対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
Episode-Inside25-1 『醒』
…00Error、ERRORというけたたましい目覚ましアラーム時計のような音声で目が覚める。
ぼんやりとした視界の中で自分が椅子に座っていることだけはわかった。
最初は授業中に居眠りでもしてしまったのか、自分を疑うがどうも目の前に学習机や黒板が見当たらない。
左隣に誰かが立っていて、激おこな生徒指導部の蓮魔先生あたりだろうなと思って視界をあげたところで——
そこで初めて自分が占拠されたビルで出会ったような覆面を被った男から頭へサプレッサー付きの拳銃の銃口を突きつけられていることに気づく。
突然の状況に理解が追いつかない。
直前の最期の記憶を思い返す。
えっと、私は五車学園の期末試験で神村と殴り合った。そこまでは覚えている。アイツに顔面を金属バットのようなもので、ぶん殴られて意識が途切れて……それから?
五車学園で悠々自適なスローライフを送っていたはずなのに、どうしてこんなことに?
「……。」
まずは情報だ。情報を集めよう。
慌てる気持ちもわかるが、慌てたからって状況は変わらないし悪化しかねない。
私の頭に銃口を突きつけている男は、私ではなく部屋の先。
鉄扉側へ顔を向けて注視している。
視線を伺うが、ミラーレンズのサングラスを掛けていて目線が掴めない。
今の私の状況は後ろ手に手錠を掛けられて椅子に座らされている。脚まで手錠で椅子に括りつけられていないことから立ち上がること自体は可能だが、頭に銃口を突きつけられて死に瀕している状態でそのような不用意な行動をとること、すなわちどのような結果を招くかは想像に難くない。特に後ろ手で手を拘束されている状態では抵抗もままならないだろう。
周囲を見渡す。病院を彷彿させるような白い壁に白い床、白い天井。天井と床はチェス盤のようなマス目があって、汚れらしい汚れなどはない。
窓もないことから、この場所はきっと地下かシェルターかどちらかだろう。
この状況と私の記憶を整理して導き出される答えは……。
もしやあの東雲なんとかというテロリストが五車学園に報復へやってきたということか? となると、占拠?
まえさき市に遊びに行ったあと、五車学園の桐生先生を筆頭とした治療室で治療を受けていた際に鹿之助くんが面会に来てくれたことが脳裏に過ぎる。
もし彼が面会に来てた時に、この襲撃が起こったとしたら? 起きていたとしたら? 考えるだけでぞっとする。
「……。」
頭に銃口は突きつけられているが、このテロリストは一体何に警戒しているのだろうか? 明らかに対象は私ではない。
パキッパキッポキッ。
指の関節を鳴らして、テロリストの様子を伺う。音に反応してこちらを見る。
銃口はそのまま、引き金にも指は掛けられたままだ。
「……指の骨を鳴らしただけですよ。」
「……。」
「報復に来たんですか?」
「……。」
「私が目的なら、さっさと引き金を引けばいいのに。なにをそんな警戒しているのですか?」
「……。」
なんだか不気味だ。
このテロリストは音には反応したが、私の無駄口に対してなんの反応も返してこない。
『黙れ』とも、銃口で頭を小突いたり、銃床で殴りつけたりもしてこない。
パキッ。
再び指の関節を鳴らす。
「……。」
次は見向きもしない。
相変わらず静止状態にある機械のような動きで扉を注視しているだけだ。
幸いにもこの治療室には監視カメラの類はない。
ポキッ。
指の骨の関節を鳴らす。
ボキッ。
音の違いによって反応するわけでもない。
コキッ
右親指の付け根の関節を外す。
痛みで声が漏れ出そうになるが、奥歯を噛みしめて声が漏れないようにする。
全般的に人質作戦が弱い対魔忍のことだ。私の窮地を察して彼等が救助活動に現れたとしても“あの時のような”私の状況に直面した時、なすすべもなく武装解除に至ってしまう危険性がある。
私がその要因になることは絶対に避けなければならない。
「……。」
ゆっくりと右手首から手錠を抜き取る。
目の前のテロリストに動きを察知されないように。
「……。」
ヤツの視界は扉に釘付けだ。
サプレッサーの銃口は私の頭部へ向けられたままだが。
音を立てないように注意しながら手錠の鎖を左掌に包み込む。右手にハマっていた手錠の輪を左手で握る。
「!」
パシュッ!
