対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode176 『港湾地区での新プラン』

 1体の高位魔族を“平和的”に無力化したものの、最後の最期で放たれた蛇子ちゃんの言葉が呪いのように付きまとう。

 

 これまでの人生で対魔忍から逃れるために、精いっぱいの努力はしてきたつもりだ。

 転生早々に最初の不運でテロリストに殺されそうになったけど、クソド田舎ニュータウンな五車町に引っ越してきて、奇想天外な学園の教師陣や風紀委員にしこたまドヤされながら、対魔忍とは無関係な鹿之助くんや、まえさき市で3時間ウンコしてきた方の蛇子ちゃん、ふうまくん、陽葵ちゃん、心寧ちゃんと楽しくやってくることができた。

 

 対魔忍世界に転生したが、それなりに私は一般人枠で人生を謳歌してきた。

 

 今、それがクラスメイトが対魔忍で彼女を助けることで、私の平穏が瓦解しそうになっている。

 

――手元の〈改造した釘打ち機〉が鈍く光る。

 

 ここで友達を殺してしまえば、対魔忍の目から逃れて平穏な人生はまだ続けられるぞ。と。

 

「ギー゙ッ゙!!!!」

「」ビクッ

「」ドキッ

「」ヒャッ

 

 両手で側頭部を抱え込み、短い絶叫とヘッドバンキングで悪魔のささやきを振り払う。

 理性が働かず突発的に叫びたくなる衝動に身をゆだねて正気を保つために狂う。

 

 駄目だ!裏切って敵対しているわけでもないのに、私利私欲のために友達に手を掛けるのだけはあってはならないことだ!

 確かに事故を装って彼女を殺せば、少しの間は対魔忍組織から目をそらせられるかもしれない。だけど、それは手段を選ばずに目標を達成しようとするカルティストと何が違う?

 それに一線を踏み越えたら、きっと私は戻れなくなる。積もっていく神話的知識のように純粋だったころには戻れない。

 鹿之助くんを自分のモノにするために、神村のことも同じように殺して消してしまう。

 

「青空ちゃん、だ、大丈夫……?」

「あ、ぅ……あ、ゴメン…………大丈夫だから……」

「奇声を発するほどだし、少し休んだ方がいいんじゃないですかい?」

「時間がないですし……休憩は本土に渡ってからにしましょう」

「お疲れですね! 自動販売機でコーヒー買ってきました! 冷たいやつと温かいやつどっちにします?」

「ああ、ごめんね。本土で小銭に崩したらお金払うから………あったかいほうが良いかな……」

「1本はおまけで当たったので、タダでどうぞ!」

 

 左側から差し出された何処にでもある100mlのミニ缶の微糖コーヒーを受け取る。

 プルトップを開いて一口。夏場であっても熱めの液体を腹に入れることで満腹感を稼ぐ。カフェインで眠気も飛ばす。口をゆすいで高位魔族の蛇子ちゃんの味も消し飛ばす。

 

「……美味しい。ありがと……」

「ゴミは捨てときやすよ」

「悪いねえ」

 

 背後の駒ちゃんに空き缶を渡す。それから右側から心配そうな表情を向けている駒ちゃんにお礼を言って――

 

 ん?

 …………ん?

 たしか缶コーヒーは左側から渡されたよな……?

 ゴミの回収は背後へ渡して……?

 どうして、右側に駒ちゃんが?

 では缶コーヒーを渡したのと受け取ったのは誰?

 

 ……背後を振り返る。

 

「どうもー」

「あ、ポイ捨ては大将的にはNGですかね?」

 

 背後には路地で別れたはずの顔見知りがいた。

 1匹は空中浮遊しているあいだ伝令役を務めてくれた魔族。あの時よりも口調が砕けて、だいぶフレンドリーになって、今はコーヒー缶を首に当てて涼んでいる。

 もう1匹は私に従いたいと最初に頭を垂れてきたオークだ。オークは渡した空き缶を握りつぶして5㎜の薄さのコインにしている。

 

「うわーっ!?!?!!!」

「わァーっ!???!??」

「ぎゃーッ!!?!!!!?」

 

 〈改造した釘打ち機〉を構える私に、両手を突き出して冷たい缶コーヒーを差し出す伝令と、頭を抱えて対ショック姿勢を取るオーク。

 

