た〈読唇術〉技能で状況を把握するが発見に至っていない様子が見られる。

 

「…………」

「怯えないで。震えが隠せないなら、嫌だろうけど私に酔いしれているように私にしがみついて」

 

 小声で彼女の耳元でささやきながら、彼女の身体を引き寄せて抱きしめさせる。

 しかし私に抱き着くのが嫌なのか押しのけようとする。だがそれも私の計算仕込みでもある。自然なその仕草が厳戒態勢の東京キングダムで偽装された私達の関係性をリアリティに引き立てる。

 

「ギャハハハハッ! チビすけ!おめえ、チビのクセにやるじゃねえか!これから武装難民のメス犬とズッコンバッコンってやつかぁ!?」

 

 そんな様子を見て、風俗前の用心棒オークが私に声を掛けてくる。品性など、微塵にも感じられない虫酸の走る下品な笑い声で。

 ああ〈変装〉中でなければ、路地に引き込んで藁人形にしてやるのに。

 だがここでの無視はよろしくない。同調せねば怪しまれるだろう。

 

「ギェヒャッヒャッヒャッヒャッ! あたぼうよ! これからホテルでバコバコ、ケツが俺の掌の痕が刻まれるまで揉みしだいて!明日の昼まで足腰壊れた俺様の肉便器にしてやんのよォ!裏路地のタダオナホだぜェ!」

 

 下手に無視してウザ絡みに発展するのは避けたいこともあった。

 挨拶がてら、こちらも品と声のトーンを引き落として対応する。ヌコヌコと卑猥なハンドサインのおまけつきだ。

 武装難民とやらの姿の駒水ちゃんの胸を鷲掴みにしてから指先で乳首を愛撫。自身の股間にショットガンを上方向にあてがって、私の存在しない陰茎を表現する。

 

「ギャハハハハッ!!」

「ギェヒャッヒャッヒャッ!!!」

 

 笑い声が交差する形でその場は切り抜けられた。

 ガスマスク越しに駒水ちゃんがこちらをガン見してくるが、あれはあの場を切り抜けるための演技・言い訳だと理解してほしいところである。

 きっとあの声をかけてきたオークには、私が()()に見えたのだろう。ボロキレのローブが顔を半分隠してあることも相まって確かにこの気色の悪い緑色の肌、不摂生な肥満型の巨躯、神経を逆なでする不釣り合いなイボは、オークであると誤認させるには十分な判断材料に違いない。

 

「」

「…………演技ですよ。本気にしないでください」

「」

 

 適当なタイミングで肩をすくめて本心ではないことを伝えるも、彼女の無言の訴えが芝居への更なる現実味を帯びさせている。

 これにはオークの瞼裏の瞼を閉じた片目を瞑って後頭部を搔く。

 

 それにしても、血の匂いが抑えられている反面で肌がかゆい。

 時間がなかったため仕方ないが、皮から肉片や脂を削ぎ落す工程を省いたせいで皮膚と面している部分が蒸れと異物でかゆくてしょうがない。不潔の塊である血液は水ですすいだがそれでもかゆい。皮膚を掻きたいが……かといって、被っている皮膚が裂けたらそれこそ最悪の事態だ。

 本当にこれは最悪だ。東京キングダムから脱出したら、絶対にお風呂に入ろう。かゆい部分が、むず痒さに加えて火照っているようなそんな気もする。

 

………

……

 

 いやはや。

 追手は “人間の小娘2人の逃亡者” という先入観に囚われていることだろう。

 その誤認識を与えた状態での、小柄なチビデブオークの姿*1武装難民の姿*2は大変便利なものだ。

 人混みと魔族混みに紛れ込んでの前進は、実に有効であった。裏路地や屋内を迷走していた頃と比較すれば、短時間で東京キングダム大橋に接近できた。このように脱出までの道のりがトントン拍子で進んでくれるのならラクであることに越したことはないのだが。

 

「もう少しですね。あとはあの微かに見える検問所を突破できればいいのですが……」

「……ッ」

 

 先を急ぐ私に駒水ちゃんが歩みを止める形で制止する。

 

「いる……」

「!」

 

