対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
いつもとは異なる形式で執筆してしまっていたので、お試し投稿になります。
連投予定。
Episode179 『SPA温泉にて』
…
……
………
「ブェェェックシュゥゥェエェイィイインッッッ!!!!」
大きなくしゃみがレストランで響きわたる。
手で口元を押さえたが、おっさんのくしゃみのような大声が室内にこだましてしまった。
幸いにも夏休み期間中とはいえ平日の正午からSPA温泉を利用し、開店直撃のレストランを訪れている客は私達ぐらいなもので、ほぼ貸し切りのような空間だったため九死に一生を得た。
「ズピピ」
背筋に薄ら寒いものが通って行ったが、誰かが私の噂をしていたのだろうか?
もしくはオークが鼻を啜っていたし、風邪でもうつされたか。殺しとけばよかった。
「日葵ちゃん湯冷めしちゃった!?それとも風邪!?裸で温めてあげようか!!!?」
「ズピピピ……存分に温泉で温まったので結構です」
浴衣姿の陽葵ちゃんが胸元を大きく開放して飛びついてくるのをデンプシーロールで華麗に避けて、胸倉をつかんでは彼女のはだけた胸元を元通りに戻す。それからお風呂上がりのコーヒー牛乳をひとくち口に含む。
少しの先の視線の先では公衆電話で駒ちゃんが対魔忍組織に連絡を取っているのが見えた。
最初こそ生還できたことがよほど感動的だったのか温泉で大号泣し始めてしまう出来事はあったが、今はバスローブ姿で冷静に本部へ状況を説明している。
私はというと……いつも通りの格好に落ち着いた。
タンクトップ姿に短パン。ジト目で不貞腐れたかのようなデフォルトの素顔。髪の長い男みたいな格好だ。
しかし魔都 東京では女らしさを出したほうがよっぽど危険な目に遭いかねないし、女を出したら負けだ。
鹿之助くん達と海に行ったときのように、男が約半数混ざっているように見えるだけでそれだけ犯罪遭遇率も下げられるのだ。
対魔忍がパーティにいるとはいえ、容姿が美しい駒水ちゃんではやはり限度がある。おまけに元気で明るく容姿もかわいい一般人の陽葵ちゃんもいるのだ。
化粧が使えない現状で、私のみがこの
そんなところで駒ちゃんが座席の方に戻って来る。
「対魔忍の方と連絡は上手く行きました?」
「はい。ですが……ちょうど送迎可能な機体がないそうで、五車町まで自力で戻るように告げられてしまいました……。お役に立てずすみません……」
「気にしないよ! 迎えが来られないってことは、その分だけゆっくりとかえってこいってことでしょ! のんびりマイペースに帰れるよ!」
しょんぼりとしょげた顔をする駒ちゃんを陽葵ちゃんが励ます。
一方で私も親指を立て陽葵ちゃんと駒ちゃんにそれぞれグッジョブサインを送る。
陽葵ちゃんにはその素敵なフォローへ。
駒ちゃんには努力を讃えて。やれることはやってくれたのだ。国が要請を拒否するならば、その分だけ駒ちゃんは対魔忍の危ない任務から離れることもできることだし、心を落ち着かせるロードタイムがあってもいいだろう。
それからお通しで届いている温かい緑茶を彼女に渡す。
「お待たせしました。味噌汁とサラダ付きお刺身定食が1つと、サラダと天ぷら定食が1つ、若鳥のから揚げ丼が1つですね」
駒ちゃんが席に着いたところで厨房から朝昼兼用の食事が届く。
刺身定食が駒ちゃんで、天ぷら定食が私、唐揚げ丼が陽葵ちゃんである。
配膳してくれた店員にお礼を告げ、2人に飲み物を持たせる。
「えー、ひとまず。それでは東京キングダムの脱出記念を祝しまして、お手とお声を拝借」
「はい!」
「残るは五車町に帰るだけですが、最後まで気を抜かずに家を目指しましょう。それでは、乾杯」
「「乾杯!」」
「「「いただきます!」」」
「さてこの後の日程ですけど質屋に行って貴金属を換金して、古着屋で下着以外の服を買って、宿を取って、五車町で待つ友達用のお土産を買いに行きますからね!」
「さんせーい!」
「……二人とも体力オバケですね……」
出された料理に舌鼓を打ちながら、今日の予定を話して料理を頬張る。
アイツ等も白昼堂々襲撃には来ない、来れないだろう。そんなことよりも島で隠れているであろう私を捜索するのに躍起になっているだろうし。
——夏休みの山場は終わった。
さぁ、これから普通の夏休みとルルブの研究を全力で楽しむぞー!
~あとがき~
実はまだ続くんじゃ……。
この章は、月曜日と木曜日の20:37に交互に投稿していきます。
東京編は今年中に終わります。
この章を描くにあたって、この事態を引き越した戦犯は休載前の作者。