対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode173 『ナーガ vs 探索者 (3)』

 

 逃走判断は正解か。

 

 一寸の狂いもなく、笑みを顔面に張り付けて蛇子ちゃんは私に狙いを定めている。

 初遭遇時、鹿之助くんが蛇子ちゃんのことをナーガ種だと話してくれたことは今でも覚えている。その点を踏まえ推測になるが、ヘビには目が良くない代わりにピット器官という第三の目(熱で対象を捉える器官)があるらしい。もしかするとそれで私辺りを見抜いたのだろうか?

 実際にオークの皮の下は、太って見せるために空調服で脂肪を誤魔化していた。空気でスカスカな分、他のオークに比べて腹囲の体温が異なることが判明したとか、か?

 

 本当にナーガ族の名に恥じない執念深いヤツだ。

 

 東京キングダムで “2回も” 無惨な負け恥を晒したのだから、これ以上の生き恥を増やさないように慎ましく生きてくれればいいのに。

 物理的に燃えて、リベンジマッチに燃え上がるとか厄介すぎて笑えない。

 

 駒水ちゃんを先行させる形で金属製のゴミ箱の中に隠れさせる。ここならば毒液が周囲にふりまかれても、彼女にまで被害が及ぶことは限りなく無い。

 仮定が正しければ体温や湿気でゴミ箱が温められ、彼女の居場所が割れてしまう危険性もあるが……蛇子ちゃんの目的は、駒ちゃんというよりも私だ。駒ちゃんが妨害でもしてこない限り、彼女は目もくれないだろう。再び二番煎じの人質作戦を展開したらどうなるか、1回目の東京キングダム戦で彼女は誰よりもそのことを知っているはず。

 それにゴミ箱内の駒ちゃんに気が付けるならば、立てた推測の裏付け証拠となり蛇子ちゃんの情報をまた1つ確定させることができる。

 

 戦闘に備えて、被っていたオークの皮と空調服を脱ぎ捨てる。ガスマスクがちゃんと密封されていることを確認する。夏の生ぬるい風が汗と肉片に血濡れた指先をこそばゆく撫でられる。

 

 〈ショットガン〉と〈改造した釘打ち機〉を地面と水平に向ける。

 悪霊を退散させるつもりで十字架を形成。HELLSING持ちにして、宿敵が現れるのを待つ。

 

「あは☆ なぁに、そのポーズ? もう逃げるの止めちゃったの?」

「ええ。どこまでも追ってくるつもりなら迎撃した方が早いでしょう」

 

 状況的に突然の遭遇戦は、3カ月前のまえさき市のフードコートでの接敵の光景を彷彿させる。

 あの頃は、未知の相手に逃げ腰だったが今回は違う。こちらにだって迎撃の覚悟や準備が十分に整っている。

 

 ペタペタペタ、と素足で合板を歩く音が聞こえ、蛇子ちゃんが姿を現す。

 

 改めて観察して導きだされた情報から、例に漏れず彼女は爆発に加え炎にも焼かれたのだろう。彼女が纏っていたキャバ嬢のような衣服はひと欠片も残っていないし、見間違いなく全身煤まみれで、ブラックの側近の痴女のような身綺麗さが一片にも残されていない。されど火傷のような傷は一切見られず、あの薄黄緑色の髪もそのままだ。

 このことから蛇子ちゃんが高位魔族としての能力について導き出される答えは、超回復持ちか超再生特性があるのか……?

 いずれにせよ私との相性は最悪のようだ。

 

「ところで蛇子ちゃん、“また”ブラックさんとの連携が執れてないようですが……。既に3回も負け恥を晒しているくせに、ブラックさん無しの貴女如きが私を止められるとでも?」

 

 辺りは月明り程度の工事現場であり、少し俯いた程度で彼女の表情が闇にのまれ見えなくなる。

 だが最後に確認できた笑顔は狂気と言っても差し支えないほど不気味に歪んでいた。口が三日月のような口角になっている。

 こちらも相手の出方を伺いつつ、遠距離戦用の〈ショットガン〉、近接戦闘用の〈改造した釘打ち機〉をゆっくりと手に馴染ませる。

 

「安い挑発して初手攻撃を誘おうったって、二度とその手には乗らないわ♪」

「それは残念です。ではさっさとかかってきてください。今日も暇じゃないんですよ」

 

