対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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23章 『家に帰るまでが遠足です』(裏)
Episode-Inside23-1 『後日談』


 

コンコンコンッ

 

 部屋の扉がノックされる。

 

「失礼いたします。ブラック様。例の現場の映像を確保いたしました」

「ご苦労」

 

 イングリッドと短く言葉を交わし、記録を確認する。

 映像には1人の人物が映っていた。

 この人物は日本国籍のデータを所有していなければ、ヨミハラの魔界へと続く門から現れた住民でもない。ましてや別の派閥の人間でもない正体の掴めていない女だ。

 その姿は、黄昏色(たそがれいろ)のローブを身に纏い、背中には日本国における家紋の印をつけている。フードのせいで身体的特徴の全容こそ掴めないが、目元までかかる前髪に気の強そうな眉。銀縁の理知的なメガネをかけた黒目に黄色人種の日本人であることは掌握した。顔の小じわなどの観点から年齢は30代中盤から後半だろう。

 偽装魔術の系統を利用した形跡はなく、誰かになりすましているわけでもない。

 彼女はローブの下から骨董品と言っても差し支えない旧世代のプラスチック爆弾を取り出し、数回程度の訓練経験しかないような素人丸出しのおぼつかない手付きで信管を取り付けている。

 すくなくとも5カ所の地点。すべて監視カメラの目前。爆発が起きた地点でその作業をしていることが見て取れる。

 いずれの映像にも、同じローブ姿、同じの家紋、同じ人相が映されていた。

 

 イングリッドが手渡してきた書面の資料によれば、爆破現場にはその区画を占有している派閥の用心棒がいたようだが、例によってもれなくそれらの人物は爆発とは異なる“焦げた肉のように黒く燻ぶっていた”ようだ。

 

 次の映像も確認する。

 これには女が用心棒どもをいかにして(あや)めたのか、その仔細(しさい)が映っている。

 この下手人は近づいてくる用心棒の前で指を組み、命乞いをしているようだ。その途端に用心棒が苦しみ始め皮膚の表面が炎で焼かれたように黒く焦がしている。

 それから鼻頭を爪で引っ搔きながらニタニタと煽るような気味の悪い笑みを浮かべている。

 

 時刻はスネークレディが醜態を晒し、私が青空日葵という人間の小娘と戯れた深夜を指していた。

 この情報は東京キングダムを治める他の派閥も当然ながら入手しているだろう。今頃このテロリストを炙り出すための捜索隊が放たれているに違いない。

 無論ノマドとしても、おいたが過ぎた映像の小娘を野放しにしておくつもりはない。

 

 されど、私個人の見解としてはこの人物に違和感を覚えていた。

 彼女の犯行は私からしてみれば、青空日葵が推測したようにノマドの仕業だと仕向けるために徹底的な計画的犯行のようではあるが、それにしては顔を隠すことも正体を隠さず杜撰にも自身の犯罪行為を見せつけ、自らを目標として定めてもらえるように振る舞っているようにも見える。

 

 そしてあの青空日葵を捕え、我が館へ招待しようとした際に現れたポータル無効化事象。

 

 ヤツは嘲りながら私やイングリッドを狙った犯行だと言ったが、アレクトラの角を折る手傷を負わせるに至った直前の爆発現象の際に私達は問題なくボータルを経由し致命的な一打から逃れることができた。

 

 

 では何故あの時、青空日葵のポータル転送に失敗したのか。

 

 

 つまりあの時、本当に狙われていたのは——

 

 

「…………」

「……ブラック様?」

「……ああ。この家紋について何か分かっていることはあるか?」

「ハッ。専門家の話によれば、丸に(まるに)四つ(よつ)釘抜(くぎぬき)閂紋(かんぬきもん)と逆さ3つ巴(みつどもえ)、そして稲光(いなびかり)を組み合わせた紋様であるとの情報は得られました。過去にこの家紋を使用していた一族については調査中です」