「1時間以上前に別れたはずでは!?!?」

「ち、違うんです!違うんです!このオークが!このオークが言い出しっぺなんです!」

「やましい事なんか考えてません!だって大将、手が血塗れだし!でも大将のことだから絶対返り血でしょう!?でも、そのあぶねえ普通の格好で一番ヤバい場所ににに、は、はいっちまうから!!!!俺達は大将を護ろうとしただけなんです!本当なんです!」

 

 あたふたしながらオークを指さし、自分は無関係だと言い張り責任全転嫁する伝令。

 一方で一心不乱に無罪を主張しながら、土下座を続けるオーク。

 駒ちゃんはこの光景に、私と2人の間でどう仲裁するべきなのか迷うかのように周囲も含めて見回している。

 されど正直なところこの2匹に関しては、ブラックの内通者というわけではない。だからある程度は使える駒としてパーティに加えても良いかもしれないが……。

 それでも魔族とオーク。ブラック側と同じ人種と踏まえると、やはり危険が伴うだろう。

 伝令あたりは自分が窮地に陥った時には間違いなく、味方を売るタイプの魔族種だということは判明したし。

 それでも……無防備時に奇襲はしてこなかったし……。

 話ぐらいは聞いてやってもいいかもしれない。

 

「…………ヤバい場所とは?」

 

 一旦“先制射撃”状態の〈改造した釘打ち機〉を降ろす。

 伝令はホッと胸をなでおろし、オークはヨモギ饅頭のような丸まり方をしたまま、ゆっくりとだが震えながら片目でこちらの様子を伺う。

 

「…………大将、ここは港湾地区ですぜ?」

「港湾地区?」

 

 聞き覚えがある単語だ。

 顔をしかめて記憶を思い出す。

 たしか……。夏休み入った直後、心寧ちゃんから『近づくな』と言われたような気がする。東京キングダムの玄関口になっていて街を支配している組織同士の小競り合いが頻発している場所だとかって……。

 

「ほらやっぱり!その様子じゃ知らないで近づいてますよね! 俺にはわかりましたよ!」

「オークがね? 『大将が隣の子1人で港湾地区に入るなんて、カモがネギをしょってくるようなもんだ』って心配そうしてですね……。でも1人で港湾地区に入るのは怖いからってことで私も一緒に入ることにしたんです」

「大将!巻き込まれる前に離れましょう……!俺は大将のようなタマが、こんなところで“商品”になってほしくないんです……!もしよろしければ、汚いですが俺の家を隠れ家にして下さって結構ですから……!」

 

 縋りつくようにオークが足元で頭を垂れ続ける。

 どの魔族もこのオークも初対面程度の知人を自宅に招くのが、魔族の流儀なんですかね? その提案はブラック、蛇子ちゃん、お前で3人目だよ。

 しかもスライムのようにブヨブヨのぜい肉を震わせて……。

 ……へっ? 泣いている……の、か? ズプピズピピ鼻水を啜る音が聞こえてくる。

 

「弱虫の癖に無理するから……」

「うるぜえ゙……っ゛!俺は嫌だったんだ!大将みたいな俺達ゴミに希望を与えてくれだ人が、オ゙ーグジョ゙ン゙で売られたり、孕み袋になっ゙ちまゔのがっ゙……!」

「んー……まぁ、同行したし、その気持ちはわかんなくもないけどさ……」

 

 再びヨモギ饅頭のように丸くなり、泣き始めるオークに伝令が呆れた表情を浮かべている。

 こりゃ、オークにもいいやつもいれば、わるいやつもいるという事例のようだ。

 片目を瞑って、後頭部を掻く。

 

 私が前世で初めて知り合ったオークとは、天国と地獄ほどに性格が違う。まさかオークという生命体に目を見張るような義理堅い個体がいるとは思わなかった。

 ……演技の可能性も捨てきれないが。

 

「友人から港湾地区については、少しは聞かされています。街を支配している組織同士の小競り合いが絶えない場所だとか……」

「ど゙ゔじで!そこまで゛知゙っでる゙の゙に゙ど゙ゔじで近゙づ゙い゙だんで゙ずが……ッ!」

 

 オーク、迫真のド正論。

 やめろ、正論で殴ってくるんじゃない。オークのくせに。

 

「大将、外から来た人間だったよね? ……もしかして港湾地区がどこか知らなかった?」

「……」

 