 煽り倒す姿勢は変えずに、首だけを後方に動かして手招きの替わりの仕草を送る。

 

「いやよ。せっかくこうして水いらずの2人きりの時間が作れたのだもの♪」

「あ?」

「宵の時間は長いのだから、じっくり、たっぷり、のんびり♪ おしゃべりを楽しませて♪」

「……。今回の追走劇(チェイス)の終着地点は交戦ではなく、別の目的だとでも?」

「ええ♪その通り♪ それなのにゼラトちゃんったら私の顔を見るなり逃げ出しちゃうし、臨戦態勢を取ってくるし本当に失礼で酷い人間よねぇ……? そもそも人間なのかしら?」

「私はれっきとした人間です。それに失礼で酷いのはお互い様ですよ。そちらだって今回は蛇子ちゃんのお友達との本の言語解析の約束だったのに、人質で脅したあげく殴ってきたのはどこの礼儀知らずな高位魔族でしょう?」

 

 ケタケタと愉快そうに蛇子ちゃんが嗤う。

 だが思い出せ。私がブラックに宙づりにされた出来事を。

 眼前の高位魔族は、青筋を立てて『指を引きちぎって泣かす』と意気込んでいたヤツだぞ? そんなヤツが交戦以外の目的で私に接触? 絶対にありえない話だ。

 警戒を解くはずがない。武器は構えたままの状態を維持する。

 

「仕方ないじゃない♪ あれはエドウィンが計画したのよ。私は便乗させられただけ♪ ゼラトちゃんもそのぐらいは察しているでしょう?」

「確かに。道中で癇癪をおこした蛇子ちゃんをガン無視して、駒ちゃんに何か話してましたもんね」

 

 これまでの出来事から蛇子ちゃんとブラックの交友関係も対等ではないことは察することができる。私の攻撃を無効化できなかった観点を踏まえて、力量的な話ではブラックの方が上なのだろう。

 

「でも人が築き上げた魔族要塞を崩壊させて、首絞めてきたのは『蛇子ちゃんの意思だった』ことは忘れてませんからね?」

「ウフフ♪ ちゃんと覚えているようで光栄だわぁ……♪ そこまで覚えていられるのなら、おしゃべりの行きつく果てにある最終的な目的も分かるわよね?」

 

 彼女が右手を胸元まで持ち上げる影が見える。

 

「……」

 

 ピリリッと空気が今まで以上にひりつき始める。

 当然ながら蛇子ちゃんの目的に応じるつもりはない。

 

「無論」

 

 ガチッ……!

 パッパァンッ!!!!

 

 当たるとは思っていないが、返答するとともにダブルバレル〈ショットガン〉の引き金を一度に引き切って全散弾を浴びせる。

 と言っても実際に当てたところで効力など無いに等しいだろう。これまでの情報を精査すれば、爆発物やバックブラストを耐え凌ぐグレート・オールド・ワン級以上の生命体が銃弾程度で何とかなるわけがないのだ。

 そもそも狙ったところで蛇子ちゃん程の高速移動持ちが銃弾を2発ぐらい〈回避〉することなど造作もないだろう。

 結果的に目くらまし程度のいつものブラフ行動に収まる。

 

「フフッ♪」

 

 目前の彼女がテレポートのように忽然と消えてまた目前に現れる。

 だが本当に消えているわけではない。消えたように見えるほどの速度で瞬間移動しているだけだ。超高速反復横跳び。

 探索者は銃弾を1発しか〈回避〉できないが、高位魔族となれば銃弾を複数発〈回避〉することなど呼吸する程度の行為なのだろう。

 

「ふぅっ♪」

 

 おまけに平成初期のドラマでよく見たタバコの煙を空中に吹きかけるかのように白い霧を周囲へ展開させ、悠々自適に接近してくる。

 あれは肉壁魔族要塞を崩壊させた溶解液だ。しかし直撃させることなく私の退路を阻むように囲う形で展開させている。

 視界一杯が毒霧で覆われるが、ヤツは自身の霧に蝕まれることも厭わずに中央突破してくる。

 あたりに肉が解けるような、急激に腐るような嫌な臭いが立ち込めてくるが、ヤツのその表情はものともしていない。それどころか黒煤が表皮の皮膚ごと剥がれ落ちて、真皮から元の綺麗な素肌が現れる。色白で妖艶なプロポーションを見せつけ〈誘惑〉するように、豊満なバストと尻を娼婦のように振りながら一直線に向かってくる。