敵の右手で突きつけられた銃口をこぶしで逸らす。
ただちに拳銃の銃声が響くが、弾丸は私ではなく地面に突き刺さった。
「足元がお留守ですよ。」
この機会に椅子から立ち上がり、側頭部からサングラス目掛けて手錠製のブラスナックルを叩き込む。サングラスが弾け飛び、目尻を押さえ怯んだ拍子に背中を見せているヤツの膝裏目掛けて力いっぱいのキックをかます。
どんなに気張っていたとしても可動域に適した背後からの関節攻撃にテロリストは片膝をつく。その隙を突いて背後から組み付いて、首を一気にへし折る。
コキャッ
甲高い骨の関節音が響く。
医学的に考えれば頸椎を負傷した以上、神経も損傷。もう奴は首から下を動かすことなどできない。数秒後には絶命もするだろう。
拳銃を奪い取り、扉側に突きつける。今の物音を聞きつけて他のテロリストが姿を現す危険性を考慮しての行動だ。
そのまま座っていた椅子を手にして、この部屋唯一の鉄扉へ斜めかけストッパーを付けに行く。
応急処置の鍵も付けたら、応急手当で指の関節を元に戻して手際よくテロリストの装備も剥ぎ取る。
「なるほどね。」
冷たくなったテロリストは、服の下にいくつもの爆発物を括り付けていた。
これならば万が一対魔忍や特殊部隊に拳銃を奪われたとしても、この爆発物で私もろとも滅殺。簡単に近づけないような簡単な人質作戦に移行することができる。
窓もない室内であれば外部からの狙撃も不可能。
ただ彼にとってこの対策は無意味だったようだ。人は一撃で首の骨を折られて神経を損傷すれば自爆すらできない。
その他の物品を回収する。爆発物、手榴弾、拳銃、タクティカルベスト——それらを奪う。ヘルメットや防弾ベストも奪って防御は完璧だ。
五車学園の制服だけでウロウロつかなくて良いことはそれだけで生存率を高める。CQCに移行したとき首を絞められないように、青色のネクタイを外す。
丈が短くデザイン性の良いスカートは腰回りの起動性を考えてそのままでよいだろう。
本来であればテロリストの服を奪って活動したかったが、首をへし折った拍子に口からデロッとした唾液混じりの血がこぼれたせいで変装には使えなかった。
「…………。」
この死体が警戒していた鉄扉に耳を付けて聞き耳を立てる。
物音はしない。
物音はしないが、気配はある。
そっと椅子を外し隠密行動をとりながら扉をあけて様子を伺う。扉から少し奥には私を人質に取っていた部屋にいたテロリストと同じ服装をした連中が3人陣取っている。
手にはAK系統のアサルトライフルを携えていた。
幸いにもこちらの出来事に気づいた様子はない。
(3人か……。)
手榴弾いくつかの安全ピンを抜いて、扉の外へ音を立てずに配置する。
拳銃を構えつつ壁を背中、扉を盾に爆発を待つ。
ドォンッ!!!
時間差での衝撃と爆発。
鉄扉が爆風で吹き飛ぶ。
扉の外に破片でズタズタになった亡骸が2つ転がっている。まだ生き残りは息があるようで踏みつぶした瀕死の蟲のごとく蠢いていたため、即時拳銃で頭を射貫く。
今の爆音を聞きつけて追加で誰が来ても射殺できるように拳銃を抜いて角に狙いを定める。
「!」
「……。」
パシュッ
曲がり角際に音を聞きつけて現れたテロリストの眼球を狙って射撃する。
角待ち拳銃で1人殺したところで、再び角へ陣取ってヘルメットを脱ぐ。
角からそっとヘルメットを見せて進行方向上の敵の攻撃を誘発——
タタタタタッ!!!
アサルトライフル発射音が聞こえ弾丸が直撃する。
精度の高い一撃で手元からヘルメットをもぎ取られた。
敵がいることが確認できただけで十分だ。手に入れた手榴弾のピンを抜いて、また通路の先に投擲する。
前回の爆発で、衝撃よりも手榴弾が時限式だということが判明した。
ゆえに投擲弾が転がる方向を予測されないよう、手榴弾は壁にバウンドさせるように投げつける。
が。
カランカランカラン――
まるでクリスマス会のプレゼント交換イベントのように、私側にもテロリストの投げた手榴弾が転がってくる。
――こういうのはビビったほうが負けだ。
サッカーでパスが回された時のように、落ち着いて土踏まず側の面で手榴弾を相手側に蹴り返す。
2度の爆発と爆風と破片が飛び込んできたタイミングを見計らって、先ほど角待ち拳銃で撃ち殺した眼球から血を流しているテロリストを抱え込む。
私側へと引き込む。まるでホラー映画で悪役が餌場に引き込まれた後のように床に血で軌跡を描いてくれた。
そうだ。今宵は私が捕食者側だ。
タタタタタッ!
再び銃撃。手榴弾では仕留めきれなかったようだ。反撃できる元気はあるらしい。
テロリストの死体を肉盾として扱い、更なるアサルトライフルからの追撃射撃を遮り接近する。
死体とはいえ仲間を撃つことにためらいを感じられない冷酷な機械のような銃撃が肉盾に突き刺さる。本来であればライフルの弾など人体を容易に貫通して、背面にいる私へ衝撃を与えるには十分すぎるほどの威力があるものだが敵のプレートキャリアで弾丸自体は防げている。
衝撃がなんだというのだ。衝撃波による激痛など戦闘が終わってから苦しめばいい。
パシュパシュッ
そのまま肉盾を敵に押し付けて、肉盾の隙間から眉間や時には肉盾をごと弾丸を貫通させた一撃で喉仏や肺へと鉛玉を叩き込む。
………
……
…