 伝令の図星を付いた言葉に、そっと目を逸らし周囲を見渡す。

 

「……図星?」

 

 逸らしたついでに迷い込んでいた廃墟のような建物の影に〈目星〉をつける。

 ……オークが泣き始めるのも分かったような気がする。何者か、何者かは分からないが窓の裏や、建物の影、扉の隙間からこちらの様子を伺う実体存在がいくつか見える。

 表情は分からないが〈聞き耳〉による第六感で、警戒、品定め、値踏み、殺気、様々な感情が視線から伝わってくる。

 

「…………ひとまず、礼を言っておかねばならないようですね。危険を承知で来てくれてありがとうございます。伝令、地図を渡すので現在地を教えてください」

「あっ、誤魔化した。ま、いいけど。……しょーがないなー大将は」

「駒ちゃん、ショットガンのリロードは出来ますか?」

「は、はいっ……!」

 

 持てる限りの情報を持って、影からこちらの様子を伺う敵対者と立ち向かう準備を整える。伝令が寄こしてくれたコーヒー缶のカフェインのおかげで意識が覚醒してきた。

 駒ちゃんが対魔忍であることは確定だろう。彼女は同い年の学生とは思えない手付きで、ショットガンに弾を込めて渡してくれる。

 

「今はねー、ここらへんかな? 戻るならあっちに行けば出られるよ」

「ありがとうございます」

「もー、世話が焼けるなぁ……ほら手も出して。血も洗い流すよ」

「ん」

 

 〈ショットガン〉と〈改造した釘打ち機〉の二挺持ちを始めた私へ、伝令が地図を指し示してくれる。それから駒水ちゃんが持っている飲料水を受け取って、私の血濡れた手を洗い流し始める。

 

「…………」

 

 OK. これで、おおよその位置は把握した。

 地図を指ではじきながら最後にオークの肩を足で蹴り飛ばしつつ、メソメソ泣いてないで立ち上がるよう指示をハンドサインで伝える。

 

「……問題ありません。この位置なら何とかなります」

「……なんなんだよ一体。いったい、なんなんだよ……完全包囲された状況なのに、その自信はどこから来るんだよ……。少しは慌てろよ。もしかして大将、イカレて……?」

「はぁ? まったく、どいつもコイツも失礼ですね! そう思いません!?駒ちゃん!?」

「えっ!? あ、あっ、そうですねー……。ァハハハ……」

「さて3人とも私から離れないでください。次の脱出案が閃きましたよ!」

 

 足元で泣き言が聞こえるが、その泣き言が掻き消える声で鼓舞する。

 

「この地区の特性を逆手にとって、エドウィン・ブラックを牽制しつつ潜伏・脱出します!」

「!?」

「?!」

 

 安心した顔の伝令と駒水ちゃんが目を丸くして綺麗な二度見をしてくるが、港湾地区を離れるどころか隠れ蓑にすることに物申したいのだろう。

 だが方針を変えるつもりはない。

 むしろ港湾地区に迷い込んだのは好都合だ。

 この地が、様々な組織同士の小競り合い諍いが絶えない場所ならば、高位魔族であり顔と名を馳せているであろうエドウィン・ブラックの一行もここでは我が物顔でこちらの捜索を大規模に行えないことの裏返しになる。無名で小物の私が潜むなら好都合に違いない。

 それにここは港と東京湾が近い位置関係にある。

 新たな脱出プランの目途が立った。

 

 




~一方、その頃……①~
~クラブ・ペルソナ内~
黒服「失礼します。マダムお話が……」ヒソヒソ

マダム「ええ。…………」

日ノ出 陽葵「?」

黒服「……」ヒソヒソ

マダム「…………なるほど。貴女のお友達についてだけど、港湾地区にいることがわかったわ」

日ノ出 陽葵「日葵ちゃんが!?」

マダム「ええ、それが分かった上で貴女は——」

日ノ出 陽葵「勿論、迎えに行くよっ!だって私は日葵ちゃんの新妻だもん!」

?? アスカ「!?」

日ノ出 陽葵「お世話になりました!」ペコー、ダダダッ!!!

マダム「……アスカ、見送ってあげて」

?? アスカ「わかってるわよ! ちょっと待ちなさい!私も行くから!」


~あとがき~
 日ノ出陽葵ちゃんや、紫先生が東京キングダムに来ていたことを作者すっかり忘れてました。

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