対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
………
……
…
対魔忍と田舎娘を連れて、無事にホテルの自室まで逃げ帰るところまでできた。
駒ちゃんが先駆けで室内の安全確認。
何もわかってない陽葵ちゃんを押し込み。
私が入室の殿をつとめ入室と同時に部屋の鍵とチェーンをしめる。
駒水ちゃんと共に一通り室内に潜伏者がいないことを〈目星〉をつけながら、備え付けてあるイスを使ってドアノブを固定。外からマスターキーによる電子ロックキーを開けられてしまっても、少しでも応戦準備時間を稼げるように追加のドアストッパーをする。
帰宅時にも〈目星〉をつけたが尾行は無かった。
現段階では、私達——私を呼び出そうとした第三勢力から撒いていると断定できるが……。
私はまだ気張れるが既に昨日の夕方から既に24時間が経過して、16歳の陽葵ちゃんと駒水ちゃんは活動するにも限界があるだろう。
ひとまずは安置に戻ってこられたことを伝えてそのまま有事の際に動き回れるよう告げる。また押し入りが発生しても時間が稼げるよう、天井裏に逃げ込めるようにバスタブの中や押し入れの中で入眠を促す。
私は万が一の事態に備え室内の通路に椅子を設置して、来るかもしれない追跡者を待つ。〈改造した釘打ち機〉は常にかたわらへ手斧を机の裏へ貼り付け〈隠す〉。屋内戦への備えはバッチリだ。
あの鹿之助くんの名を使った何者かが、別名義を使用して宿泊している私達を〈追跡〉してくることは5%にも満たないが念には念を入れるべきだろう。
………
……
…
ピンポーン
「!」
入室から
ルームサービスは頼んだ覚えはない。
何者かの訪問に対して、特定するにしては早すぎると心臓の鼓動が重くひびく。
〈改造した釘打ち機〉を映画『ジョン・ウィック』の主人公のように身に引き寄せた持ち方をして、扉を挟んだ銃撃にも耐えられるように身を屈め素早くドアスコープから外の様子を伺う。
「——!」
覗き窓の外にいたのは、鹿之助くんと蛇子ちゃん——
と言っても、まえさき市で3時間ウンコしていた安全で便秘がちな方の蛇子ちゃんの姿だった。
二人ともどこか緊張した表情で扉1枚隔てた場所に立っている。視線がチラチラとせわしなくドアノブが動く瞬間を凝視し続けている。
明らかに様子がおかしい。
いいや、ここに至るまででなにもかもがおかしいのだ。
迷子センターによる館内放送で鹿之助くんの名前が呼ばれているのにどうして彼はここに来た?
そもそも彼は本物の上原鹿之助なのか?
他人の名義で宿泊している筈なのに、なぜピンポイントでこの部屋に来ることができた?
女性らしい容姿の鹿之助くんと五車の蛇子ちゃんしかいない状態で魔都 東京でどうやって無事にここまで?
ドアノブをそんなに確認して、ドアスコープ越しの私を見つめて、まるで私がすぐ扉の後ろに居るのが分かってみている反応をしているのは何故だ?