 

「いいわよ~♪ ゼラトちゃんが望むのなら、つきあってあげる♪」

「上等」

 

 カチッ、シャコッ……

 カランコロン……

 

 残された退路である後方に下がりつつ、次弾を装填(リロード)しては〈射撃〉を繰り返す。

 こちらを誘導している毒霧が何発撃てるのか私の知りえない情報だが、放ち続けていればいずれ毒腺も枯渇するはず。誘導に応じながらも確実に彼女を仕留められる場所まで連れて行く。

 

 さて彼女の最終目標・目前について整理しておこう。

 言葉通りで記憶通りならば、“飼う”と言っていたことや『カオス・アリーナで地獄をみせる』と豪語していたことから私を拉致して籠絡するものだと思われる。

 レズレイプして来ようとしてくる枠組みは陽葵ちゃんだけでお腹いっぱいなのに、これ以上増えるのは御免被る。

 繰り返すがNormal Loveなのだ。通常の性癖。同性を抱く趣味はない。

 

「ンフフ♪ そっちは行き止まりだけど♪」

 

 彼女の言葉と同時に、背中が建設途中の工事現場にある囲いの鉄板にぶつかった衝撃が伝わる。

 しかし表情は変えずに淡々と近づいてくる高位魔族(モンスター)に〈射撃(R/SG)〉を続ける。

 1ラウンド内の射撃回数(ROF)を増やすために、1発装填からの即射撃への戦術の切り替えも行う。

 このタイミングでの慌てふためく白々しい態度は、蛇子ちゃんには通じないどころか、悦ばせるだけだ。初戦なら通じる不意打ちも彼女に効果があるとも思えない。あくまでも自然に〈ショットガン〉の反動を背面の壁に固定をして射撃の安定性を増すことを目的として振る舞う。

 

「つかまえた♪」

 

 背後を壁にし、遠近両用高火力スラッグ弾を1発装填(リロード)した隙を狙って、淫猥な表情を浮かべヤツは瞬間移動で距離を詰め寄って来る。突きつけられた〈ショットガン〉の銃口も何も恐れていないかのように指先一つで逸らして、身体を接近させて懐——もとい私の世界での用語ではゼロ距離射程内に入る。

 受け流された時点で〈ショットガン〉は逸らされた先にある壁へ狙いを定める。

 近距離戦闘カスタム最終兵器である〈改造した釘打ち機〉を彼女の喉元へ上向きに密着させて押し返す。

 

「それはどうでしょう?」

 

 ガスマスクの裏側から彼女を力強く睨み付ける。

 されど彼女の目はヘラヘラとして〈改造した釘打ち機〉を脅威とも思っていないらしい。

 竹刀の一件を踏まえれば警戒こそはしているだろうが、彼女ではこの一族伝来の伝統武器の真価は見いだせるとは思えない。現にブラックと共に持ち去った時、没収するわけでもなく返却してきたのが軽視の現れだ。これがどんな結果をもたらすのかまでは把握できてはいまい。

 ヤツに触れられると身体がおかしなことになるのは承知だが、ここは敢えて触らせる機会を与えることで私も必中の条件を作り出す。捨て身技だ。

 

「……ねーえ?ゼラトちゃん♪ ゼラトちゃんは押したところ全力で引いちゃうから、今度は引く形でお願いになるのだけど……♪ 私達、友達よりも親密な関係になるつもりはない?」

「残念ながら日本国の〈法律〉20条では『信教の自由』というものがございますので、お願いされても邪神の信奉者や司祭になることはないですね」

 

 殺意むき出しでそっけない私の態度に、愉快そうな彼女が頭上から見下ろしてくる。

 あちら側の身長は170㎝ほど、対してこちらの身長は162㎝だ。

 両手を壁に体重を乗せて壁ドンのような姿勢になっている。無邪気に微笑みの奥底で値踏みするかのような金色で蛇目の瞳孔が睨み付ける私を反射させている。

 彼女も手を出した瞬間、引き金が引かれることは承知なのだろう。まだ髪や皮膚にまで直接、触れてこようとはしない。

 

「そういう堅苦しいのじゃないわ♪ 名前で呼び合ったり、一緒に出かけしたりして親睦を深め合うことよ♪」

 