 彼女の言葉に直ちに群衆の中へ〈目星〉をつけ、見落としたヤツを捜索する。

 アレはワープゲートを作り出すことのできる高位魔族だし、あの大爆発で魔封じ呪文が破壊されたことから『僅かな瞬間で自分と側近だけなら逃がす程度は可能なのではないか?』と考慮はしていたが……まさかその通りだとは。

 

 こちらが脱出準備を整えた僅かな間に、あちら側も態勢を立て直すことができたらしい。あの軍隊のような人員を指揮していた桃色髪の痴女が進行ルート上にいる。

 姿は見えないが、彼女がいるということは当然ブラックも何処かにいるのだろう。痴女風情が生き残っているのに、彼だけが死んだとは到底考えられない。

 

 だがまだ向こうはこちら側に気づいていないらしい。

 東京キングダム大橋を一部を制圧する行為は東京キングダムの他の派閥組織を不要に刺激したようで、パリでの暴徒と治安維持隊の対立のような睨み合いにリソースを割いている。

 

 大橋の目前にはアレクトラとかいう部隊長の魔族の女の姿もある。

 身の丈以上の大鎌を軽々と振り回して抗議の声を上げる雑兵の牽制中のようだ。

 部隊が壊滅して味方とちゃんと合流しているようだし、ちゃんと手紙を託してくれていると助かるのだが……。

 

 また大橋を渡ろうとする観光客や人物を丁寧に調べ上げている様子もみえる。

 私はともかくとして、駒ちゃんはガスマスクを脱がされてしまったら1発でアウトだ。

 これは仮に検問所を突破できたとしても、その先で捕まる可能性のほうがよっぽど高いだろう。10㎞ぐらいの追走撃(チェイス)など、どうとでもなりそうなものだが今回は私1人ではないことを忘れてはならない。友人を1人連れたままで包囲戦を突破できるプランが何も思いつかない。

 かくなる上は……——

 

「作戦は失敗ですね。……現状万策が尽きました。このまま“マダム”の元へと向かいます。情報屋から脱出経路を教えてもらうなり、逃がし屋を教えてもらうなりして包囲網を突破します」

 

 地図を開き180度、踵を返す。

 

「ウフフッ♪みーつけた♪ 今度は一体全体、どこに行こうというのかしら♪」

「ッ?!」

 

 踵を返した途端、顔を覆いたくなるような声が前方50ⅿ先から聞こえてくる。

 

 勘弁してほしい。

 お前もか。お前も生き残ったのか。爆発に巻き込まれたのだから死んでほしい。火葬まで念入りにしてやったのに。神話生物みたいに退散されてほしい。あと断念という熟語も覚えて欲しい。

 

——結局。

 

 高位魔族は誰一人葬れなかったことに対して絶望が広がる。

 第一、その状態からお前はエドウィン・ブラックから守ってもらえなかったんじゃなかったのか? なら、どうしてギャグ漫画の主人公みたいに全身を真っ黒にした状態で生きている?

 バカみたいに、しぶとい高耐久の高位魔族が嫌いになりそうだ。

 

「無理だな」

「……」

 

 思考と連動してボソリと言葉が漏れる。

 言葉足らずの単語に傍の駒ちゃんが、オークに成りすましていた時とは異なる怯えを見せ始めてしまう。

 

「違いますよ!?アイツの執念深さが嫌いって意味ですよ?!」

「……」

「もう諦めたらぁ?」

「ああもう!作戦(プラン)変更です!逃げますよ!」

 

 武装難民姿の駒水ちゃんの手を引いて更に90度、方向転換して路地側へと逃げる。

 彼女の足がすくんでいるのか、走り出しにもつれるが脇を抱えて走る。

 

——いいか? これはチャンスだ。

 

 ピンチな今こそが、本当のチャンス。

 

 ひと気のない場所で殺せ。

 

 高位魔族が分散している、今だ。

 

——今度こそ仕留める。

 

………

……

 

*1
(in 釘貫 神葬(青空 日葵))

*2
(in 駒水 幸子)




~あとがき~
 10月10日イベント……HRセノカさんの回想良かったです……。
 こういうのが欲しかったんです……。
 次は鹿之助くんを孕ませてくれるか、堕胎パンチ回想を待ってますね。
 ありがとう、対魔忍RPG……。

 ありがとう、新レイドイベント。
 適当に切り上げて、ゆったりと原作メインシナリオの巡回にでかけてきます。

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