……疑問が湯水のように湧く。
ここから導き出される答えは2つ。
ドアスコープ越しには2人しか見えないが、その死角に2人を脅している奴がいるのだ。ブラックが駒ちゃんを手駒として加えていたように。鍵が開けられ突入する瞬間を見計らっている。
あるいは私が見えている2人の姿は《人食族の犠牲者の面影》のような魔術で、“鹿之助くん”と“蛇子ちゃん”に見えているのかもしれない。
対魔忍の駒ちゃんを揺さぶり起してバスタブでお湯を張らせて備えさせる。対魔忍として水を操って色々できるならば、浴室と脱衣所は彼女の有利な地形だ。
〈改造した釘打ち機〉を利き手で握り、背中に〈隠す〉。右手でそっとドアストッパーとなっている椅子とチェーンをはずして、部屋の鍵を解除する。
このホテルにおける各居室の扉は引き戸だ。少しだけ扉をあけて隙間から顔半分を外に覗かせる。
「よ、よぉ日葵!」
「あっ、日葵ちゃん!」
扉の外にはドアスコープ越しに覗いたときと変わらない——
——いいや。
肉眼で見た時の方が、3000倍キラキラと輝いてみえるが少し吃る鹿之助くんと、五車学園で挨拶するような反応を見せるまえさき市で3時間ウンコしていた方の蛇子ちゃんが外にいた。
冷汗など〈心理〉的な感情もつぶさに確認する。一見するだけでは、脅されているようにはみえない。
「……こんばんは」
「……日葵ちゃん?」
「あれ? 日葵、だよな……?」
こちらの他人行儀な様子に向こうも違和感を抱いたのだろう。2人そろって首を傾げて顔を半分だけ覗かせている私を見つめている。
動揺を誘う事には成功した。〈心理学〉として彼等の反応を探るが、至って平然な自然体で何者かが2人に擬態しているようには見えない。開いた扉を蹴破って押し入ってくる様子もない。
「あってますよ。お2人とも、こんなところでお会いするなんて奇遇ですね。ですが時間も時間ですし他の立ち話は他のお部屋に迷惑をかけてしまいます。どうぞ、入って行ってください」
「おう!」
「そうだね!」
すこし微笑んで、利き手の武器を隠したまま2人を招き入れる。背中と壁に阻まれて〈改造した釘打ち機〉の存在は2人には見えないはずだ。
2人は普段と変わらない入室速度でルーム内に入って来る。〈物理学〉の観点から見ても、鹿之助くんの歩幅や体幹移動に変化は見られない。
ほぼ白認定の2人が完全に入室したところで即座に扉を閉じて鍵、チェーン、ドアストッパーをかける。
振り返った時、2人の表情は困惑の骨頂に至っているような顔だ。
「……すみません、怖がらせてしまいましたよね。東京には変な輩が多いので、私の警戒心もその分強くなってしまったようです。どうぞ、奥に。ケトルでお湯を沸かしてアメニティのお茶を淹れるところだったんです。お二人も飲みますか?」
「う、うん。……?」
穏やかな口調で言葉を交わしながら入り口は言ってすぐのバスルーム備え付けの洗面台でケトルに水を並々とそそぐ。
これ以上〈改造した釘打ち機〉を隠し持つことはできない。駒ちゃんに〈改造した釘打ち機〉を託して、湯で満たしたケトルを両手に2人の元に行く。
「……日葵、なんか雰囲気変わったか?」
「そう見えます?」
ケトルを手にして湯を待つ私へ、鹿之助くんが不思議そうな表情で私の顔を隣から覗き込んでくる。それを誤魔化すように薄ら笑いを浮かべて対応する。
正直、私はこのホテルの一室に現れた2人を疑っている。
鹿之助くんが話す雰囲気が変わったように見えるのは、いつでも殺せるように警戒しているせいだろう。だが、察されると面倒だ。ここは感情を押し殺して〈言いくるめ〉るべきだ。
……おや。熱湯がもう出来上がった。
ケトルに入った熱湯を持って、鹿之助くんと蛇子ちゃんを視界に入れつつ3人分のマグカップの元まで行く。
「お、おう。なんつーか、いつもより落ち着いているってか……」
「では東京キングダム観光で一回り成長したのかもしれませんね。緑茶にします? 紅茶にします?」
