対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode-Inside25-2 『発見』

 

 敵を殲滅して、装備を強奪。

 繰り返して、己を強化する。

 出口を目指して歩を進める。

 

 この建物は奇妙な点が多い。

 始めこそはこの施設が五車学園の治療室とばかり思っていた。

 だがそれにしては妙だ。

 私は五車学園の治療室で間取りは見たことがない。

 最初の部屋を出てから、長い一本道の通路に直面したが通路ばかりで部屋らしい部屋が無かった。それだけじゃない。曲がり角が多すぎる。

 まるでクエスチョンマーク(?)を角々しく描いたかのような通路なのだ。漢字で例えるならば『弓』だとか、そんな直線通路ばかり。

 あとはいやらしい掩蔽物がない直線の通路だとか、人が入れるぐらいの奥行しかない通風孔とか、長い直線の通路にいかにも敵が潜伏してそうな配置の扉と部屋とか。

 そしてそういうところに限って必ずテロリストが潜伏・展開しているのだ。

 

 だが、全員殺した。

 

 造作もない。

 人は急所に鉛玉を受ければ死ぬ。

 人型機械兵器だろうが機動性と識別装置を破壊すれば鉄クズだ。

 

 左手を口元に当てて、右手は左肘につけて考える。

 

 となるとここから導き出される答えは、この施設は五車学園の治療室によく似た天井、床、壁の敵の根城……そう考えるのが自然なのではないか?

 しかし妙に静か過ぎるのも気になっている。

 こんなに銃声や炸裂音が響いているのに、警報装置が作動した音や、敵の話し声すら聞こえてこない。いつも遭遇戦は無音の状態から始まっている。私も無言で淡々と殺してきた。

 

 現実味がなく、まるで夢の中にでもいるような奇妙な感覚だ。

 でも右手の親指の関節を外した時の痛みは、とても夢とは思えないし、雨降洋館での一件で陽葵ちゃんに足を折られたときのようなじんじんとした痛みは未だに続いている。

 

 あまりにも突拍子もない戦闘が続くため、今は敵の服に変装している。いくつか綺麗な死体も作り出すことができたので着替えたのだ。一見する分には私は何処からどう見てもテロリストだろう。

 この変装のおかげで、こちらから奇襲して殺せることもあった。

 

 とにかく、こんな変な建物でもいずれは進んでいれば出口も見つかるはずだ。

 私が捕えられていた部屋には出口らしいものはなかったし、きっとこの先にあるに違いないのだ。申し訳ないが私を人質に選んだことが、テロリストにとって運のツキであろう。こんな監視カメラもない好き勝手に振る舞う事の出来る空間に私を幽閉した君達が悪いのだ。

 私はさっさと家に帰らせてもらう。期末試験の結果を確認しなくてはならないし、追試ならその対策もちゃんと練らなければならないのだから。

 

 何度目かわからない曲がり角を曲がって、ヴーと機械の冷蔵振動音の響いている自動販売機へと続く通路の先を抜けた時の出来事だった。

 

「しびれろっ!」

「ッ!」

 

 唐突にわき腹へ電流でも流されたような一撃が走る。

 今までの銃弾を防弾ベストのプレートに浴びせられた衝撃とは異なり、装甲を貫通した110Vもの電流が流れたような衝撃だった。

 おまけに銃声とは異なる音。

 叩きつけられた声が、まるで魔法を唱えたみたいに私の身体を激しく痙攣させる。

 拳銃を抜いて声の主の方に振り返る。

 どういう原理で電撃を浴びせてきたかわからないが、未知の相手だとしても弱点を射貫くか頭を吹っ飛ばせば死ぬ。

 

「わあああっ!?なんで気絶しないんだよぉ?!」

「!?」

 

 攻撃者の姿と悲鳴と姿に、拳銃の引き金を引きかけた指が躊躇する。

 私が拳銃を構えた先に居たのは——

 

——鹿之助くんだった。

 

 彼は私が銃口を向けた瞬間に、両手を顔の前に突き出して慌てたように目を見開いて防御姿勢になっている。

 掩蔽にも飛び込まず、打開策を取るわけでもなく、拳銃を向けた相手にそれは悪手だ。

 

「まって。私ですよ。鹿之助くん。」

「は、え……?」

 

 しかし生まれた隙を使って急いで銃口を彼から天井へと逸らす。覆面を含む頭装備一式を脱ぎ捨てて、彼へ私(青空 日葵)であることを見せる。

 鹿之助くんは目を丸くして、私の顔を凝視しはじめる。

 どうして鹿之助くんがこんな場所にいるのかは分からないが、同士討ちなどもっとも最悪な結末だ。あろうことか私の好きな人を傷つけるなど絶対にあってはならないことだ。

 

「ひ、ひまり……? ……あれっ?なんでここにいるんだ?どうしてだ?」

 

 鹿之助くんは非常に戸惑った表情で、なぜ私がここにいるのか理解できていないような発言と表情を浮かべている。

 それは私も聞きたい。どうして鹿之助くんがこんな不可思議な場所にいるのやら……。

 その様子だと囚われの私を助けに来てくれた王子様という話でもなさそうだ。

 

 しかも私が銃口を向けたことで、腰が抜けてしまったようで尻もちをついたまま動かない。

 だから代わりに私がゆっくりと彼の元まで歩み寄る。

 

「それはこっちのセリフですよ。どうして鹿之助くんがこんなところに居るんですか?」

「どうしてって、え?え?だって、テロリストの格好をして、でも、捕まってたはずの日葵で?え?」

 

 心理学的に診れば彼は非常に錯乱しているようだ。

 ん? やはり彼は私を助けに? でもそんな夢物語のような展開は現実にあるのか?