 こちらの殺気を面白がるように肩を震わせながら、対照的におどけてみせるようなニカッとした笑顔を振りまいてくる。

 (ナーガ)のくせに恋人が話しかけるような甘ったるい猫なで声で告げてくる。

 

「最初こそは今ゼラトちゃんが私に抱いている感情ばかりだったけど、あの爆発で引き飛ばされてから考えが変わったの♪ ゼラトちゃんとは『敵対するよりも仲良くしたほうがいい』ってね♪ それに私とゼラトちゃん、性格の相性はピッタリみたいだし♪」

「生憎ですが私はこれ以上蛇子ちゃんとは関わり合いたくないので、親睦を深め合う可能性はゼロですね。それに私が別に目的ではないでしょう? 用があるのはブラックさんが奪った書物の内容。私と親しくしてブラックさんを出し抜きたいだけ。……魂胆が見え見えなんですよ」

「そんなことないわ♪ ゼラトちゃんと仲良くしたいのは本当の話♪ エドウィンを出し抜くためだけに親しくするぐらいなら、ここでゼラトちゃんと交渉なんかしないで、まえさき市で出会ったあの子……。鹿之助の坊やをゼラトちゃんの目前で、拷問に掛けた方がよほど合理的で能率的だもの♪ ゼラトちゃんは私と似た性格だし、理解(わか)っているでしょ?」

 

 五車病院でみた思い出したくもない悪夢が脳裏で彷彿させられる。

 響き渡った絶叫(ホイッスルシャウト)するほどの悪夢。私がオークにしたように、皮だけにされた鹿之助くんの姿。

 人差し指に力が入る。奥歯が欠けるほどに強く噛みしめる。

 

「……」

「怒らないでよ♪ “もしも”、“仮の”、“例え話”をしただけじゃない♪ そんなにゼラトちゃんを簡単に怒らせることのできる鹿之助の坊やの存在がいるのに、なぜ私達が東京キングダムでこそこそ嗅ぎまわっていたゼラトちゃんのお友達を人質に選んだと思ってるの♪? それとも…………まだわかってない?」

“エドウィン・ブラックは違うが、私は最初から味方だった”とでも? 数時間前に首を締めあげてきて、1時間前には指を捩じ切ろうと意気込んでいた復讐鬼の言葉を信じると思いますか?」

「それはブラックの手前♪ 常識的に考えてブラック配下の死骸で要塞(シェルター)を造り出す怪物(にんげん)に、お尻へ異物を無理矢理捩じり込まれたのよ? その過程を経ているのに平然を振る舞うほうが怪しまれないかしら?」

「そこは高位魔族の威厳(カリスマ)で平然を保つべきだったのでは? そもそもあの過程に至ったのは、ブラックさんが小娘1人ごときに人海戦術でねじ伏せてこようとしたこと。蛇子ちゃんのアナルバージンロストに至ったのは、そちらが喧嘩を吹っかけてきた自業自得でしょうが。……常識ないクセに常識を語らないでもらえます?」

「でもゼラトちゃんは特別だから、きっと私とエドウィンとの関係性も勘づいているでしょ?」

「…………」

「その上で逆らえると思う?」

「ああ、もういいです。…………そんな組織の上下関係の身の上話をされたところで、私が首を縦に振る必要素はありませんし。もう決着はついているのですから。高位魔族は脳を串刺しにされても復活できるのか、実に楽しみです」

 

 コイツをこのまま生かしておけば、鹿之助くんにとっても脅威となる。

 絶対にここで殺すという決意のまま〈改造した釘打ち機〉の引き金を引く。

 ゼロ射程、武器の固定、慎重な照準状態でボーナスダイスは2つ確定。先制射撃ロールで私の攻撃を先に当てられる。

 接射状態でも〈回避〉が間に合うのか試してみようか。

 必中確殺条件はそろったのだ。〈幸運〉を消費しきってでも“貫通”させてコイツを殺す。

 

 




~あとがき~
 いまだかつてないほどに穏やかな戦闘展開なのに、文言クッソバチバチで草。

~要約~
スネークレディ「ゼラトちゃーん♪ お友達に、なーりましょ♪」
釘貫 神葬「ボケカス死ね」

 200話目は合計3回退けられたほうの蛇子ちゃんとの戦闘シーンで飾ることになりました。
 IF設定でしたが、対魔忍RPG プレイアブルキャラ化(2)の設定を本編でも回収ですね。
 次回、ケッチャコ……決着をつけます。

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