「蛇子は紅茶がいいかな」
「お、俺も紅茶でいいぜ!」
二人の回答にニッコリと笑って、背後は見せずに紅茶を作り始める。
奮発した高級ホテルでの宿泊をしたので茶葉と
「日葵ちゃんのことだから、もっと鹿之助ちゃんを見て喜ぶと思ったんだけどなんか元気なさそうだね?」
「ああ、それはそろそろ寝るところだったんですよ。前日徹夜してしまったので、だからテンションが地に伏せてると言いますか……」
「そ、そっかぁ……。良かった、なんか不機嫌でどうしようかと思ったぜ」
「お二人だけですか?」
「ううん、ふうまちゃんも来てるよ! 今は東京百貨店に居て、あっ!日葵ちゃんと合流できたから教えてあげなくっちゃね!」
蛇子ちゃんはスマホで連絡を取り始める。
表示された画面を〈目星〉で確認するが、嘘は言っていない。
スマホの画面の表示名と電話番号はたしかにふうま君の宛先だ。
それよりも気になるのは鹿之助くんの視線だ。彼の視線は陽葵ちゃんが仮眠を取っている押し入れの中と、駒水ちゃんが待機している私の背後のバスルームをキョロキョロと目が泳ぐように動かしている。
「鹿之助くん」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「先ほどからキョロキョロと何か気になることでも?」
視線を彼ではなく3人分のマグカップに紅茶を注ぎながら、伏目がちに淡々と尋ねる。
声が裏返ってオドオドとした反応は鹿之助くんそのものでめっっっっちゃかわいいが、ホテルの室内に入った瞬間から的確に陽葵ちゃんと駒水ちゃんの居場所を特定するのはおかしい。
「えっ、い、いやぁ~……?」
彼は私の顔から目線を右側に逸らしてはぐらかす。
右側、『嘘』か……ふむ。
「ほら、立ちんぼさんになっていないで座ってください」
「さ、サンキュー」
「紅茶が入りましたけど砂糖はどうしますか?」
「だ、大丈夫。いらないよ」
「そうですか」
「お、おう」
室内には私のズズッ……と紅茶を啜る音と、蛇子ちゃんが窓際でふうまくんに連絡を取っている声だけが聞こえる。
鹿之助くんは面接にきた新卒者のように椅子に浅く腰をかけて背筋をピンっと伸ばしてソワソワしている。
「それで鹿之助くんはどうして東京へ?」
「ほっ、ほらっ、日葵さぁ、東京キングダムに行くって言ってただろ? あそこさ行きはバスが出てるけど、帰りはバスとかないからさ。ふうまと蛇子と相談して。帰りは迎えに行こうって話になってさ!」
視線が左上。
過去の記憶を思い返している。「真実」。
だが容赦はしない。背後には駒ちゃん、押し入れには陽葵ちゃんがいるのだ。私は2人を護らなくてはならない。
「…………それで?」
「えっ、あっ、えっと……?」
「確かに東京キングダムに行くと言いましたが、帰りも東京で一泊立ち寄るとは一言も言ってませんよ? それなのに。よく私が。東京の。いくつもあるホテルで。このホテルに泊まっていると。わかったなぁ?と思いまして」
「あっ、あ。あ、あっ、そ、それは、だな……蛇子ぉ!」
うーん、この理詰めされて回答に困って他人に頼る癖と、会話の回答に少し抜けている感じ……鹿之助くんな気がする。
魔族が擬態しているとしても、鹿之助くんポイントを押さえた完成度が高すぎる気がする。
「どうしたの?」
「日葵がどうしてこのホテルに泊まっているのか分かったかって……」
「それなら蛇子が日葵ちゃんを見たからだよ! 追いかけたんだけど、間に合わなくて……それでホテルの従業員さんに聞いたらこの部屋を教えてもらったの」
「そうでしたか」
蛇子ちゃんの言い分におかしな部分はない。
言い訳がヘタクソな鹿之助くんが蛇子ちゃんに頼るのも、五車学園で観察できるいつもの出来事だ。特に私が“課外授業”について尋ねた時の反応と似通っている。
何者かが2人になりすましている説は1%ほどにまで低くなった。