「……そうか。では引き続き調査を続けろ。青空 日葵という対魔忍を後ろ盾に抱える小娘の情報も含めて、な」

「承知いたしました。行くぞ、リーナ」

「はい! イングリッド様!」

 

 優秀な部下が部屋をあとにしたところで、席を立ち窓際に立つ。

 窓ガラスに私が反射する。

 

 青空 日葵……。

 対魔忍でもなく、魔族でもない者。

 

 部下も発見できず、あの同伴させた対魔忍(あしでまとい)の魔力反応で位置も探れなかったことから、我々側の力を利用せず自力のみで島を脱出したのだろう。

 どうやって成し遂げたのかはわからないが、あの対魔忍(あしでまとい)の小娘の体内に埋め込んでいたGPSトラッカーを丁寧に破壊するとはな。

 情報によれば港湾地区へと逃れたようだが、そこから先の足取りはぱったりと途絶えてしまった。

 

 スネークレディ経由で得られた情報であったが、こちらの予想を遥かに上回ってくれる非常に有意義な出会いであった。褒美を与えねばなるまい。

 

 そして時折、我々に魅せていたあの目。

 ただの蛮勇とは異なる——確実にこちらを殺すことを模索し続け、実行し、成し遂げうる決意と信念で塗り固められた数多の修羅場を潜り抜けてきた者の目。

 

 催眠に関しても跳ね返し、己の道を突き進み始めた時は……失笑するほかなかった。

 

 対魔忍どももヤツの違和感に気が付き“青空日葵の正体”を暴くことに躍起になっているようだが…………それでは着眼点がズレている。

 

 私の推測ではアレは青空 日葵ではなく、青空 日葵に憑依している異次元の精神体か何かなのだろう。

 では如何なる異次元の精神体なのかに重きをおいて調査を進めるべきだ。

 

 対魔忍側で飼われているようだが、そのままあちら側に在籍し続けるのならば——

 私を殺しうる怪物にまで変貌を遂げる可能性を秘めた熱狂的な探究者。まさにZealot(ゼラト) seeker(シーカー)だろう。

 いずれ(まみ)えることになる。あれはそういう運命に囚われた類の存在だ。

 

 机上の書物を閉じる。これは間違いなく求めていた『アルガルノーヴの書』の断片であることに違いはない。違いないが、書物は後回しでも問題ない。

 それよりも面白いものを見つけることができたのだから。

 

 相手を高位魔族と知っていながら駆け引きの連続で窮地を脱し、爆破に巻き込み、こちらの生存を見通し部下(アレクトラ)へ託した『2つ、貸しですね』というメモの走り書き。

 フュルストの進言から対魔忍の友人を人質にとるという小細工に到ったが……小細工がなければ、奴はどのように立ち向かって来たのだろうか?

 

 次は、どのように足掻くのか……実に見ものだ。

 

………

……

 




~あとがき~
 今回の東京キングダム編では、蛇子ちゃんの1人勝ちですね。
 勝ち……? 勝ってたか……?
 今回、全体的に痛み分けだった気がします。

 次回は2024/12/09、20:37に投稿します。

〜補足〜
 探索者を英語で表すと
 Investigator(インヴェスティゲイター)ですが、それだと即座に正体が判明しかねないので Zealot(ゼラト) seeker(シーカー)を名乗ってます。
 2年前のオリ主はInvestigatorの単語が探索者を指すことを知らない可能性もありますけど……。

~お礼~
 誤字報告組もありがとうございます~!!
 誤字通知は消したくなくて、そこから誤字報告にはいかずに別の所からぐるぐる入ろうとしていたのですがなかなか見つからずなかなか反映できませんでしたが今回反映しました!
 三日月歯車兄貴~!
 まだ見続けてくれているんだね三日月歯車兄貴!
 嬉しいよ~! いつも、ありがとうね!
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