 確かにどうしてテロリストの格好をしているのか?と言われたら、装備を奪ったからなんだけど……。捕まっていたのに何故ここにいるのかと聞かれたら、自分で脱出してここまで来た訳なんだけど……。

 彼になんて説明しようかと思って、片目を瞑って視線を逸らして後頭部を掻く。

 

「そ、そうか!わかったぞ!」

「? 何が分かったんで——」

「そうやって日葵に化けて、俺を騙そうとしているんだな!!?」

「違ッ?!」

「ならとことんやってやるぅ!しびれろぉー!!」

 

 言い終える前に今度は目の前で強烈なスパークが弾ける。

 バツン!とまるでブレーカーが落ちたかのような大きな音が響いて、花火爆発を近距離で受けたように大きく背後に仰け反る。

 

「っ……!」

 

 何が起きたかわからないが、大きな電撃?閃光?かんしゃく玉のような光が弾けたのは分かった。

 それが鹿之助くんによる攻撃だということも。だけど彼は責められまい。こんな場所で勘違いさせてしまうような恰好をしている私が一番悪いのだ。

 仰け反った勢いで数歩後ろに下がってしまう。彼との距離が開く。

 単細胞生物が死ぬみたいに細胞膜が破けて崩壊しそうになる感覚が襲ってくる。

 衝撃で意識が飛びそうになるが、全身に力を入れる。敵地で気絶など最悪な結末にしかならない。こんな場所で気絶して鹿之助くんを1人きりにしてはならない。なんとか気力を振り絞って意識を保つ。

 

「私は、青空日葵です……よ……。」

 

 第三撃目に移ろうと身構えている彼の目前でライフルや拳銃を捨てる。装薬に入っている弾丸も彼の目の前で抜く。

 鹵獲してきた装備も投げ捨てて、完全な無抵抗を示す。

 ……本当は迷彩ズボンの裾、奪ったブーツに鹵獲したスペツナズ・ナイフ*1が仕込んであるけど、これは完全無抵抗の間にあいつ等が仕掛けてきた時用の対策だ。

 

 もし彼の言う通り私が青空日葵に成りすましている何者かだというならば、私と鹿之助くんならば知っている横隔膜の傷も彼に見えるようにする。

 

「……この傷、見覚えがあるでしょう……?」

「っ」

「大丈夫です。私だって証明です……怖がらないでください。怖がらないで」

 

 魔法みたいな彼からの電流攻撃が止む。

 彼の表情はまだ戸惑ったままだが、私の胸の傷を見て疑心暗鬼からは脱した様子だった。

 だから両手を頭上にあげて無抵抗を示しながら、再度ゆっくりと彼の前まで歩み寄る。鹿之助くんの正面で両膝を着いて跪き、震える彼の両手を包み込むようにして握る。

 

「安心して。鹿之助くんのことは私が護るから」

 

 いつもの敬語は何処へやら。

 これが怯える彼に対して辛うじて絞り出すことのできた言葉だった。

 私がしゃべるたびに、プスプスと喉の奥から人の肉が焼けるような焦げ臭い味が包み込んでいる。

 

「あ。あっ、あっ。ああっ。ああああっ!ゴメン!ごめん日葵!俺!おれぇ!そんなつもりじゃっ、そんなっ!ああっ!救助対象なのに!そんなつもりじゃなかったんだ!ごめんっ!ごめんなぁっ!」

 

 鹿之助くんが泣き出しそうに——いいや。泣き出して這いずりながら謝って来る。

 ふふふっ。実にかわいい泣き顔だ。まるで目の前の私が本物だと信じられないみたいに驚きと、傷つけてしまったという葛藤に板挟みにされて感情がぐちゃぐちゃになっている顔つきになっている。実に煽情的だ。

 

「ふふふっ。変な鹿之助くん。まるで幻影でも見ちゃったみたいな顔だよ?」

 

 電流のせいで息をするのも苦しくて辛くて呼吸も乱れているけど、真剣に謝ってくる彼を面白がるような口調で彼を揶揄する。

 いつも学校で私がするみたいに。言葉にはしないけど、『気にしてないから大丈夫』と励ますように。

 でも誤解が解けたのであればよかったと一安心した。

 

 鹿之助くんが私の懐に飛び込んで左肩に首を乗せて泣き始めるのに対して、私はそんな彼の背中にそっと片手を回して落ち着けるようにさするのだった。

 

 

*1
飛び出しナイフ

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