いくらなりすませる魔族が居たとしても、こんな五車学園でのマニアックな日常風景を半日という時間でマネできる〈変装〉のプロがいるならば私は敗北を認めよう。敗北を認めて鹿之助くんや蛇子ちゃんに化けたコイツ等を惨殺しよう。
蛇子ちゃんが本当に私を見て、ホテルの従業員に“部屋番号”を聞いたというならば、私が他人の名義を使用していたとしても割り出すこと自体は可能だろう。
今日の所は私もスマホを所持していなかったので、蛇子ちゃん一行が魔都 東京で私を見つけても電話での接触が出来なかったことを踏まえればなお合理的な行動だ。
防犯セキュリティの高いホテルだとしても男ではなく、か弱い女の子2人にしか見えない2人が『友達と合流したい』と〈言いくるめ〉ることにうまく行ったと考えれば、フロントから私の部屋へ内線電話がなくてもおかしなことではない。
もしくは部屋番号を聞き出したあとに〈隠密〉でホテル内に潜入したか。
……いずれにせよ、宿泊者情報を外部の人間に伝えるホテルは後でレビューを付けたろ。何のために東京のいくつもあるホテルで高い金のかかるここを選んでいるのか自覚してほしい。
個人情報クソガバホテル。
「日葵ちゃん以外にも、陽葵ちゃんと幸子ちゃん*1の姿も見えたから一緒だと思ったんだけど……2人は何処かに行ってるの?」
「ああ、それなら鹿之助くんは分かっているんじゃないですかね?」
「えっ…………」
「そうなの?」
「……まぁ、合ってるかわかんないけど……。……お風呂場と押入れか?」
鹿之助くんの言葉を受けて、駒ちゃんがひょっこり身体を傾けてバスルームから出てくる。
ボディーソープのふんわりとした匂いが鼻腔をくすぐる。
『お風呂に入ってました』と言わんばかりのアピール〈変装〉が完璧だ。
押入れの陽葵ちゃんは……——出てこない。爆睡中かな?
これはモドキ。対魔忍モドキ。
「正解です。ちょうど、駒ちゃんはお風呂に入って出てくるところだったんですよ。陽葵ちゃんは……なんで押し入れで寝ているのか私にもわかりません。きっと陽葵ちゃんだからですかね?」
私が陽葵ちゃんを押し入れで寝るように指示したにも関わらず、ハシゴを外したことで駒ちゃんが目を丸くさせている。
「鹿之助くん、蛇子ちゃん迎えに来てくれてありがとうございます」
さて、ここまでくればこれ以上、鹿之助くんたちを疑う必要もないだろう。疑いも晴れたところで私がいつも五車学園で2人に見せているはにかんだ笑顔を振りまく。
そして陽葵ちゃんが爆睡しているタイミングを狙って、鹿之助くんへふざけるように抱き着いて頭皮のニオイを嗅ぐ。
これは間違いなく鹿之助くんの臭い。男の娘だけど男の子の頭皮のニオイ。シカアルロン
魔族が鹿之助くんの頭皮のニオイまで再現できるなら、完全敗北宣言してそのまま魔族に魂を売っても構わないねッ!!!!
館内放送の謎は残るが、やはり第三勢力による罠だったと考えるべきだ。
あのまま馬鹿正直にサービスカウンターに向かわなかった自分を密かに内心でほめる。
~あとがき~
紫先生は捨てるッ!きっと自力で帰って来てくれるでしょう。
だって、エロゲ1本分のタイトル名を持った強力な対魔忍ですからね。
東京キングダムは大変なことにしてしまったんですけど……。
今年も残り5日しかないのに、紫先生まで回収するだけの日程の尺はない!
勝手に一人でシリアス始めないでオリ主……。
もう十分に事故は起こっているけど
あわや大惨事の大事故になるところだったよ……。
1%→0%になった最終的な決め手は、鹿之助くんの頭皮のニオイでした。
その手に持った熱湯の入ったケトルは何!?
鹿之助くんを手斧が隠してある机の前まで自然に誘導した理由は?!
熱湯入りケトルを本当はなにに使うつもりだったか言ってごらん!!!
あーねんまつ。
本小説は今年の30日が最終投降として、東京編を〆たいと思います。